第三十二話 品定
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
準備を終えた虎杖は、待ち合わせ場所である校門前に向かった。そこには先に着いていた恵とナマエが居て、歩いてくる虎杖に先に気付いたのはナマエの方だった。
「おはよう虎杖くん!」
「お、おう…おはよ!」
「あれ?元気ない?もしかして昨日よく寝られなかったとか?」
今朝の一件で二人をまっすぐ見られなかった虎杖はどこか余所余所しい挨拶になってしまう。こうやって見ると二人とも今朝のことなんて何もなかったように見えるので、虎杖は余計にどうしたらいいか分からなくなってしまいついどもってしまった。
「いや、だいじょぶ!全然元気!!」
「??そう?なら良かったけど…。」
「お、おう!それよりさ!迎えに行くのってどこだっけ?」
なるべく明るく返したことで、少し不思議そうにはされたもののごまかし切れたようだ。
「原宿集合だって。悟くんは別で行くらしいから3人で電車で行くよー!」
「さとるくん?」
「五条先生の事だ。」
「あぁ、そゆこと!つーか先生のこと名前で呼んでんの?」
「ナマエが5歳かそこらからの知り合いだからな。」
「へーぇ。なぁなぁ、五条先生って昔からあんな感じなん?」
虎杖は五条に出会って、教師という概念が覆された気がしたのだ。どこかチャラチャラした物言いにあのビジュアル。教師だと知った時は何の冗談かとドッキリのカメラが仕掛けられていないか疑ったくらいだ。
「あんな感じって?」
「軽薄なってことだろ。」
「いやそこまでは言ってねぇけど。なんか変わってるよな!」
「あれを変わってるの一言で済ますのか。」
恵のツッコミを余所にナマエは、顎に手を当てて考えるようにしながら当時の記憶を呼び起こした。
「んー。そうだなぁ。昔はもっとツンツンしてたよかな。オラオラ?みたいな?目隠しもしてなかったし。せっかくかっこいいのに勿体無いよね!」
「え!五条先生ってイケメンなの!?」
「うん。見たことない?なんかキラキラしてるよ。」
「おい。」
「キラキラ?よくわからん。つーかさ、あの目隠しってちゃんと見えてんの?」
「それは見えてるらしいよ。あれがないと見えすぎるとかなんとか?」
「へー。せっかくイケメンなら顔出した方がモテるだろうにな。」
「おい。」
「顔出してたらみんな悟くんのこと好きになっちゃうからダメなんだって。」
「どっからくんのその自信…。あ!じゃあミョウジも先生のこと好きになった?」
「あっははは!ないない。だって好みじゃないもん。綺麗な顔してるとは思うけど。」
「うわー…結構ハッキリ言うね。じゃあどんな顔が好みなん?」
「おい!!聞けよ!」
「「え?」」
ずっと無視され続けて苛立ちが募った恵は二人の止まらない会話を強制終了させた。コロコロと話題が変わるので放っておいたらエンドレスだと思った。二人ともきょとんとこちらを見てくるのがどこか腹が立つ。ナマエの好みの顔…とやらが気になるところではあるが、聞きたいような聞きたくないような。
「時間。遅刻すんぞ。」
「あ、ほんとだね!じゃあ行こっか!」
「おう!」
二人ともがさっきまでの話なんか忘れてしまったように切り替えて駅まで歩きだした。なんともあっけらかんとしている。会話の内容を気にしていたのは自分だけかと呆れてしまう。あまり考えずにあの会話を繰り広げていたらしいとわかると馬鹿らしくなってきた。サクサクと先を進みだした二人の後ろを少し肩を落としながら着いて行った。
————原宿駅前。
おしゃれな若者たちが集うこの街に、真っ黒の制服を着た三人は降り立った。周りを見ればカラフルな街並みにどこを見てもカラフルな服装の若者ばかり。その中でのこの三人は少々浮いて見えるかもしれないが特に気にすることなく駅の出入り口前で三人は待機していた。虎杖はいつの間に買ってきたのか。棒つきアイスを齧りながら恵に訊ねた。
「一年がたった四人って、少なすぎねぇ?」
「じゃあオマエ今まで呪いが見えるなんて奴、会ったことあるか?」
「……ねぇな。」
「それだけ
こちらが命を張って呪霊と戦っているだなんて、今こうやって楽しそうにしている道行く人たちは何も知らないんだろう。呪いの存在だって知らない。何も知らずに普通の生活を享受している。時々それがどうしようもなくやるせなくなる時があるが、嘆いても状況は何も変わらないのだ。
「っていうか俺が4人目って言ってなかった?」
「入学は随分前に決まってたらしい。ナマエの方がむしろ3人目だな。こいつの入学が決まったのは中三の三学期ギリギリだ。」
「へー。ミョウジは術師の家系なんだろ?初めから決まってるってわけでもないんだな。」
「あー…うん。いろいろあってね…。」
「…こういう学校だしな。今日来る奴も何かしら事情があんだろ。」
兄である翔の許可が下りたのは当時の二月。卒業間近の事だった。たった一年でほとんど知識のなかったナマエは二級で入学できるまで成長した。胸を張ってもいいところだが、ナマエの苦笑いの表情を見れば本人はあまりそうは思っていないんだろう。恵もふんわりと濁すような言い方になった。…それよりも。
「なぁミョウジ。だいじょぶ?さっきから顔色悪くない?」
「っ、そう…かな?」
「うん、さっきまで元気いっぱいだったじゃん。」
「……。」
「街中でこの人数だ。少し人に酔ったんだろ。」
「う、うん。そうかもね…。だから大丈夫だよ。」
「そう?ならいいんだけどさ。」
本当はこれから来るだろう四人目に不安になっているんだろうが、虎杖にそんなこと言うわけにもいかない。チラリとナマエの方を見ると丁度目が合った。ヘラリと笑ってごまかすナマエに、恵は眉を顰めた。そんなナマエに話しかけようとした時、五条がこちらにやってくるのが見えた。
「おまたせー!おっ!制服、間に合ったんだね。」
「おうっピッタシ!でも伏黒たちと微妙に違ぇんだな。パーカーついてるし。」
「制服は希望があれば色々いじって貰えるからね。」
「え。俺そんな希望出してねぇけど。」
「そりゃ僕が勝手にカスタム頼んだもん。ナマエの制服だってせっかくかわいくしてたのにさ。勝手に元に戻しちゃうんだもん、悲しいよね。」
朝ごはん替わりだろうか、ゼリータイプの栄養ドリンクをチューっと飲みながらケロッと答えたと思えば、ナマエの制服のことをまだ根に持っていたようだった。よよよとわざとらしく泣きまねをしながら嘆いた。それにナマエもケロッと答えた。
「だってあれ動きにくいんだもん。」
「言ってくれたら動きやすいようにカスタムし直したよ?」
「あれはカスタムどころか完全に違う制服じゃん。」
「えー…」
「虎杖気をつけろ。五条先生こういうところあるぞ。」
「…ま、いいか。気に入ってるし。」
「本人が気に入ってるならいいんじゃない?」
「まぁ、そうだな。」
気に入っているというよりは特にこだわりがなさそうにも見えるが、本人が気にしないなら放っておこう、そう結論付けて恵は五条に原宿集合になった理由を尋ねた。どうやら本人の希望でここに決まったらしい。わざわざこんなにぎやかな街にしなくても…と思ったが、その理由はすぐに分かった。ナマエと同じ制服を着た女子高生らしき人物が居るのが見えたから。そしてそいつは自分の荷物以外に大量の紙袋を両手に抱えていたから。
「…買い物楽しんだ後、だな。」
「だから原宿だったんだね。」
五条も目的の人物を見つけたようで、声をかけようとしたのだが。恵たちから少し離れた所で、スカウトマンらしき人物を捕まえて「私は?」と凄んでいるところを目撃してしまった。自分からスカウトマンを捕まえるやつを初めて見た。気の強そうな奴…ということは遠目に見ても分かった。ナマエの不安が余計に増してしまうのでやめて欲しい…と恵は思った。案の定ナマエを見ると完全に委縮してしまっているようだ。
「俺たち今からアレに話しかけんの?ちょっと恥ずかしいなぁ。」
「オメェもだよ。」
怖気づくスカウトマンに「何だコラ。」と、がなっているのを見て困ったようにつぶやいた虎杖に、イラついたように反論する恵。いつのまにそんなことになっていたのか。両手にポップコーンとクレープ。どこで見つけてきたのか、どこぞの誕生日会でしか見たことがないようなファンシーなサングラスを調達していた。そんな虎杖の事は気にしていないのか、五条が目的の人物に声を掛けた。やっとこちらの存在に気づいたらしく、堂々とした所作で近付いてきた。
手を腰に当ててふんぞり返るようにも見える姿勢で、これまた堂々と自己紹介をした。
「釘崎野薔薇。喜べ男子、紅一点よ。」