第三十一話 羨望
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————一方、お隣に自室を構えた虎杖。
カタンという音で目を覚ました。視界に入ったのは見慣れない天井。あぁ、そうか、高専に転入したんだった。と昨日のできごとを思い出した。
そういえば、さっきの音は…自室の扉が開いたと思ったのだが…違った。それもそうだ。いきなり誰かに入られても困る。
まだ起きる時間には早いが一度目が覚めるとそう簡単には二度寝はできないものだ。「どうすっかなー、早朝ランニングでもするか?」とぐぐっと独り言ちていると、隣の部屋からガタン!とまぁまぁ大きな音が響いた。
「!?…なんだぁ?」
『———あははははは!』
不思議に思い耳に意識を集中すると、隣の部屋から聞こえるはずのない女の声がした。ミョウジの声だ。何がおかしいのかキャッキャと笑い転げているようで、なんだかとても楽しそうな声だ。
「朝っぱらから何やってんだ?」
というか、幼馴染とはあんな感じなのだろうか。いくらなんでも距離が近いのでは…と昨日の様子を思い出す。
一旦は、〝仲良し〟で納得していた虎杖だったが。朝はミョウジがベッドの上にいたし、慣れた様子で伏黒の部屋で寛いでいた。昼飯の為にラーメン屋に行った時も当然のように二人は隣に座ったし、ミョウジが苦手らしいメンマを恵が当然のようにミョウジの箸から食べていた。あーんだ。
高専の周りを案内されている時も伏黒は終始静かだったが、道中でミョウジが誰かとぶつかりそうなときはさりげなく腕を引っ張って避けさせていたし、荷物も普通に伏黒が持っていた。ミョウジはミョウジで、ショーウインドウに気になるものがあれば伏黒の腕を引っ張って至近距離で話しかけたりしていた。
あれは世間一般でいう所の、所謂恋人…というやつではないのだろうか。でも二人は揃って幼馴染だと言い張る。もしかして、関係を隠さないといけない何かがあるのだろうか。恋愛ごとに疎い虎杖でもあれはイチャイチャしているようにしか見えなかった。でも二人が違うというのなら違うのかも…
そこまで考えて、ふと隣の部屋が静かになったことに気付いた。さっきのは何だったんだ、と思ったが、いきなり静かになるとそれはそれで気になる。
いけないとは分かっていても、心の中で謝りながら、壁に耳を付けた。
『————っ。————!』
『———、————。』
「!!!」
飛び跳ねるように壁から耳を離した。なぜなら………聞こえてきたのは……ミョウジの…。
(おいおいおいおいおいおいおいおい!待って!そういう事もしちゃう関係!?)
バクバクと心臓がうるさい。壁で隔てている為はっきりとは分からないが確かに聞こえた。〝そういう声〟を生で聞くのはもちろん初めてで。これ以上は聞いたらダメなやつだ。————と分かっているのに。ついまた壁に耳を当ててしまう。
所々低い声も聞こえるので、それは伏黒の声だろう。何を話しているのかは分からない。
(やばい…これ以上は聞いたら…)
これから一緒に学んでいく同級生の、そんな事情を耳だけとはいえ…これから顔を合わせるのが気まずくなってもいけない。続きが気になったが根性で壁から耳を離して……
そして元気になってしまった自分自身を。転入2日目でさっそく慰めることになってしまった。
朝からこんなことを…と情けない気持ちになりながらも、虎杖は思った。高専と言う特殊な環境に居ながらも、おそらくは想い合っているだろう二人。
「絶対幼馴染ってだけじゃねぇだろ。いいなー。…………アオハルじゃん。」
この後どんな顔をして二人に会えばいいのか。羨ましいと思う気持ちとともに、少しだけ憂鬱になってしまった虎杖であった。