第二十八話 処遇
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
仙台市から少し離れた長閑な場所。緑に囲まれているせいもあるのか……ここが家族と最期の会話をするための場所だというせいか。虎杖悠仁の心は不思議と落ち着いていた。
外のベンチから一つの煙突を見上げる。ゆらゆらと立ち昇る煙をぼんやりと見つめた。気性が荒くせっかちだった祖父にしてはえらくゆっくりと昇って行くんだな……なんて考えたりもした。
――オマエは強いから人を助けろ――
祖父の最期の言葉だ。それこそいつも怒鳴ってばっかりだった祖父であったが。あの時の言葉は、静かに、そしてゆっくりと紡がれた。祖父の……最期の願いのようにも聞こえた。
どこに焦点を合わすでもなくぼーっと空を見上げていると、自分の真横に腰掛けた人物に話しかけられた。
「亡くなったのは?」
「爺ちゃん。でも親みたいなもんかな。」
「そっか。すまないね、そんな時に。」
190はあろうかという長身に全身黒ずくめ。眩しいほどの白銀の髪に、どうやって前見てんだ?と疑いたくなるようなアイマスク。もはや怪しいという言葉以外出てきそうにないこの男、五条悟。この怪しい男から昨夜告げられたのは、これまで生きてきた中で考えたこともなかったような…どこの誰が考えたフィクションだと思うような内容だった。
だが、虎杖はそれを身を持ってもって体験してしまった。先輩達を襲った、初めて見る呪いという存在。それを殴った時の感触。見たこともない術を使う伏黒やミョウジ。そして……頭の中で時折響く
自分の下した選択とは言え、まさか十代かそこらで死刑宣告などされるなんて思っても見なかった。これが現実だと理解はできても、実感なんかさっぱり湧かなかった。
「で。どうするかは決まった?」
「…………。」
まとまらない頭で、ふと気になった事を聞いてみることにした。
「こういうさ、呪いの被害って結構あんの?」
「今回はかなり特殊なケースだけど、被害の規模だけで言ったらザラにあるかな。」
五条から聞かされたのは聞くに耐えない凄惨な現実だった。そう考えれば…祖父は病気を抱えていたとは言え、正しく死ねたんだろうと思った。
「ま、好きな地獄を選んでよ。」
五条の言葉に、どちらを選んでも地獄だということは変わらないと悟った。それでも――また祖父の言葉が頭を過ぎる。
「宿儺が全部消えれば……呪いに殺される人も少しは減るかな。」
自己犠牲などと言うつもりはないが、自分が地獄を選べば助けられる人がいる。祖父の言葉を実践できるかもしれない。
「勿論。」
迷いのない一言を五条は言った。――虎杖の道は決まった。
「あの指まだある?」
「ん。」
虎杖の質問に五条はポケットから宿儺の指を取り出した。封印も何も施されていない剥き出しの指だ。そんなものを生身で持ち歩くなんて、恵あたりが知ればただでさえ深い眉間の皺が増えてしまいそうだ。
受け取った虎杖は「気色悪いなぁ」などと言いながらもそれを徐に口へと運ぶ。これもナマエあたりが見れば大騒ぎ案件である。
ゴクンと飲み込んだ虎杖の顔に紋様が浮かぶ。呑気に眺めているように見える五条も、右手はいつでも動けるよう準備している。
「……まっず。笑えてくるわ。」
涙目でおえっと言いながら顔を顰めた虎杖は、現れた紋様もすぐに消えて、肉体の耐性だけでなく宿儺相手に難なく自我を保ったのだ。当初五条が睨んだ通り、千年生まれてこなかった逸材、というやつだ。五条からは思わずクツクツと咬み殺した笑い声が漏れた。
「どったの?」
「いや、なんでもない。……『覚悟はできた』ってことでいいのかな?」
少しだけ考えるような顔をした虎杖は、すぐに「全然」ときっぱり言い切った。嘆くわけでもなく、かと言って諦めた様子でもなく、ただ淡々と。己の身の上に起こったことを、事実を、受け止めているようだった。
「
「いいね!君みたいのは嫌いじゃない。楽しい地獄になりそうだ。」
少し嬉しげな表情で五条はさらに虎杖へと告げる。
「今日中に荷物まとめておいで。」
「?どっかいくの?」
「東京。」
虎杖の後ろから声がしたと思えば、それは痛々しく頭に包帯を巻いた恵とナマエだった。
「伏黒!!ミョウジ!!」
「こんにちは、虎杖くん。」
「元気そうじゃん!」
「……
「あははっ!」
テンションの高い虎杖に不機嫌そうな恵。正反対の様子の二人を見てナマエは思わず声を上げて笑ってしまった。
「ミョウジ、そうやって見たらほんとにウチの生徒じゃなかったんだな。」
「うん、昨日は潜入捜査だったからねー。」
「お!なんかいいなその響き!」
「えへへー。」
「…………。」
ナマエと虎杖。ノリのいいこの二人が揃うともしかして被害が二倍になるのでは…と恵は漠然とした不安に襲われてしまった。
「オマエはこれから俺たちと同じ呪術師の学校に転入するんだ。」
「へ?」
「――東京都立呪術高等専門学校。……ちなみに、一年生は君で四人目。」
「少なっ!!」
「…………。」
「……。」
〝四人目〟
五条のその言葉で、ナマエの表情に影が差した事に気づいたのは…………この場で恵一人だった。