第二話 初陣
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廃れた研究所の建物の中は思った通りボロボロだ。壁にはヒビが入り、至る所に蜘蛛の巣が蔓延っている。研究所と言っても、中の構造はまるで病院のようだ。等間隔に同じような扉が続き、これを一つずつ調べるとなると骨が折れそうだ。
「うわ、でか…。気持ち悪ー、嫌だなぁ。」
天井の蜘蛛の巣に掛かる手のひらほどの大きさの蜘蛛を見て、ナマエは両腕で自身を抱きしめるようにして身震いした。
「ただの蜘蛛だ。気にすんな。」
「嫌な物は嫌なんだよ。蜘蛛とか蛾とか、ビジュアルがダメなんだもん。」
(こんなんでビビってたら呪霊出た時どうすんだよ。)
呪霊 こそ蜘蛛や蛾なんか比べ物にならない異形の姿をしているというのに。ビジュアルなんか俺だって気持ち悪ぃと思う。恵は呆れた眼差しでナマエを見た。
「ねー、どこに隠れてるのかな。こんな狭い廊下で出てこられたら祓いにくいよね。」
「…そうだな。」
__グルルルル……
しばらく廊下を進んでいたが、索敵用に出していた玉犬が廊下の奥を見据えて唸り出した。
「ナマエ。」
「うん、いつでも行けるよ。」
先程の怯えようはどこへ行ったのか。スッと無表情になったナマエは背中に担いでいた鉄扇を手にして構えを取り、少し恐ろしくも感じる冷たい眼で正面を見据えた。
「おいで。痛くないように一瞬で祓って あげる。」
________
『今回の呪霊は、窓の報告によると恐らく三級程度のもの。ただし、報告と実際の等級が違っていることもザラにあります。
敵わないと思ったらすぐに退避、報告に戻ってくるように。』
『あれ?悟くんは一緒に行かないの?』
『僕が一緒に居たら君たちの試験にならないでしょ。外で待ってるよ。』
『試験って、ちゃんと出来なかったら入学取り消し…ってなっちゃう?』
『どうだろうね。さ、いってらっしゃい!くれぐれも死なないようにね!』
『えー……』
『では帳を降ろします。お二人とも、ご武運を。』
_____
帳を降ろし二人を見送った後、不安そうに五条の方を見た伊地知は口を開いた。
「…大丈夫でしょうか。伏黒くんは小さな頃から訓練を積み、実際に討伐経験もあると聞いていますが。ミョウジさん、彼女は実践はおろか、まともに呪力操作の訓練を始めてからまだ一年程だとか。それに、あの様子では……」
先程の車内の怯えようからは、とてもじゃないが呪霊討伐なんて出来そうになかった。それに、伏黒や禪院家の双子のように物心ついた時から訓練を積み重ねてきたわけでもない。明らかに経験値が足りない。
「さっきのナマエさ、かーわいかったよねぇ!目なんかウルウルさせちゃってさぁ。なんつーの?男の庇護欲をこう、グググっと掻き立てちゃう感じ?恵が過保護になるのも分かるよね。」
「いや、そういうことではなく……。」
伊地知の懸念など聞いていなかったように五条はニヤニヤしながら先程のナマエの様子を思い出していた。
「僕が恵だったらそりゃあもうぐずぐずにどろっどろに甘やかして自分以外見えないように仕向けちゃうだろうね。」
「五条さん…」
「いや、いけるか?たかが12歳違いでしょ?アリだよね。こうなったら僕が……」
「五条さん!」
ブツブツと少々気持ち悪い発言をする五条に痺れを切らした伊地知は少し強めに五条の名を呼んだ。
「ん?なに、伊地知。お前はダメだよ。いくらナマエが可愛くて食べちゃいたくなるからって、あの子に手ぇ出したら許さないよ?」
「危ない発言をしないで下さい……そうではなく、」
五条の発言に辟易としながらも伊地知はナマエに対する懸念を改めて伝えようとしたが。
「ナマエなら大丈夫だよ。確かに呪術の勉強を始めたのはつい最近だけど。元々護身の為に体術は小さい頃から死ぬほど叩き込んでる。呪力操作だって、さすがはミョウジ家の娘だよね。ここ一年で身につけたとは思えないポテンシャルを持ってる。」
「しかし……」
「あぁ、さっきの怯えようだとそう思っても仕方ないよね。ナマエは昔からお化けとか気持ち悪いものとかが大嫌いだからさ、ついからかいたくなっちゃうんだ。」
「では、呪霊なんか……」
「そこなんだよね。あんなに怖がってるくせに、いざ臨戦体制に入るといきなりスイッチが入る。ギャップって言うの?あの時の顔もなかなか唆られるよ。あの交戦的な目、ゾクゾクすんだよね。」
「はぁ……」
真面目な話になったかと思えば結局…。こういう人だとは分かっていても未だに慣れない。
「まぁ、冗談はおいといて。」
「冗談だったんですか……」
「ナマエの実力は僕が保証するよ。試験って言っても名ばかりだ。ただし、ナマエは本物の呪霊を相手にするのが初めてだからね。ソイツを目の前にしても、ちゃんと自分を保てるか。つまりは、ちゃんとイカれてるかを見るために来たんだよ。」
「イカれてるか……ですか。」
「そ。呪術師なんてどこかしらイカれてないと出来ない仕事だからね。ナマエはどうか、それを確かめたいんだ。」
そう言って帳の方を見た五条。口元は笑っているが、その目隠しで表情までは分からない。
今日の様子だとナマエの事を猫可愛がりしている様子の五条だが、躊躇いなく笑顔で死地へと送り出す。
長年共に過ごしてきた伊地知だが、五条という男はまだまだ分からない事だらけだ、と何を考えているか分からないその大きな背中を見つめた。
「うわ、でか…。気持ち悪ー、嫌だなぁ。」
天井の蜘蛛の巣に掛かる手のひらほどの大きさの蜘蛛を見て、ナマエは両腕で自身を抱きしめるようにして身震いした。
「ただの蜘蛛だ。気にすんな。」
「嫌な物は嫌なんだよ。蜘蛛とか蛾とか、ビジュアルがダメなんだもん。」
(こんなんでビビってたら呪霊出た時どうすんだよ。)
「ねー、どこに隠れてるのかな。こんな狭い廊下で出てこられたら祓いにくいよね。」
「…そうだな。」
__グルルルル……
しばらく廊下を進んでいたが、索敵用に出していた玉犬が廊下の奥を見据えて唸り出した。
「ナマエ。」
「うん、いつでも行けるよ。」
先程の怯えようはどこへ行ったのか。スッと無表情になったナマエは背中に担いでいた鉄扇を手にして構えを取り、少し恐ろしくも感じる冷たい眼で正面を見据えた。
「おいで。痛くないように一瞬で
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『今回の呪霊は、窓の報告によると恐らく三級程度のもの。ただし、報告と実際の等級が違っていることもザラにあります。
敵わないと思ったらすぐに退避、報告に戻ってくるように。』
『あれ?悟くんは一緒に行かないの?』
『僕が一緒に居たら君たちの試験にならないでしょ。外で待ってるよ。』
『試験って、ちゃんと出来なかったら入学取り消し…ってなっちゃう?』
『どうだろうね。さ、いってらっしゃい!くれぐれも死なないようにね!』
『えー……』
『では帳を降ろします。お二人とも、ご武運を。』
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帳を降ろし二人を見送った後、不安そうに五条の方を見た伊地知は口を開いた。
「…大丈夫でしょうか。伏黒くんは小さな頃から訓練を積み、実際に討伐経験もあると聞いていますが。ミョウジさん、彼女は実践はおろか、まともに呪力操作の訓練を始めてからまだ一年程だとか。それに、あの様子では……」
先程の車内の怯えようからは、とてもじゃないが呪霊討伐なんて出来そうになかった。それに、伏黒や禪院家の双子のように物心ついた時から訓練を積み重ねてきたわけでもない。明らかに経験値が足りない。
「さっきのナマエさ、かーわいかったよねぇ!目なんかウルウルさせちゃってさぁ。なんつーの?男の庇護欲をこう、グググっと掻き立てちゃう感じ?恵が過保護になるのも分かるよね。」
「いや、そういうことではなく……。」
伊地知の懸念など聞いていなかったように五条はニヤニヤしながら先程のナマエの様子を思い出していた。
「僕が恵だったらそりゃあもうぐずぐずにどろっどろに甘やかして自分以外見えないように仕向けちゃうだろうね。」
「五条さん…」
「いや、いけるか?たかが12歳違いでしょ?アリだよね。こうなったら僕が……」
「五条さん!」
ブツブツと少々気持ち悪い発言をする五条に痺れを切らした伊地知は少し強めに五条の名を呼んだ。
「ん?なに、伊地知。お前はダメだよ。いくらナマエが可愛くて食べちゃいたくなるからって、あの子に手ぇ出したら許さないよ?」
「危ない発言をしないで下さい……そうではなく、」
五条の発言に辟易としながらも伊地知はナマエに対する懸念を改めて伝えようとしたが。
「ナマエなら大丈夫だよ。確かに呪術の勉強を始めたのはつい最近だけど。元々護身の為に体術は小さい頃から死ぬほど叩き込んでる。呪力操作だって、さすがはミョウジ家の娘だよね。ここ一年で身につけたとは思えないポテンシャルを持ってる。」
「しかし……」
「あぁ、さっきの怯えようだとそう思っても仕方ないよね。ナマエは昔からお化けとか気持ち悪いものとかが大嫌いだからさ、ついからかいたくなっちゃうんだ。」
「では、呪霊なんか……」
「そこなんだよね。あんなに怖がってるくせに、いざ臨戦体制に入るといきなりスイッチが入る。ギャップって言うの?あの時の顔もなかなか唆られるよ。あの交戦的な目、ゾクゾクすんだよね。」
「はぁ……」
真面目な話になったかと思えば結局…。こういう人だとは分かっていても未だに慣れない。
「まぁ、冗談はおいといて。」
「冗談だったんですか……」
「ナマエの実力は僕が保証するよ。試験って言っても名ばかりだ。ただし、ナマエは本物の呪霊を相手にするのが初めてだからね。ソイツを目の前にしても、ちゃんと自分を保てるか。つまりは、ちゃんとイカれてるかを見るために来たんだよ。」
「イカれてるか……ですか。」
「そ。呪術師なんてどこかしらイカれてないと出来ない仕事だからね。ナマエはどうか、それを確かめたいんだ。」
そう言って帳の方を見た五条。口元は笑っているが、その目隠しで表情までは分からない。
今日の様子だとナマエの事を猫可愛がりしている様子の五条だが、躊躇いなく笑顔で死地へと送り出す。
長年共に過ごしてきた伊地知だが、五条という男はまだまだ分からない事だらけだ、と何を考えているか分からないその大きな背中を見つめた。