第二十八話 処遇
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ホテルに戻り、まずはそれぞれの部屋で埃だらけの体を清めた。傷口が沁みて辛いシャワーだったが仕方がない。
「い゛っ……!!ちょ…もう少しゆっくり!!」
「我慢しろ。」
「トントンが!早いの!」
傷薬を脱脂綿に含みピンセットで額に当ててくるのだが、これがまぁ、痛い。シャワーの後に恵の部屋に入ったと思えばすぐにソファに座らされて心の準備もないまま応急処置が始まってしまった。もっとゆっくりして欲しいと願うも、さっさと終わらせた方が沁みる時間は短いと一掃されてしまい聞いてもらえなかった。これはもう、我慢するしかなさそうだ。
「っつー!!……なに?嫌がらせ!?」
「…………。」
「っ!痛い!強い!なんなのもぉ!」
文句を言った瞬間、脱脂綿を当てる力が強くなった。明らかに不機嫌だ。
「…俺らを庇った時の怪我だろ。」
「え?……痛っ〜!!」
「顔に傷なんか作るな。痕に残ったらどうすんだ。」
ご立腹の理由はそれらしい。そんな事を言われても……体が勝手に動いたのだから仕方がない。などと言っても恵は納得しないだろうから、黙っておくが。家入の手にかかればこの程度の傷ならば跡形もなくきれいにしてくれるだろうが……そういう問題ではないと言われそうだ。
「お前が俺たちを突き飛ばした時……瓦礫でお前の姿が見えなくなって。……心臓が止まるかと思った。」
「……。」
「頼むから……あまり無茶なことはするな。」
「……分かった。」
もしも今後、また同じような場面が訪れたら、おそらく同じ行動をするだろうと思ったナマエだったが。そんな辛そうな顔で言われてしまえば。うなずくしかない。
傷口にガーゼを充てて上からテープで止めて……ガーゼの上からペシリと額を叩かれて、終わりだと言われた。最後のペシリは余計だ。
「いっ!……ありがと。次恵の番ね。それ貸して。」
「頼む。」
同じく額に怪我をした恵。何ならナマエよりもよっぽどひどい。これは自分よりも恵の処置を先にした方が良かったのでは…と思いながらもチョンチョンと傷薬を当てていった。時折グッと眉を顰めて痛そうにしながらも手当てを受けていた恵だったが、ふいに口を開いた。
「なぁ。」
「んー?なにー?」
「病院で機嫌悪かったのは何だ。」
「うっ……!」
「い゛っ!!」
「あ、ごめん。」
いろんな事がたくさん起こったのでてっきり忘れていると思っていたが……恵のこういう所は少し面倒くさい。動揺したせいで手当てを施す手に力が入ってしまった。
「後で絶対聞くって言っただろ。」
「ソウデスネ。」
「で。なに。」
「……(しつこい。)」
これは白状するまで追求は終わりそうもない。だが正直になど言ってやるものかと、苦し紛れの回答をした。
「学校で…ちょっと嫌な事があっただけだよ。」
「まさか学校で誰かになにかされたのか。」
「違うけど。色々あるの!」
「そういう時いつもなら俺に言うだろ。」
「大した事じゃないからだよ。」
「だからそれを言えってんだ。」
「…………。」
一体どうしたというのか。いつも以上にしつこい。「言え」と「なんでもない」の押し問答の結果。軍配は恵に上がった。
「あーもぉ!恵が学校の女の子にチヤホヤされてたのが嫌だっただけ!!」
「……は?」
素直に白状したと思えばこれだ。恵本人は「何のことですか?」とでも言わんばかりの顔をしている。
「身に覚えが全く無いんだが。」
「でしょうね!だから言いたくなかったの!」
「何でキレてんだよ。」
「恵がしつこいからじゃん!!ほら!手当ての続きするから!!」
この話は終わり!とばかりに手当てを再開しようとしたナマエだったが。恵に手首を掴まれて続きができない。
「……なに。」
「つまり。どこの誰かも知らない女相手に嫉妬したって事でいいんだな?」
「な!……んで、もぉ。そうやってさぁ……。」
怒りか羞恥か、どちらなのか分からないがナマエは赤面するしかない。そんなナマエに恵は手首を掴んだまま的外れな事を言い出す。今度はこっちが「何のことですか?」状態になってしまった。
「キスしたい。」
「……はぁ?今!?」
「今。」
「意味が分かんないんだけど。」
「俺は分かってるからいい。」
「理不尽!……んっ!」
ナマエの言葉を遮るように文字通り口を塞がれてしまった。
「んっ……ふっ…………ぁ……」
いつもならしばらく唇を合わせてから様子を見ながら舌を割り込ませるのに。今日はいきなりだった。驚いて逃げ腰になりそうだったが、左手で手首。右手で後頭部を抑えられ少し強引に口内を犯されてナマエにはどうすることもできなかった。
「は……っふ…………めぐ、……み……」
「ん…………ハァ…………」
それでもいつの間にかナマエも恵のキスに夢中になっていて。ソファに向かい合って座っていたはずなのに気付けば肘掛けを天井にして押し倒されていた。先程の戦闘で全身を打ち付けているのに、今はアドレナリンが出ているのか?平気だった。
ヴーーーッ ヴーーーッ ヴーーーッ
「めぐ…………んっ!……でん、わ……」
「はぁ……ほっとけ……」
ヴーーーッ ヴーーーッ ヴーーーッ
「んんっ……ぁっ……ずっ、と……鳴って……」
「あとでかけなおす。」
ヴーーーッ ヴーーーッ ヴーーーッ
なかなか鳴り止まない電話を無視し続ける恵。こんな時間にかけてくるとしたら五条かもしれない。もしかしたら虎杖についての大事な用かもしれないのに。真面目なはずの恵は今はすごく不真面目だ。
「ちょ……、んぁ……っ!って……こら!!」
「……何だよ。」
「で ん わ!!!」
「……………………チッ。」
ものすごく間を空けた後、ものすごく嫌そうに舌打ちをした恵は、ナマエを押し倒したままでポケットからスマホを取り出してようやく着信に出た。
「……はい。」
『え?何で怒ってんの?』
「……別に怒ってませんよ。」
『随分出るのが遅かったけどナニしてたのかなー?』
「別に何もしてません。気付くのが遅れただけです。」
『えー?ほんとにー?どうせナマエも一緒に居るんでしょ?若いっていいよねー。』
「用件!!」
電話の相手はやはり五条だった。恵は五条と話す時いつもイライラしているが、今日は普段に輪をかけて機嫌が悪い。理由は言わずもがなである。
五条が本題に入りそうだと感じたのか、さすがの恵も体を起こして、ナマエの事も引っ張り起こした。この時初めて全身の痛みが復活して少し唸ってしまった。そして五条の指示により通話をスピーカーモードに切り替えた。
『あ、ナマエー?怪我の具合は?』
「全然大丈夫だよ。おでこの怪我とたぶんちょっと全身打撲?かも。」
『それ大丈夫って言わないけどね。明日ちゃんと硝子に見てもらいなよ。』
「はーい。それで?どうしたの?」
『虎杖悠仁についての処遇が決まったよ。二人も気になってたでしょ。』
「っ!うん!」
もちろん気掛かりだった。間違いなく気掛かりだったのだが。少しの間存在を忘れてキスに没頭していたなんて……口が裂けても言えない。
五条の話によると。一言で言えば〝執行猶予付きの秘匿死刑〟だった。保守派の上層部はすぐに殺せと騒ぎ立てたらしいが、五条の言葉で執行猶予付きとなった。「もったいないから指を全部喰わせてから殺せばいい」と。言い方は気に入らないが五条の事だ。考えあっての発言だろう。……と信じたい。
それから、明日の予定については虎杖が目覚めてからまた連絡が入るらしい。いつでも動けるようにと言われて、通話は終了した。
「とりあえず……良かった、のかな?」
「さぁな。
「……そだね。でも、どうにかしてってお願いしたのは私たちだよ。」
「……分かってる。」
先程までの甘い雰囲気から一転。二人はこれからの事を思うとどうしても暗くなってしまった。力のない自分たちは五条に頼るしかない。それでも。
〝もしも〟の時は自分たちも覚悟が必要だろう。
……と、ナマエは恵の手当てがまだ途中だったと思い出し、続きをさせるよう恵に言うと、渋々ながら恵も受け入れてくれた。
先程散々翻弄させられた仕返しに、と。
少しキツめに包帯を巻いてやった。