第二十七話 受肉
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ナマエは、次々と目まぐるしく変わっていく状況に全く追いつけていなかった。虎杖が猛毒である特級呪物を飲み込んでしまうという明らかな自殺行為を止めることができず。このままでは確実に死んでしまうと思いきや、まさかの受肉。
そして宿儺に乗っ取られてしまったと思えば今度はそれを抑え込み自我を保った。こんなこと、どれだけの偶然が重なれば現実となるのか。それがどれほど低い可能性かなんて…両面宿儺という存在をつい先日知ったナマエでも万に一つの可能性という事が分かる。
五条の「交代してみて」という依頼にもすんなり応えて、約10秒間宿儺として暴れまわった後、当たり前の用に制御して自我を取り戻した。五条でさえも制御できている事に驚いている。虎杖本人は「頭でアイツの声がするからちょっとうるさい。」と、今の自分の状況を本当に理解できているのか微妙な所である。それで済んでいるのが奇跡だという事もおそらくは分かっていない。ナマエの脳内CPUは情報処理が追い付かずプチパニックである。
不意に五条が虎杖に近付き、トンと額に指を当てたその瞬間、虎杖がガクンと落ちた。
「……え?」
「何したんですか。」
「気絶させたの。……重っ。」
恵の質問に答えながら片手で虎杖の体を支えている。虎杖の筋肉質な体躯であればさぞかし重いだろう。それでもそこはさすが五条というところか。なんだかんだで余裕そうだ。
「これで目覚めた時、宿儺に体を奪われていなかったら……彼には器の可能性がある。」
「…器って……どういう事…?虎杖くんを………どうするつもり…?」
五条の「器」という言い方が、ナマエはものすごく嫌だった。彼はほんの数分前までただの高校生だったのだ。呪術界のことも呪いの存在も…何も知らない一般人の男の子だったのに。少し低くなってしまったナマエの声にも五条は動じることなく…続けた。
「さて。ここでクエスチョン。」
「ちょっと!悟くん!」
「ナマエ。少し落ち着け。」
「…だって!!なんで恵はそんなに落ち着いてられるの!?私たちが巻き込んじゃったんだよ!?」
「……。」
もし学校までの道案内を頼まなければ……病院で事情を話す時にうまくごまかすことができていれば……虎杖が特級呪物を運悪く拾ってしまう前に自分達が回収していれば…。今更どうにもならないのにそんな事ばかり考えてしまう。
「…続けるよ。恵、彼を……どうするべきかな。」
「…………仮に、器だとしても。呪術規定にのっとれば虎杖は処刑対象です。」
「!」
恵の言い様に、ナマエはグッと眉を顰めてうつむいた。今恵の方を見たら、何かひどい言葉を吐いてしまいそうだったから。ナマエだって、馬鹿ではない。五条の言っていることも、恵の見解も正しいと分かっている。自分たちは、呪術規定というルールの基、活動をしている。ルールがあるからこそ成立していることも分かっている。納得のいかない規定も多いが…。七海の言葉を借りるなら、そんな規定の中に居る自分たち呪術師というのは、クソだ。
「——でも。死なせたくありません。」
「…え?」
恵の言葉に、ナマエは弾けるように顔を上げた。恵のその目はまっすぐ五条をとらえていた。恵は元来真面目だ。納得がいかないことでも、五条と違って規定であればと遵守するタイプだ。その恵が、死なせたくない、と言った。
「…私情?」
「私情です。なんとかしてください。」
「〰〰〰ッ!!!」
五条に向かってキッパリと告げた恵に、ナマエはたまらず抱き着いた。飛び掛かったという表現の方が正しい。恵は怪我に響いたのか「う゛っ。」とうめき声を上げたがナマエはお構いなしに強く強く抱きしめた。
「クックック…。ナマエの意見も同じってことでいいのかな?」
「うん!うん!」
恵の胸に顔を埋めたままコクコクと大きくうなずきながら答えた。そんなナマエに五条は仕方のない教え子たちだ、と言いつつも。その声はどこか優しい声色だった。
「かわいい生徒の頼みだ。任せなさい!」
そう言って、ニカっと笑いサムズアップした。
「んじゃ、僕はさっそく上に掛け合わないといけないし。この子をどうにかしなきゃだし。校舎こんなになっちゃったから後処理もさせないといけないし。伊地知に。」
「「……。(伊地知さん…)」」
「今日はもう遅いから東京に帰るのは明日だね。君たちはホテルに戻ってその怪我の応急処置だけしときな。硝子の治療は明日高専に帰ってからだ。」
そう言ってから虎杖を肩に担ぎ、恵たちの返事を待たずしてそのままフッと消えてしまった。術式でトンだようだ。
五条が消えて、恵は力が抜けてしまったのか。ナマエをくっつけたまま、崩れるように座り込んでしまった。
「うわっ。恵…大丈夫?」
「…疲れた。」
「うん…。」
——それから満身創痍の二人は肩を支え合いながらどうにかホテルに戻り。血まみれ埃まみれの状態を見たホテルのフロントスタッフが顔を真っ青にして救急車を呼ぼうとするのをどうにか止めて。消毒液や包帯などの救急セットを借り。なんとかその場を収めて部屋に戻ることができた。