第二十六話 駛走
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ザッザッと三人の地面を蹴る音が夜の街に響く。その表情は皆暗く、眉を寄せている。
「お札ってそんな簡単にとれんの?」
「いや、呪力のない人間にはまず無理だ!…普通はな!」
「……右!近道だ!」
「今回は中のモノが強すぎる!封印も年代物。紙切れ同然だ!」
「でもなぁ…呪いなんていまいちピンとこねぇや。」
「っそいつらどこだ!」
「四階!……ってか、ミョウジ。」
「なに?」
「伏黒はともかくさ、よくついて来れんね。俺けっこー飛ばしてんだけど。」
「あぁ…。」
確かに中々のスピードで走っているが、そこはナマエも呪術師である。そこらへんの女の子と一緒なわけがない。
「一応、鍛えてるからね。」
「そうなん?」
「……あそこか!」
「あ、おぅ!」
高校の裏門に到着する、という時――
「「「!!!」」」
――ゾワッ
一気に呪力が濃くなった。
「なんだ…この
恵とナマエは門の柵に手を掛けてタンタンっとよじ登った。ここから先は素人を連れて行くわけにはいかない。恵は少し冷たくも感じる声色で虎杖に告げた。
「オマエはここにいろ。」
「っ俺も行く!やばいんだろ!?……二月かそこらの付き合いだけど、友達なんだ。放っとけねぇよ!」
柵の上から静かに見下ろして、更に念を押して伝える。
「…………ここにいろ。」
「ごめんね。ほんとに、危ないの。」
ナマエも柵の上からそう告げた後、二人して柵から飛び降りて校舎へと向かった。
―――――――――
「呪いが放たれた!!相変わらず気配が無茶苦茶だ!!」
「恵!多分この上!」
「ああ!急ぐぞ!!」
階段を抜けて廊下に出た瞬間、目の前に呪霊が現れた。
「邪魔だ!!――玉犬!!!」
パンッと手を重ねて二匹を呼び出した。遠吠えを上げながら現れた二匹に、語気を強めて指示を出す。
「喰っていいぞ。……ナマエ!今のうちに先に行け!」
「分かった!気をつけてね!」
「お前がな!!」
恵が呪霊の相手をしている内にナマエは先を進む。廊下を曲がるとまたすぐに呪霊が現れた。等級こそ大した事はないが、だんだんと数が増えてくる。
「んー!!もう!邪魔しないでよ!!」
〝鎌鼬!!〟
――ザフッ
鉄扇を広げておもいっきり風を飛ばす。直線上の廊下に居た呪霊を一掃する。
「無事か!」
「恵!うん、呪いの数がかなり増えてきたの!近いと思う!」
「分かった!」
後ろから追いついてきた恵と玉犬と連れ立って先の廊下を曲がった。
「「見つけた!!!」」
廊下の最奥、窓からの月明かりに照らされる呪霊が今にも人間を取り込もうとしている所だった。
「呪物ごと取り込むつもりかも!」
「くそッ!間に合わねぇ!」
流石に距離があり、ナマエの鉄扇だと二人も巻き添えにしてしまう。もうダメだ、二人がそう思った時――
―――ガッシャアァアアァァアン!!
窓を突き破って現れたのは、門の前で待ってろと言って別れたはずの、虎杖だった。
「虎杖!?」
「は!?ここ四階だよ!?」
「うらぁ!!」
――――――ドゴォ!
そのまま呪霊の脳天から踵落としをかましたと思えば、呪霊に取り込まれそうになっていた二人をブチブチと引きちぎって距離を取った。
『いぃまぁあああ なんじぃぃい でぇすぅううかぁああぁ』
「これが呪い?……思ってたのと違うな。」
「虎杖くん!!伏せて!」
「……え?」
――ガガガガガガ!!!
虎杖が返事をするよりも早く、ナマエにより呪霊は細切れにされてしまった。
「―――何で来た、と言いたい所だが、良くやった。」
「……なんで偉そうなの。」
「虎杖くん!無事??」
「おぉ、俺はだいじょぶ。つーか今のってミョウジがやったの?」
「うん、そうだよ。」
「すげぇ……。って因みにあっちで呪いバクバク喰ってんのは?」
虎杖の視線の先にはハグハグと呪いをうまそうに食べている玉犬たちだ。玉犬大好きなナマエだが、こうやって呪いを食している姿を見るのはあまり好きではない。何せ、グロい。
「俺の式神だ。見えてんだな。」
「?」
「呪いってのは普通見えねぇんだよ。死に際とかこういう特殊な場では別だがな。」
「あー確かに俺今まで幽霊とか見た事ないしな。」
「…怖くないの?」
ケロリと話す虎杖をナマエはすごいと思った。ナマエが初めて見た時は怖くて気持ち悪くて泣きながら立ち向かった気がする。幼かったというのもあるが。それでも、恵に言わせれば若干10歳の少女が初めて見る異形に泣きながらも立ち向かうというのも、随分とイカれている。
「いやまぁ、怖かったんだけどさ。……知ってた?人ってマジで死ぬんだよ。」
「は?」
「だったらせめて自分が知ってる人くらいは、正しく死んでほしいって思うんだ。まぁ…自分でも良くわからん。」
「虎杖くん……。」
今日亡くなったという身内の事を言っているんだと、ただでさえ辛い時に更にこんな目に合うなんて……。ナマエは悲しさと切なさが無い混ぜになった。
と、横抱きにしていた先輩のポケットから宿儺の指がポロっと零れ落ちそうになったのを、咄嗟に虎杖が掴んだ。
「おっと。……これが?」
「あぁ、特級呪物『両面宿儺』の指だ。モロとも喰われなかったのは奇跡だな。」
「りょうめ……?」
「言ってもわかんねぇだろ。」
「喰ってどうすんだ?うまいのか?」
「馬鹿言うな。より強い呪力を得るためだ。危ないからさっさと渡せ。」
「…はいはい。」
虎杖がため息混じりに伏黒に渡そうとした時――
玉犬が先に気配に気づいた。それを見たナマエが意識を集中。天井から新たな呪霊が現れたのが分かった。
「っ!危ない!!」
――ドンっ!!
咄嗟に二人の間に割り込み、両手で思いっきり二人を突き飛ばした。上から現れた呪霊にナマエは押しつぶされる様な形となった。
――ドォォオオン!!
「くっ!ナマエ!!おい虎杖!逃げろ!!」
――ドガァアアァアン!!
続いて伏黒までもが瓦礫と埃で見えなくなってしまう。
「伏黒!ミョウジ!」
虎杖が口元を覆いながら埃の中に目を凝らすと……頭から血を流して意識を失っているだろうナマエと、それを庇う様にしたところを現れた呪霊に掴まれて今にも喰われそうになっている伏黒……とにかく最悪の状況だった。
「ぐっ!!……鵺…………ガァっ!!」
どうにか式神を出そうとした恵だったが、間に合わずそのままナマエモロとも壁に叩きつけられ、外に投げ出された。
「伏黒ーー!!!」
――ガラガラガラ……
――ドッ!……ズサザザ!!
「ゲホっ!…………くそっ……(頭回んねぇ…)」
フラフラと立ち上がりどうにか式神を出そうと腕を構える恵だが、体が痺れて指一つまともに動かせない。その少し後ろで同じくぶっ転がされたナマエがグググと体を起こした。衝撃で意識を取り戻したらしい。
「ゲホっ!……ハァっハァっ……め、ぐみ……」
「っ!ナマエ!!頭打ってんだ、じっとしてろ!」
「そん、なの!恵もじゃん!!私だってまだ!!いける!」
「……くそっ!」
こうしている間にも、ズンズンと呪霊がこちらに向かってくる。そんな時、呪霊の上にスッと人影が映ったと思えば……
――ゴン!!――――――ザザザ!
虎杖が呪霊の脳天からまたもや打撃を加えた。一般人とは思えない挙力だ。しかし、呪いがこもっていない打撃は、多少呪霊を怯ませる事はできても、決定打にはなりえない。
「虎杖!アイツら連れて逃げろってのがわかんねぇのか!!」
「オマエらだって!!……っ!ヤバいんじゃねぇか!!うわぁ!……っ!!」
「呪いは呪いでしか祓えない!お前じゃ勝てないんだ!!!」
呪霊の腕に掴まりブンブンと振り回されながら、恵と言い合いをしている。ナマエは間に入れず見守るしかできない。怪我をして役立たずな上に一般人に助けられるとは……。ギリと歯を食いしばった。
「そんなこと言ってる場合か!!それじゃお前は死ぬんだろ!!……うお!!今、帰ったら!……夢見が悪いんだよ!!」
「……」
「それにな!コッチはコッチで…………めんどくせぇ呪い掛かってんだわ!!……ぐはっ!」
「虎杖くん!!」
虎杖は呪霊に鷲掴みにされて今にも喰われそうになる中、どうにか呪霊の口の上で踏ん張り耐えている。呪霊の狙いはあくまでも宿儺の指。それを見た虎杖は、先程のやり取りを思い出す。
『喰ってどうすんだ?うまいのか?』
『馬鹿言うな。より強い呪力を得るためだ。』
「っ!あるじゃねぇか!!全員助かる方法!!俺に!呪力があればいいんだろ!」
そう言って、あろうことか宿儺の指を放り投げてあーんと大口を開けて落ちてくる指を待ち受ける。
「っ馬鹿!やめろ!!」
「何やってんの!?だめぇーーー!!!!」
――ゴクン!
二人の必死の叫びも虚しく。
――虎杖悠仁は、宿儺の指を飲み込んだ。