第二十五話 邂逅
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——ドッ!!
「14メートル!!」
おお!という歓声があがり、砲丸を投げた本人である教師らしき男性は得意げに鼻を鳴らしている。拍手と共に、「全然現役!」や「どーするイタドリ!」などの声が上がる。
「14メートルってすごいの?」
「…さぁ。」
陸上競技にさして興味がない二人は、揃って首を傾げた。だが、周りの歓声の感じだと今のはすごい記録なんだろうというのは分かった。直ぐに恵がスマホで調べてくれたが、日本記録が18メートル台らしい。それならば確かに今の記録はすごい。それよりもナマエは、すぐ近くにいた男女のひそひそ話が気になっていた。さっきからイタドリという生徒についてコソコソと話しているが、そのテンポのいいやり取りがなんだかおもしろいのだ。とくに、おかっぱの髪型に眼鏡が印象的な女子生徒の突っ込み方がナマエのツボだった。
「なんでも、眉唾だけどSASUKE全クリしたとか、ミルコ・クロコップの生まれ変わりだとか。」
「死んでねぇだろ、ミルコ。」
「……ふ。」
だめだ。声が漏れてしまった。ひそひそ話の二人にはバレておらずホッとしたが、恵には気づかれてしまった。何を笑ってんだと言わんばかりに眉を寄せてきたので、二人にバレないようにこっそりジェスチャーで恵に会話を聞けと伝えた。
「ついたあだ名が〝西中の虎〟。」
「………ダサくない?」
「……くっ!」
まただ、この女子生徒の切れの良さは、どこか真希を彷彿とさせてナマエは声を出して笑いそうになっていた。恵はよく分からなかったがどうやらナマエがツボにハマることが起こったんだろうことは理解できたので、一応肘で小突いて制止しておいた。そうこうしている内に生徒の番になったようだ。投げ方などの知識はないようで、適当でいいか?と聞いている。砲丸を受け取った際に重みで体がグラついたようだ。それを素人だからと笑う声だったり、面白がった野次馬達のイタドリコールも響いていたが、次の瞬間にその場にいる全員が言葉を失う事になった。
——ゴイイイイィイイィイン!
「…えーと、だいたい30メートル!」
「おっし!俺の勝ちぃ!」
「「「…………。」」」
その生徒は、あの重そうな砲丸をまるで野球のピッチャーのようなフォームで投げ、更には計測用の白線を遥かに超えてサッカーゴールの縁にめり込ませた。流石にナマエでもあの投げ方はおかしいことや、呪力ありきでもあそこまで飛ばせるかは疑問が残ることは分かった。
「凄いなアイツ。呪力なし、素の力でアレか。」
「なんか真希ちゃんみたいだね。」
「あぁ。…て、見てる場合じゃなかったな。寄り道はもういいだろ。」
「うん。………?」
恵に促されて立ち去ろうとした時、先程の眼鏡の突っ込みさんたちと会話をしていたイタドリが、こちらに気付いて首をかしげながらこちらを見てきた。何故目が合ったのかハテナが浮かんだが、イタドリがそのままヘラりと笑って手をヒラヒラと振ってきたので思わずナマエも振り返してしまった。
「おい、何やってんだ。行くぞ。」
「あ、うん。」
とりあえず高専に連絡をして閉鎖について指示を仰ぐことを決めた二人はひとまず高校を出ることにしたのだが。後ろからタッタッと走る足音が聞こえてきたので二人して振り向いたその瞬間。先程のイタドリという生徒とすれ違った。
——チリッ!!
「「っ!!!」」
「今の!」
「あぁ!おいオマエ!…って速すぎんだろ!!」
すれ違ったまさにその瞬間に二人が感じ取ったもの。間違いなくそれは呪物の気配だった。彼が持っているのは火を見るよりも明らかだった。
「アイツ50メートル3秒で走るらしいぞ。」
「車かよ。」
((はぁ!?))
近くを通った生徒がそんなことを話しているのが聞こえてさすがに引いた。いくら自分達でも呪力を込めてもそこまでスピードが出るか分からない。いや、ドン引きしてる暇はない。
「恵!」
「もうやってる!——玉犬!!…今の気配を追え!!」
ワフっと一鳴きした玉犬はそのまま校門を出て行った。なぜあの生徒から呪物の気配がしたのか。あの風体だと呪詛師という線はかなり低いだろう。
「たまたま見つけちゃったのかな。」
「まぁ、そうだろうな。後追いは玉犬に任せてる。俺たちは念のためあの生徒の素性を調べるぞ。」
「どうやって?」
「今度こそ、聞き込みだ。」
こうして、眼鏡の突っ込み女子生徒や、周りで野次馬をしていただろう生徒たちに聞き込みを行い、彼のフルネームは虎杖悠仁ということ、オカルト研究会に所属しているということ。そして、家族の見舞いの為に毎日17時までには学校を出て、杉沢病院に入院をしている家族の元に通っているらしい…というところまでが分かった。玉犬のたどり着いた場所も同じ病院だったので、ビンゴだ。
これで呪詛師の疑いが無くなったわけではないが、ただの運動神経が良すぎる高校生という線が濃厚になった。答えに行きついて二人が杉沢病院の正門に到着した時には、既に太陽は落ちて辺りは暗闇に包まれていた。