第二十二話 夜行
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
宮城県仙台市、杉沢第三高校。
普段見慣れた和装建築の高専とは違い、無機質な鉄コンで作られた校舎。運動場にはサッカーゴールやラグビーのゴールポストなど、これまた高専では見られない物で少し新鮮だ。というよりは、中学の頃を思い出すような懐かしさも感じる。
とはいえ、今は夜。誰一人いない夜の学校。
〝祝!サッカー部東北大会優勝!〟
他にも野球部や陸上部など、様々な懸垂幕が校舎の上から垂らされている。どうやらこの高校は運動部に力を入れているらしい。生温い夜風に静かに揺らされる懸垂幕は白くぼんやりと見えて、どこか不気味だった。
「ねー…なんで夜じゃないといけなかったの?」
恵の制服の背中を摘み夜の学校という雰囲気にビクビクしながら訴えかけるナマエ。
「人目につかない方がいいからな。……あった。百葉箱。」
「ていうかなんでこんな所に特級呪物保管してるの?馬鹿じゃないの?」
「…それは同感。」
「そもそも百葉箱って何に使うんだっけ…。」
「気象観測とかだろ。」
「あー……。」
校舎裏の百葉箱。ここに呪いの王のかけらが保管されているらしい。ナマエの言う通り、特級呪物を保管するにはいささかお粗末な場所である。
金具を摘み扉を開けたが……
「「…………。」」
――ない。どこにもないし、それらしき気配も全く感じない。
ナマエと恵は百葉箱の中を隅から隅まで目を凝らして探した。が、やはりここには無いようだ。
「恵……」
「あぁ、とりあえず五条先生に連絡だな。」
ポケットからスマホを取り出して五条へと発信する。
「……ないですよ。」
『え?』
「百葉箱空っぽです。」
『マジで?ウケるね(笑)夜のお散歩かなぁ。』
「ぶん殴りますよ……」
『それ回収するまで帰ってきちゃ駄目だから。』
――ブツッ、ツーッ ツーッ ツーッ
「悟くん何て?」
「…今度マジで殴ろう。」
「え?」
「回収するまで帰ってくるな、だと。」
「えぇー……。」
ただの回収だったはずが、どうやら面倒な事になりそうだ。そもそもこんなもの、どうやって探せと言うのか。
「どうする?明日放課後くらいにもう一回来てさ、学生さんとかに聞いてまわってみる?」
「…そうだな。呪物に引き寄せられるはずの呪いすら全くいない。ここには無いんだろうな。」
アテもなく探し回るのは得策ではない。明日に持ち越しになりそうだ。
「よっし!そうと決まれば!晩ごはん!何にするー?せっかく仙台来たんだからやっぱり牛タン??」
「時間が時間だ。未成年だけで入れる店なんてもう開いてないだろ。チェーン店なら行けるだろうが。」
「え゛!!」
時刻は22時を過ぎた。ホテルのある繁華街に戻るには約1時間。そんな時間だと地元の食材を楽しめる店は確かに難しそうだ。
「じゃあどうすんの?」
「ホテルのケータリングかファミレスかコンビニか……」
「せっかくこんなとこまで来たのにー!」
「お前な。目的は食事じゃねぇだろ。」
「分かってるもん……。」
明らかにガックリと肩を落とすナマエの頭をポンポンとしながら、恵は妥協案を提示する。
「明日、放課後まで時間あるだろ。そん時に行けばいい。それまでに美味い牛タン屋探してやるから。」
「ほんとっ?じゃあ晩ごはんは何でもいいや!」
「……現金なやつ。」
切り替えの早いナマエに呆れながら、二人は夜の学校を後にした。