第二十話 嫉妬
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後半で原作11巻のシーンを丸々引用しています。未読の方はご注意ください。
「…伏黒恵です。」
猪野も同席することになり改めてメニューを開いたところで、猪野が思い出したように恵に話しかけて名前を聞かれたため、答えた。少しぶっきらぼうになってしまったが、猪野はさして気にしていないようだった。
「伏黒…?どっかで聞いたような…。」
「………。」
「あ!お前もしかして、禪院の!?いきなり2級で入学したサラブレッド!」
「……。」
「あ…悪ぃ。こんなん言われてもいい気しないよな。」
「…いえ。」
思わずムッとした恵に、猪野はすぐに謝った。機微がわからないバカではなかったらしい。
「ん?待てよ、そういえばミョウジ……って。え、七海サン、もしかして。」
「えぇ。彼女はミョウジの妹ですよ。」
「やっぱりかぁー!そういや顔もミョウジさんに似てるわ!ナマエチャンのが断然カワイイけどな!」
兄とかわいさを比べられても…と微妙な気持ちになったナマエは眉を下げて笑うしかなかった。猪野は翔のことを知っているようだ。ミョウジ家だから当然と言えば当然なのだが。
「彼女も伏黒くんと同じく、入学時から2級ですよ。」
「マジか。これまたサラブレッド…今年の一年はどうなってんだ…。俺が2級になるまでどれだけかかったことか……。」
七海から教えられた猪野はぶつぶつと文句を言っているが、そう思っても仕方がないかもしれない。猪野自身も術師の家系だが、禪院やミョウジのような名家でも何でもない。後ろ盾のある二人に自分の実力を棚に上げてもやっとした感情を抱いてもしょうがない。だが、ナマエの微妙な表情を見て、ハッとした。
「あ…ごめんな。家の事出されてもってなるよな。俺は羨ましいけど良い事ばっかりでもないだろうし。」
そう、それぞれがそれぞれの立場で様々な思いを抱えている。それが分からない猪野ではなかったので、すぐに謝罪する。
「二人が2級で入学したのは、紛れもなく本人たちの実力ですよ。」
「建人くん…。」
「……。」
七海にそう言われて、二人とも少しムズムズした。2級で入学してから、血だの家系だの、贔屓だ忖度だのと言われていたのは二人とも分かっていたから。血筋や家柄を抜きにして自分自身を見てくれる人がいるというのはありがたいことだ。
「い、猪野さんっ。ほら、お肉来ましたよ!どんどん焼いちゃいましょ!」
照れ隠しなのか少しテンションを上げてトングをグッと握ったナマエを見て、猪野も口角をあげた。
「おっし!ナマエチャンのためにお兄サンが肉を焼いてあげよう!好きな肉は?」
「塩タンネギたっぷり!」
「いいねぇ、任せなさい!」
どこかテンションの近い二人を、逆の意味でテンションの近い二人が呆れたように見ていた。
変な呪霊に出会した時の話や、一般人の女の子といい感じになったのに丁度任務が入ってそのまま振られてしまった話など、猪野は面白おかしく時折自虐ネタも取り入れながら、ナマエを笑わせていた。
ナマエが楽しそうにしている所を見るのは嫌いじゃない。むしろ好ましく思う恵だが、今日はそうも行かない。
「ほい、焼けた。」
「ありがとうございます!」
「そんでな、その時の呪霊が……」
猪野に勧められるままどんどんと肉を腹に収めていくナマエ。七海とも和気藹々と会話も弾み、楽しそうな姿は微笑ましい。が。
「ナマエ、そんな一気に食うな。後で後悔すんぞ。」
「大丈夫だよ、まだまだ余裕!建人くんとご飯なんて、ほんと久し振りで嬉しいんだもん。ついついお箸が進んじゃうの!」
「ナマエ、その気持ちは嬉しいですが伏黒くんの言う通りですよ。もっとゆっくり食べなさい。肉は逃げませんから。」
「えー、建人くんまでそんなこと言うの…。」
「後で苦しそうにすんのが目に見えてんだよ。」
「…大丈夫だもん。」
頬を膨らませるナマエを見ながら、猪野が頬杖をつきながらうらやましそうに見ていたと思えば、呟くように言った。
「…いいね、その、『建人くん』ての。伏黒みたく呼び捨てされるのも捨てがたいけど『くん』呼びいいな。」
「へ?」
「また君は変なことを…」
「七海サンがそう呼ばせてんですか?」
「そんなわけないでしょう…。」
ため息交じりの七海に返答にそりゃそうか、と猪野もすぐに納得した。
「そういや七海サンが誰かの事を下の名前で親し気に呼ぶのって、初めて見た気がする。知り合って長いんすか?」
「そうですね。彼女が幼い頃から知っていますよ。」
「でも建人くん、普段はナマエさんって呼ぶよね?」
「それは任務などの公の時ですね。今は違いますから。」
「へぇー、なんか、響きがエロイな。」
「ゴホッ、…何を言い出すかと思えば。…あぁ、ありがとうございます。」
猪野の言葉に咽てしまった七海に水の入ったコップを渡しながら、恵は確かに…と思ってしまった。そして、猪野のこの話の流れは、またまた嫌な予感しかしない。
「なぁなぁ、ナマエチャン。ちょっと一回、俺の事下の名前で呼んでみて?」
「え…っと、琢磨くん…?」
「…くぅぅぅ!」
それまで前のめりだった猪野は突然背もたれにガタンと持たれて天を仰いだ。そしてそのままの姿勢でパシンと両目を右手で覆い左手はダランと下ろしたままでぶつぶつと言い出した。
「想像以上の破壊力…!…やべぇな。」
「「………。」」
「ナマエ、気にしたら負けです。さぁ、塩タンが焼けましたよ。」
「あ、うん。…何に負けるの?」
「…気にすんな。ほら、カルビも焼けてる。」
「…なに、二人とも。さっきまでペース落とせって言ってたくせに。」
「「別に。」」
ナマエが鈍くてよかった。…そう思った二人だった。
しばらく放置していた猪野がガタンと元の姿勢になって復活したと思ったら、思い出したように言った。
「そういえば、任務の時って言っていたけど…今日一緒の任務だったんすか?」
「えぇ、と言っても私は引率でしたが。」
「ナマエチャンの引率!やりてぇ〰。やっぱ早く1級にならんとな。そんでもって俺も七海サンみたく…。」
「…そんな不純な動機では私は1級術師への推薦はしませんよ。」
「ちょ!七海サン!冗談っすよ!」
「…そもそも、何故私の推薦にこだわるのですか。」
猪野はどうやら、七海からの1級推薦を望んでいるらしい。なんだかいきなり真面目な話になったなと思ったナマエと恵は、顔を見合わせて肯き、大人しく肉をつつくことにした。
「君の術式なら準1級くらいすぐなれます。」
「…やっぱ〝筋〟って大事だと思うんスよ。特に呪術師みたいな血生臭い職業は。」
「……。」
「でも俺は頭悪いから、筋の通し方が分からなくなることがある。だから、迷った時こう考えるんです。——『七海サンならどうするか』。」
先程までのチャラさが嘘のように、真っすぐ七海の方を見て告げた猪野。七海の事を心から尊敬し慕っていることが伺えた。
「それで七海サンに認められずに1級ってのは、嘘でしょ。」
恵は、少しだけ…ほんの少しだけこの男がカッコいいと思ってしまった。粋だと思ってしまった。ナマエも同じように思ったのか、箸が止まり目をパチクリさせていた。
「…ん?ナマエチャンどした?…もしかして俺に惚れちゃった?」
「そこまで思う程に建人くんの事信頼して慕ってたんですね…。建人くんて、やっぱり凄い人なんだね!」
「………。」
「…そっちかぁ~!」
ガックリする猪野をよそに、恵は自分と違うベクトルに考えが向かってくれたことにホッとしていた。
「猪野くん。…この話はまた次の機会に…。」
「あ、また逃げた。俺は七海サンがウンと言うまで諦めませんからね!」
「…ハァ。」
その後、さんざん食べまくった後に当初恵が言った通りにナマエは苦しい苦しいと喚き、帰る時間になってもなかなか席を立たなかった。猪野が「俺がナマエチャンを責任もって送り届けるからもっとゆっくりしよう」と申し出たが。
「あ、恵がいるので大丈夫です。」
と、バッサリ断られていた。またもやうな垂れる猪野に、「…クッ。」と笑いをかみ殺す七海。
——そして、恵の口元は口角が上がるのを我慢してか、ムズムズしていた。
後半で原作11巻のシーンを丸々引用しています。未読の方はご注意ください。
「…伏黒恵です。」
猪野も同席することになり改めてメニューを開いたところで、猪野が思い出したように恵に話しかけて名前を聞かれたため、答えた。少しぶっきらぼうになってしまったが、猪野はさして気にしていないようだった。
「伏黒…?どっかで聞いたような…。」
「………。」
「あ!お前もしかして、禪院の!?いきなり2級で入学したサラブレッド!」
「……。」
「あ…悪ぃ。こんなん言われてもいい気しないよな。」
「…いえ。」
思わずムッとした恵に、猪野はすぐに謝った。機微がわからないバカではなかったらしい。
「ん?待てよ、そういえばミョウジ……って。え、七海サン、もしかして。」
「えぇ。彼女はミョウジの妹ですよ。」
「やっぱりかぁー!そういや顔もミョウジさんに似てるわ!ナマエチャンのが断然カワイイけどな!」
兄とかわいさを比べられても…と微妙な気持ちになったナマエは眉を下げて笑うしかなかった。猪野は翔のことを知っているようだ。ミョウジ家だから当然と言えば当然なのだが。
「彼女も伏黒くんと同じく、入学時から2級ですよ。」
「マジか。これまたサラブレッド…今年の一年はどうなってんだ…。俺が2級になるまでどれだけかかったことか……。」
七海から教えられた猪野はぶつぶつと文句を言っているが、そう思っても仕方がないかもしれない。猪野自身も術師の家系だが、禪院やミョウジのような名家でも何でもない。後ろ盾のある二人に自分の実力を棚に上げてもやっとした感情を抱いてもしょうがない。だが、ナマエの微妙な表情を見て、ハッとした。
「あ…ごめんな。家の事出されてもってなるよな。俺は羨ましいけど良い事ばっかりでもないだろうし。」
そう、それぞれがそれぞれの立場で様々な思いを抱えている。それが分からない猪野ではなかったので、すぐに謝罪する。
「二人が2級で入学したのは、紛れもなく本人たちの実力ですよ。」
「建人くん…。」
「……。」
七海にそう言われて、二人とも少しムズムズした。2級で入学してから、血だの家系だの、贔屓だ忖度だのと言われていたのは二人とも分かっていたから。血筋や家柄を抜きにして自分自身を見てくれる人がいるというのはありがたいことだ。
「い、猪野さんっ。ほら、お肉来ましたよ!どんどん焼いちゃいましょ!」
照れ隠しなのか少しテンションを上げてトングをグッと握ったナマエを見て、猪野も口角をあげた。
「おっし!ナマエチャンのためにお兄サンが肉を焼いてあげよう!好きな肉は?」
「塩タンネギたっぷり!」
「いいねぇ、任せなさい!」
どこかテンションの近い二人を、逆の意味でテンションの近い二人が呆れたように見ていた。
変な呪霊に出会した時の話や、一般人の女の子といい感じになったのに丁度任務が入ってそのまま振られてしまった話など、猪野は面白おかしく時折自虐ネタも取り入れながら、ナマエを笑わせていた。
ナマエが楽しそうにしている所を見るのは嫌いじゃない。むしろ好ましく思う恵だが、今日はそうも行かない。
「ほい、焼けた。」
「ありがとうございます!」
「そんでな、その時の呪霊が……」
猪野に勧められるままどんどんと肉を腹に収めていくナマエ。七海とも和気藹々と会話も弾み、楽しそうな姿は微笑ましい。が。
「ナマエ、そんな一気に食うな。後で後悔すんぞ。」
「大丈夫だよ、まだまだ余裕!建人くんとご飯なんて、ほんと久し振りで嬉しいんだもん。ついついお箸が進んじゃうの!」
「ナマエ、その気持ちは嬉しいですが伏黒くんの言う通りですよ。もっとゆっくり食べなさい。肉は逃げませんから。」
「えー、建人くんまでそんなこと言うの…。」
「後で苦しそうにすんのが目に見えてんだよ。」
「…大丈夫だもん。」
頬を膨らませるナマエを見ながら、猪野が頬杖をつきながらうらやましそうに見ていたと思えば、呟くように言った。
「…いいね、その、『建人くん』ての。伏黒みたく呼び捨てされるのも捨てがたいけど『くん』呼びいいな。」
「へ?」
「また君は変なことを…」
「七海サンがそう呼ばせてんですか?」
「そんなわけないでしょう…。」
ため息交じりの七海に返答にそりゃそうか、と猪野もすぐに納得した。
「そういや七海サンが誰かの事を下の名前で親し気に呼ぶのって、初めて見た気がする。知り合って長いんすか?」
「そうですね。彼女が幼い頃から知っていますよ。」
「でも建人くん、普段はナマエさんって呼ぶよね?」
「それは任務などの公の時ですね。今は違いますから。」
「へぇー、なんか、響きがエロイな。」
「ゴホッ、…何を言い出すかと思えば。…あぁ、ありがとうございます。」
猪野の言葉に咽てしまった七海に水の入ったコップを渡しながら、恵は確かに…と思ってしまった。そして、猪野のこの話の流れは、またまた嫌な予感しかしない。
「なぁなぁ、ナマエチャン。ちょっと一回、俺の事下の名前で呼んでみて?」
「え…っと、琢磨くん…?」
「…くぅぅぅ!」
それまで前のめりだった猪野は突然背もたれにガタンと持たれて天を仰いだ。そしてそのままの姿勢でパシンと両目を右手で覆い左手はダランと下ろしたままでぶつぶつと言い出した。
「想像以上の破壊力…!…やべぇな。」
「「………。」」
「ナマエ、気にしたら負けです。さぁ、塩タンが焼けましたよ。」
「あ、うん。…何に負けるの?」
「…気にすんな。ほら、カルビも焼けてる。」
「…なに、二人とも。さっきまでペース落とせって言ってたくせに。」
「「別に。」」
ナマエが鈍くてよかった。…そう思った二人だった。
しばらく放置していた猪野がガタンと元の姿勢になって復活したと思ったら、思い出したように言った。
「そういえば、任務の時って言っていたけど…今日一緒の任務だったんすか?」
「えぇ、と言っても私は引率でしたが。」
「ナマエチャンの引率!やりてぇ〰。やっぱ早く1級にならんとな。そんでもって俺も七海サンみたく…。」
「…そんな不純な動機では私は1級術師への推薦はしませんよ。」
「ちょ!七海サン!冗談っすよ!」
「…そもそも、何故私の推薦にこだわるのですか。」
猪野はどうやら、七海からの1級推薦を望んでいるらしい。なんだかいきなり真面目な話になったなと思ったナマエと恵は、顔を見合わせて肯き、大人しく肉をつつくことにした。
「君の術式なら準1級くらいすぐなれます。」
「…やっぱ〝筋〟って大事だと思うんスよ。特に呪術師みたいな血生臭い職業は。」
「……。」
「でも俺は頭悪いから、筋の通し方が分からなくなることがある。だから、迷った時こう考えるんです。——『七海サンならどうするか』。」
先程までのチャラさが嘘のように、真っすぐ七海の方を見て告げた猪野。七海の事を心から尊敬し慕っていることが伺えた。
「それで七海サンに認められずに1級ってのは、嘘でしょ。」
恵は、少しだけ…ほんの少しだけこの男がカッコいいと思ってしまった。粋だと思ってしまった。ナマエも同じように思ったのか、箸が止まり目をパチクリさせていた。
「…ん?ナマエチャンどした?…もしかして俺に惚れちゃった?」
「そこまで思う程に建人くんの事信頼して慕ってたんですね…。建人くんて、やっぱり凄い人なんだね!」
「………。」
「…そっちかぁ~!」
ガックリする猪野をよそに、恵は自分と違うベクトルに考えが向かってくれたことにホッとしていた。
「猪野くん。…この話はまた次の機会に…。」
「あ、また逃げた。俺は七海サンがウンと言うまで諦めませんからね!」
「…ハァ。」
その後、さんざん食べまくった後に当初恵が言った通りにナマエは苦しい苦しいと喚き、帰る時間になってもなかなか席を立たなかった。猪野が「俺がナマエチャンを責任もって送り届けるからもっとゆっくりしよう」と申し出たが。
「あ、恵がいるので大丈夫です。」
と、バッサリ断られていた。またもやうな垂れる猪野に、「…クッ。」と笑いをかみ殺す七海。
——そして、恵の口元は口角が上がるのを我慢してか、ムズムズしていた。