第十九話 再会(開)
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――さらに翌日。
朝、校門前にて。
「おはようございます。ミョウジさん、伏黒くん。」
「伊地知さん!おはようございます!」
「はは、元気そうで良かった。」
「伊地知さん…。」
車のフロントガラスを羽箒で掃除しながら待っていた伊地知が、穏やかな笑顔で出迎えてくれた。今日は、ナマエの任務再開の日だ。
前日の夜に五条と少し話し、体術の授業の様子を聞いてそろそろ大丈夫だろうと判断された。
全身筋肉痛の満身創痍だったのに、と心配だったナマエだが、恵や二年の口添えもあり、まずは軽めの任務からということになった。
『スペシャルゲストに明日の任務の引率お願いしといたから。』
昨日そんなことを言っていた五条の言葉を思い出して、伊地知に聞いてみた。
「ねぇ、伊地知さん。今日の引率って誰ですか?悟くんじゃないってのは分かってるんだけど。」
「あぁ…もうすぐ来ますよ。」
ニッコリと優しく笑った伊地知は結局教えてくれなかった。
「うーん、誰だろ。」
「……。」
五条が手を回したスペシャルゲスト…。恵には想像がついていた。むしろ、思い浮かぶのは一人しかいない。でも、ここで話すのも無粋な気がして黙っておくことにした。
「ナマエ。髪。」
「ん?」
「跳ねてる。」
「え…どこ?」
慌ててヘアピンを外し頭をわさわさと触るがさっきから見当違いの場所ばかり撫でる。
「貸せ。」
「え、でも。」
「それくらい俺にもできる。ほら。」
「あ、じゃあ…。お願い。」
「ん。」
ヘアピンを受け取った恵はナマエに近付き跳ねている箇所に手を伸ばす。もちろんヘアピンなど初めて使うので仕組みなんかよくわかっていない。
「…恵。自分でするよ?」
「もーちょい。ここを、こうか?」
「ん、そうじゃなくって…こうやって…」
「こうか?」
「あ、そうそう。」
「…できた。」
どうにかナマエの跳ねた髪を直すことができて満足そうにその髪を撫でる。ナマエはその恵の表情に頬を染めた。
「恵…顔、近いよ。」
「あ?俺の部屋ではもっと近いだろ。」
「それはっ!」
「顔、真っ赤。」
「うう…。」
ここは外で、傍には生ぬるい目で見守る伊地知が居るのをすっかり忘れてしまっているのか。完全に二人の世界だ。そして、二人に近付く人影にも気づいていない。
「んん゛っ。…おはようございます。」
「「!!」」
相変わらずスマートにベージュのスーツを着こなし、ナマエのように跳ねたりなどせず綺麗にセットされた金髪。変わったデザインのサングラスを親指と人差し指を広げてくいっと上げながら少しだけ気まずそうに佇む、今日の任務の引率を五条に頼まれ時間ぴったりに現れた人物。七海建人、その人だった。
「っ!建人くんっ!」
「ナマエさん?」
「……あ!おはようございます!」
「よろしい。元気そうでなにより。」
まずは挨拶を。七海の口癖ともいえるそれをすぐに思い出したナマエは嬉しそうに挨拶をした。
「おはようございます、七海さん。」
「おはようございます。伏黒君も、久しぶりですね。ですが、伏黒くん。これから任務という時に公私混同はよろしくない。」
「……すみません。」
「いつの間にそんな仲になったのやら…。」
「いや、別にそういうわけでは…。」
「隠すことではないでしょう。喜ばしいことです。」
「………。」
七海に言われるのは、なんというか。誰に揶揄われるよりもよっぽどダメージが大きい気がする。どこか居たたまれない気持ちになって恵は黙り込んでしまった。そして、反省した。自分でも思っている以上に浮かれてしまっていたらしい。真希、家入、そして七海。ことごとく自分たちの変化を見破られている。極力表に出さないようにしよう。そう心に決めた。
「今日の引率って、建人くんだったんだね!建人くんいつも忙しいのに…。」
「私もあなたに会いたいと思っていましたから。たまには良いでしょう。」
「へへ…建人くん…大好き。」
「言う相手を間違えていますよ。…さて、お待たせしました、伊地知くん。行きましょうか。」
「はい、では。よろしくお願いします。」
——千葉県某所。かつてそこはゲームセンターでたくさんの若者が集まる場所だったが、隣の市に総合アミューズメント施設ができたことで、廃業に追い込まれてしまった場所である。近くに霊園があったことも影響して、呪霊の溜まり場になってしまった。
「ナマエさん。今日の任務は三級呪霊の祓霊です。あなたの復帰任務ということですので、私は一切手助けをしません。伏黒くんも、いいですね。」
「…はい。」
「危ないと判断した時には、私たちも入ります。一人で完結できるよう努力してください。」
「うん…分かった。」
愛用の鉄扇をぎゅっと握りしめ、緊張と不安が滲みながらも、静かにうなずいた。
「ナマエ。大丈夫だ。でも、三級だからって侮るなよ。」
「ん、分かってる。頑張るね。…行こっか。」
——そうして、ナマエの復帰戦が始まった。
建物の中には当時使われていたであろうクレーンゲーム機やエアホッケーの台、プリント写真機などが残されたままで、派手に風を飛ばすことの多いナマエの戦い方では少しやりにくい場所だった。
それでも、これまでの呪力コントロールの修行の成果が出たのか、ピンポイントで呪霊にだけ攻撃を当てながら徐々にその数を減らしていった。——そして。
——ザフッ
「ハァ、ハァ、おわっ…た?」
およそ十数体。当初の報告通り三級以下ばかりではあったが、想定よりも数が多かった。それでもナマエは恵や七海に出番を回すことなく、そして怪我をすることもなく、祓霊を終えた。
「お疲れ様です。気配もなくなった。今のが最後でしょう。」
「あー、疲れた…。多いよ…。聞いてない。」
「確かに少し多かったですね。しかし報告と実際が違うことなど日常茶飯事。」
「…ですよねー。」
「それでも、危うい場面も特になく、必要最小限の動きで仕留めていましたよ。」
「ほんとっ?」
「えぇ。目覚しい成長ぶりです。随分と訓練したようですね。」
「えへへ…嬉しい。建人くんが褒めてる。」
「事実を言ったまでです。」
「えへへ…へへ…」
気持ち悪い笑い方で喜んでいるが、七海の言ったとおりである。これまでの荒々しく派手な攻撃ではなく、どこか清廉さすら感じるほど、ナマエの戦い方は見事であったと、恵も思った。
(俺もうかうかしてられないな。)
守りたい存在の筈のナマエが自分よりも強くなってしまっては恵の立つ瀬もない。自分も強くなる…と、恵も背筋が伸びた。
そして、任務の帰り道。伊地知の運転する車内での一コマ。
「ナマエさん。今日の夜は予定はありますか?」
「え?ないけど…」
「では、食事でもどうですか?伏黒君も一緒に。任務復帰と成功祝いで何かごちそうしますよ。」
「え!いいの?やったぁ!」
「俺まで…いいんですか?」
「えぇ、もちろんです。何か食べたいものはありますか?」
「お肉!」「肉で。」
同時に同じものをリクエストした二人に七海はふっと息をこぼした。
「分かりました。では、焼き肉なんかどうでしょう、たくさん食べられた方がいいでしょうから。」
「ぃやったぁ!」
「ありがとうございます。」
「ではこのままお店までお送りしますよ。」
話を聞いていた伊地知が店まで送ると申し出た。
「伊地知くん、君も一緒にどうですか?」
「えぇっ!私もですか?…とても嬉しいお誘いですが、このあと五条さんの送迎がありまして…。申し訳ありません。」
「君が謝ることではない。どうせ任務とは関係ないのでしょう?…全く、あの人は相変わらず伊地知くん使いが荒い。」
「伊地知さん行けないの?もう!今度悟くんにがつーん!と言っとかなきゃ!」
「はは、ミョウジさんのお説教なら効果がありそうですね。期待していますよ。」
「うん!任せといてください!」
こうして、急遽七海との食事会が決まった。