第十九話 再会(開)
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数日後――
朝のグラウンド。恵とナマエはジャージ姿でストレッチなどのウォーミングアップをしていた。今日は、二年生と合同の体術の授業だ。ナマエがパンダと棘に会うのは実に三週間ぶりとなる。
「緊張してんのか。」
「うん、そりゃ……ね……う゛っ!」
「まぁ、あの人たちの事だ。いつも通りにしてたらいい。」
「わかっ…てん……だけど……うぅっ……ね。」
呻き声を上げながら返事をするナマエ。なぜなら、地面で開脚前屈をしていたナマエに、恵が背中から体重を掛けてきたからである。
「おぇっ……!めぐみ……ぐる…じい〜。」
「お前、前より硬くなってないか?」
「だっ…て、ぐぅっ」
「前は地面に腹が着いてただろ。」
しばらくまともに体を動かしていないのだから、仕方がないのだが。それでも恵は容赦なく体重を掛けてくる。
「い、いたたた、いたい!いたいってば!!」
「大丈夫だ。ほら、がんばれ。」
「心がこもってない!!」
「オマエナラデキル」
「棒読み!!」
「おっ!朝から張り切ってんなぁ、ナマエ。」
「!!」
二人がじゃれあっている間に、二年たちもやって来た。声の主に涙目で訴えかける。
「パンダく……たす、たすけてぇ!」
「あっはっは!がんばれ。」
「は、薄情者!」
「情けねぇ。こりゃ扱き甲斐があるな。」
「真希ちゃんの鬼!」
「あぁん!?」
ナマエの目にジワリと涙が滲む。
……みんながイジワルだからではない。恵のストレッチが痛いからでもない。
嬉しいから。みんなが普段と変わらないから。いや、普段より手厳しい気がしなくもない。
「たかな?」
「棘くん……」
目の前に影が落ちたと思えば、目の前に棘がしゃがみ込んだ。両足を広げて座り足の間に腕をプランと降ろすその姿はどこぞのヤンキーかと突っ込みたくなる。だが、コテンと首を傾げるその仕草は、いつものナマエであれば大興奮の材料だった。…のだが。
「ツナマヨ。」
少し躊躇いがちにそっと乗せられた棘の手は、ぽん、ぽん、とナマエの頭の上をゆっくりと二回跳ねた。その時の棘の表情が、優しかったから。口元を隠していてわかりにくいが普段どこか眠そうにも感じる印象の棘の瞳が緩く細められて目尻が少し下がったから。——ナマエの涙腺は崩壊した。
「うぅぅぅ!…とげくん…グスッ……うん、だたいま。」
「しゃけっ。」
ナマエの言葉にさらに目尻を下げた棘に、ナマエはついに声を上げて泣いた。開脚前屈で背中を押されながら泣いている姿はなんともシュールだ。
「う…うあぁぁぁぁぁ………!」
「棘~、ナマエのこと泣かすなよー。」
「おかかっ!?」
泣いているナマエをよそにわいわいと話す二年生たちに眉を下げてふっと息を吐いた恵は、ナマエの背中を押すのをやめてナマエの横に棘と同じようにしゃがみ込み、ゆっくりとナマエの背中を摩ってやった。
「棘ばっかりずるいぞ。俺だってナマエのこと待ってたんだからなっ。」
「パンダくん…。」
「ナマエ。ん。」
そう言って両腕を広げたパンダ。『おいで』と言わんばかりだ。ナマエは顔をくしゃりと歪めて立ち上がりパンダの大きな胸の中に飛び込んだ。というよりタックルをかました。
「おっふ。…おーよしよし。」
「ううううっ!」
「ナマエ、おかえり。」
「っ!ううっ。ただい゛ま゛ぁ。」
少し離れた場所で立ち上がった恵の横にやってきた真希が、呆れたように言う。
「なんだあれ。父と子の感動の再会かよ。」
「ですね。」
「…なぁ、恵。」
「なんですか。」
「お前ら……なんかあっただろ。」
「……なんのことですか。」
一瞬肩がビクついた恵だったが、すぐに収めて冷静に返した。心の中では何で分かった、何に気づいた、と心臓が大騒ぎである。そもそも、どこか勘の良い真希のことだ。乙骨から借りた例のブツについてバラされそうになったことは記憶に新しい。
「なんつーか、距離感?雰囲気?違うんだよな。」
「………(鋭い)。」
「収まる所に収まったんなら良かったよ。」
「いや、別に…そういうわけでも…。」
そう、初めてキスをしたあの日から、毎晩恵の部屋での逢瀬は続いていたが。お互い、『好き』とははっきりと口にしていない。だから、思いが通じ合った…とか、交際している…とも言い難い状況なのだ。
なぜか言い淀む恵を不思議に思った真希だったが、そこはあまり気にしなかったらしい。その代わり、とんでもない事を言い出した。
「まぁ、なんでもいいけどよ。避妊はちゃんとしろよ。」
「んなっ!?」
「あたりまえだろうが。なに驚いてんだ。」
「っ!まだそこまでしてません!!」
そして墓穴を掘った。結構な大声で。しまったと思った時にはもう遅い。
「…へぇ。」
「………。」
「『まだ』…ねぇ。じゃあ、ドコまでしたんだろうな。」
最大級にニヤついて楽しそうな真希の顔に、やられた、と思った。フフンと勝ち誇った真希のその後の言葉に、恵は降参するしかなかった。
「他の奴らには黙っといてやるよ。」
「…助かります。」
「特に悟には気をつけろよ。あのバカ、変な所で勘がいいからな。気づかれたらどうなるか、言うまでもないだろ。」
「…分かってます。」
アンタもだよ…という言葉はゴクリと飲み込んだ。
「おーい、お前ら、何話してんだ?」
「何でもねぇよ。おいナマエ。いつまでグズってんだ。さっさと始めんぞ!」
「ううっ!血も涙もない!!」
「あ゛!?」
ナマエの涙が引いたところで、訓練を開始したのだが。
ナマエの言葉通り、血も涙もなかった。感動の再会がまるで夢だったのかのように、扱かれまくった。ブランクのない恵ですらキツイと思う程に。パンダと棘の優しさもぱったりと成りを潜めた。昭和の熱血スポ根漫画のような訓練の末、ナマエが全身筋肉痛になり、先程とは違う意味での涙で訴えたことで、やっと解放されたのだった。
そしてそんなナマエを医務室に連れて行った時。二人の様子を見ていた家入が恵に囁いた。
「遂にくっついたのか?」
「………。」
「五条には黙っといてやるよ。」
「はぁ…。」
(どいつもこいつも……。)
げんなりと肩を落とした恵は、ナマエとは違う意味で疲れていた。