第一話 門出
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集合時間より少し早く講堂に着いた恵は、入り口の石段に腰掛けていた。講堂とは言っても、古めかしい寺社仏閣だらけの高専だ。講堂というか、それこそ神社の本堂のような作りの木造建築は、神聖な雰囲気でどこか背筋がピンとする気持ちになる。
(遅ぇ。)
しばらく待ったが、一向に来る気配がない。ナマエどころか、呼び出した張本人である五条すら来ていないのだ。しびれを切らしてスマホを取り出した所で、少し離れた所からこちらにやってくる人影が見えた。その人影は、ナマエでも五条でもなく。着る人を選びそうなベージュのスーツをスマートに着こなしている、七海建人、その人であった。
「伏黒くん。おはようございます。」
「おはようございます、七海さん。珍しいですね、高専に居るの。」
一級術師である七海は多忙で、いつも日本のどこかで任務をこなしており、それこそ全国各地を飛び回っている。恵が珍しいと思うのも当然だった。
「今日が入学の日だとナマエさんから聞いていたので一言挨拶を、と。ご入学、おめでとうございます。」
「わざわざありがとうございます。」
祝いの言葉と丁寧なお辞儀にこちらも思わず立ち上がり、同じように丁寧に頭を下げた。
「それで、当のナマエさんは?」
「それが…さっきまで一緒に朝飯食べてたので、もう来るとは思うんですけど。すみません。」
「相変わらず、あなた達はいつでも一緒ですね。」
「いや、そんないつもってわけじゃ…」
「分かっていますよ。照れることもない。」
(何が分かってるんだ…それに照れてるわけでもねぇ。)
かといって七海に対して反抗する気も起きず、なんとなく誤魔化すように「ナマエに連絡しますね。」と言ってスマホを操作した。今まで何をしていたのかは知らないが、ナマエはすぐに行くと言っていたし、いい事があると伏線も張っておいた。ナマエの事だから自分の言葉にウキウキしながらこちらに走ってきている事だろう。
「すみません七海さん。多分すぐに飛んで来ると思うのでもう少しだけ待ってもらえますか。」
「構いませんよ。でもそんなに喜ぶ事でしょうか。」
「何言ってんですか。あいつ、七海さんのこと大好きでしょ。七海さんが居ると分かったらきっとダイブしてきますよ。」
絶対飛びかかるに決まっている。七海はまさか、と言っているが恵としては賭けてもいいくらいの確信を持っていた。ものの数分で、寮がある方角から恵の名前を大きな声で叫びながら走ってくるナマエの姿が見えてきた。恥ずかしいからやめろと思いつつも、言われた通りハイソックスから黒のタイツに変わっているナマエを見て、恵はフッと息を吐いた。
「ごめーーーーーん!遅くな………って、え!?建人くん!?」
ただでさえ大きな目を更に見開いたナマエは、一瞬立ち止まって固まったかと思えばすぐに満面の笑みになり、そのまま七海へとタックルをかました。
「建人くんだ!どうしたの?何でここにいるの?今日は高専でのお仕事?それとも私に会いにきてくれたの!?」
捲し立てるように話すナマエを見て、恵はほらな、と思った。七海はというと、遠慮なくぶつかってきたにも関わらず1ミリも動くことなく涼しい顔でナマエを受け止めて、一つ、ため息を吐いた。ナマエの両肩に手を置いて、そのままくっついて離れない体を引き剥がしながらナマエに告げる。
「ハァ。ナマエさん、まずは挨拶でしょう。おはようございます。」
「あ!うん!おはようございます!」
「よろしい。それで?集合時間に遅れた理由は?」
「う…。」
さすがは社会人経験のある七海である。時間には厳しい。確か術式も時間の縛りが関係していたような気がする。ゴニョゴニョと言い訳をするナマエに対してクドクドと説教をする七海を見ながら恵は思った。でも結局この人もナマエに甘い、と。説教されながらもナマエの両手は七海のスーツの裾を握っているが、そこは言及していない。
「まぁ、未だここに居ない五条さんこそ、大人として時間は守るべきですが。とにかく、あまり伏黒くんに迷惑をかけないように。」
「はーい。」
「伸ばさない。」
「ハイっ!」
ピシッと敬礼のような仕草で返事をするナマエは反省しているのかしていないのか。七海と恵が同じく呆れたように息を吐いた所で、最後の一人がやっと現れた。
「なになにー?僕がなんだってー?」
ただでさえ日本人離れした長身に眩しいほどの白銀の髪色で目立つと言うのに、黒ずくめの服に同じ色のアイマスクで目元を隠しているせいで、余計に怪しげに見えてしまう。
「五条さん。生徒を待たせて何をやっているんですか。」
「おっはー!ナマエ!やっぱり僕の目に狂いはなかったね。セーラーにして正解だったよ!さすがは僕!」
ため息混じりの七海の小言などどこ吹く風で、それまで七海と向き合っていたナマエを無理やり自分の方に向かせて、ナマエの制服姿を絶賛しながらスマホでカシャカシャと撮りまくっている。この怪しげな人物こそ、今日から自分たちの担任になる、現代最強呪術師、五条悟である。
「あれ?ナマエ、僕があげたニーハイは?何でタイツになっちゃってんの?」
「恵が、怪我しちゃいけないって教えてくれたから変えたよ。」
「えー!もったいない!絶対領域だよ?生足晒して許されるのは未成年のうちだけだよ?」
「「五条先生(さん)、それはセクハラです。」」
恵と七海の声がシンクロしたのは、もはや必然だった。とてもじゃないが教師の発言とは思えなかった。先ほど恵の部屋で見たナマエは制服の色に合わせたハイソックスだった。さすがに無理だったんだろう。
「えー?それってさぁ、本人がそう思わなかったらセクハラにはならないんだよ?ねー、ナマエ?」
「え?うん?そうなのかな?」
「五条さん。教師らしからぬ発言は控えてください。」
「七海は相変わらずお堅いねー。で、何でお前こんなとこいんの?一級術師様は暇じゃないでしょ。」
「ハァ。特級のあなたにだけは言われたくないですね。伏黒くんとナマエさんに入学のお祝いを伝えにきたんですよ。ナマエさん、そういえばまだでしたね。」
「うん?」
七海に呼ばれたナマエは振り向いて自分よりも随分高い位置にあるその顔を見上げた。
「ご入学、おめでとうございます。今日からあなたも私たちと同じ呪術師です。それでもナマエさん、あなたはまだ子供だ。無理は決してしないこと。危険なことには首を突っ込まないこと。危ないと思ったら直ぐに引き下がり大人を頼ること。いいですね?」
「でも、私だって…!」
「ナマエ。いいですね?」
俯き始めたナマエの肩に手を置いてその顔を覗き込んで目を合わせながら諭す七海。
七海がナマエを呼び捨てにしたのを初めて聞いた恵は、少しだけ驚いた。
「…はい。」
「いい子ですね。」
七海にこういう風に言われると逆らえないのか。ナマエは肯定の返事をするしかなかったようだ。渋々と言った様子のナマエだったが、七海は満足そうにナマエの頭を撫でてやっていた。
過保護だ何だと揶揄う五条を顰め面であしらう七海を見ながら、恵も同じことを思っていた。できることなら呪術師にはなってほしくないと今でも思っているし、危険な目にも合わせたくない。呪術師に悔いのない死なんてない。ナマエにもしものことがあったらと想像するだけで、それだけで手が震えてしまう。
その後、七海は任務があるからとすぐに立ち去ってしまった。本当に自分たちに挨拶をする為だけに高専へ来ていたらしい。七海が居なくなった後、目の前ではナマエと五条の自撮り撮影会がいつの間にか繰り広げられていた。
「何やってんですか。」
「え?羨ましいって?恵も一緒に写りたいなら早く言いなよ。」
「そんなこと思ってません。」
「またまたぁ。ほんとはナマエの制服姿をこっそり待ち受け画面にしちゃいたいくらいに可愛いと思ってる癖にー!ヤダ、ムッツリー!」
「しませんよ。」
「嘘ばっかり。ナマエにタイツにしろって言ったのもさ、どーせナマエの下着が見えるとこ想像しちゃったんでしょー?」
「ちょっと悟くん、その辺にしとかないと…。」
「僕は恵が怒っても痛くも痒くもないもーん。」
「…殴りますよ。」
「おーコワ。…ま、おふざけはこの辺にして、行こうか!」
「あんたって人は…」
恵の顔に青筋が浮かんできた頃、ようやく五条は真面目に教職を全うする気になったらしい。
「どこかに行くの?」
「そうだね、ナマエもちゃっかり鉄扇装備してきてるし、丁度いいでしょ。」
「まさか…。」
まさか入学初日に任務はないだろうと思ったが、この人は規格外だ。常識は通用しない。
「どこに行くんですか。」
不安が表に出ることのないよう、恵は慎重に訪ねた。その質問に答えた五条は、楽しげに語尾にハートをつけたような言い方で言い放った。
「ん?入学試験、だよ。」
(遅ぇ。)
しばらく待ったが、一向に来る気配がない。ナマエどころか、呼び出した張本人である五条すら来ていないのだ。しびれを切らしてスマホを取り出した所で、少し離れた所からこちらにやってくる人影が見えた。その人影は、ナマエでも五条でもなく。着る人を選びそうなベージュのスーツをスマートに着こなしている、七海建人、その人であった。
「伏黒くん。おはようございます。」
「おはようございます、七海さん。珍しいですね、高専に居るの。」
一級術師である七海は多忙で、いつも日本のどこかで任務をこなしており、それこそ全国各地を飛び回っている。恵が珍しいと思うのも当然だった。
「今日が入学の日だとナマエさんから聞いていたので一言挨拶を、と。ご入学、おめでとうございます。」
「わざわざありがとうございます。」
祝いの言葉と丁寧なお辞儀にこちらも思わず立ち上がり、同じように丁寧に頭を下げた。
「それで、当のナマエさんは?」
「それが…さっきまで一緒に朝飯食べてたので、もう来るとは思うんですけど。すみません。」
「相変わらず、あなた達はいつでも一緒ですね。」
「いや、そんないつもってわけじゃ…」
「分かっていますよ。照れることもない。」
(何が分かってるんだ…それに照れてるわけでもねぇ。)
かといって七海に対して反抗する気も起きず、なんとなく誤魔化すように「ナマエに連絡しますね。」と言ってスマホを操作した。今まで何をしていたのかは知らないが、ナマエはすぐに行くと言っていたし、いい事があると伏線も張っておいた。ナマエの事だから自分の言葉にウキウキしながらこちらに走ってきている事だろう。
「すみません七海さん。多分すぐに飛んで来ると思うのでもう少しだけ待ってもらえますか。」
「構いませんよ。でもそんなに喜ぶ事でしょうか。」
「何言ってんですか。あいつ、七海さんのこと大好きでしょ。七海さんが居ると分かったらきっとダイブしてきますよ。」
絶対飛びかかるに決まっている。七海はまさか、と言っているが恵としては賭けてもいいくらいの確信を持っていた。ものの数分で、寮がある方角から恵の名前を大きな声で叫びながら走ってくるナマエの姿が見えてきた。恥ずかしいからやめろと思いつつも、言われた通りハイソックスから黒のタイツに変わっているナマエを見て、恵はフッと息を吐いた。
「ごめーーーーーん!遅くな………って、え!?建人くん!?」
ただでさえ大きな目を更に見開いたナマエは、一瞬立ち止まって固まったかと思えばすぐに満面の笑みになり、そのまま七海へとタックルをかました。
「建人くんだ!どうしたの?何でここにいるの?今日は高専でのお仕事?それとも私に会いにきてくれたの!?」
捲し立てるように話すナマエを見て、恵はほらな、と思った。七海はというと、遠慮なくぶつかってきたにも関わらず1ミリも動くことなく涼しい顔でナマエを受け止めて、一つ、ため息を吐いた。ナマエの両肩に手を置いて、そのままくっついて離れない体を引き剥がしながらナマエに告げる。
「ハァ。ナマエさん、まずは挨拶でしょう。おはようございます。」
「あ!うん!おはようございます!」
「よろしい。それで?集合時間に遅れた理由は?」
「う…。」
さすがは社会人経験のある七海である。時間には厳しい。確か術式も時間の縛りが関係していたような気がする。ゴニョゴニョと言い訳をするナマエに対してクドクドと説教をする七海を見ながら恵は思った。でも結局この人もナマエに甘い、と。説教されながらもナマエの両手は七海のスーツの裾を握っているが、そこは言及していない。
「まぁ、未だここに居ない五条さんこそ、大人として時間は守るべきですが。とにかく、あまり伏黒くんに迷惑をかけないように。」
「はーい。」
「伸ばさない。」
「ハイっ!」
ピシッと敬礼のような仕草で返事をするナマエは反省しているのかしていないのか。七海と恵が同じく呆れたように息を吐いた所で、最後の一人がやっと現れた。
「なになにー?僕がなんだってー?」
ただでさえ日本人離れした長身に眩しいほどの白銀の髪色で目立つと言うのに、黒ずくめの服に同じ色のアイマスクで目元を隠しているせいで、余計に怪しげに見えてしまう。
「五条さん。生徒を待たせて何をやっているんですか。」
「おっはー!ナマエ!やっぱり僕の目に狂いはなかったね。セーラーにして正解だったよ!さすがは僕!」
ため息混じりの七海の小言などどこ吹く風で、それまで七海と向き合っていたナマエを無理やり自分の方に向かせて、ナマエの制服姿を絶賛しながらスマホでカシャカシャと撮りまくっている。この怪しげな人物こそ、今日から自分たちの担任になる、現代最強呪術師、五条悟である。
「あれ?ナマエ、僕があげたニーハイは?何でタイツになっちゃってんの?」
「恵が、怪我しちゃいけないって教えてくれたから変えたよ。」
「えー!もったいない!絶対領域だよ?生足晒して許されるのは未成年のうちだけだよ?」
「「五条先生(さん)、それはセクハラです。」」
恵と七海の声がシンクロしたのは、もはや必然だった。とてもじゃないが教師の発言とは思えなかった。先ほど恵の部屋で見たナマエは制服の色に合わせたハイソックスだった。さすがに無理だったんだろう。
「えー?それってさぁ、本人がそう思わなかったらセクハラにはならないんだよ?ねー、ナマエ?」
「え?うん?そうなのかな?」
「五条さん。教師らしからぬ発言は控えてください。」
「七海は相変わらずお堅いねー。で、何でお前こんなとこいんの?一級術師様は暇じゃないでしょ。」
「ハァ。特級のあなたにだけは言われたくないですね。伏黒くんとナマエさんに入学のお祝いを伝えにきたんですよ。ナマエさん、そういえばまだでしたね。」
「うん?」
七海に呼ばれたナマエは振り向いて自分よりも随分高い位置にあるその顔を見上げた。
「ご入学、おめでとうございます。今日からあなたも私たちと同じ呪術師です。それでもナマエさん、あなたはまだ子供だ。無理は決してしないこと。危険なことには首を突っ込まないこと。危ないと思ったら直ぐに引き下がり大人を頼ること。いいですね?」
「でも、私だって…!」
「ナマエ。いいですね?」
俯き始めたナマエの肩に手を置いてその顔を覗き込んで目を合わせながら諭す七海。
七海がナマエを呼び捨てにしたのを初めて聞いた恵は、少しだけ驚いた。
「…はい。」
「いい子ですね。」
七海にこういう風に言われると逆らえないのか。ナマエは肯定の返事をするしかなかったようだ。渋々と言った様子のナマエだったが、七海は満足そうにナマエの頭を撫でてやっていた。
過保護だ何だと揶揄う五条を顰め面であしらう七海を見ながら、恵も同じことを思っていた。できることなら呪術師にはなってほしくないと今でも思っているし、危険な目にも合わせたくない。呪術師に悔いのない死なんてない。ナマエにもしものことがあったらと想像するだけで、それだけで手が震えてしまう。
その後、七海は任務があるからとすぐに立ち去ってしまった。本当に自分たちに挨拶をする為だけに高専へ来ていたらしい。七海が居なくなった後、目の前ではナマエと五条の自撮り撮影会がいつの間にか繰り広げられていた。
「何やってんですか。」
「え?羨ましいって?恵も一緒に写りたいなら早く言いなよ。」
「そんなこと思ってません。」
「またまたぁ。ほんとはナマエの制服姿をこっそり待ち受け画面にしちゃいたいくらいに可愛いと思ってる癖にー!ヤダ、ムッツリー!」
「しませんよ。」
「嘘ばっかり。ナマエにタイツにしろって言ったのもさ、どーせナマエの下着が見えるとこ想像しちゃったんでしょー?」
「ちょっと悟くん、その辺にしとかないと…。」
「僕は恵が怒っても痛くも痒くもないもーん。」
「…殴りますよ。」
「おーコワ。…ま、おふざけはこの辺にして、行こうか!」
「あんたって人は…」
恵の顔に青筋が浮かんできた頃、ようやく五条は真面目に教職を全うする気になったらしい。
「どこかに行くの?」
「そうだね、ナマエもちゃっかり鉄扇装備してきてるし、丁度いいでしょ。」
「まさか…。」
まさか入学初日に任務はないだろうと思ったが、この人は規格外だ。常識は通用しない。
「どこに行くんですか。」
不安が表に出ることのないよう、恵は慎重に訪ねた。その質問に答えた五条は、楽しげに語尾にハートをつけたような言い方で言い放った。
「ん?入学試験、だよ。」