第十八話 接唇
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痛いほどにナマエを抱きこんでいる張本人が声を発したのは、扉が閉まってから数分後の事だった。ナマエの思考はすっかり停止してしまっており、身動きひとつ取れずむしろ硬直していた。
「遅ぇ。」
「………はぇ?」
「…入ってくるのが。遅すぎる。」
「な……んで、居るって……わかったの?」
「ぐらっぐらに揺れまくる呪力垂れ流してりゃ誰でもわかる。」
「…あ。」
(私のバカ……!)
何のために呪力コントロールの修行をしたんだと自分を責めたナマエだったが、決してこんな時のためではない。頭がパニックなせいでまともな思考もできていない。
「30分。」
「え。」
「お前が部屋の前に来てから、30分。…待った。」
「うそ…。」
そんなに経っていたのかと驚いた。体感では5分から10分程度だったから。この30分、恵はどんなことを思いながら待っていたのだろうか。というかよく30分も待てたな、とナマエは人ごとのようなことを考えてしまっていた。
ぎゅうっとさらに抱きしめられて、ハッと我に返った。そして、猛烈に恥ずかしくなった。
「は…はなして……。」
「いやだ。」
「い、いやだって言われても……。」
「今まで散々抱きついてきた癖に。」
「う゛。」
それを言われてしまっては返す言葉もない。でもこのままでは身が持たない。どうにかしなければ……。ありえない速度で波打つこの心臓を何とかしなければ……。既に制限速度はオーバーしている。スピード違反で誰か止めてくれないだろうか。免許も持っていない癖にそんなアホな考えさえ浮かぶ。
「お!……幼馴染はっ、こんなことしないんでしょ?!」
「それは昨日言った。」
「うぅっ。」
苦し紛れに出た言葉は、いとも簡単に反撃を受けた。撃沈である。そして恵はさらにダメ押しをする。
「お前も、言った。つーか、お前が先に言った。」
「それ、はっ。」
(なに……今日の恵、なに!?)
いつもと違いすぎる恵に、ナマエの思考はさらに追いつかない。限界が来る前に……
「うーーー!!だ「ダメだは禁止。」……うぅ。」
「それも昨日聞いたから。そんで逃げられたから。」
「……。」
昨日のことをそこそこ根に持っているらしい。もうナマエに手札は残っていない。黙り込むしかなかった。
「ナマエ……。」
「っ、」
少し腕の力を緩めた恵は、先程よりも随分と柔らかく。そしてひどく甘い声で、ナマエの名を呼んだ。そして昨夜の様にナマエの頭頂部に顎を乗せて、ふぅっと息を吐く。ナマエはその声に思わずゾクっとして体が震えた。
「なぁ。」
「………。」
「…このままダンマリか?」
「…………。」
ナマエの口から言葉を引き出したい恵と、黙り込むナマエ。静かな攻防戦が続いていたが…。
「…このまま何も言わないなら……キスするぞ。」
「っ!」
低く甘い声でとんでもない条件を出されたナマエはまたもや思考停止。恵としてはここまで言えば反応するだろうと思った故での発言だったのだが、ナマエは思考がショート状態なのでやはり黙ったままだった。
「……ナマエ?」
「…………。」
「おい、……ほんとにするぞ。」
「…………。」
「…いいんだな?」
そう言ってナマエの体をゆっくりと離して顔を覗き込んだ恵は、ゴクリと唾を飲んだ。
眉は下がり瞳は濡れて、目尻は少し赤い。ナマエは何も言葉を発していないのに恵にとっては完全なるカウンターパンチだった。
一方のナマエ。ショートした後は、いろんな感情がごちゃ混ぜだった。こんな、夢でさえ見たこともない状況に、どうしたらいいのか分からない。恵からそんなセリフが出るなんて、想像した事があっただろうか。
自分で決めた『道』と、目の前の甘い誘惑。一縷の希望。いろんな事がグルグルグルグルグルグルと廻り……
(もう……どうにでもなれ!!)
ヤケを起こした。
「!!」
恵のTシャツをグイッと引っ張ったナマエは、そのまま……恵の唇に自分の唇を重ねた。恵が驚く暇も与えないほどの一瞬の出来事。
それは、キスと呼べるかどうかも分からないほど、軽く触れただけのものだった。
目を見開き固まる恵に、既にメーターが振り切れているナマエは、眉を下げたまま少しだけ笑い、言った。
「……恵のファーストキス、もーらいっ。」