第十四話 夢現
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ゆらゆらと揺蕩うようなまどろみの中__ナマエの目に映ったのは___
いかにも日本家屋と言った感じの庭。きれいに剪定された盆栽は父親の趣味だ。縁側からぽつぽつと並ぶ飛び石の先には池溜まり。中ではこれもまた父親の趣味である大きな錦鯉が優雅に泳いでいる。そこで嬉しそうにパンくずを与えていたのは…幼少期のナマエ本人だった。
(あぁ、夢か……)
おそらく、五歳…いや、六歳くらいだろうか。確かに当時のナマエは父に内緒で鯉にパンくずをあげるのが密かな楽しみだった。昔の記憶を夢として見ているらしい。夢の中でありながら懐かしい気持ちで幼い自分を見ていると、その小さなナマエに声をかける人物が近付いてきた。
「ナマエ、ここに居たのか。また父様に内緒で…。後で怒られても知らないよ?」
「にいさまっ!帰ってきてたの?」
弾けるような笑みで振り返った小さなナマエの視線の先には、高専の制服を着た今よりもずいぶん若い、兄の姿があった。高専に入学した翔は例に漏れず寮生活だったが、週に一度はこうやって顔を見せに実家に帰ってきていた。
小さなナマエが躊躇いなく翔の胸に飛び込んだ。「おっと」と言いながらも翔はその小さな体を受け止める。
「ナマエは本当にその鯉が好きだね。」
「うんっ!パクパクってね、ナマエがあげたご飯食べてくれるんだよ!」
「そうか、良かったなぁ。」
(兄様……昔の兄様だ…)
小さな自分を慈しむように撫でる、今とは全く別人のような兄を見たナマエは夢の中の癖に目の前が涙で揺らいだ気がした。
「でもねにいさま。」
「ん?」
「ナマエはにいさまのほうがもっとだいすきだよっ!」
_ちゅっ
可愛らしく音を立てて、翔の唇にキスをしたナマエは嬉しそうに笑った。驚いた翔は目を丸くしている。
「ナマエ…こういうのはお兄ちゃんにすることじゃないんだよ?」
「なんで?だいすきなひとにだいすきだよって言うためにするんでしょ?」
「…どこでそんなことを…。」
頭を抱える翔に、ナマエはニコニコとしながら続けた。
「テレビでみたの。おとこのひとがおんなのひとにちゅってしてたからね、かあさまにきいたの。そしたらおしえてくれたよ!」
「母様…。そもそもそんなもの見せるなよ…。」
げんなりと肩を落とす翔に、小さなナマエは不安そうにその顔を見上げた。
(な……んってことを…!)
幼い頃の自分はとんでもないことをしていたらしい。確かに頭の片隅にそんな記憶があるような無いような…。そんな気がした。ナマエのファーストキスの相手は兄だったようだ。
「あぁ、ごめんごめん…そんな泣きそうな顔をしないで。ナマエ、ありがとう。すごく嬉しいよ。でもね、次にする時は、もっと大きくなってから兄様よりももっともっと大好きな人ができた時にその人にしてあげるんだ。」
「にいさまよりもだいすきなひとなんていないよ?」
「ははっ。いつか大きくなったら分かるよ。」
(兄様……。)
嬉しそうに、でも少し寂しそうにナマエの頭を撫でる兄の様子に、大きくなった方のナマエは胸が締め付けられる思いがした。
「ねぇにいさま、またすぐにこうせんってとこに行っちゃうの?」
「そうだね、今日はこのまま家に居るけど明日には戻るよ。」
「えー。こうせんはわるいヤツをやっつけるところなんでしょ?」
「んー。ちょっと違うけどまぁ、そんな所かな。」
「あぶなくないの?」
「危ない時もあるけど、ナマエは心配しなくても大丈夫だよ。」
「じゃあ、ナマエも大きくなったらこうせんでわるいヤツをやっつける!」
「んー、それはちょっと嫌だなぁ。」
「なんで?」
「ナマエには危ないことはして欲しくないんだ。ナマエが大きくなったらナマエを守ってくれる、ナマエが大好きになった人と結婚して、平穏な暮らしをしてほしいなぁ。」
「じゃあにいさまとけっこんする!」
「残念ながら兄様とは結婚できないよ。」
「えー…やだなぁ。」
ぶすっと頬を膨らませる幼いナマエを、仕方ないなと言った様子でよしよしと頭を撫でる翔。…これは本当に幼い頃の自分の記憶だろうか。こんな事を言うなんて…今の兄の様子からは想像もつかない。
「だから#ナマエ#、兄様と約束しよう。___は_____も、__に___…」
(…なに?兄様…聞こえないよ…ねぇ、兄様!)
夢の中だからか、ナマエが叫ぼうとしても口がパクパクと動くだけで当然兄は気づかない。
どうにか兄に伝えようとしていた時、ふと頭を優しく撫でられる感覚がした。ゆっくり、ゆっくりと撫でられる感覚。そう、まるで幼い頃に兄に撫でられていた時のような…。
その後に、まるで涙を拭うかのように目尻の辺りを撫でられる感覚。幼い自分の方ではなく、大きくなった今の自分の方に。
(何……?だ…れ…?)
だんだんと覚醒しそうな気がして瞼をうっすらと開けようとしたその時___
___トン
額に何かを当てられた感覚のあと、ナマエの意識はまた遠くなった。
「ごめんな…。」
意識を手放す直前、ナマエの耳にそんな声が聞こえた気がした。
いかにも日本家屋と言った感じの庭。きれいに剪定された盆栽は父親の趣味だ。縁側からぽつぽつと並ぶ飛び石の先には池溜まり。中ではこれもまた父親の趣味である大きな錦鯉が優雅に泳いでいる。そこで嬉しそうにパンくずを与えていたのは…幼少期のナマエ本人だった。
(あぁ、夢か……)
おそらく、五歳…いや、六歳くらいだろうか。確かに当時のナマエは父に内緒で鯉にパンくずをあげるのが密かな楽しみだった。昔の記憶を夢として見ているらしい。夢の中でありながら懐かしい気持ちで幼い自分を見ていると、その小さなナマエに声をかける人物が近付いてきた。
「ナマエ、ここに居たのか。また父様に内緒で…。後で怒られても知らないよ?」
「にいさまっ!帰ってきてたの?」
弾けるような笑みで振り返った小さなナマエの視線の先には、高専の制服を着た今よりもずいぶん若い、兄の姿があった。高専に入学した翔は例に漏れず寮生活だったが、週に一度はこうやって顔を見せに実家に帰ってきていた。
小さなナマエが躊躇いなく翔の胸に飛び込んだ。「おっと」と言いながらも翔はその小さな体を受け止める。
「ナマエは本当にその鯉が好きだね。」
「うんっ!パクパクってね、ナマエがあげたご飯食べてくれるんだよ!」
「そうか、良かったなぁ。」
(兄様……昔の兄様だ…)
小さな自分を慈しむように撫でる、今とは全く別人のような兄を見たナマエは夢の中の癖に目の前が涙で揺らいだ気がした。
「でもねにいさま。」
「ん?」
「ナマエはにいさまのほうがもっとだいすきだよっ!」
_ちゅっ
可愛らしく音を立てて、翔の唇にキスをしたナマエは嬉しそうに笑った。驚いた翔は目を丸くしている。
「ナマエ…こういうのはお兄ちゃんにすることじゃないんだよ?」
「なんで?だいすきなひとにだいすきだよって言うためにするんでしょ?」
「…どこでそんなことを…。」
頭を抱える翔に、ナマエはニコニコとしながら続けた。
「テレビでみたの。おとこのひとがおんなのひとにちゅってしてたからね、かあさまにきいたの。そしたらおしえてくれたよ!」
「母様…。そもそもそんなもの見せるなよ…。」
げんなりと肩を落とす翔に、小さなナマエは不安そうにその顔を見上げた。
(な……んってことを…!)
幼い頃の自分はとんでもないことをしていたらしい。確かに頭の片隅にそんな記憶があるような無いような…。そんな気がした。ナマエのファーストキスの相手は兄だったようだ。
「あぁ、ごめんごめん…そんな泣きそうな顔をしないで。ナマエ、ありがとう。すごく嬉しいよ。でもね、次にする時は、もっと大きくなってから兄様よりももっともっと大好きな人ができた時にその人にしてあげるんだ。」
「にいさまよりもだいすきなひとなんていないよ?」
「ははっ。いつか大きくなったら分かるよ。」
(兄様……。)
嬉しそうに、でも少し寂しそうにナマエの頭を撫でる兄の様子に、大きくなった方のナマエは胸が締め付けられる思いがした。
「ねぇにいさま、またすぐにこうせんってとこに行っちゃうの?」
「そうだね、今日はこのまま家に居るけど明日には戻るよ。」
「えー。こうせんはわるいヤツをやっつけるところなんでしょ?」
「んー。ちょっと違うけどまぁ、そんな所かな。」
「あぶなくないの?」
「危ない時もあるけど、ナマエは心配しなくても大丈夫だよ。」
「じゃあ、ナマエも大きくなったらこうせんでわるいヤツをやっつける!」
「んー、それはちょっと嫌だなぁ。」
「なんで?」
「ナマエには危ないことはして欲しくないんだ。ナマエが大きくなったらナマエを守ってくれる、ナマエが大好きになった人と結婚して、平穏な暮らしをしてほしいなぁ。」
「じゃあにいさまとけっこんする!」
「残念ながら兄様とは結婚できないよ。」
「えー…やだなぁ。」
ぶすっと頬を膨らませる幼いナマエを、仕方ないなと言った様子でよしよしと頭を撫でる翔。…これは本当に幼い頃の自分の記憶だろうか。こんな事を言うなんて…今の兄の様子からは想像もつかない。
「だから#ナマエ#、兄様と約束しよう。___は_____も、__に___…」
(…なに?兄様…聞こえないよ…ねぇ、兄様!)
夢の中だからか、ナマエが叫ぼうとしても口がパクパクと動くだけで当然兄は気づかない。
どうにか兄に伝えようとしていた時、ふと頭を優しく撫でられる感覚がした。ゆっくり、ゆっくりと撫でられる感覚。そう、まるで幼い頃に兄に撫でられていた時のような…。
その後に、まるで涙を拭うかのように目尻の辺りを撫でられる感覚。幼い自分の方ではなく、大きくなった今の自分の方に。
(何……?だ…れ…?)
だんだんと覚醒しそうな気がして瞼をうっすらと開けようとしたその時___
___トン
額に何かを当てられた感覚のあと、ナマエの意識はまた遠くなった。
「ごめんな…。」
意識を手放す直前、ナマエの耳にそんな声が聞こえた気がした。