第十三話 其其
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家入がナマエの状態を確認するために包まれていたシーツをゆっくりと解いた。衣服は切り裂かれたのか、お情け程度にナマエに引っかかっているだけ。胸元を隠すように男性物の上着がかけられている。恵が着ていたものだ。上着をそっと取り目に入ったナマエの体。顔の傷を見て嫌な予感はしていたが…。真希は目を見開き固まってしまった。家入も眉間に皺をよせ舌打ちをした。
「…これはひどいな。」
「ナマエ…。」
胸元の無数の痕に手首の痣、ベタベタの体。どんな目に合ったのか、想像しただけで吐き気がしそうだった。
「これは…先に風呂だな。とりあえず出血してるとこだけでも治すか。」
そう言ってナマエの傷に反転術式を施し始めた家入に、真希が声を震わせながら尋ねた。瞳にうっすら膜を張りながら。
「硝子さん…これって、間に合わなかったってこと?」
「さぁな。こればっかりはナマエに聞かないことには分からないよ…。」
「クソッ。」
家入の治療が進む中、ナマエの瞼がピクリと動いた。覚醒直前かもしれない。真希はナマエに近付いてその肩を揺らした。
「ナマエ?…おい、わかるか?」
「こら真希、まだ治療中だよ。無理に動かすな。」
「ん……」
ゆっくりと目を開けたナマエの視界に、心配そうに覗き込む家入と真希の顔が映った。
「しょ…こちゃ………まきちゃ……。ここ………は………」
「あぁ、高専の医務室だよ。」
「気分はどうだ?どこか痛いところはないか?」
「あ………、わ……たし…………」
真希たちの顔を見て、優しく声を掛けられて…ナマエの目にはみるみる内に涙が溜まっていき、そしてボロボロと目から零れ落ちた。
「ううぅ……ヒック………まき…ちゃ………ヒック……ヒック………」
「うん……うん…。よく一人で頑張ったな。…もう大丈夫だ。」
「う…………ぅわぁぁぁぁぁああああぁぁあ…………!!!」
癇癪を起こした子供のように泣きじゃくるナマエをよしよしと宥めながらゆっくりと頭を撫でてやる。こんな風に泣くナマエを初めて見た。よっぽど辛い目に合ったんだろう。これでもかと泣いて泣いて、泣き疲れたのか。まだ少々しゃくりつつではあるが、ようやく落ち着きを取り戻してきた。
「ヒック……ヒック……、ごめ…ん…なさ……、ヒック…」
「気にすんな。それより、怪我の治療つづけるぞ?」
「うん……ヒック…、あり…がと……」
口の傷や手首の擦り切れた傷など、出血を伴う外傷だけ治したところで、家入が治療をやめてナマエの体をゆっくりと起こした。
「とりあえずここまで。ナマエ、いったん風呂入ってこい。続きの治療はそれからだ。」
「…うん。」
「歩けそうか?真希、付き添ってやりな。」
「あぁ、ナマエ一緒に風呂入ろうぜ。体洗ってやるから。」
「え…一人で大丈夫だよ…」
「私も汗かいてるからな、早く流したいんだよ。二人で一度に入った方が早いだろ。」
「でも……」
「あーもう!うるさい!さっさと行くぞ。」
気の短い真希はナマエを担ぎ上げてそのまま医務室の奥にある浴室へと向かった。ナマエが起きる前から湯溜めしていたので、すぐに浸かれる状態だ。
夜勤が多く、医務室に寝泊まりする日が多い家入がいつでも入浴できるようにと数年間に増設されたその場所は、人一人が余裕で足を伸ばせるほどの広めの浴槽付きの、家入こだわりの浴室である。簡易浴槽にしては贅沢だが、増設の許可を出した夜蛾はこの広さも、予算オーバーだったことも未だに知らない。
嫌がるナマエの頭からシャワーをぶっかけ、シャンプー、トリートメントと手早く済ませた。今ナマエは真希により全身泡だらけのモコモコにされている。
「ずりぃよな、ここ。寮の風呂よりもよっぽど綺麗だし。今度から時々借りにこようぜ。」
「………。」
「この間なんてな、寮の風呂場の扉が…」
「真希ちゃん…。」
「ん?どうした?」
世間話を続けていた真希を遮るようにナマエが名前を呼んだ。ナマエはそれまで床のタイルに落としていた視線をゆっくりと真希の方に上げながら言った。
「…何も聞かないんだね。」
「あ?なんだよ。聞かれたいのか?」
「そうじゃないけど…」
「ならいいだろ。ま、話したいなら別に聞くけど。」
真希のまっすぐな言葉に、ナマエの瞳はまた涙で滲みだした。先程大泣きした時はさすがの真希も通常時というにはいかなかったようだが、ただひたすらに頭を撫でてくれて、それだけでもナマエの気持ちが少し楽になった。こんな痕だらけの自分の体を見たら何があったか一目瞭然だし、汚らわしいと思われたらどうしようと思っていた。だが真希は聞き出すわけでもなく、かといって腫れ物に触るような扱いもしない。そう、いつも通りだった。ちょっといつもよりも口数が多いくらいだ。
「どした?もうちょい泣いとくか?いいぜ、今の内に泣き溜めしとけ。」
「…フフッ。」
「…あんだよ。」
「フフフッ…グスッ……泣き溜めって……フフフフフフ……」
「泣くか笑うかどっちかにしろよ。」
「真希ちゃん、好き。」
「っ!ヤメロ。今一瞬で鳥肌が立ったわ。ゾワッとしたわ。私にそっちの気はねぇよ。」
「私だって無いよ…そういう意味じゃないも……わぶっ!」
真希がシャワーのノズルをナマエの顔面に向けて強制終了させられた。
「っつー。鼻に水入った…。」
「へへ、ざまぁ。」
そのままナマエの前身の泡を流した真希は、ナマエの手を取って一緒に浴槽へ浸かった。
「あーーー、気持ちーな。」
「うん…。」
湯を掬っては肩に掛け、また掬っては掛け、家入自慢の浴槽で寛いでいたが、しばらくしてふと真希の顔が真面目になった。
「なぁ、ナマエ。私は別に聞かなくてもいいんだけどさ…大人たちは…」
「うん、分かってる…。大丈夫だよ。ちゃんと話す。」
「…そっか。」
「真希ちゃん、ありがとう。」
「あ?別に礼を言われることなんてしてねぇよ。」
「ふふっ…うん。」
風呂から上がり、髪を乾かすのもそこそこに家入の元へと向かい、待っていた家入と目が合った時。家入の表情が少し和らいだ。
「ちょっとは顔色マシになったみたいだな。」
「うん、ありがとう、硝子ちゃん。」
「硝子さん、ナマエ、話すってさ。」
「…平気か?無理なら落ち着いてからでも…」
「ううん、大丈夫だよ。」
「…そうか。」
真希と家入のおかげでナマエはだいぶ落ち着いていた。起こってしまった事は無かったことにはならない。それに、自分には味方もいる。そう思えるまで回復していたナマエはゆっくりと、そして時折震えて言葉を詰まらせながらも自身の身に起こったことを話した。真希はその内容に顔を険しくしながらも、時折詰まるナマエの背中をさすりながら、最後まで何も言わずに堪えた。
「…ありがとう。辛い話をさせて悪かった。上には私から伝えるよ。なに、全部は話さない。必要な所だけ…な。」
「ありがとう…。」
「今日はこのまま医務室で過ごせ。寝るのもここだ。怪我の様子も心配だしな。」
「私も付き合うよ。」
「真希ちゃん…」
「それでな、ナマエ。外の廊下に伏黒たちが居るんだが…どうする?」
「っ!」
恵の名を聞いた瞬間、ナマエの体は強張り、穏やかだった表情は瞬く間に曇ってしまった。体が震えだし、ナマエは両腕で自身を抱きしめた。
(やっぱりダメか…。しばらくは接触させない方がよさそうだな。)
ナマエが平気だったのは、相手が家入、真希、と女性だったからだろう。せっかくナマエの気持ちが落ち着いてきたところだ。余計な刺激は与えない方がいい。
「わかった。あいつらには私からうまいこと言っとくよ。」
「…ごめんなさい。」
「謝ることじゃないさ。ほら、まだ髪が乾いてないだろ。隣の部屋にドライヤーあるから。」
「…うん。」
「乾かしてやる、あっち行こうぜ。」
真希に付き添われて隣の部屋に移動するナマエを見届けて、家入は医務室の外で待つ恵たちの元へと向かった。
家入から聞かされた恵は、ギュッと拳を握りながら、小さく一言、「分かりました」と答えた。
「…これはひどいな。」
「ナマエ…。」
胸元の無数の痕に手首の痣、ベタベタの体。どんな目に合ったのか、想像しただけで吐き気がしそうだった。
「これは…先に風呂だな。とりあえず出血してるとこだけでも治すか。」
そう言ってナマエの傷に反転術式を施し始めた家入に、真希が声を震わせながら尋ねた。瞳にうっすら膜を張りながら。
「硝子さん…これって、間に合わなかったってこと?」
「さぁな。こればっかりはナマエに聞かないことには分からないよ…。」
「クソッ。」
家入の治療が進む中、ナマエの瞼がピクリと動いた。覚醒直前かもしれない。真希はナマエに近付いてその肩を揺らした。
「ナマエ?…おい、わかるか?」
「こら真希、まだ治療中だよ。無理に動かすな。」
「ん……」
ゆっくりと目を開けたナマエの視界に、心配そうに覗き込む家入と真希の顔が映った。
「しょ…こちゃ………まきちゃ……。ここ………は………」
「あぁ、高専の医務室だよ。」
「気分はどうだ?どこか痛いところはないか?」
「あ………、わ……たし…………」
真希たちの顔を見て、優しく声を掛けられて…ナマエの目にはみるみる内に涙が溜まっていき、そしてボロボロと目から零れ落ちた。
「ううぅ……ヒック………まき…ちゃ………ヒック……ヒック………」
「うん……うん…。よく一人で頑張ったな。…もう大丈夫だ。」
「う…………ぅわぁぁぁぁぁああああぁぁあ…………!!!」
癇癪を起こした子供のように泣きじゃくるナマエをよしよしと宥めながらゆっくりと頭を撫でてやる。こんな風に泣くナマエを初めて見た。よっぽど辛い目に合ったんだろう。これでもかと泣いて泣いて、泣き疲れたのか。まだ少々しゃくりつつではあるが、ようやく落ち着きを取り戻してきた。
「ヒック……ヒック……、ごめ…ん…なさ……、ヒック…」
「気にすんな。それより、怪我の治療つづけるぞ?」
「うん……ヒック…、あり…がと……」
口の傷や手首の擦り切れた傷など、出血を伴う外傷だけ治したところで、家入が治療をやめてナマエの体をゆっくりと起こした。
「とりあえずここまで。ナマエ、いったん風呂入ってこい。続きの治療はそれからだ。」
「…うん。」
「歩けそうか?真希、付き添ってやりな。」
「あぁ、ナマエ一緒に風呂入ろうぜ。体洗ってやるから。」
「え…一人で大丈夫だよ…」
「私も汗かいてるからな、早く流したいんだよ。二人で一度に入った方が早いだろ。」
「でも……」
「あーもう!うるさい!さっさと行くぞ。」
気の短い真希はナマエを担ぎ上げてそのまま医務室の奥にある浴室へと向かった。ナマエが起きる前から湯溜めしていたので、すぐに浸かれる状態だ。
夜勤が多く、医務室に寝泊まりする日が多い家入がいつでも入浴できるようにと数年間に増設されたその場所は、人一人が余裕で足を伸ばせるほどの広めの浴槽付きの、家入こだわりの浴室である。簡易浴槽にしては贅沢だが、増設の許可を出した夜蛾はこの広さも、予算オーバーだったことも未だに知らない。
嫌がるナマエの頭からシャワーをぶっかけ、シャンプー、トリートメントと手早く済ませた。今ナマエは真希により全身泡だらけのモコモコにされている。
「ずりぃよな、ここ。寮の風呂よりもよっぽど綺麗だし。今度から時々借りにこようぜ。」
「………。」
「この間なんてな、寮の風呂場の扉が…」
「真希ちゃん…。」
「ん?どうした?」
世間話を続けていた真希を遮るようにナマエが名前を呼んだ。ナマエはそれまで床のタイルに落としていた視線をゆっくりと真希の方に上げながら言った。
「…何も聞かないんだね。」
「あ?なんだよ。聞かれたいのか?」
「そうじゃないけど…」
「ならいいだろ。ま、話したいなら別に聞くけど。」
真希のまっすぐな言葉に、ナマエの瞳はまた涙で滲みだした。先程大泣きした時はさすがの真希も通常時というにはいかなかったようだが、ただひたすらに頭を撫でてくれて、それだけでもナマエの気持ちが少し楽になった。こんな痕だらけの自分の体を見たら何があったか一目瞭然だし、汚らわしいと思われたらどうしようと思っていた。だが真希は聞き出すわけでもなく、かといって腫れ物に触るような扱いもしない。そう、いつも通りだった。ちょっといつもよりも口数が多いくらいだ。
「どした?もうちょい泣いとくか?いいぜ、今の内に泣き溜めしとけ。」
「…フフッ。」
「…あんだよ。」
「フフフッ…グスッ……泣き溜めって……フフフフフフ……」
「泣くか笑うかどっちかにしろよ。」
「真希ちゃん、好き。」
「っ!ヤメロ。今一瞬で鳥肌が立ったわ。ゾワッとしたわ。私にそっちの気はねぇよ。」
「私だって無いよ…そういう意味じゃないも……わぶっ!」
真希がシャワーのノズルをナマエの顔面に向けて強制終了させられた。
「っつー。鼻に水入った…。」
「へへ、ざまぁ。」
そのままナマエの前身の泡を流した真希は、ナマエの手を取って一緒に浴槽へ浸かった。
「あーーー、気持ちーな。」
「うん…。」
湯を掬っては肩に掛け、また掬っては掛け、家入自慢の浴槽で寛いでいたが、しばらくしてふと真希の顔が真面目になった。
「なぁ、ナマエ。私は別に聞かなくてもいいんだけどさ…大人たちは…」
「うん、分かってる…。大丈夫だよ。ちゃんと話す。」
「…そっか。」
「真希ちゃん、ありがとう。」
「あ?別に礼を言われることなんてしてねぇよ。」
「ふふっ…うん。」
風呂から上がり、髪を乾かすのもそこそこに家入の元へと向かい、待っていた家入と目が合った時。家入の表情が少し和らいだ。
「ちょっとは顔色マシになったみたいだな。」
「うん、ありがとう、硝子ちゃん。」
「硝子さん、ナマエ、話すってさ。」
「…平気か?無理なら落ち着いてからでも…」
「ううん、大丈夫だよ。」
「…そうか。」
真希と家入のおかげでナマエはだいぶ落ち着いていた。起こってしまった事は無かったことにはならない。それに、自分には味方もいる。そう思えるまで回復していたナマエはゆっくりと、そして時折震えて言葉を詰まらせながらも自身の身に起こったことを話した。真希はその内容に顔を険しくしながらも、時折詰まるナマエの背中をさすりながら、最後まで何も言わずに堪えた。
「…ありがとう。辛い話をさせて悪かった。上には私から伝えるよ。なに、全部は話さない。必要な所だけ…な。」
「ありがとう…。」
「今日はこのまま医務室で過ごせ。寝るのもここだ。怪我の様子も心配だしな。」
「私も付き合うよ。」
「真希ちゃん…」
「それでな、ナマエ。外の廊下に伏黒たちが居るんだが…どうする?」
「っ!」
恵の名を聞いた瞬間、ナマエの体は強張り、穏やかだった表情は瞬く間に曇ってしまった。体が震えだし、ナマエは両腕で自身を抱きしめた。
(やっぱりダメか…。しばらくは接触させない方がよさそうだな。)
ナマエが平気だったのは、相手が家入、真希、と女性だったからだろう。せっかくナマエの気持ちが落ち着いてきたところだ。余計な刺激は与えない方がいい。
「わかった。あいつらには私からうまいこと言っとくよ。」
「…ごめんなさい。」
「謝ることじゃないさ。ほら、まだ髪が乾いてないだろ。隣の部屋にドライヤーあるから。」
「…うん。」
「乾かしてやる、あっち行こうぜ。」
真希に付き添われて隣の部屋に移動するナマエを見届けて、家入は医務室の外で待つ恵たちの元へと向かった。
家入から聞かされた恵は、ギュッと拳を握りながら、小さく一言、「分かりました」と答えた。