第十話 焦燥
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___間に合え!間に合え!
事務室を飛び出した恵は、真っすぐ高専の正門を目指した。裃条 が関係しているかどうかは定かではない。もしかしたら濡れ衣かもしれない。気のせいであって欲しい。もし勘違いならその時は誠心誠意謝ればいい。とにかく真偽をはっきりさせたかった。
焦りのせいか足が縺れそうになりながらも恵は走った。後ろから棘が何か叫んでいるのは分かったが気にしてなんかいられなかった。
(くそっ!こんなに正門まで距離あったか?)
普段の冷静な恵であれば、モニターに映った時点で既に高専を出て行ってしまっていることなどすぐに想定できたはず。間に合うわけがない。それよりも次の行動の為に頭を回転させていただろう。でも今の恵の頭にはそんな事はチラリとも過ぎらなかった。
「はぁっ…はぁっ、………クソっ!!」
やっとの思いで正門まで来たが。門の大きな扉に肘で寄りかかり荒い息をする。やはりというか正門には人影一つなかった。だが、それで諦めてたまるか。恵は両手で影絵を作った。
___鵺。
「空からあいつを探せ!」
恵の指示を聞いた鵺はすぐにその大きな翼を広げ、高く飛び上がった。両手を膝につけて息を整えていると、後ろから砂利を踏む音が聞こえた。狗巻か。ザリザリとその足音は近づき、恵の後ろで立ち止まった。
――ポン。
肩を叩かれたのでゆっくりと振り返ると、眉尻を下げて心配そうにこちらを見る狗巻と目が合った。
「先輩……呪言使えば簡単に俺を止められたのに。止めずにここまで来させてくれて…ありがとうございます。」
「おかか……。」
フルフルと弱々しく首を振る狗巻に、恵は緩く口角を上げた。
「空から鵺に探させてますが…車で移動してたら見つけるのは厳しそうです。一旦事務室に戻りましょう。」
「……しゃけ。」
「まだ…そうと決まったわけでもない。」
「……。」
―――――――――
「戻ったか。」
「……間に合いませんでした。」
「そうか。」
「どうする?とりあえず、上に報告するか?」
「でもまだそうと決まったわけでもねぇだろ。」
「けど…ナマエにもしものことがあったら……。」
ここから先は生徒だけで判断してはいけない状況になるかもしれない。だが……
「伏黒くん。ひとまずは五条さんに報告しましょう。あと……ミョウジ家にも、連絡を。いいですね?」
「……はい。ただ、念のために高専内にナマエが居ないかだけは、確認させてください。」
「しかし、日によって配置を変えるこの複雑な高専内をどうやって……。」
「こいつらに任せます。……玉犬。」
パンっと手で型どり二匹の玉犬を呼び出した。二匹の頭をワシワシと撫でながら恵が続けた。
「玉犬は鼻が効く。それに呪力も感知できます。高専内にナマエが居れば必ず気付く。……行け。」
ワフッとひと鳴きした二匹の玉犬はそれぞれ駆け出していった。
「30分もあれば玉犬が調べ終える筈です。」
「分かりました。ミョウジ家への連絡はそれからにしましょう。ガセネタを伝えるわけにもいかない。」
「なぁ、そのカミ…なんとかって奴に電話してみるのはダメなのか?」
「電話して何て言うんだ?ナマエのこと連れ去りましたかーって聞くのか?」
「おかか!」
「棘の言う通りだ。んな馬鹿正直に聞けるか。そうじゃなくて、何も気づいてない振りして何かしら情報が得られないかと思ってな。」
「確かにな。それなら、伊地知さんが掛けるしかないよな。私らは面識すらないし。」
「ええっ?私ですか……?」
責任重大だと身震いする伊地知に、一同が早く掛けろと急かす。とてもじゃないが年上に対する対応ではないのが憐れだ。
「ま…待ってください!まずは五条さんに連絡を!私には判断できかねます!!」
「ちっ。」
「えぇっ?今舌打ちしました??」
「……分かりました。じゃあ俺から連絡します。」
スマホを取り出して五条へと電話を掛ける。電話の時の五条はいつもこちらをイライラさせるので本当は掛けたくないが、今は仕方がない。というか電話じゃなくても普段からイライラはさせられるので同じだ。
「……ナマエの危機なら飛んで帰る。だそうです。」
「ホントかよ。」
「すじこ。」
「ただいまー!!帰ったよー!」
「「「はやっ!」」」
電話を切ってからほんの数分で本当に帰ってきた。能力を使ったらしい。
「五条さん……あの、任務は……」
「んー?そんなの昨日の内にとっくに終わってるよ。」
「では何故すぐに帰ってこないんですか…」
「だってさー、せっかくの出張だよ?現地のスイーツ網羅しておかないと、ね?あ、今回はお土産なしね。急いでトんできたから買う暇なかったよ。」
「五条さん……」
このクソ特級サマはとっくの昔に祓い終わったのに報告せず現地でプラプラしていたらしい。スイーツの為に。こんな時に……。恵は自分の顳顬に青筋が立つのが分かったが、今は突っかかっている暇はないと思い、詳細を伝えた上で五条に判断を仰いだ。
「んー。電話はするのはいいと思うよ。でもさ、そんな回りくどいことせずにストレートに聞いてみたら?違ってたら謝ればいい。時間がもったいないからね。」
五条の言い分と自分の先程の考えが同じだったのでちょっと嫌だなと思った恵だったが、今は我慢だ。問題は誰が掛けるのか…。そう思っていると、伊地知が待ってくださいと止めに入った。
「いきなりそんなことを話して、もしミョウジさんの身に何かあれば…」
「そうだな…何がきっかけになるか分りゃしねぇ。」
「しゃけ…。」
二年たちも不安要素を口にする中、五条はあっけらかんとしていた。
「それは大丈夫でしょ。ナマエに何かするつもりならとっくに事を起こしてるよ。例えば、危害を加えようとしてるとして、わざわざ外に連れ出す必要はない。少なくとも命の危険はないだろう。」
「いや…でも。たとえ命の危険はなくても…命さえあればいいってもんでもないだろ。」
「だったら尚更早く奴の目的を知らないとね。ナマエも不意を突かれたのかもしれないけど、そう簡単にやられたりしないよ。僕もこの間あいつに会ったけど、明らかにナマエより格下だ。」
「その格下に連れ去られたかもしれないんだろうが…!!」
五条の軽はずみな発言に二年たちがイラつき始めたが、五条は全く気にしていないようだ。
「じゃあどうすんの?ここでモゴモゴしてても何にも進まないよ。」
「………。」
それぞれが口を噤む中、恵が名乗り出た。
「分かりました。俺が…掛けます。」
「恵!お前な…」
「ものすごく癪ですけど、五条先生の言う通りですよ。ものすごく癪ですけど。」
「二回も言わなくてよくない?」
「伊地知さん、あの人の連絡先を教えてください。」
「あ、はい。」
「ねぇ、恵。無視するの?ねぇ。」
「うるさい。今はどうでもいいでしょう。」
「えー。まぁいいや。伊地知、前に使った逆探のやつあったでしょ。あれ出して。」
「逆探!?ここ…高専だよな。なんでそんなもんがあるんだよ。」
「まぁ、いろいろとね。」
探知機なんてどうして学校にあるんだと思ったが、ここは特殊な環境だ。あまり気にしないようにしよう。
「恵、玉犬は?」
「…高専内にナマエは居ません。」
「クソ…やっぱりか。」
「これでほぼ確だな。」
いろいろあったが、こうして裃条に電話を掛けることが決まった。
事務室を飛び出した恵は、真っすぐ高専の正門を目指した。
焦りのせいか足が縺れそうになりながらも恵は走った。後ろから棘が何か叫んでいるのは分かったが気にしてなんかいられなかった。
(くそっ!こんなに正門まで距離あったか?)
普段の冷静な恵であれば、モニターに映った時点で既に高専を出て行ってしまっていることなどすぐに想定できたはず。間に合うわけがない。それよりも次の行動の為に頭を回転させていただろう。でも今の恵の頭にはそんな事はチラリとも過ぎらなかった。
「はぁっ…はぁっ、………クソっ!!」
やっとの思いで正門まで来たが。門の大きな扉に肘で寄りかかり荒い息をする。やはりというか正門には人影一つなかった。だが、それで諦めてたまるか。恵は両手で影絵を作った。
___鵺。
「空からあいつを探せ!」
恵の指示を聞いた鵺はすぐにその大きな翼を広げ、高く飛び上がった。両手を膝につけて息を整えていると、後ろから砂利を踏む音が聞こえた。狗巻か。ザリザリとその足音は近づき、恵の後ろで立ち止まった。
――ポン。
肩を叩かれたのでゆっくりと振り返ると、眉尻を下げて心配そうにこちらを見る狗巻と目が合った。
「先輩……呪言使えば簡単に俺を止められたのに。止めずにここまで来させてくれて…ありがとうございます。」
「おかか……。」
フルフルと弱々しく首を振る狗巻に、恵は緩く口角を上げた。
「空から鵺に探させてますが…車で移動してたら見つけるのは厳しそうです。一旦事務室に戻りましょう。」
「……しゃけ。」
「まだ…そうと決まったわけでもない。」
「……。」
―――――――――
「戻ったか。」
「……間に合いませんでした。」
「そうか。」
「どうする?とりあえず、上に報告するか?」
「でもまだそうと決まったわけでもねぇだろ。」
「けど…ナマエにもしものことがあったら……。」
ここから先は生徒だけで判断してはいけない状況になるかもしれない。だが……
「伏黒くん。ひとまずは五条さんに報告しましょう。あと……ミョウジ家にも、連絡を。いいですね?」
「……はい。ただ、念のために高専内にナマエが居ないかだけは、確認させてください。」
「しかし、日によって配置を変えるこの複雑な高専内をどうやって……。」
「こいつらに任せます。……玉犬。」
パンっと手で型どり二匹の玉犬を呼び出した。二匹の頭をワシワシと撫でながら恵が続けた。
「玉犬は鼻が効く。それに呪力も感知できます。高専内にナマエが居れば必ず気付く。……行け。」
ワフッとひと鳴きした二匹の玉犬はそれぞれ駆け出していった。
「30分もあれば玉犬が調べ終える筈です。」
「分かりました。ミョウジ家への連絡はそれからにしましょう。ガセネタを伝えるわけにもいかない。」
「なぁ、そのカミ…なんとかって奴に電話してみるのはダメなのか?」
「電話して何て言うんだ?ナマエのこと連れ去りましたかーって聞くのか?」
「おかか!」
「棘の言う通りだ。んな馬鹿正直に聞けるか。そうじゃなくて、何も気づいてない振りして何かしら情報が得られないかと思ってな。」
「確かにな。それなら、伊地知さんが掛けるしかないよな。私らは面識すらないし。」
「ええっ?私ですか……?」
責任重大だと身震いする伊地知に、一同が早く掛けろと急かす。とてもじゃないが年上に対する対応ではないのが憐れだ。
「ま…待ってください!まずは五条さんに連絡を!私には判断できかねます!!」
「ちっ。」
「えぇっ?今舌打ちしました??」
「……分かりました。じゃあ俺から連絡します。」
スマホを取り出して五条へと電話を掛ける。電話の時の五条はいつもこちらをイライラさせるので本当は掛けたくないが、今は仕方がない。というか電話じゃなくても普段からイライラはさせられるので同じだ。
「……ナマエの危機なら飛んで帰る。だそうです。」
「ホントかよ。」
「すじこ。」
「ただいまー!!帰ったよー!」
「「「はやっ!」」」
電話を切ってからほんの数分で本当に帰ってきた。能力を使ったらしい。
「五条さん……あの、任務は……」
「んー?そんなの昨日の内にとっくに終わってるよ。」
「では何故すぐに帰ってこないんですか…」
「だってさー、せっかくの出張だよ?現地のスイーツ網羅しておかないと、ね?あ、今回はお土産なしね。急いでトんできたから買う暇なかったよ。」
「五条さん……」
このクソ特級サマはとっくの昔に祓い終わったのに報告せず現地でプラプラしていたらしい。スイーツの為に。こんな時に……。恵は自分の顳顬に青筋が立つのが分かったが、今は突っかかっている暇はないと思い、詳細を伝えた上で五条に判断を仰いだ。
「んー。電話はするのはいいと思うよ。でもさ、そんな回りくどいことせずにストレートに聞いてみたら?違ってたら謝ればいい。時間がもったいないからね。」
五条の言い分と自分の先程の考えが同じだったのでちょっと嫌だなと思った恵だったが、今は我慢だ。問題は誰が掛けるのか…。そう思っていると、伊地知が待ってくださいと止めに入った。
「いきなりそんなことを話して、もしミョウジさんの身に何かあれば…」
「そうだな…何がきっかけになるか分りゃしねぇ。」
「しゃけ…。」
二年たちも不安要素を口にする中、五条はあっけらかんとしていた。
「それは大丈夫でしょ。ナマエに何かするつもりならとっくに事を起こしてるよ。例えば、危害を加えようとしてるとして、わざわざ外に連れ出す必要はない。少なくとも命の危険はないだろう。」
「いや…でも。たとえ命の危険はなくても…命さえあればいいってもんでもないだろ。」
「だったら尚更早く奴の目的を知らないとね。ナマエも不意を突かれたのかもしれないけど、そう簡単にやられたりしないよ。僕もこの間あいつに会ったけど、明らかにナマエより格下だ。」
「その格下に連れ去られたかもしれないんだろうが…!!」
五条の軽はずみな発言に二年たちがイラつき始めたが、五条は全く気にしていないようだ。
「じゃあどうすんの?ここでモゴモゴしてても何にも進まないよ。」
「………。」
それぞれが口を噤む中、恵が名乗り出た。
「分かりました。俺が…掛けます。」
「恵!お前な…」
「ものすごく癪ですけど、五条先生の言う通りですよ。ものすごく癪ですけど。」
「二回も言わなくてよくない?」
「伊地知さん、あの人の連絡先を教えてください。」
「あ、はい。」
「ねぇ、恵。無視するの?ねぇ。」
「うるさい。今はどうでもいいでしょう。」
「えー。まぁいいや。伊地知、前に使った逆探のやつあったでしょ。あれ出して。」
「逆探!?ここ…高専だよな。なんでそんなもんがあるんだよ。」
「まぁ、いろいろとね。」
探知機なんてどうして学校にあるんだと思ったが、ここは特殊な環境だ。あまり気にしないようにしよう。
「恵、玉犬は?」
「…高専内にナマエは居ません。」
「クソ…やっぱりか。」
「これでほぼ確だな。」
いろいろあったが、こうして裃条に電話を掛けることが決まった。