第十話 焦燥
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ナマエのタオルを見つけた瞬間、恵の心臓がドクンと大きく波打った。敢えて楽観視していた恵の思考はいとも簡単に粉々に砕け散ってしまった。
(いや、落ち着け。まずは先輩たちに連絡だ。)
一つ深呼吸をしてからポケットからスマホを取り出し、メッセージアプリを起動する。グループ機能を使って二年生たちに自販機コーナーに来てもらうよう伝えた。先輩たちがやってくるまでの間に恵は自販機コーナーを見渡したが、幸い争ったような形跡はなさそうだし呪力を使用したような形跡もない。だが、それだけでは何の安心材料にもなりはしない。そして、タオルは単に置き忘れかもしれないが、このペットボトル。いくらナマエがズボラでもさすがに蓋を開けたまま放置なんてしないし、ましてや倒れたままにもしない。『何かありました』と言っているようなものだ。
「恵。」
タイミングが合ったようで、ちょうど三人が同時に到着した。恵はここに来てから見つけたものとこの場の状態などを掻い摘んで話した。それぞれが探した場所にもナマエはおらず、真希が言うには部屋に戻った形跡もないそうだ。思い違い…と言える状況ではなくなってきたことを、この場にいる全員が感じ始めていた。
「…一応伊地知さんに聞いてみるか。あの人なら高専の人の出入りも調べられるだろ。まずはナマエが高専の外に出てないか確認した方がいい。」
「そうだな。」
「………。」
何も言わない恵を横目で見ながら真希が伊地知に連絡を取り、正門に設置している監視カメラを見せてもらえることになった。そして事務所で映像を見せてもらったものの、ナマエらしき人物は映っていなかった。
「いきなり高専の人の出入りを確認したいとは…何かありましたか?」
「ナマエが居なくなったんですよ。」
「………。」
生徒だけで判断できない状況になるかもしれない。そう思った真希は詳細を伊地知に話した。そんなまさかと言っていた伊地知も、自販機のベンチでの状況を聞いた後は眉を顰めた。伊地知は、事務所に来てから一言も口を開いていない恵の事が気にかかったため、そちらを見てみると。恵は無言で何度も映像の早送りと巻き戻しを繰り返しながら見ていた。
「伏黒くん?どうかしましたか?」
「…伊地知さん。これって…あの人じゃないですかね。」
恵が一時停止をして見せてきた画面に映る人物を見て、伊地知は驚いた。
「この方は…裃条二級術師ですね。先日見かけた時とはずいぶん風貌が違うようですが…。」
「見た目もそうですけど…なんか様子がおかしくないですか。」
前回の任務で初めて会ったときは呆れるほど自信に満ちていて堂々と歩いていた。それがどうだ。今は背中を丸めて足取りも覚束なくフラフラとしている。画質が荒くはっきりとは分からないが表情もどこか陰鬱としているような気がしなくもない。
「伊地知さん。今日って裃条さんに任務は割り振られていますか?」
「ちょっと待ってくださいね。えーと……」
手元のタブレットを操作して確認をしている伊地知の手が不自然に止まった。
「伊地知さん?」
「…彼は。前回の任務からずっと高専からの依頼を断っていますね。」
「なんで…。伊地知さん。監視カメラの映像って過去のものも見られますか。」
「ありますよ、お待ちください。」
そうしてここ数日遡って見ると、どうやら朝早く高専を訪れて、夜遅くに帰る。というのを続けているようだ。恵は背中に冷や汗が流れるのを感じた。任務を断るくせに高専を出入りしていること。そしておそらく正常ではない様子の姿。嫌な予感がして仕方がない。きっとこの人が何が関係している。恵にそう思わせるには十分だった。頭の中でいろいろと考えている中で、ふと気になることができた。
「伊地知さん、さっき先日見かけたって言ってましたよね。それ、いつですか?」
「伏黒くんたちが怪我をしたあの任務の日の夜ですよ。そういえばあの時…。」
「何かあったんですか。」
「実は…。」
伊地知からあの日の話を聞いて、恵の眉間にはますます皺が寄った。伊地知も「いやまさか…でも…。」と不安そうにしている。状況が何も分からない二年生たちが恵に話しかけるが、本人は何かを考えるような表情で黙っている。どうしたもんかと真希たちが思っていると、ずっとモニターを見ていた狗巻が驚いたように声を発した。
「ツナマヨっ!」
「ん?どうした棘。」
「高菜!すじこ!明太子!」
「お、マジか。おい恵!こいつ!!」
恵も映像に目を向けると、そこには高専を出ていく裃条が映っていた。来た時には持っていなかった大きなキャリーケースを引きながら。
「っ!これ!いつの映像ですか!!」
「今だよ!リアルタイム!!」
「あ!おい!!恵!!」
恵が事務室を飛び出したのは一瞬の出来事で。周りの制止などまるで聞こえていないようだった。
「…くそっ!棘!恵を追いかけろ!多分正門だ!」
「しゃけっ!」
一番足の速い狗巻に恵は任せることにして、真希とパンダは状況把握に努めることにしたようだ。伊地知の方を向いて、何があったのか、今どういう状況なのかを尋ねた。個人のプライバシーに関わる事について話すことに抵抗があった伊地知だが、何か良くないことが起こっているということは分かったので、二人に事の詳細を話すことにした。新田から報告を受けていた任務前に起こったひと悶着についても。
「…普段のナマエ見てたら忘れそうだけど。あいつ、そういや名家のお嬢だったな。」
「真希もだけどな。」
「うるせぇ。今は私の事はいいんだよ!」
「ヘイヘイ。」
「なぁ、パンダ。あいつが持ってたキャリーケースって。」
「あぁそうだな。人一人くらいは余裕で入るサイズだったな。」
もはや最悪の状況しか想像できない。二人は恵が間に合う事を祈るしかなかった。
(いや、落ち着け。まずは先輩たちに連絡だ。)
一つ深呼吸をしてからポケットからスマホを取り出し、メッセージアプリを起動する。グループ機能を使って二年生たちに自販機コーナーに来てもらうよう伝えた。先輩たちがやってくるまでの間に恵は自販機コーナーを見渡したが、幸い争ったような形跡はなさそうだし呪力を使用したような形跡もない。だが、それだけでは何の安心材料にもなりはしない。そして、タオルは単に置き忘れかもしれないが、このペットボトル。いくらナマエがズボラでもさすがに蓋を開けたまま放置なんてしないし、ましてや倒れたままにもしない。『何かありました』と言っているようなものだ。
「恵。」
タイミングが合ったようで、ちょうど三人が同時に到着した。恵はここに来てから見つけたものとこの場の状態などを掻い摘んで話した。それぞれが探した場所にもナマエはおらず、真希が言うには部屋に戻った形跡もないそうだ。思い違い…と言える状況ではなくなってきたことを、この場にいる全員が感じ始めていた。
「…一応伊地知さんに聞いてみるか。あの人なら高専の人の出入りも調べられるだろ。まずはナマエが高専の外に出てないか確認した方がいい。」
「そうだな。」
「………。」
何も言わない恵を横目で見ながら真希が伊地知に連絡を取り、正門に設置している監視カメラを見せてもらえることになった。そして事務所で映像を見せてもらったものの、ナマエらしき人物は映っていなかった。
「いきなり高専の人の出入りを確認したいとは…何かありましたか?」
「ナマエが居なくなったんですよ。」
「………。」
生徒だけで判断できない状況になるかもしれない。そう思った真希は詳細を伊地知に話した。そんなまさかと言っていた伊地知も、自販機のベンチでの状況を聞いた後は眉を顰めた。伊地知は、事務所に来てから一言も口を開いていない恵の事が気にかかったため、そちらを見てみると。恵は無言で何度も映像の早送りと巻き戻しを繰り返しながら見ていた。
「伏黒くん?どうかしましたか?」
「…伊地知さん。これって…あの人じゃないですかね。」
恵が一時停止をして見せてきた画面に映る人物を見て、伊地知は驚いた。
「この方は…裃条二級術師ですね。先日見かけた時とはずいぶん風貌が違うようですが…。」
「見た目もそうですけど…なんか様子がおかしくないですか。」
前回の任務で初めて会ったときは呆れるほど自信に満ちていて堂々と歩いていた。それがどうだ。今は背中を丸めて足取りも覚束なくフラフラとしている。画質が荒くはっきりとは分からないが表情もどこか陰鬱としているような気がしなくもない。
「伊地知さん。今日って裃条さんに任務は割り振られていますか?」
「ちょっと待ってくださいね。えーと……」
手元のタブレットを操作して確認をしている伊地知の手が不自然に止まった。
「伊地知さん?」
「…彼は。前回の任務からずっと高専からの依頼を断っていますね。」
「なんで…。伊地知さん。監視カメラの映像って過去のものも見られますか。」
「ありますよ、お待ちください。」
そうしてここ数日遡って見ると、どうやら朝早く高専を訪れて、夜遅くに帰る。というのを続けているようだ。恵は背中に冷や汗が流れるのを感じた。任務を断るくせに高専を出入りしていること。そしておそらく正常ではない様子の姿。嫌な予感がして仕方がない。きっとこの人が何が関係している。恵にそう思わせるには十分だった。頭の中でいろいろと考えている中で、ふと気になることができた。
「伊地知さん、さっき先日見かけたって言ってましたよね。それ、いつですか?」
「伏黒くんたちが怪我をしたあの任務の日の夜ですよ。そういえばあの時…。」
「何かあったんですか。」
「実は…。」
伊地知からあの日の話を聞いて、恵の眉間にはますます皺が寄った。伊地知も「いやまさか…でも…。」と不安そうにしている。状況が何も分からない二年生たちが恵に話しかけるが、本人は何かを考えるような表情で黙っている。どうしたもんかと真希たちが思っていると、ずっとモニターを見ていた狗巻が驚いたように声を発した。
「ツナマヨっ!」
「ん?どうした棘。」
「高菜!すじこ!明太子!」
「お、マジか。おい恵!こいつ!!」
恵も映像に目を向けると、そこには高専を出ていく裃条が映っていた。来た時には持っていなかった大きなキャリーケースを引きながら。
「っ!これ!いつの映像ですか!!」
「今だよ!リアルタイム!!」
「あ!おい!!恵!!」
恵が事務室を飛び出したのは一瞬の出来事で。周りの制止などまるで聞こえていないようだった。
「…くそっ!棘!恵を追いかけろ!多分正門だ!」
「しゃけっ!」
一番足の速い狗巻に恵は任せることにして、真希とパンダは状況把握に努めることにしたようだ。伊地知の方を向いて、何があったのか、今どういう状況なのかを尋ねた。個人のプライバシーに関わる事について話すことに抵抗があった伊地知だが、何か良くないことが起こっているということは分かったので、二人に事の詳細を話すことにした。新田から報告を受けていた任務前に起こったひと悶着についても。
「…普段のナマエ見てたら忘れそうだけど。あいつ、そういや名家のお嬢だったな。」
「真希もだけどな。」
「うるせぇ。今は私の事はいいんだよ!」
「ヘイヘイ。」
「なぁ、パンダ。あいつが持ってたキャリーケースって。」
「あぁそうだな。人一人くらいは余裕で入るサイズだったな。」
もはや最悪の状況しか想像できない。二人は恵が間に合う事を祈るしかなかった。