第一話 門出
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ピピピピ ピピピピ ピピピピ…
鼻先までスッポり被っていた布団からモゾモゾとその長い腕を伸ばし、眉を顰めながらも手探りで電子音の元を探し当て、慣れた手つきでそれを止める。
窓から差し込む淡い光に目が慣れ始めた頃、ゆっくりと瞼を持ち上げて体を起こした青年、伏黒恵は目に入った光景に違和感を覚えた。
(どこだ、此処。)
体こそ起こしたものの、まだ覚醒し切らない目でぼんやりと辺りを見渡すと、見慣れない間取りに見慣れない家具たち。つい今まで寝ていた寝具も肌馴染みを全く感じない。そして、少し視線を落とすと周りにはいくつかの未開封の段ボール箱。そこで初めて恵は自分の置かれた状況を思い出した。
(あぁ、高専の寮か。)
恵が今日から通うことになる東京都立呪術高等専門学校。全寮制であるため、入学式の前日に当たる昨日から寮に入っていたんだと、思い至った。
「あー……。クソっ。」
誰にも聞かれていないことをいい事に恵の口からため息と共に吐き出されたのは覚醒直前まで見ていた夢に対する憤りだった。なぜわざわざ今日に限って昔の夢なんか見たりしたのか。
(随分と懐かしい…いや、最後の方は去年の今頃か…)
夢なんてものは起きた時にどんな内容だったなんて忘れてしまっていることの方が多い恵だったが、今日の夢はやけにリアルに脳内に残っている。
それは、小学生の頃から段々と歳を重ねていく自分たちの当時の会話を、何故か第三者目線で側から俯瞰で見ているという、なんとも不思議なものだった。
昨夜ベッドに入って眠りに着くまで色々と考え事をしてしまい、これからの生活の漠然とした不安や焦燥が夢となって現れたのかもしれない。
普段の恵なら目覚めたらすぐに顔を洗ってコーヒーを淹れて、その間に着替える、というお決まりのルーティンがあった。それが何故だか今日はすぐに動く気になれなかった。
幸い目覚ましはかなり早い時間にセットしたので時間はまだまだある。気持ちが落ち着くまではこのままぼーっとするのもいいかもしれない。そんな事を考えていると。突然バン!と遠慮の欠片もない様子で思いっきり扉が開け放たれた。
「恵――!起きてるー?」
入ってきたのは正に先程まで自身の夢の中に登場していた、幼馴染であり今日から同じく高専に通う事になった、ミョウジナマエだ。
夢の中では幼くて頼りない印象だったナマエは、当時より髪はかなり伸びたし、顔つきもどこか芯を持った女性になった。
(いや、女性って感じじゃないな。未だに落ち着きがないし。)
などど、返事をすることなくぼんやりとナマエを見ていたら、反応のない恵の心配をしたナマエが、ベッドの方に近付いてきた。
「おーい!恵?生きてるーーー?」
恵の眼前でヒラヒラと手のひらを翳しながら至近距離までナマエの顔が接近したことでやっと意識が戻った。
「っ。近ぇ。」
「あ、起きてた。目ぇ開けたまま寝てるのかと思った。」
「つーか、ノック。」
「何言ってんの?今更じゃん。あ!持ってきたよー!朝ごパン!」
「朝ごパン?」
「パンの朝ごはんだから、朝ごパン!」
「なんだそれ。」
朝から妙にテンションの高いナマエの様子は無視することにして、片手でナマエの頭をがしりと掴み、遠ざけた。さすがに起きるかと思い、両手を頭上で組んでそのまま思いっきり天井へと伸ばす。やっと脳まで血が巡ったような気がした恵は、髪ぐちゃぐちゃにしないでと文句を言っているナマエの方へと視線を寄こす。
「お前。そのカッコ。」
「あ、これ?可愛いでしょ!」
「高専の制服ってそんなんだったか?」
ナマエは見て見てと言わんばかりに嬉しそうに恵の前でクルリと一回転をした。
恵の知る高専女子の制服と言えば、先輩である禪院真希のものが印象深いが。今目の前にいるナマエの恰好は、明らかに真希の物とは違う。なぜなら、それが同じ黒とはいえ、セーラー服だったから。ウエスト部分は短めで、ちょっとした動きで腹が見えそうだ。むしろ見えた。プリーツ状のスカートも太ももの位置でヒラヒラしていて危なっかしい。
「ほんとは真希ちゃんとお揃いが良かったんだけど、悟くんが絶対セーラー!って譲らなかったの。これ着ないと入学させないって。でも実際着てみたら可愛かったからまぁいいかって。中学はブレザーだったから新鮮だよね!」
「五条先生の仕業か。」
ナマエはあまり気にしていないが、完全にあの人の趣味だ。入学させないって何だ。ナマエは着せ替え人形じゃねぇ。『そういうところ』のある、今日から担任になるあの男の事を考えると恵の眉間には自然と力が入った。
(つーかセーラーとか最近見ないだろ。自分の青春時代の願望を詰め込むなよ。)
「…似合わない?めっちゃ嫌そうじゃん。」
「スカート短い。中学のはもっと長かったろ。そんなんで呪霊祓えるのか?中、見えても知らねぇぞ。」
「え?恵、見たいの?」
「おい。」
「うそうそ。ごめんって、そんな怖い顔しないでよ!ちゃんと見せパン履いてるから。ほら、」
そういってスカートの裾を持ち上げようとしたナマエにギョッとした恵は咄嗟にその腕を掴んで、寸での所で制止することができた。
「…お前なぁ。」
「本当に見せるわけないじゃん。何焦ってんの?恵のエッチ―!」
「………。」
恵は思った。だんだんあの人に似てきている気がする、と。険しい顔で(一応)恩人である五条悟の顔を思い浮かべた恵は心の中で一発殴っておいた。直接は絶対殴れないから。
黙ってしまった恵にさすがにやってしまったと思ったナマエ#は、不安そうに呼びかけた。
「恵?怒った?怒っちゃったの?」
「……タイツ。黒いタイツとか履くならその制服でもいいと思う。」
「へ?」
「任務の時に素肌出すのは危険だ。」
「確かにー!怪我しちゃうもんね!分かった!そうする!」
それもあるが、それだけじゃない。それでも普通に納得したナマエに恵は安堵の息を吐いた。五条のように憎らしい部分もあれば、こうやって自分のいう事に素直に従ったりもする。ミョウジナマエという人物はまだまだ恵には理解しきれない生き物なのかもしれない。
「あ!恵の制服、あれ?」
そういって壁に掛けられた制服の方に目を向けたナマエは、シンプル!でも恵に似合いそうだね!と嬉しそうに話した。
「早く!早く着替えて!その間に朝食の準備してあげるから!」
「…後でいい。」
寮の自室はワンルームで、簡易キッチンとベッドの間にもちろん仕切りなどない。ナマエの前で普通に着替えるのは何となく憚られた。
「女子じゃあるまいし何恥ずかしがってんの?ほら、早く着替えて。コーヒーも入れてあげるから!」
(いや、恥ずかしいわけじゃなくてだな…)
考えること自体が面倒になった恵は何も言わず着替えることにした。が、下着一枚になったとき。
「あはは!恵って、パンツも恵っぽいー!」
「俺っぽいて何なんだ…。」
半裸の自分を目の前に恥ずかしがる素振りすら見せないナマエに、呆れるしかなかった。
それでも、着替え終わった恵を見て、カッコいい!似合う!やっぱ恵スタイルいいよね!と大絶賛するナマエのお陰で。
恵の機嫌はすっかり回復して、和やかな朝食の時間を二人で過ごした。
鼻先までスッポり被っていた布団からモゾモゾとその長い腕を伸ばし、眉を顰めながらも手探りで電子音の元を探し当て、慣れた手つきでそれを止める。
窓から差し込む淡い光に目が慣れ始めた頃、ゆっくりと瞼を持ち上げて体を起こした青年、伏黒恵は目に入った光景に違和感を覚えた。
(どこだ、此処。)
体こそ起こしたものの、まだ覚醒し切らない目でぼんやりと辺りを見渡すと、見慣れない間取りに見慣れない家具たち。つい今まで寝ていた寝具も肌馴染みを全く感じない。そして、少し視線を落とすと周りにはいくつかの未開封の段ボール箱。そこで初めて恵は自分の置かれた状況を思い出した。
(あぁ、高専の寮か。)
恵が今日から通うことになる東京都立呪術高等専門学校。全寮制であるため、入学式の前日に当たる昨日から寮に入っていたんだと、思い至った。
「あー……。クソっ。」
誰にも聞かれていないことをいい事に恵の口からため息と共に吐き出されたのは覚醒直前まで見ていた夢に対する憤りだった。なぜわざわざ今日に限って昔の夢なんか見たりしたのか。
(随分と懐かしい…いや、最後の方は去年の今頃か…)
夢なんてものは起きた時にどんな内容だったなんて忘れてしまっていることの方が多い恵だったが、今日の夢はやけにリアルに脳内に残っている。
それは、小学生の頃から段々と歳を重ねていく自分たちの当時の会話を、何故か第三者目線で側から俯瞰で見ているという、なんとも不思議なものだった。
昨夜ベッドに入って眠りに着くまで色々と考え事をしてしまい、これからの生活の漠然とした不安や焦燥が夢となって現れたのかもしれない。
普段の恵なら目覚めたらすぐに顔を洗ってコーヒーを淹れて、その間に着替える、というお決まりのルーティンがあった。それが何故だか今日はすぐに動く気になれなかった。
幸い目覚ましはかなり早い時間にセットしたので時間はまだまだある。気持ちが落ち着くまではこのままぼーっとするのもいいかもしれない。そんな事を考えていると。突然バン!と遠慮の欠片もない様子で思いっきり扉が開け放たれた。
「恵――!起きてるー?」
入ってきたのは正に先程まで自身の夢の中に登場していた、幼馴染であり今日から同じく高専に通う事になった、ミョウジナマエだ。
夢の中では幼くて頼りない印象だったナマエは、当時より髪はかなり伸びたし、顔つきもどこか芯を持った女性になった。
(いや、女性って感じじゃないな。未だに落ち着きがないし。)
などど、返事をすることなくぼんやりとナマエを見ていたら、反応のない恵の心配をしたナマエが、ベッドの方に近付いてきた。
「おーい!恵?生きてるーーー?」
恵の眼前でヒラヒラと手のひらを翳しながら至近距離までナマエの顔が接近したことでやっと意識が戻った。
「っ。近ぇ。」
「あ、起きてた。目ぇ開けたまま寝てるのかと思った。」
「つーか、ノック。」
「何言ってんの?今更じゃん。あ!持ってきたよー!朝ごパン!」
「朝ごパン?」
「パンの朝ごはんだから、朝ごパン!」
「なんだそれ。」
朝から妙にテンションの高いナマエの様子は無視することにして、片手でナマエの頭をがしりと掴み、遠ざけた。さすがに起きるかと思い、両手を頭上で組んでそのまま思いっきり天井へと伸ばす。やっと脳まで血が巡ったような気がした恵は、髪ぐちゃぐちゃにしないでと文句を言っているナマエの方へと視線を寄こす。
「お前。そのカッコ。」
「あ、これ?可愛いでしょ!」
「高専の制服ってそんなんだったか?」
ナマエは見て見てと言わんばかりに嬉しそうに恵の前でクルリと一回転をした。
恵の知る高専女子の制服と言えば、先輩である禪院真希のものが印象深いが。今目の前にいるナマエの恰好は、明らかに真希の物とは違う。なぜなら、それが同じ黒とはいえ、セーラー服だったから。ウエスト部分は短めで、ちょっとした動きで腹が見えそうだ。むしろ見えた。プリーツ状のスカートも太ももの位置でヒラヒラしていて危なっかしい。
「ほんとは真希ちゃんとお揃いが良かったんだけど、悟くんが絶対セーラー!って譲らなかったの。これ着ないと入学させないって。でも実際着てみたら可愛かったからまぁいいかって。中学はブレザーだったから新鮮だよね!」
「五条先生の仕業か。」
ナマエはあまり気にしていないが、完全にあの人の趣味だ。入学させないって何だ。ナマエは着せ替え人形じゃねぇ。『そういうところ』のある、今日から担任になるあの男の事を考えると恵の眉間には自然と力が入った。
(つーかセーラーとか最近見ないだろ。自分の青春時代の願望を詰め込むなよ。)
「…似合わない?めっちゃ嫌そうじゃん。」
「スカート短い。中学のはもっと長かったろ。そんなんで呪霊祓えるのか?中、見えても知らねぇぞ。」
「え?恵、見たいの?」
「おい。」
「うそうそ。ごめんって、そんな怖い顔しないでよ!ちゃんと見せパン履いてるから。ほら、」
そういってスカートの裾を持ち上げようとしたナマエにギョッとした恵は咄嗟にその腕を掴んで、寸での所で制止することができた。
「…お前なぁ。」
「本当に見せるわけないじゃん。何焦ってんの?恵のエッチ―!」
「………。」
恵は思った。だんだんあの人に似てきている気がする、と。険しい顔で(一応)恩人である五条悟の顔を思い浮かべた恵は心の中で一発殴っておいた。直接は絶対殴れないから。
黙ってしまった恵にさすがにやってしまったと思ったナマエ#は、不安そうに呼びかけた。
「恵?怒った?怒っちゃったの?」
「……タイツ。黒いタイツとか履くならその制服でもいいと思う。」
「へ?」
「任務の時に素肌出すのは危険だ。」
「確かにー!怪我しちゃうもんね!分かった!そうする!」
それもあるが、それだけじゃない。それでも普通に納得したナマエに恵は安堵の息を吐いた。五条のように憎らしい部分もあれば、こうやって自分のいう事に素直に従ったりもする。ミョウジナマエという人物はまだまだ恵には理解しきれない生き物なのかもしれない。
「あ!恵の制服、あれ?」
そういって壁に掛けられた制服の方に目を向けたナマエは、シンプル!でも恵に似合いそうだね!と嬉しそうに話した。
「早く!早く着替えて!その間に朝食の準備してあげるから!」
「…後でいい。」
寮の自室はワンルームで、簡易キッチンとベッドの間にもちろん仕切りなどない。ナマエの前で普通に着替えるのは何となく憚られた。
「女子じゃあるまいし何恥ずかしがってんの?ほら、早く着替えて。コーヒーも入れてあげるから!」
(いや、恥ずかしいわけじゃなくてだな…)
考えること自体が面倒になった恵は何も言わず着替えることにした。が、下着一枚になったとき。
「あはは!恵って、パンツも恵っぽいー!」
「俺っぽいて何なんだ…。」
半裸の自分を目の前に恥ずかしがる素振りすら見せないナマエに、呆れるしかなかった。
それでも、着替え終わった恵を見て、カッコいい!似合う!やっぱ恵スタイルいいよね!と大絶賛するナマエのお陰で。
恵の機嫌はすっかり回復して、和やかな朝食の時間を二人で過ごした。