第七話 夜陰
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日付が変わる頃、ミョウジ翔は夜更けの高専へと足を運んでいた。
翔は高専の卒業生ではあるが、その後高専に所属する事はなかった。卒業時一級だった翔は、次期当主ということもあり、そのまま特別一級術師に成った。
(相変わらずここは……)
翔にとってここは、他に変え難い出会いがあった場所であり、また……。
_耐え難い別れがあった場所でもある。
門を抜けそのまま事務所に向かうと、やはりというか明かりが付いていた。
「おつかれー!なに、わざわざ報告に来てくれた感じ?」
「あ、ミョウジさん、お疲れ様です。」
「五条さん。……ご無沙汰しています。」
居るとすれば伊地知辺りだろうと踏んでいた翔にとって、予想外の人物だった。まぁ、当の伊地知も居たのだが。
「お前が二人の救援に行くとはね。どういう風の吹き回し?」
「…五条さんこそ。てっきりもう今日はお帰りになっているかと思いましたよ。」
「相変わらずカッチカチだな。七海よりお堅いわ。」
舌を出し肩を竦めるこの男が、翔は昔から好きにはなれなかった。それでも五条家筆頭のこの男に逆らうことなどできなかったのだが。
「ま、僕もあの二人の担任だし?一応気にはしてたんだよね。あ、さっき連絡があって、今日は近くの病院で一晩休んでから帰ってくるってさ。二人とも肋骨ボキボキだってさ。」
「…そうですか。」
五条の言葉に適当に返事をした翔は、そのまま伊地知の方へ向かった。
「伊地知くん、報告書はこちらで出させてもらうよ。」
「えっ…、宜しいのですか?」
「祓ったのは私だ。こちらで書いた方が効率がいいだろう。」
「あ、ありがとうございます。」
書類を受け取った翔は、「少しデスクをお借りするよ。」と言ってそのまま報告書の作成を始めた。
「かーっ、真面目だねぇ。そんなすぐに出さなくていいだろ。」
「何度もこんな所へ足を運びたくないですから。」
「へーへー。ていうか、呪霊は二級だったんだろ?あいつらがヘマするとは思えないんだけど。お前が思ってるよりずっとあの二人は優秀だ。」
「…相手が呪力の攻撃を吸収して強化するタイプの呪霊でした。」
「へー。でもそれに気づかない二人じゃないだろ。それに、もう一人二級が一緒だったんだろ?何があった。」
「それは……」
少しトーンの低くなった五条に面倒ではあるが説明するか、と思った所へ事務所の扉が雑に開いた。
「ミョウジさん……!よかった、こちらに居ると聞いて……」
やって来たのは少し息を切らした泥まみれのままの裃条であった。
「……誰?こいつ。ドロドロじゃん。」
「っ!あなたは……五条悟……!」
「知らないやつに呼び捨てされる覚えはないんだけど。」
「っ!申し訳……ございません。」
ただでさえ翔に萎縮している中に、呪術界で知らない者はいない、最強術師である五条が居るとは夢にも思わなかった裃条は、震える体を叱咤してそのまま翔の目の前でいきなり土下座をした。
「ミョウジさん……本当に!申し訳ございませんでした!私がついていながらこんな事に……!」
「……。」
「え?何?どーゆーこと?」
翔が何も言わないので、フォローをするかのように伊地知が言葉を添えた。
「彼は裃条二級術師です。今回の任務に同行した三人目の術師、ですね。」
「ふーん。……で?なんでこいつはピンピンしてんの?あいつら肋骨バキバキなんだろ?足手纏いになるようなヤワな鍛え方はしてないはずだけど。」
「っっ!」
五条の物言いに肩をビクっとさせた裃条だったが、そのまま頭を上げる事すらできずガタガタと震えていた。
任務に怪我はつき物ではある。別に二人が怪我をした事を誰かのせいにするつもりは五条にもなかったが、先程からどうも様子がおかしい。翔の表情に何かを感じた五条は、だからこそわざとこういう言い方をした。
「……足手纏いになったのは彼ですよ。」
「ん?どういう事?」
翔はことの経緯を簡単に五条に説明をした。その間裃条はブルブルと震えて極寒の地に放り出されたようになっていた。
「なるほどねー。それでミョウジ家に連絡が行ったんだね。やっと分かった。」
ナマエが高専に入学するにあたってミョウジ家と高専とで決められていたこと。
『ミョウジナマエの身にもしも危険が及んだ場合、速やかにミョウジ家へ連絡を入れる事』
ナマエ本人が知る由もない、高専入学の条件の内の一つだった。ちなみに初任務では五条が同行していた為、連絡が行く事はなかった。
「今後!同じ轍を踏むことのないように致します!ですから……どうか!」
まるで縋るように懇願する裃条に対し、翔はやはり冷静に突き放した。
「今後?次があると思ってるのか。めでたい頭だな。」
「お願いします!もう一度だけチャンスを……!」
「あの話は無しだ。最低限、妹 より強いこと。それすら満たさぬお前には無理だ。それに…お前は妹 の命を脅かした。それがどういうことか全く分かっていないようだな。」
「しかし……!」
「二度と我が家の敷居を跨ぐな。二度と妹 の前に顔を出すな。それだけで済む事をありがたく思え。」
「…………。」
伊地知は翔の剣幕にゴクリと唾を飲み、五条は頬杖をつきながら興味深そうにその様子を眺めていた。
「話は以上だ。下がれ。」
「…ミョウジさんっ!」
「もう一度だけ言う、下がれ。」
「くっ…失礼、いたします。」
すごすごと去っていく裃条を目で見送った後、伊地知は思わず止めていた息を吐き出した。
「伊地知くん、済まないね。床が少し汚れてしまったようだ。」
「いえっ!大丈夫です、お気になさらず……」
先程よりも少し柔らかいトーンで話しかけられて伊地知はどうしていいか分からずただ恐縮するばかりだった。そんな所へ横から五条の噛み殺したような声が聞こえてきた。伊地知は、嫌な予感しかしなかった。
「くっくっく……マジ暴君、聞き耳持たず。こっわ。」
「…あなた程ではないですよ。」
「裃条ってあれだろ?元貴族の家系じゃん。あの話って何?」
「……縁談です。」
「は?ナマエに?早すぎだろ。」
「子供を産むなら早い方が母体へのリスクも少ない。」
「うっわ。聞いたー?伊地知ぃ。もう平成も終わるってのに何時代の人間だよ。」
「……私に降らないでください。」
「まぁ、僕もあの裃条ってやつは反対だね。だって新人のナマエよりも弱いんでしょ?ウケる。」
舌を思いっきり出しながらウゲーっという五条を横目に、翔は大きく息を吐いた。
「ここでは作業が捗りませんので、一旦持ち帰ります。伊地知くん、また報告書は後日提出するよ。」
「は、はいっ!」
「えー、帰んの?この後飲みにいこーぜぇ!三人で!」
「え゛。」
「あなた下戸でしょう。明日も早いのでお断りします。お疲れ様でした。」
「おっお疲れ様でした!ミョウジさん!」
ガラララララ、ピシャン。
「…………」
「あの、五条さん。ほ、報告書は……」
「あ゛ぁん?」
「ひぃっ!」
「伊地知、代わりに出しといて。んじゃ、僕も帰るわ。お疲れサマンサー。」
「え?あのっ!」
ガラララララ、ピシャン。
「……くぅー。泣くな、私。」
こうしてまた一つ、伊地知の仕事が増えてしまった。
翔は高専の卒業生ではあるが、その後高専に所属する事はなかった。卒業時一級だった翔は、次期当主ということもあり、そのまま特別一級術師に成った。
(相変わらずここは……)
翔にとってここは、他に変え難い出会いがあった場所であり、また……。
_耐え難い別れがあった場所でもある。
門を抜けそのまま事務所に向かうと、やはりというか明かりが付いていた。
「おつかれー!なに、わざわざ報告に来てくれた感じ?」
「あ、ミョウジさん、お疲れ様です。」
「五条さん。……ご無沙汰しています。」
居るとすれば伊地知辺りだろうと踏んでいた翔にとって、予想外の人物だった。まぁ、当の伊地知も居たのだが。
「お前が二人の救援に行くとはね。どういう風の吹き回し?」
「…五条さんこそ。てっきりもう今日はお帰りになっているかと思いましたよ。」
「相変わらずカッチカチだな。七海よりお堅いわ。」
舌を出し肩を竦めるこの男が、翔は昔から好きにはなれなかった。それでも五条家筆頭のこの男に逆らうことなどできなかったのだが。
「ま、僕もあの二人の担任だし?一応気にはしてたんだよね。あ、さっき連絡があって、今日は近くの病院で一晩休んでから帰ってくるってさ。二人とも肋骨ボキボキだってさ。」
「…そうですか。」
五条の言葉に適当に返事をした翔は、そのまま伊地知の方へ向かった。
「伊地知くん、報告書はこちらで出させてもらうよ。」
「えっ…、宜しいのですか?」
「祓ったのは私だ。こちらで書いた方が効率がいいだろう。」
「あ、ありがとうございます。」
書類を受け取った翔は、「少しデスクをお借りするよ。」と言ってそのまま報告書の作成を始めた。
「かーっ、真面目だねぇ。そんなすぐに出さなくていいだろ。」
「何度もこんな所へ足を運びたくないですから。」
「へーへー。ていうか、呪霊は二級だったんだろ?あいつらがヘマするとは思えないんだけど。お前が思ってるよりずっとあの二人は優秀だ。」
「…相手が呪力の攻撃を吸収して強化するタイプの呪霊でした。」
「へー。でもそれに気づかない二人じゃないだろ。それに、もう一人二級が一緒だったんだろ?何があった。」
「それは……」
少しトーンの低くなった五条に面倒ではあるが説明するか、と思った所へ事務所の扉が雑に開いた。
「ミョウジさん……!よかった、こちらに居ると聞いて……」
やって来たのは少し息を切らした泥まみれのままの裃条であった。
「……誰?こいつ。ドロドロじゃん。」
「っ!あなたは……五条悟……!」
「知らないやつに呼び捨てされる覚えはないんだけど。」
「っ!申し訳……ございません。」
ただでさえ翔に萎縮している中に、呪術界で知らない者はいない、最強術師である五条が居るとは夢にも思わなかった裃条は、震える体を叱咤してそのまま翔の目の前でいきなり土下座をした。
「ミョウジさん……本当に!申し訳ございませんでした!私がついていながらこんな事に……!」
「……。」
「え?何?どーゆーこと?」
翔が何も言わないので、フォローをするかのように伊地知が言葉を添えた。
「彼は裃条二級術師です。今回の任務に同行した三人目の術師、ですね。」
「ふーん。……で?なんでこいつはピンピンしてんの?あいつら肋骨バキバキなんだろ?足手纏いになるようなヤワな鍛え方はしてないはずだけど。」
「っっ!」
五条の物言いに肩をビクっとさせた裃条だったが、そのまま頭を上げる事すらできずガタガタと震えていた。
任務に怪我はつき物ではある。別に二人が怪我をした事を誰かのせいにするつもりは五条にもなかったが、先程からどうも様子がおかしい。翔の表情に何かを感じた五条は、だからこそわざとこういう言い方をした。
「……足手纏いになったのは彼ですよ。」
「ん?どういう事?」
翔はことの経緯を簡単に五条に説明をした。その間裃条はブルブルと震えて極寒の地に放り出されたようになっていた。
「なるほどねー。それでミョウジ家に連絡が行ったんだね。やっと分かった。」
ナマエが高専に入学するにあたってミョウジ家と高専とで決められていたこと。
『ミョウジナマエの身にもしも危険が及んだ場合、速やかにミョウジ家へ連絡を入れる事』
ナマエ本人が知る由もない、高専入学の条件の内の一つだった。ちなみに初任務では五条が同行していた為、連絡が行く事はなかった。
「今後!同じ轍を踏むことのないように致します!ですから……どうか!」
まるで縋るように懇願する裃条に対し、翔はやはり冷静に突き放した。
「今後?次があると思ってるのか。めでたい頭だな。」
「お願いします!もう一度だけチャンスを……!」
「あの話は無しだ。最低限、
「しかし……!」
「二度と我が家の敷居を跨ぐな。二度と
「…………。」
伊地知は翔の剣幕にゴクリと唾を飲み、五条は頬杖をつきながら興味深そうにその様子を眺めていた。
「話は以上だ。下がれ。」
「…ミョウジさんっ!」
「もう一度だけ言う、下がれ。」
「くっ…失礼、いたします。」
すごすごと去っていく裃条を目で見送った後、伊地知は思わず止めていた息を吐き出した。
「伊地知くん、済まないね。床が少し汚れてしまったようだ。」
「いえっ!大丈夫です、お気になさらず……」
先程よりも少し柔らかいトーンで話しかけられて伊地知はどうしていいか分からずただ恐縮するばかりだった。そんな所へ横から五条の噛み殺したような声が聞こえてきた。伊地知は、嫌な予感しかしなかった。
「くっくっく……マジ暴君、聞き耳持たず。こっわ。」
「…あなた程ではないですよ。」
「裃条ってあれだろ?元貴族の家系じゃん。あの話って何?」
「……縁談です。」
「は?ナマエに?早すぎだろ。」
「子供を産むなら早い方が母体へのリスクも少ない。」
「うっわ。聞いたー?伊地知ぃ。もう平成も終わるってのに何時代の人間だよ。」
「……私に降らないでください。」
「まぁ、僕もあの裃条ってやつは反対だね。だって新人のナマエよりも弱いんでしょ?ウケる。」
舌を思いっきり出しながらウゲーっという五条を横目に、翔は大きく息を吐いた。
「ここでは作業が捗りませんので、一旦持ち帰ります。伊地知くん、また報告書は後日提出するよ。」
「は、はいっ!」
「えー、帰んの?この後飲みにいこーぜぇ!三人で!」
「え゛。」
「あなた下戸でしょう。明日も早いのでお断りします。お疲れ様でした。」
「おっお疲れ様でした!ミョウジさん!」
ガラララララ、ピシャン。
「…………」
「あの、五条さん。ほ、報告書は……」
「あ゛ぁん?」
「ひぃっ!」
「伊地知、代わりに出しといて。んじゃ、僕も帰るわ。お疲れサマンサー。」
「え?あのっ!」
ガラララララ、ピシャン。
「……くぅー。泣くな、私。」
こうしてまた一つ、伊地知の仕事が増えてしまった。