第六話 春雷
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___降神呪法 〝風神〟
『辻風 』
パンッと両手を胸の前で合わせ言霊を発したかと思うと、突然呪霊の目の前に小さな塵旋風が現れた。それは一瞬で呪霊を飲み込むほどの大きな竜巻に成長し、呪霊を巻き上げて村の奥の森林にまで吹き飛ばしてしまった。
メキメキバキバキと轟音を立てながら森の奥まで進んだ竜巻は、そのままゴゴゴゴと地響きを立てた後、大人しくなった。
息一つ切らす事なく涼やかな声色でそれをやって退けた、今現在裃条を覆う影の元を辿りゆっくりと顔を上げるとその目に写ったのは___ナマエの兄であり特別一級術師の、ミョウジ翔 だった。
紬織の着物に羽二重の羽織姿という出立ちは、現代社会では少し浮世離れの様にも感じるが、どこか気品や威厳すら醸し出されている。
兄妹と言う事もあり、顔立ちはナマエとよく似ているが。裃条を見下ろすその瞳は鋭く冷徹。その整った顔立ちが余計にその冷たさを際立たせていた。
「ミョウジ……さん……。どうして、ここ……に。」
「どうして?……それはこちらが聞きたい。どうしてたかだか二級呪霊如きにこんなに土塗れにされているのか、と。」
「ぐっ……。」
何の感情もない顔で淡々と告げる翔に、裃条からはダラダラと冷や汗が流れた。命拾いをしたはずなのに全く安堵できない所か、逆にその命が脅かされているかの様な錯覚を覚えてしまった。
「もう一つ。お前が土塗れで済んでいるのに対して、どうしてあの二人は血塗れになっている?どうして妹 が怪我をしている?」
「……っ。」
蛇に睨まれた蛙の心地だった。
「お前が家に来てほざいていたのは、とんだ戯れ言だったという訳か。」
___あなたの妹君に相応しいのは僕だと言う事を証明してみせますよ!なに、ナマエちゃんに傷一つつける事なくお返しすると約束しましょう!___
裃条は確かに兄である翔の前でそう豪語した。今回の任務は相手が二級呪霊と分かっていたし、まさかナマエに庇われる事になるなど、想定すらしていなかった。
「も…申し訳ございません……。」
「必要ない。お前の謝罪など何の意味も持たない。ただし、今後妹 の目の前に二度と顔を出すな。」
「なっ…!待って下さい!それは……」
___ガラガラガラ……
それは、崩壊した家屋から崩れるような音とともにナマエが頭から血を流しながらも自力で這い出てきた音であった。
そのすぐ後にもう一つ向こう側の家屋から恵も出てきた。二人とも血は流しているがあの攻撃の中、咄嗟に受け身を取っていたのだ。
(こいつら…化け物か……)
裃条が流石に引いていると、ナマエに気付いた恵がフラフラと近付き、すぐ隣まで歩いた後崩れるようにナマエの側に座り込んだ。二人はお互いの無事を確認した後、周りをグルリと見渡し、やっと翔の存在に気付く。
「ゲホッ!ハァ、、え?…………兄様?」
「ミョウジさん……なんで……」
兄の側に〝風神〟がいる事、辺りにあったはずの家屋がなくなり更地になっている事、そして呪霊の気配が森の奥で小さく感じられる事。それでようやく分かった。自分たちは兄に助けられたのだと。
兄の式神、〝風神〟はその名の通りかの有名な屏風画に描かれているそれと同じく風袋を持ち羽衣を靡かせる神の形を象っている。胡座をかいて宙を浮くその姿は嶮しく、神というよりも鬼の形相である。
…ナマエが受け継けつぐことができなかった、ミョウジ家相伝の術式だ。
「無様だな……ナマエ。」
「兄、様……。」
完全に萎縮してしまっているナマエを見兼ねて、代わりに恵が疑問に思っていた事を口にした。
「ミョウジさん、どうしてここにいるんですか。救援を呼んだ覚えはないし、例え裃条さん辺りが呼んだとしても到着が早すぎる。」
「伏黒君。君が側に付いていながらこの様か。君の実力だけは認めていたんだが……至極残念だ。」
「っ!質問に答えてください!」
恵が昔から感じていた事だが、この兄 とは反りが合わない。五条とはまったく違う意味で苦手な存在であり、初めからこうだった。恵はまだ気付いていないが、それは翔自身に恵に合わせる気が微塵もないからである。
「戦闘中に呑気に質問とは、随分余裕だな。」
「……っ。」
___まだ祓い終わってなどいないのに。
オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ……!!
翔が言い終わるや否や。森の奥から雄叫びがして木々を倒すメキメキという音も聞こえてくる。
ズンズンという足音は徐々に大きくなっており、こちらに戻ってきているんだろう。
「ただ吹き飛ばしただけだ。少し削りはしたが。」
「……。」
ついに姿が見えた時、その姿を見て恵は固まった。先ほどとは比べものにならないほどの呪力を携えていたからだ。
「まさか……。」
「伏黒君。状況説明を。」
「…あの呪霊は呪力攻撃を受けたり、ほかの呪霊を捕食することでその力を吸収します。ただし牙や刃物の様な鋭い攻撃なら効きました。そして…最初に相対した時は確かに二級程度だった。……でも今は。」
「なるほど。ナマエや君が梃子摺った理由がこれか。どうやらこちらからもヤツに呪力をプレゼントしているらしい。」
チラリと横目で見た方向には裃条。呪霊に裃条の残穢が感じられた為に翔にも大体の経緯が分かった。当の裃条はもうまともに言葉も発することができない。唯々震えるだけだった。
「先程の攻撃で裂傷を与えた。呪力を吸収したわけではなさそうだな。」
「……森の奥にまだ雑魚呪霊がいたのかも知れません。そいつらを全部喰らったとしたら……」
恵の話を聞いた上で翔が動こうとした時、後ろから小さくもハッキリと声がした。
「待って……下さい……!」
翔は顔を後ろに向け、ただナマエの顔を見ただけだがそれだけでナマエは一瞬詰まった。それでも負けじと続けた。
「まだ、やれます!兄様の……手は借りない……!」
兄の目をしっかり見据えて、自分の意思を告げたナマエだったが。
「驕るなよ。」
「……っ!」
翔のビリビリとした覇気でナマエは動けなくなる。たった一言。ナマエが戦意喪失するには、それだけで十分だった。
「相手と自分の力量すら見極められない半人前が偉そうに吼えるな。既にあの呪霊は一級以上の力を持っている。お前の出る幕ではない。」
___余計な事はせず大人しく見ているんだな。
そう言って先ほどとは少し違い、パンッと両手を胸の前で組んだ翔は別の式神を降ろした。
___降神呪法 〝雷神〟
『
パンッと両手を胸の前で合わせ言霊を発したかと思うと、突然呪霊の目の前に小さな塵旋風が現れた。それは一瞬で呪霊を飲み込むほどの大きな竜巻に成長し、呪霊を巻き上げて村の奥の森林にまで吹き飛ばしてしまった。
メキメキバキバキと轟音を立てながら森の奥まで進んだ竜巻は、そのままゴゴゴゴと地響きを立てた後、大人しくなった。
息一つ切らす事なく涼やかな声色でそれをやって退けた、今現在裃条を覆う影の元を辿りゆっくりと顔を上げるとその目に写ったのは___ナマエの兄であり特別一級術師の、ミョウジ
紬織の着物に羽二重の羽織姿という出立ちは、現代社会では少し浮世離れの様にも感じるが、どこか気品や威厳すら醸し出されている。
兄妹と言う事もあり、顔立ちはナマエとよく似ているが。裃条を見下ろすその瞳は鋭く冷徹。その整った顔立ちが余計にその冷たさを際立たせていた。
「ミョウジ……さん……。どうして、ここ……に。」
「どうして?……それはこちらが聞きたい。どうしてたかだか二級呪霊如きにこんなに土塗れにされているのか、と。」
「ぐっ……。」
何の感情もない顔で淡々と告げる翔に、裃条からはダラダラと冷や汗が流れた。命拾いをしたはずなのに全く安堵できない所か、逆にその命が脅かされているかの様な錯覚を覚えてしまった。
「もう一つ。お前が土塗れで済んでいるのに対して、どうしてあの二人は血塗れになっている?どうして
「……っ。」
蛇に睨まれた蛙の心地だった。
「お前が家に来てほざいていたのは、とんだ戯れ言だったという訳か。」
___あなたの妹君に相応しいのは僕だと言う事を証明してみせますよ!なに、ナマエちゃんに傷一つつける事なくお返しすると約束しましょう!___
裃条は確かに兄である翔の前でそう豪語した。今回の任務は相手が二級呪霊と分かっていたし、まさかナマエに庇われる事になるなど、想定すらしていなかった。
「も…申し訳ございません……。」
「必要ない。お前の謝罪など何の意味も持たない。ただし、今後
「なっ…!待って下さい!それは……」
___ガラガラガラ……
それは、崩壊した家屋から崩れるような音とともにナマエが頭から血を流しながらも自力で這い出てきた音であった。
そのすぐ後にもう一つ向こう側の家屋から恵も出てきた。二人とも血は流しているがあの攻撃の中、咄嗟に受け身を取っていたのだ。
(こいつら…化け物か……)
裃条が流石に引いていると、ナマエに気付いた恵がフラフラと近付き、すぐ隣まで歩いた後崩れるようにナマエの側に座り込んだ。二人はお互いの無事を確認した後、周りをグルリと見渡し、やっと翔の存在に気付く。
「ゲホッ!ハァ、、え?…………兄様?」
「ミョウジさん……なんで……」
兄の側に〝風神〟がいる事、辺りにあったはずの家屋がなくなり更地になっている事、そして呪霊の気配が森の奥で小さく感じられる事。それでようやく分かった。自分たちは兄に助けられたのだと。
兄の式神、〝風神〟はその名の通りかの有名な屏風画に描かれているそれと同じく風袋を持ち羽衣を靡かせる神の形を象っている。胡座をかいて宙を浮くその姿は嶮しく、神というよりも鬼の形相である。
…ナマエが受け継けつぐことができなかった、ミョウジ家相伝の術式だ。
「無様だな……ナマエ。」
「兄、様……。」
完全に萎縮してしまっているナマエを見兼ねて、代わりに恵が疑問に思っていた事を口にした。
「ミョウジさん、どうしてここにいるんですか。救援を呼んだ覚えはないし、例え裃条さん辺りが呼んだとしても到着が早すぎる。」
「伏黒君。君が側に付いていながらこの様か。君の実力だけは認めていたんだが……至極残念だ。」
「っ!質問に答えてください!」
恵が昔から感じていた事だが、この
「戦闘中に呑気に質問とは、随分余裕だな。」
「……っ。」
___まだ祓い終わってなどいないのに。
オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ……!!
翔が言い終わるや否や。森の奥から雄叫びがして木々を倒すメキメキという音も聞こえてくる。
ズンズンという足音は徐々に大きくなっており、こちらに戻ってきているんだろう。
「ただ吹き飛ばしただけだ。少し削りはしたが。」
「……。」
ついに姿が見えた時、その姿を見て恵は固まった。先ほどとは比べものにならないほどの呪力を携えていたからだ。
「まさか……。」
「伏黒君。状況説明を。」
「…あの呪霊は呪力攻撃を受けたり、ほかの呪霊を捕食することでその力を吸収します。ただし牙や刃物の様な鋭い攻撃なら効きました。そして…最初に相対した時は確かに二級程度だった。……でも今は。」
「なるほど。ナマエや君が梃子摺った理由がこれか。どうやらこちらからもヤツに呪力をプレゼントしているらしい。」
チラリと横目で見た方向には裃条。呪霊に裃条の残穢が感じられた為に翔にも大体の経緯が分かった。当の裃条はもうまともに言葉も発することができない。唯々震えるだけだった。
「先程の攻撃で裂傷を与えた。呪力を吸収したわけではなさそうだな。」
「……森の奥にまだ雑魚呪霊がいたのかも知れません。そいつらを全部喰らったとしたら……」
恵の話を聞いた上で翔が動こうとした時、後ろから小さくもハッキリと声がした。
「待って……下さい……!」
翔は顔を後ろに向け、ただナマエの顔を見ただけだがそれだけでナマエは一瞬詰まった。それでも負けじと続けた。
「まだ、やれます!兄様の……手は借りない……!」
兄の目をしっかり見据えて、自分の意思を告げたナマエだったが。
「驕るなよ。」
「……っ!」
翔のビリビリとした覇気でナマエは動けなくなる。たった一言。ナマエが戦意喪失するには、それだけで十分だった。
「相手と自分の力量すら見極められない半人前が偉そうに吼えるな。既にあの呪霊は一級以上の力を持っている。お前の出る幕ではない。」
___余計な事はせず大人しく見ているんだな。
そう言って先ほどとは少し違い、パンッと両手を胸の前で組んだ翔は別の式神を降ろした。
___降神呪法 〝雷神〟