第五話 過信
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___ダムの建設予定地っス。元々人口の少なかった集落で農業を生業とした人たちが住んでたんすけど。若い人はどんどん都会へと出て行って……はい、その通りっス。
今は誰も住んでないんスけど、その廃村の空き家から不気味な声が聞こえるって噂がどこかから出てきて、所謂心霊スポットになっちゃったんスよね。追い出された住民の怨念だとか何とか。住んでた人たちは普通に引っ越しただけなんスけどね。
まだ家屋の取り壊しすら始まってないんで、その空き家に泊まって肝試しするのが流行っちゃったっス。
一般人の行方不明情報が上がってき出したんで、関係者が調査したら、やはりというか呪霊が確認されたっス。
問題は、数っスね。報告では少なくとも30体以上。
その中に二級相当も確認されたんで、数が多いことも考慮して、こうやって人数を増やして二級術師三名で向かう事が決まったっス。
山間の集落なんで今回は帳は下ろしません。まぁ広範囲で全部を覆う帳は無理っすね。行方不明者が出た事で立ち入り禁止になったし人は来ないでしょう。
…え?空き家っスか?そりゃどうせ壊すんで問題ないと思うっスけど。どんだけ派手にやるつもりっスか…___
新田の言う通り周りを山で囲まれたその場所は、いかにも田舎の集落、といった感じだった。殆どが田畑で、間隔を空けて所々にポツポツと木造の平家がある。今は誰も住んでいないからか。長閑な環境のはずなのにどこか不気味だ。
集落の入り口に車を止めて、新田と別れ三人はその地に足を踏み入れたが、その瞬間ピリッと空気が変わったのが分かった。
「いますね、至る所に。それに空気が変わった。生得領域ってとこですかね。」
「気配も多いし空き家の裏からこっち見てるのもいるね。襲ってくる様子は無さそうだけど。」
「あの辺は雑魚ばっかりだね。いちいち祓っていては体力の無駄だろう。先に二級らしき奴を探そうか。」
新田から聞いた通りで、確かに数が多い。既に大小含めて30体以上は見かけた。恐らく奥に行けばもっとたくさん居るんだろう。二級を先に片付けてから低級をまとめて潰す方が良さそうだ。
出発時に一悶着あったものの、さすがに任務にまで持ち込むわけにはいかない。そこは裃条も成人した大人である。切り替えてくれて良かった、と恵たちも内心安堵した。
「ところでナマエちゃん。君の能力は呪力を風に変えることができるらしいね?」
「…そうですけど。」
ホッとしていた所へ突然能力について聞いてきた裃条に訝しげに返事をしたナマエだったが、裃条は特に気にする事なく笑顔で続けた。
「僕の能力もね、風だよ。運命だと思わないかい?」
「…………。」
隣を歩く恵は横目でチラッとナマエの方を見たが、なんとも言えない顔をしていた。
自慢気に自分の能力を話しているがよくよく聞いているともしかして、と思う。風を相手にぶつけて攻撃したり自身を風の幕で覆って防御したり、という使い方らしいが、ナマエの能力 より…何というか。
恐らく、ナマエの物には及ばない。つまり、ナマエの能力は裃条 の上位互換だということだ。
裃条との一番の違いは、形状変化ができる所だ。鋭い刃状に変えたり、気圧を変えて相手を押し潰したり極限まで圧縮した風を解き放つことで裂傷を与える事ができたりと、割と万能だ。
それに比べて裃条は、風に変える『だけ』のようだった。
(……言うなよ。)
恵が目で伝えると、ナマエはコクコクと頷いた。こいつもちゃんと分かったようだ。
この手のタイプはプライドが高い。余計な事は言わないに限る。
裃条の話を適当に相槌を打ちつつ聞きながらしばらく奥へ進むと、他の家屋に比べて大きめの立派な日本家屋が見えて来た。この集落の長の家だったのかもしれない。
そこからは他とは違う気配を感じる事ができた。
「おや、やっとお出ましかな?」
屋根の上に居たのは、熊のような出立ちに鎌のような両腕を持った不気味な姿の呪霊だった。
恵とナマエがスッと構えると、それを裃条が制した。
「こいつは僕に任せてくれないかな?ナマエちゃん、君のお兄さんにいい所を見せて点数を稼がないといけないんだ。君たちは周りの雑魚たちを見ていてくれ。何故だかあの呪霊の周りに集まって来ているからね。」
そう言って両腕を前に突き出して手で円を作り構えた。目の前の呪霊は報告通り確かに二級だろう。三人がかりで向かう必要はないと思った二人は「お願いします。」と告げて二級呪霊だけでなく自分たちの周りも取り囲み始めた低級の呪霊に向かって構えた。
屋根の上から飛び降りて鎌の様な両腕を振り翳しながら近づく呪霊に、裃条は大きく息を吸った後、両手に呪力を込めそのまま真っ直ぐ呪霊に向かって大砲のようにして風をぶつけた。
___ドォォォォン……バキバキバキバキ!!
まっすぐ向かった風は呪霊にぶつかり、そのまま真後ろの家屋に呪霊を突っ込ませた。激しい音をたてたそこは、土埃を濛々と立ち込めさせた。
「これで終わりではないだろう?まだほんの小手調べだ。それでも腕くらいは吹き飛んだかな?」
会話が成り立つはずもない呪霊に対して悦に入った様子で語りかける裃条は、土埃が収まり、姿を表した呪霊を見て、目を見開くことになる。
「……なに?」
オコメ……オ……コメ……!
裃条が驚いたのは、出てきた呪霊がまるで無傷だったから。
「おや…少し手加減しすぎたかな。じゃあもう少し出力を上げてあげるよ。」
そう言ってもう一度両腕を構えた。
その様子を「さすが農家に出た呪い。お米って。」と呑気な事を突っ込みながら見ていたナマエは、ふと違和感を感じた。
無傷だったのは確かに威力が足りなかったのかもしれないが、それだけじゃない。
恵も気づいたのか、裃条に「ちょっと待って下さい!」と叫んだが、間に合わなかった。裃条は先ほどよりも強く風を打ち出して攻撃をしてしまった。
これも呪霊にストレートにぶつかりまた大きな音を立てたが、今度は呪霊はビクともしなかった。
(…やっぱりか。)
先程より呪力が強くなった、いや、呪力の増えた呪霊を見て恵もナマエも気づいた。
(この呪霊…呪力を吸収してやがる。)
オコメっ!オコメっ!
その場でその巨体でジャンプしながらまるで喜んでいるかのように奇声を発する呪霊を見て、裃条もやっと違和感に気づいたようだ。
「くそっ!…これならどうだ!!!」
「っ!駄目です!!そいつは…!!」
ドォォォン!ドォォォン!ドォォォン!………
恵たちの叫びは聞こえていないのか、焦ったように見える裃条は更に強力な攻撃を連続で放ってしまった。
(そんなに大量に放ったら……相手を強くしちまうだけだ!)
「はぁ、はぁ、これなら流石に………っな!?なぜだ!!なぜ倒れない!」
大量の呪力を一度に消費した裃条はすぐに動けなかった。そして目の前までやってきて両腕の鎌を今にも振り下ろそうとする呪霊に反応もできなかった。
「っ!!!」
「裃条さん!!!」
___ザンッ!!
鎌が振り下ろされる瞬間、思わず目を瞑って両腕で眼前を防御するような姿勢になった裃条だったが、いつまでたっても自信に衝撃や痛みが襲ってくることはなかった。
「っ!……無事………ですか?」
そっと目を開くと、そこにあったのは両手を前に突き出し風の壁を作ったナマエの後ろ姿だった。
今は誰も住んでないんスけど、その廃村の空き家から不気味な声が聞こえるって噂がどこかから出てきて、所謂心霊スポットになっちゃったんスよね。追い出された住民の怨念だとか何とか。住んでた人たちは普通に引っ越しただけなんスけどね。
まだ家屋の取り壊しすら始まってないんで、その空き家に泊まって肝試しするのが流行っちゃったっス。
一般人の行方不明情報が上がってき出したんで、関係者が調査したら、やはりというか呪霊が確認されたっス。
問題は、数っスね。報告では少なくとも30体以上。
その中に二級相当も確認されたんで、数が多いことも考慮して、こうやって人数を増やして二級術師三名で向かう事が決まったっス。
山間の集落なんで今回は帳は下ろしません。まぁ広範囲で全部を覆う帳は無理っすね。行方不明者が出た事で立ち入り禁止になったし人は来ないでしょう。
…え?空き家っスか?そりゃどうせ壊すんで問題ないと思うっスけど。どんだけ派手にやるつもりっスか…___
新田の言う通り周りを山で囲まれたその場所は、いかにも田舎の集落、といった感じだった。殆どが田畑で、間隔を空けて所々にポツポツと木造の平家がある。今は誰も住んでいないからか。長閑な環境のはずなのにどこか不気味だ。
集落の入り口に車を止めて、新田と別れ三人はその地に足を踏み入れたが、その瞬間ピリッと空気が変わったのが分かった。
「いますね、至る所に。それに空気が変わった。生得領域ってとこですかね。」
「気配も多いし空き家の裏からこっち見てるのもいるね。襲ってくる様子は無さそうだけど。」
「あの辺は雑魚ばっかりだね。いちいち祓っていては体力の無駄だろう。先に二級らしき奴を探そうか。」
新田から聞いた通りで、確かに数が多い。既に大小含めて30体以上は見かけた。恐らく奥に行けばもっとたくさん居るんだろう。二級を先に片付けてから低級をまとめて潰す方が良さそうだ。
出発時に一悶着あったものの、さすがに任務にまで持ち込むわけにはいかない。そこは裃条も成人した大人である。切り替えてくれて良かった、と恵たちも内心安堵した。
「ところでナマエちゃん。君の能力は呪力を風に変えることができるらしいね?」
「…そうですけど。」
ホッとしていた所へ突然能力について聞いてきた裃条に訝しげに返事をしたナマエだったが、裃条は特に気にする事なく笑顔で続けた。
「僕の能力もね、風だよ。運命だと思わないかい?」
「…………。」
隣を歩く恵は横目でチラッとナマエの方を見たが、なんとも言えない顔をしていた。
自慢気に自分の能力を話しているがよくよく聞いているともしかして、と思う。風を相手にぶつけて攻撃したり自身を風の幕で覆って防御したり、という使い方らしいが、ナマエの
恐らく、ナマエの物には及ばない。つまり、ナマエの能力は
裃条との一番の違いは、形状変化ができる所だ。鋭い刃状に変えたり、気圧を変えて相手を押し潰したり極限まで圧縮した風を解き放つことで裂傷を与える事ができたりと、割と万能だ。
それに比べて裃条は、風に変える『だけ』のようだった。
(……言うなよ。)
恵が目で伝えると、ナマエはコクコクと頷いた。こいつもちゃんと分かったようだ。
この手のタイプはプライドが高い。余計な事は言わないに限る。
裃条の話を適当に相槌を打ちつつ聞きながらしばらく奥へ進むと、他の家屋に比べて大きめの立派な日本家屋が見えて来た。この集落の長の家だったのかもしれない。
そこからは他とは違う気配を感じる事ができた。
「おや、やっとお出ましかな?」
屋根の上に居たのは、熊のような出立ちに鎌のような両腕を持った不気味な姿の呪霊だった。
恵とナマエがスッと構えると、それを裃条が制した。
「こいつは僕に任せてくれないかな?ナマエちゃん、君のお兄さんにいい所を見せて点数を稼がないといけないんだ。君たちは周りの雑魚たちを見ていてくれ。何故だかあの呪霊の周りに集まって来ているからね。」
そう言って両腕を前に突き出して手で円を作り構えた。目の前の呪霊は報告通り確かに二級だろう。三人がかりで向かう必要はないと思った二人は「お願いします。」と告げて二級呪霊だけでなく自分たちの周りも取り囲み始めた低級の呪霊に向かって構えた。
屋根の上から飛び降りて鎌の様な両腕を振り翳しながら近づく呪霊に、裃条は大きく息を吸った後、両手に呪力を込めそのまま真っ直ぐ呪霊に向かって大砲のようにして風をぶつけた。
___ドォォォォン……バキバキバキバキ!!
まっすぐ向かった風は呪霊にぶつかり、そのまま真後ろの家屋に呪霊を突っ込ませた。激しい音をたてたそこは、土埃を濛々と立ち込めさせた。
「これで終わりではないだろう?まだほんの小手調べだ。それでも腕くらいは吹き飛んだかな?」
会話が成り立つはずもない呪霊に対して悦に入った様子で語りかける裃条は、土埃が収まり、姿を表した呪霊を見て、目を見開くことになる。
「……なに?」
オコメ……オ……コメ……!
裃条が驚いたのは、出てきた呪霊がまるで無傷だったから。
「おや…少し手加減しすぎたかな。じゃあもう少し出力を上げてあげるよ。」
そう言ってもう一度両腕を構えた。
その様子を「さすが農家に出た呪い。お米って。」と呑気な事を突っ込みながら見ていたナマエは、ふと違和感を感じた。
無傷だったのは確かに威力が足りなかったのかもしれないが、それだけじゃない。
恵も気づいたのか、裃条に「ちょっと待って下さい!」と叫んだが、間に合わなかった。裃条は先ほどよりも強く風を打ち出して攻撃をしてしまった。
これも呪霊にストレートにぶつかりまた大きな音を立てたが、今度は呪霊はビクともしなかった。
(…やっぱりか。)
先程より呪力が強くなった、いや、呪力の増えた呪霊を見て恵もナマエも気づいた。
(この呪霊…呪力を吸収してやがる。)
オコメっ!オコメっ!
その場でその巨体でジャンプしながらまるで喜んでいるかのように奇声を発する呪霊を見て、裃条もやっと違和感に気づいたようだ。
「くそっ!…これならどうだ!!!」
「っ!駄目です!!そいつは…!!」
ドォォォン!ドォォォン!ドォォォン!………
恵たちの叫びは聞こえていないのか、焦ったように見える裃条は更に強力な攻撃を連続で放ってしまった。
(そんなに大量に放ったら……相手を強くしちまうだけだ!)
「はぁ、はぁ、これなら流石に………っな!?なぜだ!!なぜ倒れない!」
大量の呪力を一度に消費した裃条はすぐに動けなかった。そして目の前までやってきて両腕の鎌を今にも振り下ろそうとする呪霊に反応もできなかった。
「っ!!!」
「裃条さん!!!」
___ザンッ!!
鎌が振り下ろされる瞬間、思わず目を瞑って両腕で眼前を防御するような姿勢になった裃条だったが、いつまでたっても自信に衝撃や痛みが襲ってくることはなかった。
「っ!……無事………ですか?」
そっと目を開くと、そこにあったのは両手を前に突き出し風の壁を作ったナマエの後ろ姿だった。