第八十一話 確信
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東堂が東京高専で余計なことをしでかしたその日の夜。
___ここは、高専関係者の中でもごく一部のものしか知らない、秘匿された場所である。とは言っても建物自体は何の変哲も無く、これといった特徴も無い。高専の敷地内で目立つわけでも逆に隠されているわけでもない、周りと似たり寄ったりな建物の内の一つだ。
だからこそ誰の目にも止まることがなく、ましてや学生たちはこの建物の存在すら認識していないだろう。
それもそのはず。何の変哲もないこの建物の存在を更に希薄にしているのは___扉の前で印を組み、自分が通るスペースの分だけ結界に隙間を作った___五条悟の仕業だ。
“万が一”の為に建物全体に結界を施したことで、ただでさえ認識されにくかったこの場所は、五条と伊地知、そしてある学生1人以外は知る由がないのだ。だが、この場所を知る人物が一人増えてしまった。
(うまく隠してたつもりだったんだけどなぁ。)
内心独り言ちながら何の変哲もない目の前の扉を開いた五条は、扉のすぐ目の前の階段をゆっくりと降りて行った。外観と違い特殊な構造のこの建物は、なぜか入ってすぐに地下へと続く階段に繋がる。
カツン___カツン___
靴音を静かに響かせながら、五条は先程電話でやり取りした少女との会話を思い出していた。会って話したいと言われたが、あいにく夜は“こちら”に出向く必要があるため電話で済ませるしかなかった。
*
『悟くん、お願いがあるの。』
『だーーめ。』
『……まだ何も言ってないんだけど。』
『聞かなくてもわかるさ。今日のことは硝子から聞いた。……交流会への参加は許可できないよ。』
『……。』
『ナマエ、今オマエがやるべき最優先事項は?』
『……言われなくても分かってるよ。』
『分かってたらそんなこと言い出さないでしょうよ。……ナマエ。その場の感情で目的を見失うな。自分の置かれている立場を考えろ。』
『…………。』
東堂と恵との間の諍い、そこへ割り込んだナマエ。聞いた限りではナマエのキレっぷりは相当だったらしく、そんなことがあった当日に“お願い”だなんて、ナマエの考えなど五条には手に取るように分かった。
翔の呪いをうまくコントロールできない今のナマエを他の生徒たちと同じ舞台に上げるわけにはいかないし、何よりナマエは秘匿死刑を保留にされている身である。術式の方のコントロールは順調とはいえ、不安定な翔の呪いは他の生徒へ危害を加える可能性だってある。更に言うと、五条の見立てではナマエの実力は既に一級クラスと言っても過言ではない。そうなると交流会でのパワーバランスにも影響が出てしまう。京都側にも一級の東堂が居るが、そこは階段の先に居る“ダークホース”を交流会に間に合わせる予定なので問題なしだ。
スマホ越しにでもムスッと口を尖らせるナマエの表情がありありと想像が出来て五条は思わずフッと息を吐きだした。
『……何笑ってんの。』
『いいや?オマエの性格なら「交流会なんてめんどくさいから出なくてよくなってラッキー」とか言いそうなのにね。』
『こっちにも事情があるの!』
『ハイハイ、でも参加はやっぱりダメだよ。当日ナマエは七海の任務に同行。これはもう決定事項。』
『……もういいよ。悟くんのケチ!白髪!六眼!最強!無駄イケメン!』
『それは悪口なの?つーか無駄って……ひどくない?とにかく何を言ってもダメだからね。あ、七海に泣きついても意味ないから。』
『……チッ。じゃあもう一個。聞きたいことがあるの。』
『今舌打ちした??』
『悟くん、私…っていうかみんなに隠してることあるよね。』
『え?無視??ナマエちゃん、無視?』
*
灯のない階段を進むと開けた場所に出る。真っ暗な部屋でテレビ画面の灯りと音だけが目立つこの室内でこちらに背を向けてソファに寝ころびながらDVDを真剣に見ているのは___
「悠二。」
「うおっ!……なんだ、五条せんせーか。」
「お、安定してるじゃん。だいぶ殴られなくなってきたねー。」
「うん、なんかコツ掴んできたカンジ!」
嬉しそうにぬいぐるみの両脇を抱えて持ち上げたのは……あの日、少年院での一件で命を落としたはずの、虎杖悠二本人だ。手に持っているぬいぐるみは少し前にナマエも修行で使っていた、夜蛾特製の訓練用呪骸、『ツカモト』。虎杖は一度は確実に死んだ。間違いなく死んだのだ。だが、宿儺との制約と力によりまさかの復活を遂げていた。“制約”については虎杖本人も今は『忘れて』いるが、とにかく息をしているし、心臓も動いている。
「せんせー?どったの?」
何も話さずじっと見ていた五条を不思議に思ったのか虎杖が首を傾げながら訊ねてきた。そんなにじろじろと見たつもりはなかったのだが、どうやら考え事をしながら虎杖を見つめていたようだった。
「いやー、そろそろ修行のレベル上げてもいいんじゃないかなって考えてたんだよ。悠二もずっとDVDばっかってのもつまんないでしょ?」
「いやそれがさぁ、この修行のおかげで俺、映画にハマったっぽいんだよね。」
「へー、新たな趣味を見つけたってことだね。よかったじゃん!」
「おぅ!落ち着いたら映画館巡りとかしたいもん。」
「いいねいいね!それはそうと悠二。」
「ん?」
「ナマエにオマエが生きてることバレちゃった。」
「……なんて?」
「ナマエに、悠二が生きてるって、バレちゃったっていうより、バレてたの。」
映画の話をしていたはずなのにまるでその延長の話のようにさらっと爆弾を放り込んできた。聞き返した虎杖に今度は言い聞かせるように一区切り一区切りしっかり言われた。一瞬耳を疑ったが、こういうヘラヘラした顔で話す五条は、割とガチの話をすることがある、とここ最近の付き合いで分かってきた虎杖はゴクリと唾を呑んだ。
「……マジ?」
「大マジ。」
「なんでバレたの?俺どっかで見られた?」
「あー……ある意味そうかもね。」
「え!だってここから出てもすぐに伊地知さんの車に乗ってるし、一人でここから出たこともねぇよ!?」
「そうだねぇ。」
「見られる可能性0に近いはずなんだけど。」
「うんだから、見られたのは……悠二の、いや…宿儺の呪力だよ。」
___ここは、高専関係者の中でもごく一部のものしか知らない、秘匿された場所である。とは言っても建物自体は何の変哲も無く、これといった特徴も無い。高専の敷地内で目立つわけでも逆に隠されているわけでもない、周りと似たり寄ったりな建物の内の一つだ。
だからこそ誰の目にも止まることがなく、ましてや学生たちはこの建物の存在すら認識していないだろう。
それもそのはず。何の変哲もないこの建物の存在を更に希薄にしているのは___扉の前で印を組み、自分が通るスペースの分だけ結界に隙間を作った___五条悟の仕業だ。
“万が一”の為に建物全体に結界を施したことで、ただでさえ認識されにくかったこの場所は、五条と伊地知、そしてある学生1人以外は知る由がないのだ。だが、この場所を知る人物が一人増えてしまった。
(うまく隠してたつもりだったんだけどなぁ。)
内心独り言ちながら何の変哲もない目の前の扉を開いた五条は、扉のすぐ目の前の階段をゆっくりと降りて行った。外観と違い特殊な構造のこの建物は、なぜか入ってすぐに地下へと続く階段に繋がる。
カツン___カツン___
靴音を静かに響かせながら、五条は先程電話でやり取りした少女との会話を思い出していた。会って話したいと言われたが、あいにく夜は“こちら”に出向く必要があるため電話で済ませるしかなかった。
*
『悟くん、お願いがあるの。』
『だーーめ。』
『……まだ何も言ってないんだけど。』
『聞かなくてもわかるさ。今日のことは硝子から聞いた。……交流会への参加は許可できないよ。』
『……。』
『ナマエ、今オマエがやるべき最優先事項は?』
『……言われなくても分かってるよ。』
『分かってたらそんなこと言い出さないでしょうよ。……ナマエ。その場の感情で目的を見失うな。自分の置かれている立場を考えろ。』
『…………。』
東堂と恵との間の諍い、そこへ割り込んだナマエ。聞いた限りではナマエのキレっぷりは相当だったらしく、そんなことがあった当日に“お願い”だなんて、ナマエの考えなど五条には手に取るように分かった。
翔の呪いをうまくコントロールできない今のナマエを他の生徒たちと同じ舞台に上げるわけにはいかないし、何よりナマエは秘匿死刑を保留にされている身である。術式の方のコントロールは順調とはいえ、不安定な翔の呪いは他の生徒へ危害を加える可能性だってある。更に言うと、五条の見立てではナマエの実力は既に一級クラスと言っても過言ではない。そうなると交流会でのパワーバランスにも影響が出てしまう。京都側にも一級の東堂が居るが、そこは階段の先に居る“ダークホース”を交流会に間に合わせる予定なので問題なしだ。
スマホ越しにでもムスッと口を尖らせるナマエの表情がありありと想像が出来て五条は思わずフッと息を吐きだした。
『……何笑ってんの。』
『いいや?オマエの性格なら「交流会なんてめんどくさいから出なくてよくなってラッキー」とか言いそうなのにね。』
『こっちにも事情があるの!』
『ハイハイ、でも参加はやっぱりダメだよ。当日ナマエは七海の任務に同行。これはもう決定事項。』
『……もういいよ。悟くんのケチ!白髪!六眼!最強!無駄イケメン!』
『それは悪口なの?つーか無駄って……ひどくない?とにかく何を言ってもダメだからね。あ、七海に泣きついても意味ないから。』
『……チッ。じゃあもう一個。聞きたいことがあるの。』
『今舌打ちした??』
『悟くん、私…っていうかみんなに隠してることあるよね。』
『え?無視??ナマエちゃん、無視?』
*
灯のない階段を進むと開けた場所に出る。真っ暗な部屋でテレビ画面の灯りと音だけが目立つこの室内でこちらに背を向けてソファに寝ころびながらDVDを真剣に見ているのは___
「悠二。」
「うおっ!……なんだ、五条せんせーか。」
「お、安定してるじゃん。だいぶ殴られなくなってきたねー。」
「うん、なんかコツ掴んできたカンジ!」
嬉しそうにぬいぐるみの両脇を抱えて持ち上げたのは……あの日、少年院での一件で命を落としたはずの、虎杖悠二本人だ。手に持っているぬいぐるみは少し前にナマエも修行で使っていた、夜蛾特製の訓練用呪骸、『ツカモト』。虎杖は一度は確実に死んだ。間違いなく死んだのだ。だが、宿儺との制約と力によりまさかの復活を遂げていた。“制約”については虎杖本人も今は『忘れて』いるが、とにかく息をしているし、心臓も動いている。
「せんせー?どったの?」
何も話さずじっと見ていた五条を不思議に思ったのか虎杖が首を傾げながら訊ねてきた。そんなにじろじろと見たつもりはなかったのだが、どうやら考え事をしながら虎杖を見つめていたようだった。
「いやー、そろそろ修行のレベル上げてもいいんじゃないかなって考えてたんだよ。悠二もずっとDVDばっかってのもつまんないでしょ?」
「いやそれがさぁ、この修行のおかげで俺、映画にハマったっぽいんだよね。」
「へー、新たな趣味を見つけたってことだね。よかったじゃん!」
「おぅ!落ち着いたら映画館巡りとかしたいもん。」
「いいねいいね!それはそうと悠二。」
「ん?」
「ナマエにオマエが生きてることバレちゃった。」
「……なんて?」
「ナマエに、悠二が生きてるって、バレちゃったっていうより、バレてたの。」
映画の話をしていたはずなのにまるでその延長の話のようにさらっと爆弾を放り込んできた。聞き返した虎杖に今度は言い聞かせるように一区切り一区切りしっかり言われた。一瞬耳を疑ったが、こういうヘラヘラした顔で話す五条は、割とガチの話をすることがある、とここ最近の付き合いで分かってきた虎杖はゴクリと唾を呑んだ。
「……マジ?」
「大マジ。」
「なんでバレたの?俺どっかで見られた?」
「あー……ある意味そうかもね。」
「え!だってここから出てもすぐに伊地知さんの車に乗ってるし、一人でここから出たこともねぇよ!?」
「そうだねぇ。」
「見られる可能性0に近いはずなんだけど。」
「うんだから、見られたのは……悠二の、いや…宿儺の呪力だよ。」