第八十話 悪態
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「アンタ達、交流会はこんなもんじゃ済まないわよ。」
「何勝った感出してんだ!!制服置いてけゴラァ!!」
「やめとけ馬鹿。ここじゃ勝っても負けても貧乏クジだ。交流会でボコボコにすんぞ。」
野薔薇サイド。丸腰の野薔薇は終始やられっぱなしだったが幸いおろしたてのジャージに穴を開けられまくっただけで泥だらけ擦り傷だらけにはなったが大した怪我にはならなかった。
そこへ、優位に立っている気の真依の元へ現れたのは、双子の姉である真希。パンダと手分けしてそれぞれの現場へ向かったのは間違いではなかったな、と倒れている野薔薇を見て真希はため息を吐いた。
幼い頃は仲の良い姉妹だった2人も、いつの頃からか……いや、2人が高専へ入学する頃から軋轢が生まれ、今となっては犬猿の仲の様になってしまった。どちらかというと真依の方が噛み付いてくる傾向があったが、真希の方もついつい悪態に悪態で返すため悪化の一途を辿っていた。
――そして
悪態合戦の末に真依の負け惜しみの様な発言を聞き流し、今に至る。東堂がこちらへ来たことで恵の身を案じた野薔薇だったが、パンダと棘が向かったと聞き胸を撫で下ろした。
と、そこで真希のスマホが震えた。
「お、パンダだ。……恵は無事だ。血塗れのボロカスらしいが。」
「は!?やっぱりやられてんじゃない!」
「……ナマエが。」
「ナマエ?あの子も居たの?え、まさかナマエも……!」
「いや……ブチギレたナマエが暴れて、東堂に喧嘩売られて?」
「はぁ!?」
「なんやかんやで今こっち向かってるってさ。」
「なんやかんやって何よ!」
「私が知るか。」
「ナマエは無事なの!?」
「だから私に聞くな。こっち向かってんなら大丈夫じゃねーの?」
恵の時よりも一層慌てる野薔薇に真希はやれやれと息を吐いた。それもそうだ。恵を軽々とぶっ飛ばしたあんな筋肉ゴリラが相手ではナマエが噛み付いて無事で済むとは野薔薇には到底思えなかったから。
「野薔薇ちゃん!真希ちゃん!!」
そんな時背後から焦った様に声をかけ駆け寄ってきたのは、まさに話題の人、ナマエ。見る限りでは怪我どころか傷一つ付いていない様子で野薔薇はホッとした――のも束の間。
野薔薇のジャージのボロボロ具合を見たナマエはカッと目を見開いて野薔薇に駆け寄りガシッと両肩を掴んで詰め寄ってきた。
「野薔薇ちゃん!その格好…!誰にやられたの!?あのクソゴリラ!?」
「クソゴリ……いや、これは……」
「まじなんなのアイツ!調子乗って恵をボロカスにした上に野薔薇ちゃんまで……!」
「いや、これはね、」
「あ。まだ敷地内にいるね、ちょっと待ってて野薔薇ちゃん。」
「ちょっ、ナマエ……落ち着……」
「大丈夫だよ、一発殴ってくるだけだから。」
「いやいや、アンタ一発て……」
「足りない?そっか、そうだよね!わかった!じゃあ2、3ぱ……い゛っ!?」
「落ち着け。あと、やかましい。」
いつもと違いすぎるナマエの様子に目を白黒させながらされるがままの野薔薇に、東堂の仕業だと思い込んで突っ走りそうになるナマエ。珍しくナマエに圧倒され弱弱しく突っ込むことしかできない野薔薇の代わりにナマエの暴走を止めたのは、呆れた様に2人の様子を眺めていた真希だった。
愛用の武器でコツンと頭を小突きナマエを制した。いや、そんな可愛らしいものではなかった。ゴチンといい音がしたし、ナマエの目にチカチカと星が散るレベルの強打だった。
「痛…………ったい……」
「痛くしたからな。」
これが漫画やアニメであれば頭頂部は餅のようにたんこぶが膨らんでいるだろう。ナマエは涙目で頭を摩っているがおかげでやっと落ち着いたようだ。
「ひどい……」
「オマエがうるせーからだよ!」
「つーかナマエ、アンタなんでここに?今日も練武場じゃなかったっけ?」
「あー……医務室いたら外が騒がしくなってさ、嫌な予感して現場行ったらあのクソゴリラが暴れて恵がボロカスにやられてて。思わず割り込んだんだけど……」
「アンタよくそれで無事だったわね……」
「パンダくんたちに止められた。……おかげで殴り損ねたよ。」
「「へぇー……」」
舌打ちをかましながら忌々しく毒を吐くナマエ。野薔薇と真希は曖昧な返事しかできなかった。理由はもちろん2人にもすぐに分かったが、何せナマエの口が悪すぎる。
「で、野薔薇ちゃんは誰にやられたの。クソゴリラじゃないとしたらまさか……」
「真依だよ。」
「……やっぱり。」
東堂じゃないとしたら他には選択肢は無いのだが、ナマエの表情を見る限り分かっても認めたくはない、と言った様子だ。
「なんでだろ……昔から真依ちゃん、真希ちゃんはともかく私に対して謎に当たりが強かったけど無闇矢鱈に誰かを傷つけたりするような人じゃないのに……」
「私はともかくってなんだよ。」
「何、アンタいじめられてたの?」
「うーん、なんか嫌われてた?のかな?そう言えばなんでだったんだろ。」
「「……」」
――そんなもん、恵(伏黒)絡みに決まってんだろ(でしょ)――
間違いなくそれに違いないことは今日初めて会った野薔薇でさえ分かった。純粋に疑問符を浮かべるナマエが不憫で仕方ない2人だったが、ここは真希の名誉の為にお互い口にすることはなかった。野薔薇にとって真依は既に『イケすかないやつ』認定されていたが、それはそれだ。野薔薇もそこまで野暮ではない。
「ん゛ん゛っ……とりあえず、医務室行くぞ。」
「あっ!そうだよね!ごめんね野薔薇ちゃん!痛いよね!」
「ジャージにバカスカ穴開けられたけど傷はたいしたことないわよ。ただの擦り傷。」
「それでも一応診てもらった方がいいよ!」
「そーね。」
真希に続いて医務室の方へ足を向けたナマエは、ここではたと気がついた。
「あー……野薔薇ちゃん、私はそろそろ練武場にもどるね。」
「え?なんで?」
「真希ちゃん、野薔薇ちゃんのことお願いしてもいい?」
「……分かった。ほら野薔薇、行くぞ。」
「え、あ……はーい。ナマエ!来てくれてありがとう!またあとでメッセ送るわ!」
「うん!分かった!」
(真希ちゃん、ありがと。)
笑顔でヒラヒラと手を振りながらナマエは内心で真希に感謝していた。あの一言で真希はすぐに理解してくれた。
医務室にはきっと恵も向かっている。自分が行けばまた兄が反応してしまうだろう。そう思い遠慮した。本当はナマエだって一緒に医務室に行って付き添いたかった。でもそれは叶わない。
兄の呪いを解呪しない限り、こういったことがずっと続くのだ。ナマエがすべきことは、1日でも早く解呪をすること。単純明快、分かりきっていることだ。
――けれど。
(悟くんに、相談しよう。)
そもそもナマエは、五条には聞きたいことがあった。というよりは、確信していることの答え合わせといったところか。だが今日の一件で、もう一つ五条に掛け合うべき話が増えた。
今日の夜にでも連絡しよう、そう思いながら練武場に向けて足を動かした。
ちなみに、棘はそのまま恵に付き添ったため、練武場に戻ったのはナマエ1人。結局1人ではまともな修行にならず、早々に部屋に戻ることになってしまった。
被呪というキッカケがなければ己の力に気づくこともなく、誰かの助けがなければ修行すらままならない。恵が理不尽にも傷つけられたことで先程まで本気で東堂を殴ってやるつもりだったが、パンダ達が止めなければ確実に暴走していたことだろう。ナマエにとって、つくづく1人では何もできないのだと思い知った最悪な1日となった。