第七十九話 横槍
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地面に呆気なく転がされた恵は、体勢を立て直しながらふと思い出した。東堂という男について。
去年起きた呪詛師夏油による未曾有の呪術テロ。京都の夜行に現れた一級呪霊5体、特級呪霊1体を一人で祓ったというのが当時高専2年だったこの東堂である。
だが、特級に勝てる一級が居るのは何もおかしいことではない。一級術師にだって当然実力差はあるし、その特級との術式の相性もあるだろう。
在学中に既に一級を冠しているのも、何も東堂だけが特別ということもない。恵が知っているだけでもナマエの兄であるミョウジ翔然り、何より五条や夜行の元凶である夏油は在学中に既に特級であった。
だがこの東堂の驚くべきところは______
「アンタ術式使わないんだってな。」
「ん?……あぁ、あの噂はガセだ。特級相手には使ったぞ。」
「――っ、安心したよ!!」
化け物だった。一級呪霊を術式なしで祓うようなヤツをどうしろというのか。それでも、逃げるという選択肢などなかった。ゴリゴリの近接タイプであろう相手を制するには……
(距離を取り拘束する!)
事を大きくつもりはない。大人しくさせることが第一だ。だから式神を出し中距離から畳みかけるつもりだった。だが____
初めにぶっ飛ばされたときよりもさらに早く後ろを取られ、バックドロップを決められた。それで終わるわけもなく、片手で頭を鷲掴みそのまま木造の柱に叩きつけられる。
「終わりじゃ、ないぞ!!」
東堂の言葉通り、叩きつけられたまま柱をぶち抜き建物の反対側まで飛ばされてしまった。その間恵は何もできず、かろうじて蝦蟇の舌で両手を縛ることができたがそれも一瞬で引きちぎられた。
「やる気がまるで感じられん。」
東堂は心底がっかりという面持ちで恵を見下ろした。見下ろされた恵は息も絶え絶えにどうにか身体を起こした。
なぜいきなりこんなことに巻き込まれなければならないのか。女の趣味を聞かれ、意味が分からないながらも答えた。それを「退屈」と有無を言わさずぶっ転がされ。薄っぺらいと言われながら血塗れにされなければならないのか。
そもそも“タッパとケツのでかい女がタイプ”というのも恵からすると『それがどうした』状態なのだ。
普段周りの仲間たちに比べ沸点が低め(比較対象の沸点が割と皆高いため参考になるかは不明)の恵も、この理不尽な応酬にだんだんと怒りが込み上げてきた。相手は仮にも同じ高専生、しかも一応先輩術師。身を守るため、どうにか穏便に納めるため。これでも気を使っていたのだ。
「……下手に出てりゃ偉そうに。」
ここまでコケにされて黙っていられるか。なんで
ゆっくりと体を起こしながら
「そこまで言うなら____」
クソッたれ、そう思った。
「やってやるよ」
「!!」
呪力を込め構えを取った恵。その姿に、その気迫に『来る』と感じ取った東堂は先刻までのつまらなそうな表情を一変させ、にぃっと口の両端を上げた。
「来い!!!」
迎え撃つ東堂、いきり立つ恵。一触即発の緊迫した空気の中。さして大きくない、呟くように静かに発されたその声は、両者の耳にしっかり届いた。
「堕とせ___“雷鼓”___」
___ドンッッ!!
「「!!!」」
目が眩むほどの稲光、耳を劈くような雷鳴とともに轟音が響いた。今日は雲一つない晴天。自然に雷が起こるはずなどない天候だ。東堂と恵は咄嗟に距離を取り揃って轟音と同時に起こった土煙の中を見据えた。東堂は訝しむ顔で睨むように見ていたが、恵は。
恵には見覚えがあった。その威力、呪力量。自分たちが梃子摺った呪霊を跡形もなく消し去った術式。とても叶わないと自分の無力さを感じたのはつい数か月前のことだった。
だが、その術式の主は……亡くなったばかりだ。
土煙がようやく晴れるころ、落雷によって落ち窪んだ地面にスタンと軽い音を立てて人影が降り立った。こちらに背を向けてはいるが、間違いない。見間違えるはずがない。
「恵に……何したの。」