第七十六話 吐露
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兄様ってね、ほんとにほんとに厳しい人だったの。兄様に会うたび私はいつもビクビクしてた。今度は何を言われるんだろうって。
でも、兄様は本当にすごい人なんだよ。昔から頭も良くて、体術もすごくて。呪力量もものすごかったんだ。
術式だって高専生の頃には既に相伝を使いこなしてたし、2年生の時に1級術師になって。次期当主として父様に代わって家の仕事も卒なくこなしててさ。
それだけじゃないんだよ。あんなに厳しい人なのに、冷たい人に見えるのに、みんな兄様に付いていくの。
兄様の言葉はいつも冷たいけど、まぁ時々嫌味の塊みたいな言い方の時もあるけどね。
それでもみんなが付いていくのは、きっと兄様の本質をわかってるから。
本当は優しい人だって、まっすぐで仲間想いの人だって知ってるからなんだよ。
野薔薇ちゃんは信じられないかもだけど、私が小さい頃はね、めっちゃくちゃ私に甘い人だったんだ。
……そんなありえないみたいな顔しないでよ、ホントなんだってば。
兄様が高専の寮に入るまでは、いつも後ろを付いて回ってた。
そんな私を、いつもにこにこ笑いながら見守ってくれてた。
実家の池にね、おっきな鯉がいてね、父様に内緒でこっそりパンくずをあげるのが楽しみだったんだ。
でもバレたらめちゃくちゃ怒られるの。餌のあげすぎで鯉が病気になっちゃったらいけないから今考えれば怒られて当然なんだけど。小さい頃はそれがわからなかったからそれでも懲りずにあげてたら、ある時父様におしおきで離れの蔵に閉じ込められちゃって。
うちの蔵、真っ暗で何も見えなくて、それとちょっと寒いんだ。泣いてごめんなさいって謝っても、許してくれないんだよ。少しは反省しなさいって出してもらえなかったんだ。
でも、兄様は来てくれた。こっそり出してくれるのかと思ったら蔵に入って来て、怖くて震えてる私をぎゅってしてくれたの。『今日は兄様と一緒に蔵で反省して、一緒にもう一回謝ろう』って。
ね、優しいでしょ?
そんな兄様がね、高専2年生の頃かな。ものすごく傷ついた顔をして帰って来た時があったの。
それからかな。優しかった兄様が突然冷たくて厳しい人になった。まるで別人。うん、野薔薇ちゃんも知ってるあの兄様だよ。
私が理由を知ったのは何年も後だったんだけど。同級生が、任務で死んじゃったんだって。建人くんと合わせて3人しかいなかった同級生。そのうちの一人。
その頃、兄様は実家の仕事も手伝うようになってた。だから……その時の任務に兄様は同行しなかったの。なんてことない2級案件だったから、建人くんとその人とで大丈夫だろうって。
けど、実際は1級案件だった。そこで建人くんは目の前で同級生を喪った。兄様は自分のあずかり知らぬ場所で、同級生を喪った。
その年は異常なほど呪霊が湧いたんだって。いつも週末には帰って来てた兄様は、家の仕事と任務とでほとんど家に帰って来なくなった。
その後、追い打ちをかけるように今度は尊敬してた1年上の先輩が……呪詛師になったの。
野薔薇ちゃんも知ってるよね?去年の百鬼夜行。あの事件の主犯の人だよ。
悟くんの親友だった人でね、私も何度か遊んでもらったことがあったんだけど。悟くんと違って大人っぽくて、優しくて。
笑った顔に子供ながらにドキッとしたこともあったなー。それに悟くんと同じ特級術師。ものすごく強かったの。
術師は非術師を守るためにある、そんなまっすぐな想いを持ってる人だった。
兄様はそんな先輩をすごく慕ってた。尊敬してた。
でも、そんなまっすぐな人が……呪詛師になった。
立て続けに兄様の心を傷つける出来事が起こりすぎて……だから兄様は変わっちゃったんだって思ってたの。
…………今回のことが起こるまでは。
なんで、こんなことになっちゃったのかな。兄様が死んで……呪いになって……私に憑いて……。
人が呪いに転じる時って、他者に呪われるか……本人の意思か、なんだよ。
兄様の死因は今でもわかんないんだけど、呪いになったのは本人の意思……兄様は自分の意思で、私に憑いた。
それだけ私に対して強い想いがあったってこと。
被呪された私が死刑になるかもなんて、兄様ほどの人ならわかってるはずなのに。
……そんなに、私……憎まれてたのかな。
死んでもいいって思ってたのかな。
なんで…………死んじゃったの…………
なんで…………私に憑いたの……兄様……わかんないことばっかりだよ。
今、兄様は私のここに居るの。私が話してるのだって、きっと聞こえてる。それなのに、なんにも教えてくれないの。なんにも。
……ごめんね、野薔薇ちゃん。なんか、思いついたことあんまり考えずに話しちゃってるからまとまりがないよね。
え?ほかに?これでも話したらちょっと楽になったよ?
修行のこと?そりゃ毎日きついけど……自分で決めたことだし……えー……修行の愚痴?
うーん……