第七十三話 理論
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気を取り直して五条へ向き直ったナマエ。先程よりも少々真剣な面持ちで。何が彼女をそうさせたのか、大事そうに鉄扇を抱きしめるナマエを見ればそれは考えずとも明白だったが、五条もそこまでは野暮ではなかったようだ。「んじゃ、続きね。」とじんわりと口角を上げながら話し始めた。
「それで、その鉄扇でどうするか…なんだけど。呪いってのは物に憑いてる時が一番安定するんだ。つまり、翔の呪いを貰い受けその鉄扇に流し入れてそして留める。」
「流し入れる……留める……」
「そ。それを繰り返し量を増やしながら、いずれは全てを手中に納める。ね、やること自体は簡単でしょ?時間がかかるだけで。」
「増やす……納める…………って、ん?」
ぶつぶつと指を折り数えながら動詞だけ切り取ってオウム返しをしていたナマエが、カチリと固まった。何やら疑問が浮かんだらしい。
「どした?」
「込めるのって、兄様のをだよね?」
「もちろん。」
「…………どうやって?」
「……ん??」
「……ん???」
首を傾げながら2人の頭上にお互いの「?」が飛び交う。
ナマエは兄の呪力の使い方を知らない。なぜならナマエの意思とは関係なくオートでしか発動しないからだ。風神雷神を出したときも全てナマエ自身の呪力だった。兄の呪力もナマエの周りを覆っていただけ。当然自動で。なので呪具に兄の呪いを込めろと言わましても……と思ったのだ。
一方五条はというと。「ナニイッテンノコイツ」状態でクエスチョンが浮かんでいた。五条自身、当然呪われたことはないが「己の呪力から翔の呪力に切り替える」イメージだろうと思っており、それはそこまで難しくないと踏んでいたのだ。おそらくこれが五条であれば軽々とやって見せただろう。そもそも天才肌の五条はフィーリングタイプ。これまでも「やってみたら出来た」と感覚でスタートして、そこから試行錯誤しながら錬度を上げていくスタイルだった。
そうやってすれ違った認識を2人ですり合わせたのち、改めてナマエが五条に質問する。
「その『呪力の切り替え』って、どうやるの?」
「………………気合い?」
「…マジか。」
アニマル浜〇じゃあるまいし…とナマエはがっくりと項垂れた。解呪手順の説明はまるで取説のように論理的だったのに。「何をする」かは分かっても「どのように」が分からなければどうしようもない。ナマエとしては何なら5W1Hくらい細かく具体的に示して欲しい所だった。実際、昨年七海に教えを乞うていた時は体のどの部分に呪力を溜めて、そこからどの部位を通ってどう伝うか、かなり具体的にレクチャーしてもらった。論理的思考の持ち主の七海ならではの教え方である。だからこそナマエはあの短期間で呪力の扱いから鉄扇捌きまで覚えることができたのだ。
「とりあえずやってみたら?意外とできるかもよ?」
「えー…なんにも説明ナシじゃん…」
「あれ?あれあれ~?ナマエって一から十まで手取り足取り教えてもらわなきゃ何にもできない子だったんだ?」
「……。」
「おっ!いいねぇ、呪力の源は負の感情だよ!」
カチンときたらしいナマエの表情を見た五条は笑みを深くしてそう言った。教育者としてそれもどうなのかと賛否あるだろうが、五条は生徒を煽るのがうまい。言い方を変えればお得意の『相手の神経を逆撫でている』のだが。だが対生徒の場合は五条曰く『相手を鼓舞してやる気を引き出している』らしい。
(今のイラっとしたー!!分かったよ!やればいいんでしょ!やれば!)
そしてまんまと五条の策にハマりうっかりやる気を出したナマエ。やり方は分からないがとりあえず感覚で兄の呪力を使うイメージをして、呪力の通り道は七海の教えをなぞってみることにした。鉄扇を構えて意識を集中する。
(兄様の呪力…兄様の呪力………臍部から鳩尾、胸部、頸部……肩部……上腕……前腕……手首……掌……かぁーらぁーのぉーー鉄扇!)
「………………っだぁぁぁぁぁぁ!!無理ぃーーー!!!」
「ダメかーーー。」
「どうだった?ちょっとでも動いた!?私的には全然だったけど!」
「動いたよー、ナマエの呪力はね。翔のは1ミリも。」
「やっぱりかぁぁぁぁぁぁぁ……」
語尾を伸ばしたまま「ああああああ」と言いながらその場にバタリと仰向けに大の字で寝ころんだナマエ。ゼーゼーと息を荒くしている。力を込めすぎて酸欠になりかけたようだ。確かに呪力は流れていた。とてもスムーズに。だがそれは五条の言う通りでナマエ自身の呪力。ただ単にいつも通り鉄扇に自分の呪力を流したに過ぎなかった。
「悟くん!ヒント!せめてヒント下さい!!」
「んー…。とりあえずもうちょい続けてみよっか。」
「なんで!?」
華麗にスルーされた。パンパンと手を叩きながら起き上がるよう急かされるだけだった。
「ほら、立って立って!」
「何回やっても無理だよー。」
「なんかきっかけが見つかるかもしんないよ?」
「ほんとかなー……」
ぶつくさと文句を言いながらも渋々起き上がったナマエ。なんだかんだで素直である。五条はナマエの呪力の流し方を見て、もう少し観察したかった為もう一度、と言ったのだが。相変わらず言葉が足りない。いや、敢えてそれを言っていない。
「ほら!頑張れ!気合いだよ、気合い!」
それからというもの、何度も倒れては起こされ、倒れては起こされを繰り返した。その間五条は「気合い!」「根性!」「ナマエならやれる!」と感情論だけで声をかけ続けた。その回数が30回を超えた時、ついにナマエの限界が来た。
「も゛……も゛ぅ、む゛り゛…………ちょ、、、休け…………」
そのままパタリと腕が落ちて動かなくなった。仰向けでゼーゼーと言っていることから意識はまだあるようだ。
(ナマエの呪力使い切れば翔の呪力に切り替わるかなと思って試したけど…違ったか。それにしても……)
別で思惑があった五条。呪力の流れの観察と、ナマエの呪力枯渇後にどうなるかの確認、そして__五条はナマエの能力が解放されてからの実力を確かめておきたかった。分かりやすいのが総呪力量。ぶっ通しで全力で鉄扇に呪力を流すこと30回。五条の目算では10回行くかどうかだと思っていた。あくまでも“今までの”ナマエなら、だが。
とは言え、何も知らされず連続で呪力を消費させられたナマエは不憫でしかない。
(解放後のコレはヤバいな。まだまだこれが限界じゃないだろうし、総呪力量ヘタしたら憂太くらいあるんじゃない?翔が隠したがってた気持ち、今ならよく分かるよ。)
五条が長考している間に多少回復したらしいナマエがぼそりと五条の名を呼んだ。
「悟くん……これ、意味……あった……?」
「もちろん。」
「じゃあそろそろ教えてよー…私の何を視てたのー…。何かあるんでしょー?」
おや、と五条はアイマスクの下で眉を上げた。そして「ナマエは賢い子だね」と嬉しそうに言った。ナマエは分かっていた。こうやって五条が何の説明もなしに理不尽なことをさせる時は何か理由がある、と。そしてそれは自分にとって何か大切なことである、とも。
「ナマエのその呪力の流し方さ、七海に教えてもらった?」
「うん、そうだよ。」
「だと思った。」
「なんでそんな事聞くの?」
五条がナマエの質問に答えようとした丁度その時、練武場入口の扉がガラガラと開いた。噂をすれば、というやつだ。
「おっ、七海!任務終わったんだ?早いね。」
「あ!!建人くん!聞いてよ!悟くんてばさぁ!」
「……?お疲れさ……」
「ちょっとナマエ!僕の目の前で悪口言うのやめてくれる?」
「悪口じゃなくて文句だよ!だってさすがにさっきのアレはないでしょ!?」
ナマエのためにと早めに任務を終わらせてやって来た七海は、練武場に入って早々騒がしい2人に出会した。この二人が騒がしいのはいつものことだが、挨拶すらさせてもらえなかった。遠くからこちらに向かって叫んでいるがナマエは何やら五条に対してご立腹の様子だ。そしてなぜかナマエは大の字になって寝ころんでおり、そのそばで五条は胡坐をかいて座っている。修行中ではないのだろうか。意味不明な二人に、七海はとりあえず近付いて話を聞くことにした。挨拶が基本の七海だが、『言っても聞かないヤツ筆頭』の2人だ。まだマシなナマエには後で言うとして、早々に諦めた。そして、2人の側までたどり着いた七海はナマエに「どうしました?」と訊ねてみたが___。
「悟くんてばヒドいんだよ!ずーーーっとアニマルなの!!」
「………………は?」
もう一度思った。修行中ではなかったのか?と。
「それで、その鉄扇でどうするか…なんだけど。呪いってのは物に憑いてる時が一番安定するんだ。つまり、翔の呪いを貰い受けその鉄扇に流し入れてそして留める。」
「流し入れる……留める……」
「そ。それを繰り返し量を増やしながら、いずれは全てを手中に納める。ね、やること自体は簡単でしょ?時間がかかるだけで。」
「増やす……納める…………って、ん?」
ぶつぶつと指を折り数えながら動詞だけ切り取ってオウム返しをしていたナマエが、カチリと固まった。何やら疑問が浮かんだらしい。
「どした?」
「込めるのって、兄様のをだよね?」
「もちろん。」
「…………どうやって?」
「……ん??」
「……ん???」
首を傾げながら2人の頭上にお互いの「?」が飛び交う。
ナマエは兄の呪力の使い方を知らない。なぜならナマエの意思とは関係なくオートでしか発動しないからだ。風神雷神を出したときも全てナマエ自身の呪力だった。兄の呪力もナマエの周りを覆っていただけ。当然自動で。なので呪具に兄の呪いを込めろと言わましても……と思ったのだ。
一方五条はというと。「ナニイッテンノコイツ」状態でクエスチョンが浮かんでいた。五条自身、当然呪われたことはないが「己の呪力から翔の呪力に切り替える」イメージだろうと思っており、それはそこまで難しくないと踏んでいたのだ。おそらくこれが五条であれば軽々とやって見せただろう。そもそも天才肌の五条はフィーリングタイプ。これまでも「やってみたら出来た」と感覚でスタートして、そこから試行錯誤しながら錬度を上げていくスタイルだった。
そうやってすれ違った認識を2人ですり合わせたのち、改めてナマエが五条に質問する。
「その『呪力の切り替え』って、どうやるの?」
「………………気合い?」
「…マジか。」
アニマル浜〇じゃあるまいし…とナマエはがっくりと項垂れた。解呪手順の説明はまるで取説のように論理的だったのに。「何をする」かは分かっても「どのように」が分からなければどうしようもない。ナマエとしては何なら5W1Hくらい細かく具体的に示して欲しい所だった。実際、昨年七海に教えを乞うていた時は体のどの部分に呪力を溜めて、そこからどの部位を通ってどう伝うか、かなり具体的にレクチャーしてもらった。論理的思考の持ち主の七海ならではの教え方である。だからこそナマエはあの短期間で呪力の扱いから鉄扇捌きまで覚えることができたのだ。
「とりあえずやってみたら?意外とできるかもよ?」
「えー…なんにも説明ナシじゃん…」
「あれ?あれあれ~?ナマエって一から十まで手取り足取り教えてもらわなきゃ何にもできない子だったんだ?」
「……。」
「おっ!いいねぇ、呪力の源は負の感情だよ!」
カチンときたらしいナマエの表情を見た五条は笑みを深くしてそう言った。教育者としてそれもどうなのかと賛否あるだろうが、五条は生徒を煽るのがうまい。言い方を変えればお得意の『相手の神経を逆撫でている』のだが。だが対生徒の場合は五条曰く『相手を鼓舞してやる気を引き出している』らしい。
(今のイラっとしたー!!分かったよ!やればいいんでしょ!やれば!)
そしてまんまと五条の策にハマりうっかりやる気を出したナマエ。やり方は分からないがとりあえず感覚で兄の呪力を使うイメージをして、呪力の通り道は七海の教えをなぞってみることにした。鉄扇を構えて意識を集中する。
(兄様の呪力…兄様の呪力………臍部から鳩尾、胸部、頸部……肩部……上腕……前腕……手首……掌……かぁーらぁーのぉーー鉄扇!)
「………………っだぁぁぁぁぁぁ!!無理ぃーーー!!!」
「ダメかーーー。」
「どうだった?ちょっとでも動いた!?私的には全然だったけど!」
「動いたよー、ナマエの呪力はね。翔のは1ミリも。」
「やっぱりかぁぁぁぁぁぁぁ……」
語尾を伸ばしたまま「ああああああ」と言いながらその場にバタリと仰向けに大の字で寝ころんだナマエ。ゼーゼーと息を荒くしている。力を込めすぎて酸欠になりかけたようだ。確かに呪力は流れていた。とてもスムーズに。だがそれは五条の言う通りでナマエ自身の呪力。ただ単にいつも通り鉄扇に自分の呪力を流したに過ぎなかった。
「悟くん!ヒント!せめてヒント下さい!!」
「んー…。とりあえずもうちょい続けてみよっか。」
「なんで!?」
華麗にスルーされた。パンパンと手を叩きながら起き上がるよう急かされるだけだった。
「ほら、立って立って!」
「何回やっても無理だよー。」
「なんかきっかけが見つかるかもしんないよ?」
「ほんとかなー……」
ぶつくさと文句を言いながらも渋々起き上がったナマエ。なんだかんだで素直である。五条はナマエの呪力の流し方を見て、もう少し観察したかった為もう一度、と言ったのだが。相変わらず言葉が足りない。いや、敢えてそれを言っていない。
「ほら!頑張れ!気合いだよ、気合い!」
それからというもの、何度も倒れては起こされ、倒れては起こされを繰り返した。その間五条は「気合い!」「根性!」「ナマエならやれる!」と感情論だけで声をかけ続けた。その回数が30回を超えた時、ついにナマエの限界が来た。
「も゛……も゛ぅ、む゛り゛…………ちょ、、、休け…………」
そのままパタリと腕が落ちて動かなくなった。仰向けでゼーゼーと言っていることから意識はまだあるようだ。
(ナマエの呪力使い切れば翔の呪力に切り替わるかなと思って試したけど…違ったか。それにしても……)
別で思惑があった五条。呪力の流れの観察と、ナマエの呪力枯渇後にどうなるかの確認、そして__五条はナマエの能力が解放されてからの実力を確かめておきたかった。分かりやすいのが総呪力量。ぶっ通しで全力で鉄扇に呪力を流すこと30回。五条の目算では10回行くかどうかだと思っていた。あくまでも“今までの”ナマエなら、だが。
とは言え、何も知らされず連続で呪力を消費させられたナマエは不憫でしかない。
(解放後のコレはヤバいな。まだまだこれが限界じゃないだろうし、総呪力量ヘタしたら憂太くらいあるんじゃない?翔が隠したがってた気持ち、今ならよく分かるよ。)
五条が長考している間に多少回復したらしいナマエがぼそりと五条の名を呼んだ。
「悟くん……これ、意味……あった……?」
「もちろん。」
「じゃあそろそろ教えてよー…私の何を視てたのー…。何かあるんでしょー?」
おや、と五条はアイマスクの下で眉を上げた。そして「ナマエは賢い子だね」と嬉しそうに言った。ナマエは分かっていた。こうやって五条が何の説明もなしに理不尽なことをさせる時は何か理由がある、と。そしてそれは自分にとって何か大切なことである、とも。
「ナマエのその呪力の流し方さ、七海に教えてもらった?」
「うん、そうだよ。」
「だと思った。」
「なんでそんな事聞くの?」
五条がナマエの質問に答えようとした丁度その時、練武場入口の扉がガラガラと開いた。噂をすれば、というやつだ。
「おっ、七海!任務終わったんだ?早いね。」
「あ!!建人くん!聞いてよ!悟くんてばさぁ!」
「……?お疲れさ……」
「ちょっとナマエ!僕の目の前で悪口言うのやめてくれる?」
「悪口じゃなくて文句だよ!だってさすがにさっきのアレはないでしょ!?」
ナマエのためにと早めに任務を終わらせてやって来た七海は、練武場に入って早々騒がしい2人に出会した。この二人が騒がしいのはいつものことだが、挨拶すらさせてもらえなかった。遠くからこちらに向かって叫んでいるがナマエは何やら五条に対してご立腹の様子だ。そしてなぜかナマエは大の字になって寝ころんでおり、そのそばで五条は胡坐をかいて座っている。修行中ではないのだろうか。意味不明な二人に、七海はとりあえず近付いて話を聞くことにした。挨拶が基本の七海だが、『言っても聞かないヤツ筆頭』の2人だ。まだマシなナマエには後で言うとして、早々に諦めた。そして、2人の側までたどり着いた七海はナマエに「どうしました?」と訊ねてみたが___。
「悟くんてばヒドいんだよ!ずーーーっとアニマルなの!!」
「………………は?」
もう一度思った。修行中ではなかったのか?と。