第七十話 交渉
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「___以上の理由からミョウジナマエの秘匿死刑については保留とし、経過観察の期間を設けることを推奨いたします。」
五条はナマエたちと別れた後、恵たちに自習を言い渡してから上層部のご意見番たちの元を訪れていた。蝋燭だけのほの暗い灯りの中、今朝のナマエの術式の件、ナマエ自身の意向なども交えながら極力丁寧な言葉で彼らに進言した。
「被呪者当人が此方に対しいくら従順であろうともその呪いが脅威とならない保障がどこにある。」
「そうだ。乙骨憂太の際は呪いに転じたのが非術師の幼子であった。だが、此度は術師。しかも
「呪術界きっての名門から呪いを出すなど!前代未聞であるぞ!!」
障子のような衝立で隠れていても、唾を吐く勢いで捲し立てる様子がありありと分かった。だが、五条には相手がこう出てくるだろうことは当然想定の範囲内だった。
「だったら尚更でしょう。江戸初期から続くその名門を取り潰しにするなど。周りにどう説明なさるつもりですか。」
「だからこその秘匿死刑だ!ミョウジ翔による規定違反、それによる御家取り潰し。そう公表すればいいだけのこと。」
「そんな上っ面な子供騙しの説明で通ると思っているなら甘いですよ。それに、ミョウジ家はただ古いだけではない。」
呪術界の歴史の中でこれまで様々な家系が生まれ、そして廃れていった。御三家でもないミョウジ家がこれまでその家を廃れることなく存続させてきた理由はきちんとあるのだ。
「これまで幾度となく危機を迎えた呪術界がこれまで存続できたのは……代々のミョウジ家の影の働きあってこそ、といっても過言ではないはずです。これまでいいように使ってきておいてまぁいけしゃあしゃあと。それもそうか、ミョウジ家は
「っ!口を慎め!!五条悟!!」
「お主も五条家も、この呪術界にとっては所詮は一端でしかないこと、失念したわけではあるまいな!」
『相手の神経を逆撫でること』。五条の得意分野である。学生時代の刺々しさは多少落ち着いたものの、年を重ねた分たちが悪い。分かっていてやっているがそれにしてもうまく行き過ぎだと、五条は内心ほくそ笑んだ。表ではやれやれと肩を竦めて見せただけだが。
「ミョウジ翔の呪いは、本人の意思や性格が大いに反映されていると言えます。つまり、翔の呪いはミョウジナマエを守ることに特化している。それにミョウジ翔は次期当主として現当主に代わり、あの若さでミョウジ家としての働きを随分行ってきた。もしもミョウジナマエを死刑に処する時。翔本人の意思がある呪い、内情を知り尽くしている者の呪い。しかもそいつはミョウジ家で歴代でも類を見ない天才と言われた者の力。その矛先はどこに行くんでしょうね?それが、あなたたちにとって、呪術界にとってどれほど危険か分かりませんか?」
「ぐぅっ……」
切り返してこなくなった様子を見て、五条は「お解り頂けてなによりです」と満足そうに言った。さて、そろそろ仕上げだ。
「ミョウジナマエは兄の呪いを解呪した上で、ミョウジ家を継ぐ意思を見せています。先ほどお伝えした通り、ミョウジナマエには兄である翔を超える才能がある。彼女ならきっと解呪して見せるでしょう。もちろんその為の協力は惜しみませんし、彼女の才能をより高次なものに引き上げる手助けもするつもりです。ミョウジ翔の呪いが解けて、尚且つミョウジ家も今まで通り呪術界の為に働くと言っているんだ。呪術界に不要な波風を立てなくても済む。どうですか?それでもまだ押し切って死刑を遂行しますか?」
「……。」
「あぁ、それから。私も呪術界からしてみれば御三家とはいえちっぽけなただの一術師です。ですが、このままもし本当にミョウジ家をミョウジナマエを消すというのであれば。___私も私のできることを、するまでです。」
つまり、ナマエ側につくぞと。言葉こそ曖昧な表現であったが、それは明確な脅迫だった。どうすべきが最善か。ご意見番たちは考えているようで、しばらく何も言わなかったが。内の一人が五条に少し席を外すようにと言った。恐らく議論する為だろう。素直に従い一度部屋から出た五条。それから約15分後、再度部屋に入るよう指示された。
「ミョウジナマエの死刑に関して。猶予期間を設ける。半年だ。」
「それ以上は一日たりとも譲歩はせぬ。」
「ミョウジナマエを次期当主と認めるかも、相伝を使いこなせることが条件だ。」
半年。乙骨憂太の時でさえ1年以上かかったというのに。五条は思わず眉を寄せた。だが、五条の目算でも可能性として無くはない期間だった。ただしナマエにとって厳しい半年間になりそうではあるが。
「……分かりました。本人とミョウジ家にもそう伝えましょう。では、ミョウジ翔に関しては任務中の殉職、ということでよろしいですね?明日にも葬儀を執り行いますので、呪いの件に関しては公表しないようお願いします。」
「それはっ……!」
「ミョウジ家の長男、それも次期当主が無くなったのに葬儀もさせないおつもりですか?それこそ何かあったと言っているようなものですよ。それに猶予期間中の現時点ではミョウジ家には何も罪がない。穏便にコトを済ませたいのはそちらも同様でしょう。」
「……致し方あるまいな。」
「ありがとうございます。では、失礼します。」
そう言って五条は部屋を後にした。半年。これは一日も無駄にはできないなと、サングラスからアイマスクに付け替えながら五条は独り言ちた。だが、ひとまずは翔を形式上でも弔うことができる。ナマエも事情を知らない奴らから白い目で見られることなく済む。第一段階はクリアだ。