第六十九話 承継
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「……と、いうことなんですが……どう……かな……?」
「「……――」」
さっきまでの勢いはどこへやら。一度も口を挟まれることなく最後まで話し切ったナマエは今頃になって自信が無くなってきたのか、視線を揺らしながら三人の顔色を窺い始めた。七海と家入は、今のナマエに何と言ってやるのが正解か皆目見当もつかずただ黙っているしかできない。そして五条はというと、腕を組み片手を顎に添えて何かを考えているようだった。それは先ほどのわざとらしい仕草とは一変していた。
それもそのはず。七海に“茨の道”と言っていたこと。ナマエが生き残るためとはいえ五条もできれば他の道を示したかった。だが現時点で名案は浮かばず、さらに
「悟……くん?」
「___うん。ナマエの気持ちはよく分かったよ。じゃあ一旦この話は僕に預けてもらえるかな?」
「うん……うん!ありがとう!」
五条の言葉にナマエは無意識に止めていた息を吐きだした。自分の思いが伝わったのだ。練武場に来てから初めて、ナマエの表情が明るくなった。だが、対する五条は渋い顔をしている。
「でもナマエ。本当にいいんだね?」
「……うん。」
「理不尽なこともたくさんあるだろう。」
「うん。」
「ナマエの希望が通ったとしても身の保証がされるわけじゃない。」
「うん。」
「『やっぱりやめた』は通用しないよ。」
「分かってる!」
「きっと泣き言だって許されない。」
「もちろん。」
「分かった。じゃあ次ね。ナマエ、お前の願いを通すにはまだピースが足りてないよね。」
ナマエの覚悟を試すような言葉を繰り返した五条は、ナマエの返答に納得したようだった。しかし七海は違った。先ほど五条は「後悔させたくない」と言っていた。これは、『後戻りのできない後悔』ではないのか?七海は敢えて何かを言うわけではなかったが内心ではどうにも納得できなかった。ナマエと五条の間でどんどんと話が進んでしまっている。だが、七海できることは何もない。ぐっと眉間に皺を寄せた。
上層部を説き伏せるには決定的に足りないものがある。それは、七海にも家入にも何となく分かっていた。ナマエはどうだろうか。
「うん。だからね、二人に、もう1つお願いがあるの。」
五条がそう言うだろうと想定していたナマエは、全く悩むことなく言った。そして、五条と七海の正面で真っすぐ姿勢を伸ばし指の先までピンと揃えたナマエは、深く頭を下げた。
「五条先生、七海先生。私に、修行を付けてください。」
ナマエの術式は、さすが相伝というだけあって威力は凄まじく、兄を超えるレベルであったが。顕現するのが精いっぱい。少し気を緩めただけで暴走、破裂してしまうたいへんお粗末なものだった。こんな危ういものでは上層部が逆にそれを脅威と捉えてしまうかもしれない。上の考えを撤回させるには、ナマエの才能を『無くすには惜しい』『利用価値がある』と思わせないといけないのだ。
実際、当時高専生だった翔はその時点で相伝を自在に扱っていた。つまり、今のナマエにも翔と同等かそれ以上の技能が必要だ。
だからナマエは二人に頼んだ。ナマエの中で最も強く、そして最も信頼のおける人物。それが五条と七海だった。
ナマエを見た五条はにんまりと口角を上げ、一方の七海は無表情のまま片眉だけを上げた。二人の返事は、考えるまでもなかった。五条はともかく、七海に関しては納得していないはずだったが。しかしそれがナマエの希望に応えない理由にはならない。
「なんかさーナマエに先生って呼ばれるの、なんかこう。グッとくるものがあるよね。」
「私は教職ではありませんので、先生はよしてください。」
「……はい??」
「…………。」
ナマエにとっては想定外の返事だったせいか、気の抜けた声が出てしまった。肯定か否定、どちらかしか選択肢はないと思っていた。ぽかんとするナマエのために、ため息交じりの家入が助け舟を出した。
「お前らは……素直にYesと言えないのか。いい大人が照れ隠しすんな。気持ち悪い。」
「うわ辛辣ー」
「心外ですね。」
「え?……え?じゃあ……いいの?」
「「もちろん。」」
「!!」
歓喜により堪らず動き出したナマエ。飛びついた先は__五条。
「ちょ……待……」
「「あ。」」
____バリバリバリバリッッッ!!!
「え!?なにコレ!?」
「「……あーあ。」」
例のごとく、翔の反発にあってしまった。今回は無限を展開していたので触れてすらいないが、それでも五条のメンタルは十分電撃を浴びている。何も知らないナマエは突然のことに驚いていた。それもそのはず。これまで翔の呪力がオートで発動していたのは、ナマエが寝ているときばかりで。起きてからは翔が許容している人物にしか触れていなかったのだ。訳が分かっていないナマエにこれは翔の抵抗によるものである可能性だと七海が事情を説明。だがナマエはさらに困惑する。
「でも建人くんも硝子ちゃんも。父様も母様も。あ、棘くんもなんともなかったよ?」
「ですからナマエ、五条さんは……」
「ドンマイ五条。」
「…………。」
頭上にクエスチョンが浮かぶナマエに恵の件を話すのはもう少し落ち着いてからにしよう、そう思った七海だった。