第六十七話 相伝
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七海以外には碌に説明もしていなかったので、ひとまずナマエは夢の中で起こったこと、自己の身体の変化、ナマエ自身の見解などをできるだけ細かく二人にも話した。
「なるほどね。要するに、翔が呪いに転じたことでナマエを介して術式を発動しているって考えたわけだ。」
「うん、理屈とかはよく分かんないけど、でも何故か解ったの。
「うーん。」
顎に手を添えてわざとらしく考えている“フリ”をしている五条とそれを不安そうに見ているナマエ。何を言われるのかと眉を下げているナマエがかわいそうに思えてきた七海が呆れたように助け舟を出した。
「五条さん。勿体ぶるのはやめたらどうですか。」
「んー、バレた?自分で気付いた方がいいだろうと思ったんだけど、まぁいっか。」
「え、何……?」
「てことは、七海は分かったんでしょ?」
「まぁ……そうですね……」
ナマエはいまだ二人が言っていることが分からない。だが五条がさっきまでの茶化した空気からふっと真面目な顔つきになり、ナマエは思わず背筋を伸ばした。
「手っ取り早く言うとね。ナマエ自身が術式を発動させたってこと。」
「え?」
「その力は翔が与えたわけじゃないし、翔から受け継いだものでもない。当然彼の呪いとしての力でもない。まぎれもなく、ナマエ。君自身の力なんだよ。」
「どういうこと?だって……私は相伝を……」
「そうだね、受け継がなかった……と言われて育ってきたからね。風神雷神の発現もしなかった。」
「だったらやっぱり……」
七海が先ほど感じた違和感はこれだった。風神雷神からミョウジの呪力は一切感じられなかったのだ。あくまでナマエ自身を覆っているだけ。あの衝撃の中、ナマエにかすり傷1つつかなかったのもミョウジの呪力によるものだった。
だが、ナマエにはさっきから五条の言っていることの理解ができない。ナマエが自身にも呪力があると分かったのは5歳頃。幼かったせいでほとんど記憶にはないが相伝の発現が見られず父母を落胆させたらしいことだけなんとなく覚えている。覚えている、というよりはそういう話を聞いたことがある、の方が正しいかもしれない。それからしばらくして兄の真似をしようと両親に隠れて試したりしたことはあったが当然何も起こらなかった。その後眼鏡と腕輪の呪具を与えられて。10歳で恵と出会うまでは呪霊を見るどころか呪力自体を感じたこともなかった。呪術に関する知識さえほぼ0の状態だった。
中学に上がる頃には周りから見聞きしたせいか知らず知らずのうちに自身の呪力を抑える術を身に着けており、呪具を必要としなくなったが、自分に才能がないことなんてナマエが誰よりも一番よく理解していた。そして七海によるスパルタ修行を始めてからも、どう足掻いても風の術式しか発動しなかったのだ。それなのに……
「今までナマエのずっとずっと奥で眠りについてたんだ。それは幼いナマエの身体では到底抱えきれないレベルの力だった。だから自己防衛のために、だろうね。」
「そんなの……知らなかったよ……」
「仕方ないさ。僕でさえ片鱗に気付いたのはナマエが七海の下で修行し始めたくらいだったんだから。」
「え?悟くんは気付いてたの?」
「さすがに相伝持ってるとまでは分からなかったけど、何かあるとは思ってたよ。ナマエの高専入学の協力をするようになった頃、翔にはさんざん責められたから余計にね。」
「え゛。」
要するに兄は自分に隠されていた力のことを知っていた、ということになる。自分の知らないところでそんなやりとりがあったなんて、ナマエは知る由もなかったことだった。一度にたくさんの情報が入ってきて頭がパンクしそうだった。そもそも頭を使うことがそんなに得意ではないナマエ。普段であればそろそろ「分かんないからもういいや」とさじを投げているところだ。だが今回ばかりはそうもいかない。
「じゃあ、なんでいきなり発現したの!?兄様が私に憑いたからじゃないのっ!?ていうか私に力があったとして、なんで兄様は黙ってたの?……なんで兄様は私を……呪ったの……」
これでもかと質問ラッシュのナマエだったが、最後の方は言葉が尻すぼみになっていた。一番の疑問は、“それ”だから。
「今発現したのは……あくまでも僕の予想だけど。ナマエ、少年院で極限以上の力を出そうとしたりしたんじゃない?」
「!」
「その顔は正解みたいだね。きっとそれがきっかけで眠っていた力が揺り起こされたんじゃないかな。」
あの時、確かに。ナマエは心の底から力が欲しいと思った。兄をどうにかあの場から逃がすために。自分はどうなっても構わないから、と後先考えずに限界を考えずに絞り出そうとした。結果的に失敗に終わったが、確かにその時のMAX出力は本人にとってこれまで経験したことがない呪力量だった。
「翔が何故ナマエ本人だけでなく周りにも黙っていたのか。肉親であるナマエの両親にまでもね。そして何故ナマエに憑いたのか。翔がなにを思っていたのか、残念ながらそれは翔本人しにか分からないよ。」
「……ごめんなさい。」
五条を問い詰めてもしょうがないことなのについ感情的になってしまったためナマエは弱弱しく五条に謝った。肩を落として俯き考えこんでいると、家入がそっとナマエの肩に手を置いた。
「ナマエ、少し休もう。いきなりあんなの出したんだ。ちょっと身体も見ておきたい。いいだろ五条。」
「あぁ。」
ナマエに肩を添えたまま、家入は建物の端の方へと誘導するように連れて行った。