第六十七話 相伝
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高専敷地内、第三練武場。広さはあるものの木造の剣道場のようなところで、しかし天井はかなり高く作られている。だが、ぱっと見はそこまで衝撃に強そうには見えない建物だ。そしてこの練武場は元から建物全体が結界で覆われており、五条クラスでなければ壊すことができないであろう強度を誇っている。
この場に集まったのは五条、家入、七海、そしてナマエだ。ナマエの目的を聞いた七海は高専一の強度を誇るこの練武場を選び、反転術式が必要になった時のために家入にも同席をお願いしたのだ。ただしその家入に何かあってもいけないので七海は家入のすぐそばでいつでも動けるよう臨戦体勢。
練武場の真ん中で向かい合った五条とナマエ。両手を胸の前で組んで構えを取っているナマエに対して五条はポケットに手をつっこんだままの姿勢だった。
「なるほどね、そういうことか。」
「うん、悟くんならもし私が失敗してもどうにか止めてくれるでしょ?」
「ま、大丈夫でしょ。いつでもどうぞ。」
「よろしくお願いします。」
そう言って少し頭を下げた後、ナマエは組んでいた手で印を結び、呪力を込めた。
「“降神呪法”___『風神』『雷神』」
ナマエが唱えるとたちまち天井付近に暗雲が立ち込める。建造物の中なのにあたかも悪天候の空を見ているようだ。そして、その雲はやがて天井で轟轟と音を立てながら蜷局を巻き、さらに雷雲へと変化する。ナマエが中指と人差し指を揃えて、まっすぐに伸ばし突き立てた。……そう、いつも兄がそうしていたように。
すると、ゴロゴロと唸る雲間から現れたのは案の定というか。
ミョウジ家相伝術式であるはずの_『風神』と『雷神』だった。
『兄様がね、私の中に入って来る時に……風神と雷神も一緒だったの。』
ナマエから予め話を聞いていた七海だったが、正直半信半疑だった。けれども目の前で実際に起こっていることは流石に否定できない。ナマエの言う通りであれば、これはミョウジが呪いに転じたことによるナマエへの影響。しかし、これはどういうことだろうか。見間違いでなければこれは……。家入を庇う体勢で考え込んでいた七海だったが、五条がピュウっと口笛を鳴らしたのを聞いてはっとそちらを見た。
「やったじゃんナマエ。成功だ。」
「ハァ……ッ、…………ッハァ……でき、た…………」
「こらこら、気を抜いちゃだめだよ。」
「え…………」
「家入さん!私の後ろへ!」
ナマエの両脇に佇んでいた二体がそれぞれ風、雷を纏い身震いを始めた。その体躯は徐々に大きくなっていく。ビリビリと肌を刺すような呪力。かなり離れた場所には居たものの、念のためと七海は家入を庇うように前に立ち、全身と後方を己の呪力で覆った。二体は呪力をこれでもかと膨らませ、ガクガクとさながら痙攣しているかのように震えた後、___弾けた。
「っ!だめ!!!…………悟くん!!避けて!!」
目の前に落雷による発光、表現しがたい程の轟音、地響き、台風でももっと可愛らしいだろうと思えるほどの豪風……天災のようなそれらが目の前の五条に全て向かった。ナマエはどうにか抑えようと必死で手を伸ばし呪力操作をしようと足掻くが間に合わなかった。
___ズンッ!!……ゴゴゴゴゴゴ……
「悟くん!!!」
濛々と煙が立ち込めたようになり前が見えない。流石は高専一の強度の練武場だ。建物自体は無事だった。だが、崩れこそしなかったが、壁にはヒビが入り、天井からはパラパラと木くずのようなものが降ってきていた。
ガードするように眼前で両腕をクロスしていたナマエだったが、ナマエ自身には傷1つとしてついていない。これだけの至近距離で起こったことだというのに。返事のない五条はどうなったのか。目を凝らすように煙の奥をじっと見据えると、うっすらと人影のようなものが見えた。
「悟……くん?」
「ちょーっと危なかったかな。」
「!!」
ようやく姿が見えた五条は、ナマエ同様に傷ひとつない姿で立っていた。顔の近くでクロスされた指を見るに、無限の展開が間に合ったようだった。現に五条の立っているところだけ床が無傷だが、その周縁はボロボロに崩れてしまっていた。
「はぁーーっ……よか、、、ったぁ……」
五条の姿を見て安堵したナマエは、その場にヘナヘナとへたり込んでしまった。
「おやおや?もしかして僕がやられたと思っちゃった?」
「そうじゃないけど……でも……」
「だからナマエも僕に立ち会ってくれって言ってきたんじゃないの?」
「うん……。」
「確かに想定以上の威力だったよ。
「う゛……ごめんなさい。」
「反省会はまた後で。あ、七海と硝子も何とも無かったみたいだね!」
すっかり存在を忘れていた……わけではないが頭からすっぽり抜けていた2人。慌てて後ろを振り返ると、知らない間にすぐそばまで来ていた。
「建人くん!硝子ちゃん!」
「こちらは離れていましたし何ともないですよ。」
「よかった……」
巻き込んでしまっていたらどうしようと思っていたのでナマエは心底胸を撫で下ろした。
「さて、実験は成功ってことで。これからの話をしようか。」