第六十六話 青天
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「なんだ、いつにも増して辛気臭いな。恵。」
「禪院先輩。」
恵の中では隣の同級生に負けず劣らずの強気女子、禪院真希。愛用の槍を片手にいつもどおりの様子の真希は、昨日のことを知らないのだろうか、と思っていたら。
「私を苗字で呼ぶんじゃ___」
「真希。……真希!!」
少し後方に残りの二人も居たらしい。なにやら木陰からコソコソと真希に話しかけた。
「まじで死んでるんですよ 昨日!!一年坊が!!」
「おかか!!」
ぎぎぎとブリキのようにパンダたちに振り向いた真希はダラダラと冷や汗をたらしながら二人に文句を言う。
「は や く い え や ! これじゃ私が血も涙もねぇ鬼みてぇだろ!!」
「実際そんな感じだぞ!?」
「ツナマヨ」
「前にナマエにも言われてたじゃん」
「しゃけしゃけ」
「それはお前らもだろうが!!」
ぎゃーぎゃーわーわーとうるさい三人にあっけにとられていた野薔薇が恵に誰なのかと聞いたため、そう言えば会ったことがなかったか、とそれぞれの紹介をした。また、この場にいない乙骨についても話したが野薔薇はパンダの紹介に文句があるらしかった。
「あの感じだとナマエはもう面識あるのね。」
「あぁ、パンダ先輩や真希さんとかは子供のころから知り合いだ。」
「禪院って……なるほどね。パンダの方はいまだに謎だけど。」
パンダはともかくとして、幼いころから御三家の五条と関わりがあったらしいナマエのことだ。同じ御三家の禪院とつながりがあってもなんら不思議ではなかった。ぎゃーぎゃーと言い合いをしていた先輩たちは、ようやくひと段落したらしい。真希が思い出したように恵に尋ねた。
「そういや恵。ナマエは?今日はいねぇのか?」
「…ナマエ、は。」
「お、おかか!」
「なんだよ棘。どうした。」
慌てたように間に入ったのは、狗巻だった。
(先輩、知らないのか。ミョウジさんのこと…)
被呪については狗巻も五条に止められているのかも、と恵は思った。そして、恵の代弁をしてくれたのは、パンダだった。
「真希、お前聞いてないのか?翔さんのこと。」
「あ?翔って、ナマエの兄貴だろ?それがどうした。」
「昨日一年坊と、もう一人死んだんだよ。」
「…しゃけ。」
「は?……まさか。」
パンダの言い方に、やっと真希も気づいたようだった。
「…死んだのか?あの人が?」
「あぁ、死んだ。」
「そうか。…お前らも一緒の任務だったんだろ。その怪我はそういうことか。」
「はい。」
「ナマエは?無事なのか?」
「俺たち同様怪我はしましたが、すでに治療済みです。それ以外は…すみません。俺にも分かりません。」
「分かりませんって……それ……まぁ、今はいいか。」
「すみません。」
「謝んなよ。あとで目隠し馬鹿にでも聞くわ。」
そう言って真希は恵たちと同じく階段に腰かけた後深く項垂れた。本当に全く知らなかったらしい。だた確かにまだ昨日の今日で、公にされていないこともたくさんある。聞けば、パンダが知っていたのは学長経由だったようだが、やはり翔が死んだこと以外は知らされていないようだった。
「あらら?みんな揃ってどうしたの?」
「「悟!」」
「「五条先生!」」
「やぁ。」
いつも通り飄々とした様子で現れた五条は、全く悪びれる様子もなくひらひらと手を振ってきた。
「やぁ。じゃないですよ。どんだけ遅刻してんですか。」
「そーよそーよ!」
「いやー、ごめんね。ちょっと立て込んでてさ。呼び出しといて悪いんだけどさ、僕ちょっと用事ができちゃったんだよね。」
「「はぁ!?」」
「ちょーどいいところに真希たちもいるし、今日は二年と合同で体術の自習でもしといてよ。」
「んな適当な…。」
明らかに五条の思い付きで今日の授業内容が決まってしまった。その後真希に捕まった五条はいくつかやり取りをしていた。おそらくナマエの話だろう。そして狗巻に目を止めた五条はちょいちょいと手招きして、少し離れたところで話を始めた。
「あんな離れて何の話かしら。」
「さぁ…な。」
恵はなんとなくだが、ナマエに関することではないか、と思った。狗巻は時折難しそうな顔をしながらも五条に頷き返していた。そして話が終わったであろう二人が戻ってきた。
「さて、じゃあ僕はもう行かなきゃだけど、ここにいる全員、明日の午前中は任務も授業も中止だから。」
「なんでだよ。」
「葬式だよ。…翔のね。」
「「「…………」」」
「あの、」
「ん?」
「ナマエも、葬式には…出席できますか。」
「んー。それはこの後の僕の頑張り次第かな。」
「「!!」」
「…わかりました。よろしくお願いします。」
「まっかせなさい!」
深く頭を下げた恵の肩をポンと叩いた後にサムズアップして、「ちゃんと自習しなよー」と言ってから五条は去っていった。頭を下げたままの恵は、こぶしを固く握りしめていた。五条の“用事”が何なのか、恵と五条のやり取りの意味が分かったのは、きっと狗巻だけだろう。五条はおそらくこの後上層部と話をする。狗巻が恵の背中に手を充てたことでやっと恵は体を起こした。
「狗巻先輩…」
「たかな」
「…はい。」
意味の分かっていない面々も「何かある」とは思っただろうが、今の恵には誰も聞くことができなかった。こういう、どこか重苦しい空気の時。それをどうにかしてくれるのはいつもパンダだ。
「自習…ね。まぁ、丁度良かったか。」
「…パンダ先輩、そういえば俺たちに何か用でしたか?」
「いやー、こんな時にスマンな。だがオマエ達に“京都姉妹校交流会”に出てほしくてな。」
二年たちの話を聞き、真希の挑発ともとれる発言もあって、恵と野薔薇はそれを承諾した。二年の面々は自分たちを鍛えるため、容赦はしないと言ったが。二人にとってそれは願ってもないことだった。
これ以上仲間を失わないために。自分を見失わないために。…大事な人を悲しませないために。
(俺は)(私は)
( 強くなるんだ そのためなら なんだって…!! )
__梅雨が明けた。
そして___ようやく夏が始まった。
「禪院先輩。」
恵の中では隣の同級生に負けず劣らずの強気女子、禪院真希。愛用の槍を片手にいつもどおりの様子の真希は、昨日のことを知らないのだろうか、と思っていたら。
「私を苗字で呼ぶんじゃ___」
「真希。……真希!!」
少し後方に残りの二人も居たらしい。なにやら木陰からコソコソと真希に話しかけた。
「まじで死んでるんですよ 昨日!!一年坊が!!」
「おかか!!」
ぎぎぎとブリキのようにパンダたちに振り向いた真希はダラダラと冷や汗をたらしながら二人に文句を言う。
「は や く い え や ! これじゃ私が血も涙もねぇ鬼みてぇだろ!!」
「実際そんな感じだぞ!?」
「ツナマヨ」
「前にナマエにも言われてたじゃん」
「しゃけしゃけ」
「それはお前らもだろうが!!」
ぎゃーぎゃーわーわーとうるさい三人にあっけにとられていた野薔薇が恵に誰なのかと聞いたため、そう言えば会ったことがなかったか、とそれぞれの紹介をした。また、この場にいない乙骨についても話したが野薔薇はパンダの紹介に文句があるらしかった。
「あの感じだとナマエはもう面識あるのね。」
「あぁ、パンダ先輩や真希さんとかは子供のころから知り合いだ。」
「禪院って……なるほどね。パンダの方はいまだに謎だけど。」
パンダはともかくとして、幼いころから御三家の五条と関わりがあったらしいナマエのことだ。同じ御三家の禪院とつながりがあってもなんら不思議ではなかった。ぎゃーぎゃーと言い合いをしていた先輩たちは、ようやくひと段落したらしい。真希が思い出したように恵に尋ねた。
「そういや恵。ナマエは?今日はいねぇのか?」
「…ナマエ、は。」
「お、おかか!」
「なんだよ棘。どうした。」
慌てたように間に入ったのは、狗巻だった。
(先輩、知らないのか。ミョウジさんのこと…)
被呪については狗巻も五条に止められているのかも、と恵は思った。そして、恵の代弁をしてくれたのは、パンダだった。
「真希、お前聞いてないのか?翔さんのこと。」
「あ?翔って、ナマエの兄貴だろ?それがどうした。」
「昨日一年坊と、もう一人死んだんだよ。」
「…しゃけ。」
「は?……まさか。」
パンダの言い方に、やっと真希も気づいたようだった。
「…死んだのか?あの人が?」
「あぁ、死んだ。」
「そうか。…お前らも一緒の任務だったんだろ。その怪我はそういうことか。」
「はい。」
「ナマエは?無事なのか?」
「俺たち同様怪我はしましたが、すでに治療済みです。それ以外は…すみません。俺にも分かりません。」
「分かりませんって……それ……まぁ、今はいいか。」
「すみません。」
「謝んなよ。あとで目隠し馬鹿にでも聞くわ。」
そう言って真希は恵たちと同じく階段に腰かけた後深く項垂れた。本当に全く知らなかったらしい。だた確かにまだ昨日の今日で、公にされていないこともたくさんある。聞けば、パンダが知っていたのは学長経由だったようだが、やはり翔が死んだこと以外は知らされていないようだった。
「あらら?みんな揃ってどうしたの?」
「「悟!」」
「「五条先生!」」
「やぁ。」
いつも通り飄々とした様子で現れた五条は、全く悪びれる様子もなくひらひらと手を振ってきた。
「やぁ。じゃないですよ。どんだけ遅刻してんですか。」
「そーよそーよ!」
「いやー、ごめんね。ちょっと立て込んでてさ。呼び出しといて悪いんだけどさ、僕ちょっと用事ができちゃったんだよね。」
「「はぁ!?」」
「ちょーどいいところに真希たちもいるし、今日は二年と合同で体術の自習でもしといてよ。」
「んな適当な…。」
明らかに五条の思い付きで今日の授業内容が決まってしまった。その後真希に捕まった五条はいくつかやり取りをしていた。おそらくナマエの話だろう。そして狗巻に目を止めた五条はちょいちょいと手招きして、少し離れたところで話を始めた。
「あんな離れて何の話かしら。」
「さぁ…な。」
恵はなんとなくだが、ナマエに関することではないか、と思った。狗巻は時折難しそうな顔をしながらも五条に頷き返していた。そして話が終わったであろう二人が戻ってきた。
「さて、じゃあ僕はもう行かなきゃだけど、ここにいる全員、明日の午前中は任務も授業も中止だから。」
「なんでだよ。」
「葬式だよ。…翔のね。」
「「「…………」」」
「あの、」
「ん?」
「ナマエも、葬式には…出席できますか。」
「んー。それはこの後の僕の頑張り次第かな。」
「「!!」」
「…わかりました。よろしくお願いします。」
「まっかせなさい!」
深く頭を下げた恵の肩をポンと叩いた後にサムズアップして、「ちゃんと自習しなよー」と言ってから五条は去っていった。頭を下げたままの恵は、こぶしを固く握りしめていた。五条の“用事”が何なのか、恵と五条のやり取りの意味が分かったのは、きっと狗巻だけだろう。五条はおそらくこの後上層部と話をする。狗巻が恵の背中に手を充てたことでやっと恵は体を起こした。
「狗巻先輩…」
「たかな」
「…はい。」
意味の分かっていない面々も「何かある」とは思っただろうが、今の恵には誰も聞くことができなかった。こういう、どこか重苦しい空気の時。それをどうにかしてくれるのはいつもパンダだ。
「自習…ね。まぁ、丁度良かったか。」
「…パンダ先輩、そういえば俺たちに何か用でしたか?」
「いやー、こんな時にスマンな。だがオマエ達に“京都姉妹校交流会”に出てほしくてな。」
二年たちの話を聞き、真希の挑発ともとれる発言もあって、恵と野薔薇はそれを承諾した。二年の面々は自分たちを鍛えるため、容赦はしないと言ったが。二人にとってそれは願ってもないことだった。
これ以上仲間を失わないために。自分を見失わないために。…大事な人を悲しませないために。
(俺は)(私は)
( 強くなるんだ そのためなら なんだって…!! )
__梅雨が明けた。
そして___ようやく夏が始まった。