第四話 組手
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翌朝、2人分の朝食を持って男子寮の恵の部屋の前までやってきたナマエは、初日とはパターンを変えてやろうとその扉をそーっと開いた。
鍵を掛けておけばいいのにそれをしないのは、ナマエがいつでも来れるようにするためだろう。何だかんだで恵もナマエには甘いのである。
出来るだけゆっくり、忍のような動作でベッドに近づくと、そこに横たわる人物を見て小さくフフッと笑った。
仰向けで寝ている恵は両手を胸の上で揃えて重ねており、見方によればそれはお祈りをする神父様のようだった。
いつも顰めている眉はゆるゆるだし、への字にしていつも文句ばっかりが出てくるその口元は少し開いていて少々間抜けだ。
(なんで寝る時いつもその姿勢なの?ウケるんだけど。ていうか、睫毛なが。色白だし、恵が女の子だったら絶対美人だな。そういや津美紀ちゃんも美人だわ。)
本人が寝ているのを良いことにマジマジとその寝顔を観察する。失礼なことを考えながら声に出さないようプククと笑ったナマエは、さてやるか、と一呼吸置いてから___助走を付けて思いっきり恵の腹の上に飛び乗った。
「どーーーん!」
「ぐふっ!……なんっ…だよ!………………ナマエ。」
突然の衝撃に一気に覚醒させられた恵は、自分の腹の上に馬乗りになって跨る幼馴染を視界に入れた瞬間、ついさっきまでの緩んだ表情から鬼の形相に変貌した。
「おい、何してくれてんだ。痛ぇんだが。」
「突撃隣のあさごはーーん!」
「……隣じゃねぇしヨネスケは晩御飯担当だ。」
「起きたてでもしっかり突っ込むんだね。」
「うるせぇ。それより早くそこから退け。」
突然の攻撃を受けてバクバクしていた脈拍はだいぶ落ち着いて来たが、今度は思春期男子の朝事情がやってきて、すぐにでもナマエが退かないと少々まずいのである。ナマエが乗っているのは腹筋の上なのでまだセーフだが、それだけではない。
恵だって健全な男子高校生だ。このアングルから見上げるのは『そういう事』を嫌でも想像させられてしまい、精神衛生上大変よろしくない。
去年乙骨に「真希さんには内緒だよ」と言われて借りたDVDの映像が恵の脳内をフラッシュバックした。
(はーーーーー。勘弁してくれ。)
さすがにナマエをオカズにした事はない(はずだ)が、このままだとDVDに出ていた女とナマエの顔がリンクしそうになった恵は、起き上がってから中々退かないナマエの両脇に手を入れ持ち上げて無理矢理ベッドから下ろした。
あああ、と残念そうにするナマエに舌打ちをしながら寝癖だらけの頭をボリボリとかき、大きなあくびをした。
「つーか今何時……ってまだ6時にもなってねぇ。んな早く起こすなよ…。」
「女の子の準備は時間がかかるんですぅー!」
「じゃあ準備してから来い。」
「やだ。朝ごはん一緒に食べるもん。」
(だからってこんな早く来なくても良いだろ。)
ナマエの格好はダボダボのスウェット姿で、髪も高いところで簡単に団子を作ってるだけだった。起きてそのままこっちに来たようだ。
「全部準備してから朝ご飯でもいいだろ。」
「ご飯食べてからじゃないと準備する気にならない。」
「昨日は先に着替えてただろーが。」
「それは制服姿を恵に一番に見せたかっただけだもん。」
「……。」
またこれだ。こういう事をさらっと言う。それに、ああ言えばこう言う。何を言っても無駄で、このやりとりに生産性を感じなくなった恵は今朝だけで何度目になるかわからないため息と共に、首後ろに手を回してコキコキと鳴らした。
「ナマエ、コーヒー。」
「うんっ!」
諦めた恵に嬉しそうに返事をしたナマエは、足取り軽く簡易キッチンへと向かった。
さて、とベッドから下りようとした恵は、足元に置いてある大きめのトートバッグに目を止めた。
「おい、これ何だ。」
「ん?あぁ、制服とかメイクポーチとかだよ。」
「は?お前ここで着替えるつもりか?」
「だって女子寮遠いもん。」
(……マジで、マジで勘弁してくれ。)
「遠いもんじゃねぇ。節操なしか。」
「着替える間恵があっち向いてたらいいじゃん。」
「そう言う問題じゃねぇだろ。ちゃんと部屋戻って着替えろ。」
「えー。めんどくさい。」
「ダメなもんはダメだ。」
「恵のケチ!!」
恵の顳顬に青筋が立ち出したのを見たナマエは「そこまで言うなら後で部屋戻るよ…。」と仕方ないな、と言った様子でしょんぼりしながら急速ポットのスイッチを入れた。
(なんで俺が悪者みたいになってんだ。)
五条や七海に声を大にして言いたい。戦いの技術ばっかりじゃなく常識や貞操観念についても教えておけと。だが七海はともかく、五条には言っても無駄だな、と恵は頭を抱えながらベッドから降りた。
ただし、こういったナマエの行動を幼い頃から受け入れていた恵にも一因がある事に、恵本人は気付いていない。
コーヒーが湯気を立ち上らせナマエが持ってきたパンもトースターでこんがり焼けた頃、2人で向かい合わせにテーブルに座り、手を合わせていただきますをした。
トーストを齧りながら、恵は気遣うようにナマエに尋ねた。
「お前、もう体平気なのか?」
「うん!いっぱい寝たからもう大丈夫だよ!」
「そうか。」
恵はというと、正直まだ疲れが取れていなかった。のほほんとするナマエに心の中で体力バカめ、と悪態をついた。
ナマエは呪力量こそ恵に劣るが、体力と身体能力に関しては人並外れていた。あの特級 と一級 が師匠だというだけが理由ではないだろう。恐らく、ミョウジ家の術式を受け継がなかった事でのある意味天与呪縛みたいなものだ。
みたいな、と表現するのはそう呼べるほどの力ではないから。現に、真希ほど身体能力が高いわけではない。だが、持ち前のセンスと努力でそれを補っている。あとはあのバケモノみたいな強さの2人による指導あってもの。だから、近接でやり合えば恐らく恵は勝てないし、真希でも敵わないだろうと恵は思っている。
「恵ー?どうしたの?」
「いや。……そういや、今日は体術の授業だったか。」
「うんっ!私楽しみなんだぁ。やっと学生!って感じのことするもん!」
「昨日はいきなりの実践だったしな。」
「そうそう。びっくりしたよー。でも、良かったよね、最初にああいう経験ができて!」
「……そうだな。」
昨日は散々ボロボロにされたっていうのに、相変わらず前向きなナマエの様子に恵の眉は下がった。
「強くならなきゃ。あれじゃダメだよね。兄様に顔向けできない。またまだ、力が足りない。」
「じゃあまずはその呪力量増やす訓練しないとな。」
「だよねー…どうやったら増えるんだろ。どうせなら憂太先輩くらい欲しいなぁ。」
「あれはまた違うだろ。あんなにあったらお前はいきなり特級だよ。」
「あはは!そうだねー。あそこまでは要らないや。」
なんとも乙骨に失礼な言い様だが、恵もそれは同意だったので何も言わなかった。
食後、食器を洗いながらナマエが振り向いて恵に言った言葉にまだ諦めてなかったのか、と恵は辟易とした。
「ねぇやっぱり、ここで着替え「却下。」」
「もー!ケチ!恵なんかハゲちゃえ!」
「あぁ!?」
鍵を掛けておけばいいのにそれをしないのは、ナマエがいつでも来れるようにするためだろう。何だかんだで恵もナマエには甘いのである。
出来るだけゆっくり、忍のような動作でベッドに近づくと、そこに横たわる人物を見て小さくフフッと笑った。
仰向けで寝ている恵は両手を胸の上で揃えて重ねており、見方によればそれはお祈りをする神父様のようだった。
いつも顰めている眉はゆるゆるだし、への字にしていつも文句ばっかりが出てくるその口元は少し開いていて少々間抜けだ。
(なんで寝る時いつもその姿勢なの?ウケるんだけど。ていうか、睫毛なが。色白だし、恵が女の子だったら絶対美人だな。そういや津美紀ちゃんも美人だわ。)
本人が寝ているのを良いことにマジマジとその寝顔を観察する。失礼なことを考えながら声に出さないようプククと笑ったナマエは、さてやるか、と一呼吸置いてから___助走を付けて思いっきり恵の腹の上に飛び乗った。
「どーーーん!」
「ぐふっ!……なんっ…だよ!………………ナマエ。」
突然の衝撃に一気に覚醒させられた恵は、自分の腹の上に馬乗りになって跨る幼馴染を視界に入れた瞬間、ついさっきまでの緩んだ表情から鬼の形相に変貌した。
「おい、何してくれてんだ。痛ぇんだが。」
「突撃隣のあさごはーーん!」
「……隣じゃねぇしヨネスケは晩御飯担当だ。」
「起きたてでもしっかり突っ込むんだね。」
「うるせぇ。それより早くそこから退け。」
突然の攻撃を受けてバクバクしていた脈拍はだいぶ落ち着いて来たが、今度は思春期男子の朝事情がやってきて、すぐにでもナマエが退かないと少々まずいのである。ナマエが乗っているのは腹筋の上なのでまだセーフだが、それだけではない。
恵だって健全な男子高校生だ。このアングルから見上げるのは『そういう事』を嫌でも想像させられてしまい、精神衛生上大変よろしくない。
去年乙骨に「真希さんには内緒だよ」と言われて借りたDVDの映像が恵の脳内をフラッシュバックした。
(はーーーーー。勘弁してくれ。)
さすがにナマエをオカズにした事はない(はずだ)が、このままだとDVDに出ていた女とナマエの顔がリンクしそうになった恵は、起き上がってから中々退かないナマエの両脇に手を入れ持ち上げて無理矢理ベッドから下ろした。
あああ、と残念そうにするナマエに舌打ちをしながら寝癖だらけの頭をボリボリとかき、大きなあくびをした。
「つーか今何時……ってまだ6時にもなってねぇ。んな早く起こすなよ…。」
「女の子の準備は時間がかかるんですぅー!」
「じゃあ準備してから来い。」
「やだ。朝ごはん一緒に食べるもん。」
(だからってこんな早く来なくても良いだろ。)
ナマエの格好はダボダボのスウェット姿で、髪も高いところで簡単に団子を作ってるだけだった。起きてそのままこっちに来たようだ。
「全部準備してから朝ご飯でもいいだろ。」
「ご飯食べてからじゃないと準備する気にならない。」
「昨日は先に着替えてただろーが。」
「それは制服姿を恵に一番に見せたかっただけだもん。」
「……。」
またこれだ。こういう事をさらっと言う。それに、ああ言えばこう言う。何を言っても無駄で、このやりとりに生産性を感じなくなった恵は今朝だけで何度目になるかわからないため息と共に、首後ろに手を回してコキコキと鳴らした。
「ナマエ、コーヒー。」
「うんっ!」
諦めた恵に嬉しそうに返事をしたナマエは、足取り軽く簡易キッチンへと向かった。
さて、とベッドから下りようとした恵は、足元に置いてある大きめのトートバッグに目を止めた。
「おい、これ何だ。」
「ん?あぁ、制服とかメイクポーチとかだよ。」
「は?お前ここで着替えるつもりか?」
「だって女子寮遠いもん。」
(……マジで、マジで勘弁してくれ。)
「遠いもんじゃねぇ。節操なしか。」
「着替える間恵があっち向いてたらいいじゃん。」
「そう言う問題じゃねぇだろ。ちゃんと部屋戻って着替えろ。」
「えー。めんどくさい。」
「ダメなもんはダメだ。」
「恵のケチ!!」
恵の顳顬に青筋が立ち出したのを見たナマエは「そこまで言うなら後で部屋戻るよ…。」と仕方ないな、と言った様子でしょんぼりしながら急速ポットのスイッチを入れた。
(なんで俺が悪者みたいになってんだ。)
五条や七海に声を大にして言いたい。戦いの技術ばっかりじゃなく常識や貞操観念についても教えておけと。だが七海はともかく、五条には言っても無駄だな、と恵は頭を抱えながらベッドから降りた。
ただし、こういったナマエの行動を幼い頃から受け入れていた恵にも一因がある事に、恵本人は気付いていない。
コーヒーが湯気を立ち上らせナマエが持ってきたパンもトースターでこんがり焼けた頃、2人で向かい合わせにテーブルに座り、手を合わせていただきますをした。
トーストを齧りながら、恵は気遣うようにナマエに尋ねた。
「お前、もう体平気なのか?」
「うん!いっぱい寝たからもう大丈夫だよ!」
「そうか。」
恵はというと、正直まだ疲れが取れていなかった。のほほんとするナマエに心の中で体力バカめ、と悪態をついた。
ナマエは呪力量こそ恵に劣るが、体力と身体能力に関しては人並外れていた。あの
みたいな、と表現するのはそう呼べるほどの力ではないから。現に、真希ほど身体能力が高いわけではない。だが、持ち前のセンスと努力でそれを補っている。あとはあのバケモノみたいな強さの2人による指導あってもの。だから、近接でやり合えば恐らく恵は勝てないし、真希でも敵わないだろうと恵は思っている。
「恵ー?どうしたの?」
「いや。……そういや、今日は体術の授業だったか。」
「うんっ!私楽しみなんだぁ。やっと学生!って感じのことするもん!」
「昨日はいきなりの実践だったしな。」
「そうそう。びっくりしたよー。でも、良かったよね、最初にああいう経験ができて!」
「……そうだな。」
昨日は散々ボロボロにされたっていうのに、相変わらず前向きなナマエの様子に恵の眉は下がった。
「強くならなきゃ。あれじゃダメだよね。兄様に顔向けできない。またまだ、力が足りない。」
「じゃあまずはその呪力量増やす訓練しないとな。」
「だよねー…どうやったら増えるんだろ。どうせなら憂太先輩くらい欲しいなぁ。」
「あれはまた違うだろ。あんなにあったらお前はいきなり特級だよ。」
「あはは!そうだねー。あそこまでは要らないや。」
なんとも乙骨に失礼な言い様だが、恵もそれは同意だったので何も言わなかった。
食後、食器を洗いながらナマエが振り向いて恵に言った言葉にまだ諦めてなかったのか、と恵は辟易とした。
「ねぇやっぱり、ここで着替え「却下。」」
「もー!ケチ!恵なんかハゲちゃえ!」
「あぁ!?」