第六十二話 信用
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結論から言うと、家入の予想は大当たりだった。五条は七海の説明を聞いた後、家入の助言については「そんなわけないでしょ。だって僕だよ?」と全く相手にすることなく、もちろん無限の展開もせずにその手をナマエに近づけた…のだが。
———バッ……チチチ!バチッ!
「「「………」」」
恵の時とは比にならないレベルの拒絶を見せた。どうやらナマエの兄、翔は何が何でも五条をナマエに触れさせるつもりはないらしい、とこの場の全員が理解した。そして、改めて。ナマエの中の翔が七海の思った通りの反応を見せたことに、正直笑いそうになってしまったがぐっと堪えて五条に話しかけた。
「だから言ったでしょうに。」
「おかか…」
「…僕に何の恨みがあんの?学生時代からあんなに気にかけてあげてたのにさぁ。」
「貴方のそれは……いや、今はやめておきましょう。」
「何それ。七海、だいたいお前もさぁ…」
「その話はまた次の機会に。…狗巻君、ここまで話しておいて何ですが。五条さんと共にここへ来たということは今回の件、凡そは理解していると捉えて構いませんね?」
「…しゃけ。」
ふてくされる五条は放置して、狗巻と話をすることにした七海。実は二人がまともに会話をするのは初めてだった。お互い存在は認知していたし、昨年の百鬼夜行で顔だけは合わせていた。由緒ある狗巻一族の一人で、今期の二年生の中では乙骨に次ぐ実力者であると七海は理解していた。その術式の性質から会話が困難であることも承知の上。それでもYES/NOの判断くらいはつく。そう思って話しかけてみたが七海の思った通りだった。今の返事はYESだろう。
「分かりました。それならば話は早い。これから私たちは今後についての話をしなければなりません。申し訳ないがここでは話し辛い内容も含まれます。君も聞きたくない、もしくは聞かない方がいい話もあります。だが君がここへ来てくれたことは有り難かった。ナマエさんのこと、しばらくお願いしてもよろしいですか?」
「し、しゃ………」
棘が返事をするかしないかのところで、翔の拒絶にショックを受け項垂れていた五条がようやく復活したようだった。
「え?話すって何を?さっきだいたいのことは伝えちゃったよ?別に棘に隠す話でもないし。」
「ハァーー…。今回のことはミョウジ兄妹だけの話ではないでしょうが。あなた上層部と何してきたんですか。」
「はいはい、悠二の件ね。分かったよ。でも僕もう少し翔と話し合わないといけないんだけど。よーーく分からせないと。」
両手をわきわきとしながらナマエを見据える五条の目がちょっとヤバいことになっているのを見た七海は呆れたように眉間の皺を揉んだ。
「アンタナマエに何するつもりですか。さっきので十分でしょう。無駄です。」
「冷たいっ!七海が冷たいっ!」
「分かりましたから行きますよ。まずは別室に居る家入さんのところへ。」
こんな状況でもどこかふざけた調子の五条に対して溜息交じりでげんなりとした七海はそのまま五条の首根っこを掴んで入口へと足を進めた。「痛い!暴力反対!」などと言いながらもどこかヘラヘラした五条は、去り際に棘へ「翔は性格悪いから気を付けてねー!ナマエが寝てるからって変なことしちゃだめだよー?」と緊張感の欠片もないセリフを吐いて去っていった。
「たかな………」
大人たちは棘の意見など全く聞くことなく居なくなってしまった。そもそも何が起こるか分からない被呪者に高専生一人だけ残していって本当に良かったのだろうか。疑問しか残らなかった棘だったが、こうやってナマエに会わせてくれた五条たちには感謝をしないといけないだろう。棘はそのままゆっくりとナマエの横たわるベッドへと近づいて行った。
______
「——これでよろしいですか。」
「クックック…さっすが七海。オマエは自慢の後輩だよ。」
「自慢されなくても結構です。」
「ひどっ!」
五条が棘を連れて医務室にやってきたとき、七海は初め「何をやってんだこの人は。」と思った。直接任務にあたった伏黒ならまだ分かるが、棘はナマエのただの先輩で。強いて言うなら“婚約者(仮)”である。現時点で箝口令が敷かれているこの状況で当然のように連れてきたのだ。
だが、五条からの簡単な説明と狗巻家の状況。そして棘本人の様子を見た七海は、五条を見た。相変わらず軽薄な様子の五条は、軽薄さはそのままに七海に目で訴えてきた。「二人にしてやってくれ。」と。アイマスク越しのくせに分かってしまった。悔しいが生徒想いのこの人に合わせることにしたのだった。
「オマエはいつもナマエと恵を見る機会が多かったからまぁ分かんないだろうけど。棘は棘で色々あるんだよね。今を逃したら棘だってナマエに会えなくなってしまうかもだしね。」
「それにしたって。良かったんですか?肉親にとはいえ、ナマエは立派な被呪者ですよ。高専生一人に任せるのもどうかと思いますが。」
「そこは問題ないよ、棘には呪言があるからね。いざという時どうとでもなるさ。」
「ですが…」
「棘の実力は本物だよ。それにね、信用してるんだ。」
「信用…ですか?」
「あぁ。いつも憎まれ口ばっかりで。かわいげのカケラもないヤツだったけど。翔 は何よりも、誰よりもナマエのことを愛してた。まぁ、これまであいつがしてきたことはナマエにとっては辛いことばっかりだったろうけどさ。それもあいつなりのナマエへの愛ゆえに、だよ。だから…ナマエが本当の意味で悲しむことは絶対にしない。そこだけは、俺はあいつを信用してる。」
「…………」
「それにしてもさぁ、やっぱナマエって愛されてるよねぇ。恵でしょ、棘でしょ、それに兄貴に七海に、この僕まで虜にしちゃってんだからさぁ。」
一人称が一瞬昔に戻った五条。すぐにいつものようにふざけだしたが、あの一瞬は学生時代を思い出したのだろうか。やり方はどうあれ、五条が翔のことを大事な後輩だと思っていたのは確かだと七海も思った。七海の脳裏にも、学生時代のささいなやり取りが思い出されそうになったが、今考える時ではない。そう思って頭を振った。
そして、七海には先ほどの五条の話の中で一つだけ訂正したいことがあった。
「五条さん。ミョウジは…」
「ん?」
「ナマエを本当の意味で……既に悲しませていますよ。」
「……あぁ、……そう、だったな。」
「えぇ。…取り返しのつかないことを既に。」
_失った命は決して戻ることはない。ナマエにとって最愛の兄。ミョウジ翔はナマエを置いて逝ってしまったのだから。
———バッ……チチチ!バチッ!
「「「………」」」
恵の時とは比にならないレベルの拒絶を見せた。どうやらナマエの兄、翔は何が何でも五条をナマエに触れさせるつもりはないらしい、とこの場の全員が理解した。そして、改めて。ナマエの中の翔が七海の思った通りの反応を見せたことに、正直笑いそうになってしまったがぐっと堪えて五条に話しかけた。
「だから言ったでしょうに。」
「おかか…」
「…僕に何の恨みがあんの?学生時代からあんなに気にかけてあげてたのにさぁ。」
「貴方のそれは……いや、今はやめておきましょう。」
「何それ。七海、だいたいお前もさぁ…」
「その話はまた次の機会に。…狗巻君、ここまで話しておいて何ですが。五条さんと共にここへ来たということは今回の件、凡そは理解していると捉えて構いませんね?」
「…しゃけ。」
ふてくされる五条は放置して、狗巻と話をすることにした七海。実は二人がまともに会話をするのは初めてだった。お互い存在は認知していたし、昨年の百鬼夜行で顔だけは合わせていた。由緒ある狗巻一族の一人で、今期の二年生の中では乙骨に次ぐ実力者であると七海は理解していた。その術式の性質から会話が困難であることも承知の上。それでもYES/NOの判断くらいはつく。そう思って話しかけてみたが七海の思った通りだった。今の返事はYESだろう。
「分かりました。それならば話は早い。これから私たちは今後についての話をしなければなりません。申し訳ないがここでは話し辛い内容も含まれます。君も聞きたくない、もしくは聞かない方がいい話もあります。だが君がここへ来てくれたことは有り難かった。ナマエさんのこと、しばらくお願いしてもよろしいですか?」
「し、しゃ………」
棘が返事をするかしないかのところで、翔の拒絶にショックを受け項垂れていた五条がようやく復活したようだった。
「え?話すって何を?さっきだいたいのことは伝えちゃったよ?別に棘に隠す話でもないし。」
「ハァーー…。今回のことはミョウジ兄妹だけの話ではないでしょうが。あなた上層部と何してきたんですか。」
「はいはい、悠二の件ね。分かったよ。でも僕もう少し翔と話し合わないといけないんだけど。よーーく分からせないと。」
両手をわきわきとしながらナマエを見据える五条の目がちょっとヤバいことになっているのを見た七海は呆れたように眉間の皺を揉んだ。
「アンタナマエに何するつもりですか。さっきので十分でしょう。無駄です。」
「冷たいっ!七海が冷たいっ!」
「分かりましたから行きますよ。まずは別室に居る家入さんのところへ。」
こんな状況でもどこかふざけた調子の五条に対して溜息交じりでげんなりとした七海はそのまま五条の首根っこを掴んで入口へと足を進めた。「痛い!暴力反対!」などと言いながらもどこかヘラヘラした五条は、去り際に棘へ「翔は性格悪いから気を付けてねー!ナマエが寝てるからって変なことしちゃだめだよー?」と緊張感の欠片もないセリフを吐いて去っていった。
「たかな………」
大人たちは棘の意見など全く聞くことなく居なくなってしまった。そもそも何が起こるか分からない被呪者に高専生一人だけ残していって本当に良かったのだろうか。疑問しか残らなかった棘だったが、こうやってナマエに会わせてくれた五条たちには感謝をしないといけないだろう。棘はそのままゆっくりとナマエの横たわるベッドへと近づいて行った。
______
「——これでよろしいですか。」
「クックック…さっすが七海。オマエは自慢の後輩だよ。」
「自慢されなくても結構です。」
「ひどっ!」
五条が棘を連れて医務室にやってきたとき、七海は初め「何をやってんだこの人は。」と思った。直接任務にあたった伏黒ならまだ分かるが、棘はナマエのただの先輩で。強いて言うなら“婚約者(仮)”である。現時点で箝口令が敷かれているこの状況で当然のように連れてきたのだ。
だが、五条からの簡単な説明と狗巻家の状況。そして棘本人の様子を見た七海は、五条を見た。相変わらず軽薄な様子の五条は、軽薄さはそのままに七海に目で訴えてきた。「二人にしてやってくれ。」と。アイマスク越しのくせに分かってしまった。悔しいが生徒想いのこの人に合わせることにしたのだった。
「オマエはいつもナマエと恵を見る機会が多かったからまぁ分かんないだろうけど。棘は棘で色々あるんだよね。今を逃したら棘だってナマエに会えなくなってしまうかもだしね。」
「それにしたって。良かったんですか?肉親にとはいえ、ナマエは立派な被呪者ですよ。高専生一人に任せるのもどうかと思いますが。」
「そこは問題ないよ、棘には呪言があるからね。いざという時どうとでもなるさ。」
「ですが…」
「棘の実力は本物だよ。それにね、信用してるんだ。」
「信用…ですか?」
「あぁ。いつも憎まれ口ばっかりで。かわいげのカケラもないヤツだったけど。
「…………」
「それにしてもさぁ、やっぱナマエって愛されてるよねぇ。恵でしょ、棘でしょ、それに兄貴に七海に、この僕まで虜にしちゃってんだからさぁ。」
一人称が一瞬昔に戻った五条。すぐにいつものようにふざけだしたが、あの一瞬は学生時代を思い出したのだろうか。やり方はどうあれ、五条が翔のことを大事な後輩だと思っていたのは確かだと七海も思った。七海の脳裏にも、学生時代のささいなやり取りが思い出されそうになったが、今考える時ではない。そう思って頭を振った。
そして、七海には先ほどの五条の話の中で一つだけ訂正したいことがあった。
「五条さん。ミョウジは…」
「ん?」
「ナマエを本当の意味で……既に悲しませていますよ。」
「……あぁ、……そう、だったな。」
「えぇ。…取り返しのつかないことを既に。」
_失った命は決して戻ることはない。ナマエにとって最愛の兄。ミョウジ翔はナマエを置いて逝ってしまったのだから。