第六十一話 面会
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――一方、少々時を戻して、棘に件が知らされる数時間前。あれから伊地知の運転で高専に戻ってきた恵たち一同。伊地知は五条への報告のため別行動となったが、残りはナマエを診てもらうため待機中の家入の元へと向かうことになった。
はじめは七海にナマエを任せてそのまま自室に戻ろうとしていた恵だったが、決して軽くない怪我をしていたこともあり、七海にどうにかこうにか諭されて中半強制的に医務室へと連れていかれた。だが、一通り家入による治療を受けた恵は礼もそこそこに自室へと帰ってしまう。
ちなみに釘崎は家入の的確な治療により命に別状はなく、呪力切れと過度の疲労により医務室の隣の部屋で今も眠っている。
そして…虎杖はひとまず霊安室に安置されることとなった。
「伏黒はどうした?あいつのことだからナマエに付きっきりになると思ったが。」
「…彼も疲れているでしょうし休ませてあげましょう。代わりに私が付き添いますよ。」
「……そうか。」
今までの恵であればナマエが目を覚ますまできっとそばを離れなかっただろう。だが、今は事情が事情だ。七海は恵の心情を憂い大きく息を吐いた。
「それで?ナマエの状態について分かる範囲で教えてもらえるか?」
「はい。ナマエさんは……」
七海はできるだけ端的にナマエの体の状態と、それに至る経緯を恵の話と自身の体験をもとに家入に説明した。時折相槌を打ちながら静かに聞きつつも徐々に表情を暗くしていった家入だったが、それでも七海は気付いてないかのように振る舞い最後まで話し切った。
「俄かには信じがたいけど。冗談…なわけはないか。」
「えぇ。私も最初は耳を疑いましたが、ナマエさんを覆うあの呪力はミョウジのものとかなり似通っています。それに、ミョウジならきっと……」
「そうか…あいつは、きっと最期にナマエを守ったんだな。」
「……。」
「大丈夫か?お前たち、同期だったろう。」
家入が七海のことを気にかけるのはミョウジ翔が七海の同期である、というだけでなく過去に灰原の件で七海が随分と取り乱したことを知っているからかもしれない。七海にとって、同期を失うのはこれで二度目。自分と二人きりになってしまった同期を、今日、また失ってしまった。独りに…なってしまった。高専時代お互い仲良しこよしだったわけではないし、一学年上の五条と夏油 のように、無二の親友と言える仲でもなく。逆に意見が合わずぶつかることの方が多かった。それでも、七海が一度呪術界から離れることになったあの時まで。10代という多感な時期を共に過ごした戦友であったことには変わりない。
恵の手前あくまでも冷静を貫いた七海だが、ミョウジの死とその後の顛末を聞いた時決して動揺しなかったわけではないのだ。だが今は、弱音を吐くべきではない。傷心の子供たちを前にして取り乱すことなどできなかった。七海は気を取り直して家入に向き直った。
「…大丈夫ですよ。私のことよりも、心配なのはナマエさんの方です。上層部との話は伊地知君を通して五条さんに一任しましたが…これからどうなるのか…。」
「そうだな。乙骨の例もあるが…今回は今回で事情が違う。まぁ、そこはまた五条がどうにかするだろう。揉めに揉めてイラつきながら帰ってくるのが目に見えている分、後が面倒だけどな。そんなことよりも今はナマエか。」
五条と上層部の柵を“そんなこと”の一言で片付ける家入はさすが付き合いの長い同期といったところか。家入の言葉に対して“確かに”と思ってしまう辺りは七海も相当である。
「ナマエさんが目を覚ました時…正気でいられるでしょうか。」
「あぁ。被呪したときの様子が分からないからな。ナマエが一体どこまで理解しているのか。」
「……。」
「ったく。神様ってのがいるか分からないが…いたとしたら残酷だよ。どうしてこうも立て続けに……」
確かに、ナマエが高専に入学してからたった数か月で本当にいろんなことがあった。そもそも彼女は小学中学でさえ辛い思いをしてきたと聞く。高専に入学してからのことは七海は話でしか聞いていないが、精神的に追い詰められることが立て続けに起こりすぎている。呪術界に身を置いていれば想定外のことや、絶望に打ちひしがれることなんていくらでも起こるし、何より呪術師に悔いのない死などないと言われているくらいだ。それでも…。幼いころから見てきたこの小さな少女にはできればこんな思いはさせたくなかった。
呪術界に入らなければ明るく朗らかに笑う少女の表情が曇るようなことなんてなかったかもしれない。あの時は彼女の覚悟と熱意を尊重したが、彼女に教えを乞われた時、何が何でも止めるべきだったのかもしれないと、今更ながら後悔の念が襲ってくる。だがナマエはきっと七海が止めたとしても別の手段を取ってどうにかしていたことだろう。結局は結果論だ。だが――――。そこまで考えて、七海は頭を振った。
何も言わない七海に家入も思うところがあったのか。普段から七海に負けず劣らず表情の分かりにくい家入は少々眉を下げた後、すぐに気を引き締め、七海へ改めて話しかけた。
「そろそろナマエの容態を確認したいんだが…お前の話だと特定の人間以外は触れることすらできないんだろう?私はどうなんだ?」
「あくまでも私の見解によるものですが…ナマエさんに掛かった呪いは恐らくミョウジ自身の性格が大いに反映されていると思われます。現に私は弾かれませんでしたが伏黒君は指一本触れさせてもらえなかった。」
「…なるほどな。確かにまるでミョウジそのものだな。あぁ、そうか。伏黒はそれで……。」
「……はい。ですから家入さんは恐らく問題ないかと。」
「伏黒も大人びて見えても結局は15歳の少年だったんだな。まぁ…ナマエを前にした伏黒は私たちから見ればただの等身大の男の子ではあったか。」
「…そう、ですね。」
恵のことは七海もそれこそ彼が10歳の頃からナマエと一緒にいる様子を見てきている。二人の成長はずっと陰ながら見守ってきた。ここ最近はお互いの気持ちが通じ合ったのか知らないが、時折二人を咎めながらも微笑ましく見守っていたのだ。かと思えば今度はナマエの許嫁騒動。兄であるミョウジの計略だろうというのはすぐに分かった。次に会った時にでもミョウジにそれとなく話を聞いてみようと思っていた。そう思っていた矢先に…。
家入がゆっくりとナマエが横たわるベッドへと近づいた事で物思いに耽っていた頭から現実へと引き戻された。家入は少し緊張しながらそっとその手をナマエの顔へと近づけた。それもそうだろう、七海が大丈夫と言ったものの確証があったわけではなかったのだから。
結果、七海の言った通りで家入は何の問題もなくナマエに触れることができた。
「ふー、柄にもなく緊張したよ。とりあえず拒絶されなくて良かった。ナマエ、ちょっと体を診させてもらうよ。」
家入がナマエの診察を開始したため一旦席を外そうとした七海だったが、家入に問題ないと言われたためそのまま近くの椅子に腰かけて終わるのを待つことにした。
しばらくして診察が終わったのか、ふうっと息を吐き聴診器を首から下げたのちに七海の方へと振り返った。
「どうですか。」
「聞いてた通りで傷は一つも見当たらないよ。どうやら宿儺は本当に反転術式が使えるらしい。おまけにインアウトともに問題なしか。ナマエを治してくれたことは有り難いが宿儺ってのは話に聞く以上にやっかいだな。わざわざ治療した理由も気にかかるが。」
「…それで、ナマエさんは。」
「体に異常はないけど、まだまだ分からんな。身内にとはいえ、呪われてるんだ。これからこまめに診ていく必要があるだろう。目を覚まさないのは恐らく…精神的なものが大きいんだろう。」
「……。」
「命に別状はないとはいえ、いつ目を覚ますのか見当もつかないよ。」
「…そうですか。」
「さてと、私はちょっと野薔薇の様子を見てくるよ。ナマエのこと見といてくれるか?」
「わかりました。」
「それと。五条がそろそろ上との話を終えてこちらの様子を見に来る可能性もある。私が戻るより先に五条が来たらナマエの状態を伝えてやってくれるか?」
「私で良ければ。」
「七海も任務後にそのまま駆け付けたんだろう?疲れているだろうに悪いね。」
「立て続けに治療し続けているあなたほどではありませんよ。」
緩く口の端を上げた家入は「相変わらず口の減らない奴だ」と言いながら出口へと向かった。そして扉を開ける直前、何かを思い出したかのようにこちらへ振り返った家入。どうしたのかと方眉を上げた七海に家入は淡々と告げた。
「五条にさ、『ナマエに触れるなら無限展開しとけよ』って言っといて。」
「…………あぁ、ミョウジであれば…ほぼ確実にそうするでしょうね。」
「日頃の行い、だな。じゃ、あとはよろしく。」
くくっと少しだけ笑った家入は、ヒラヒラと手を振りながら今度こそ医務室を出ていった。
はじめは七海にナマエを任せてそのまま自室に戻ろうとしていた恵だったが、決して軽くない怪我をしていたこともあり、七海にどうにかこうにか諭されて中半強制的に医務室へと連れていかれた。だが、一通り家入による治療を受けた恵は礼もそこそこに自室へと帰ってしまう。
ちなみに釘崎は家入の的確な治療により命に別状はなく、呪力切れと過度の疲労により医務室の隣の部屋で今も眠っている。
そして…虎杖はひとまず霊安室に安置されることとなった。
「伏黒はどうした?あいつのことだからナマエに付きっきりになると思ったが。」
「…彼も疲れているでしょうし休ませてあげましょう。代わりに私が付き添いますよ。」
「……そうか。」
今までの恵であればナマエが目を覚ますまできっとそばを離れなかっただろう。だが、今は事情が事情だ。七海は恵の心情を憂い大きく息を吐いた。
「それで?ナマエの状態について分かる範囲で教えてもらえるか?」
「はい。ナマエさんは……」
七海はできるだけ端的にナマエの体の状態と、それに至る経緯を恵の話と自身の体験をもとに家入に説明した。時折相槌を打ちながら静かに聞きつつも徐々に表情を暗くしていった家入だったが、それでも七海は気付いてないかのように振る舞い最後まで話し切った。
「俄かには信じがたいけど。冗談…なわけはないか。」
「えぇ。私も最初は耳を疑いましたが、ナマエさんを覆うあの呪力はミョウジのものとかなり似通っています。それに、ミョウジならきっと……」
「そうか…あいつは、きっと最期にナマエを守ったんだな。」
「……。」
「大丈夫か?お前たち、同期だったろう。」
家入が七海のことを気にかけるのはミョウジ翔が七海の同期である、というだけでなく過去に灰原の件で七海が随分と取り乱したことを知っているからかもしれない。七海にとって、同期を失うのはこれで二度目。自分と二人きりになってしまった同期を、今日、また失ってしまった。独りに…なってしまった。高専時代お互い仲良しこよしだったわけではないし、一学年上の
恵の手前あくまでも冷静を貫いた七海だが、ミョウジの死とその後の顛末を聞いた時決して動揺しなかったわけではないのだ。だが今は、弱音を吐くべきではない。傷心の子供たちを前にして取り乱すことなどできなかった。七海は気を取り直して家入に向き直った。
「…大丈夫ですよ。私のことよりも、心配なのはナマエさんの方です。上層部との話は伊地知君を通して五条さんに一任しましたが…これからどうなるのか…。」
「そうだな。乙骨の例もあるが…今回は今回で事情が違う。まぁ、そこはまた五条がどうにかするだろう。揉めに揉めてイラつきながら帰ってくるのが目に見えている分、後が面倒だけどな。そんなことよりも今はナマエか。」
五条と上層部の柵を“そんなこと”の一言で片付ける家入はさすが付き合いの長い同期といったところか。家入の言葉に対して“確かに”と思ってしまう辺りは七海も相当である。
「ナマエさんが目を覚ました時…正気でいられるでしょうか。」
「あぁ。被呪したときの様子が分からないからな。ナマエが一体どこまで理解しているのか。」
「……。」
「ったく。神様ってのがいるか分からないが…いたとしたら残酷だよ。どうしてこうも立て続けに……」
確かに、ナマエが高専に入学してからたった数か月で本当にいろんなことがあった。そもそも彼女は小学中学でさえ辛い思いをしてきたと聞く。高専に入学してからのことは七海は話でしか聞いていないが、精神的に追い詰められることが立て続けに起こりすぎている。呪術界に身を置いていれば想定外のことや、絶望に打ちひしがれることなんていくらでも起こるし、何より呪術師に悔いのない死などないと言われているくらいだ。それでも…。幼いころから見てきたこの小さな少女にはできればこんな思いはさせたくなかった。
呪術界に入らなければ明るく朗らかに笑う少女の表情が曇るようなことなんてなかったかもしれない。あの時は彼女の覚悟と熱意を尊重したが、彼女に教えを乞われた時、何が何でも止めるべきだったのかもしれないと、今更ながら後悔の念が襲ってくる。だがナマエはきっと七海が止めたとしても別の手段を取ってどうにかしていたことだろう。結局は結果論だ。だが――――。そこまで考えて、七海は頭を振った。
何も言わない七海に家入も思うところがあったのか。普段から七海に負けず劣らず表情の分かりにくい家入は少々眉を下げた後、すぐに気を引き締め、七海へ改めて話しかけた。
「そろそろナマエの容態を確認したいんだが…お前の話だと特定の人間以外は触れることすらできないんだろう?私はどうなんだ?」
「あくまでも私の見解によるものですが…ナマエさんに掛かった呪いは恐らくミョウジ自身の性格が大いに反映されていると思われます。現に私は弾かれませんでしたが伏黒君は指一本触れさせてもらえなかった。」
「…なるほどな。確かにまるでミョウジそのものだな。あぁ、そうか。伏黒はそれで……。」
「……はい。ですから家入さんは恐らく問題ないかと。」
「伏黒も大人びて見えても結局は15歳の少年だったんだな。まぁ…ナマエを前にした伏黒は私たちから見ればただの等身大の男の子ではあったか。」
「…そう、ですね。」
恵のことは七海もそれこそ彼が10歳の頃からナマエと一緒にいる様子を見てきている。二人の成長はずっと陰ながら見守ってきた。ここ最近はお互いの気持ちが通じ合ったのか知らないが、時折二人を咎めながらも微笑ましく見守っていたのだ。かと思えば今度はナマエの許嫁騒動。兄であるミョウジの計略だろうというのはすぐに分かった。次に会った時にでもミョウジにそれとなく話を聞いてみようと思っていた。そう思っていた矢先に…。
家入がゆっくりとナマエが横たわるベッドへと近づいた事で物思いに耽っていた頭から現実へと引き戻された。家入は少し緊張しながらそっとその手をナマエの顔へと近づけた。それもそうだろう、七海が大丈夫と言ったものの確証があったわけではなかったのだから。
結果、七海の言った通りで家入は何の問題もなくナマエに触れることができた。
「ふー、柄にもなく緊張したよ。とりあえず拒絶されなくて良かった。ナマエ、ちょっと体を診させてもらうよ。」
家入がナマエの診察を開始したため一旦席を外そうとした七海だったが、家入に問題ないと言われたためそのまま近くの椅子に腰かけて終わるのを待つことにした。
しばらくして診察が終わったのか、ふうっと息を吐き聴診器を首から下げたのちに七海の方へと振り返った。
「どうですか。」
「聞いてた通りで傷は一つも見当たらないよ。どうやら宿儺は本当に反転術式が使えるらしい。おまけにインアウトともに問題なしか。ナマエを治してくれたことは有り難いが宿儺ってのは話に聞く以上にやっかいだな。わざわざ治療した理由も気にかかるが。」
「…それで、ナマエさんは。」
「体に異常はないけど、まだまだ分からんな。身内にとはいえ、呪われてるんだ。これからこまめに診ていく必要があるだろう。目を覚まさないのは恐らく…精神的なものが大きいんだろう。」
「……。」
「命に別状はないとはいえ、いつ目を覚ますのか見当もつかないよ。」
「…そうですか。」
「さてと、私はちょっと野薔薇の様子を見てくるよ。ナマエのこと見といてくれるか?」
「わかりました。」
「それと。五条がそろそろ上との話を終えてこちらの様子を見に来る可能性もある。私が戻るより先に五条が来たらナマエの状態を伝えてやってくれるか?」
「私で良ければ。」
「七海も任務後にそのまま駆け付けたんだろう?疲れているだろうに悪いね。」
「立て続けに治療し続けているあなたほどではありませんよ。」
緩く口の端を上げた家入は「相変わらず口の減らない奴だ」と言いながら出口へと向かった。そして扉を開ける直前、何かを思い出したかのようにこちらへ振り返った家入。どうしたのかと方眉を上げた七海に家入は淡々と告げた。
「五条にさ、『ナマエに触れるなら無限展開しとけよ』って言っといて。」
「…………あぁ、ミョウジであれば…ほぼ確実にそうするでしょうね。」
「日頃の行い、だな。じゃ、あとはよろしく。」
くくっと少しだけ笑った家入は、ヒラヒラと手を振りながら今度こそ医務室を出ていった。