第五十八話 人質
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先輩である乙骨憂太も、去年まで幼なじみである祈本里香に呪われていた。正確には乙骨が呪いを掛けていたのだが。恵は話でしか聞いていなかった為、呪霊ならともかく人間が呪いに転じて人に憑くなんて。俄かに信じられなかった。ただ、乙骨の件が真実である事はもちろん分かっているし、解呪後ではあるがリカの力も目の当たりにしたことがある。
だが、それがよりにも寄って一番身近で一番大事に思っている人の身に起こるなど、一体誰が想像できただろうか。何がどうなってそんな事になってしまうのか。……宿儺の様子からはきっと素直に教えてはくれないだろう。それに、一番の疑問は……
「なぜ……ナマエを、助けるような事をするんだ。」
一番分からないのはこれだ。翔の呪力は見方によれば宿儺に抵抗をしているようにも見える。痛くも痒くもなさそうではあるが。そこまでしてナマエを外に連れ出した意味が分からない。
「おかしな事を聞く。此奴はお前の想い人であろう?礼を言われることは有っても責められる謂れはないはずだが。……まぁいいだろう。此奴には資質がある。面白い物が見られそうなんでな。少し様子を見る事にした。」
「面白い……だと……」
「そう怖い顔をするな。お前にもその内分かる。」
「なっ……!」
そう言ってニヤリと笑みを浮かべた宿儺は、次の瞬間恵の目の前から一瞬で姿を消した。恵の目では全く追う事ができず、ナマエが帯電している音を頼りに振り返る事でしか宿儺の移動先が分からなかった。
宿舎の屋根の下、雨の当たらないその場所にナマエはゆっくりと降ろされ寝かされていた。その少し丁寧にすら見える宿儺の行動は、本人の言葉からすると『今殺すには惜しい』と言った所だろう。少なくとも、“今”はナマエに危害が及ぶ事はない、という事だけは恵にも分かった。ずっと帯電していたナマエは、地面に降ろされ宿儺から離れたせいか、嘘のように大人しくなった。やはり宿儺に抵抗していたようだった。
宿儺がナマエに手のひらを翳した為一瞬ヒヤリとした恵だったが、次の瞬間、青白い光がナマエを包んだため、それが反転術式だと分かった。家入が行うそれとよく似ていたためすぐ判断がついて良かったが万が一攻撃の類だったとしたら手遅れだった。“ナマエを生かす”というのは本当らしい。
しかし、ナマエの身がひとまず安心だということが分かったが己はそうではない。自分は宿儺に生かされる理由など無いのだから。これだけ長く話していたのに虎杖と入れ替わる気配すらない。これまでの虎杖は宿儺を制御できていたはずなのに。恵のそばまでまた一瞬で戻ってきた宿儺は、またもや恵の心情を見抜くかのように告げた。
「なんの縛り もなく俺を利用したツケだな。俺と代わるのに少々手こずっているようだ。」
「…………」
「だがそれも時間の問題だろ。そこで俺に今できることを考えた。」
「?」
そう言って徐にビリビリと制服を破り捨て上半身裸になった宿儺。こいつやたらと脱ぎたがるな……なんて現実逃避か呑気な事を考えていた恵だったが、次の瞬間信じられないものを目の当たりにした。
「なっ!!」
ドスッ――ブチブチ――ブシュッ――
宿儺が胸元に指を突き立てそのまま突き破り、嫌な音を立てて何かを取り出した。手のひらに収めたのは――――紛れもなく、心臓。ドクドクと鼓動を立てるそれを、眼前にかかげ、口から血を流しながらも口角をあげてまたもや信じられないことを口にした。
「虎杖 を人質にする。」
そう言ってその心臓をゴミを見るかのような表情で一瞥したあと鬱陶しそうに地面へとたたきつけた。
「俺は心臓 なしでも生きていられるがな。虎杖 はそうもいかん。俺と代わることは死を意味する。さらに――駄目押しだ。」
「!!」
ポケットから取り出されたそれは、宿儺の指。宿舎で相対した特級が取り込んでいたらしい。舌に乗せたそれをゴクリと飲み込んだ宿儺の呪力が明らかに上がったのが分かった。この一連の流れを、ただただ見ていることしかできなかった。
「さてと、晴れて自由の身だ。もう脅えていいぞ。――――殺す。特に理由はない。」
そういえば最初“脅えるな”と言っていた。言いたいことを話すだけ話して、満足したらしい。明らかに敵わないことは分かっている。それでも、先ほど相対した瞬間に比べて、恵はなぜか落ち着いていた。
「…あの時と……立場が逆転したな。」
だが、それがよりにも寄って一番身近で一番大事に思っている人の身に起こるなど、一体誰が想像できただろうか。何がどうなってそんな事になってしまうのか。……宿儺の様子からはきっと素直に教えてはくれないだろう。それに、一番の疑問は……
「なぜ……ナマエを、助けるような事をするんだ。」
一番分からないのはこれだ。翔の呪力は見方によれば宿儺に抵抗をしているようにも見える。痛くも痒くもなさそうではあるが。そこまでしてナマエを外に連れ出した意味が分からない。
「おかしな事を聞く。此奴はお前の想い人であろう?礼を言われることは有っても責められる謂れはないはずだが。……まぁいいだろう。此奴には資質がある。面白い物が見られそうなんでな。少し様子を見る事にした。」
「面白い……だと……」
「そう怖い顔をするな。お前にもその内分かる。」
「なっ……!」
そう言ってニヤリと笑みを浮かべた宿儺は、次の瞬間恵の目の前から一瞬で姿を消した。恵の目では全く追う事ができず、ナマエが帯電している音を頼りに振り返る事でしか宿儺の移動先が分からなかった。
宿舎の屋根の下、雨の当たらないその場所にナマエはゆっくりと降ろされ寝かされていた。その少し丁寧にすら見える宿儺の行動は、本人の言葉からすると『今殺すには惜しい』と言った所だろう。少なくとも、“今”はナマエに危害が及ぶ事はない、という事だけは恵にも分かった。ずっと帯電していたナマエは、地面に降ろされ宿儺から離れたせいか、嘘のように大人しくなった。やはり宿儺に抵抗していたようだった。
宿儺がナマエに手のひらを翳した為一瞬ヒヤリとした恵だったが、次の瞬間、青白い光がナマエを包んだため、それが反転術式だと分かった。家入が行うそれとよく似ていたためすぐ判断がついて良かったが万が一攻撃の類だったとしたら手遅れだった。“ナマエを生かす”というのは本当らしい。
しかし、ナマエの身がひとまず安心だということが分かったが己はそうではない。自分は宿儺に生かされる理由など無いのだから。これだけ長く話していたのに虎杖と入れ替わる気配すらない。これまでの虎杖は宿儺を制御できていたはずなのに。恵のそばまでまた一瞬で戻ってきた宿儺は、またもや恵の心情を見抜くかのように告げた。
「なんの
「…………」
「だがそれも時間の問題だろ。そこで俺に今できることを考えた。」
「?」
そう言って徐にビリビリと制服を破り捨て上半身裸になった宿儺。こいつやたらと脱ぎたがるな……なんて現実逃避か呑気な事を考えていた恵だったが、次の瞬間信じられないものを目の当たりにした。
「なっ!!」
ドスッ――ブチブチ――ブシュッ――
宿儺が胸元に指を突き立てそのまま突き破り、嫌な音を立てて何かを取り出した。手のひらに収めたのは――――紛れもなく、心臓。ドクドクと鼓動を立てるそれを、眼前にかかげ、口から血を流しながらも口角をあげてまたもや信じられないことを口にした。
「
そう言ってその心臓をゴミを見るかのような表情で一瞥したあと鬱陶しそうに地面へとたたきつけた。
「俺は
「!!」
ポケットから取り出されたそれは、宿儺の指。宿舎で相対した特級が取り込んでいたらしい。舌に乗せたそれをゴクリと飲み込んだ宿儺の呪力が明らかに上がったのが分かった。この一連の流れを、ただただ見ていることしかできなかった。
「さてと、晴れて自由の身だ。もう脅えていいぞ。――――殺す。特に理由はない。」
そういえば最初“脅えるな”と言っていた。言いたいことを話すだけ話して、満足したらしい。明らかに敵わないことは分かっている。それでも、先ほど相対した瞬間に比べて、恵はなぜか落ち着いていた。
「…あの時と……立場が逆転したな。」