（生得領域が閉じた！！特級が死んだんだ…あとはあいつらが戻れば……）

「虎杖（ヤツ）なら戻らんぞ」
「……っ！」

　気配を感じとる間もなく背後をいとも簡単に取られた。気を抜いていた訳ではない。それでも……
　突然現れた虎杖（宿儺）。バチバチと弾けるような音が背後からしており、自分を殺すための予備動作かと恐る恐るどうにか首だけ動かして……その光景に目を見開いた。

「ナマエっ！！」　
「落ち着け。そう脅えるな。今は機嫌がいい。少し話そう。」

　宿儺の右腕に抱えられていたのは、紛れもなくナマエで。制服はボロボロ、血塗れ、そしてぐったりと力なく項垂れている様子から意識が無いのか……既に宿儺の手によって………
　だが、様子がおかしい。先ほどからバチバチと音を立てていたのは宿儺とナマエから迸る刺々しい呪力。まるで全身から放電しているようだ。宿儺の能力だろうか。それにしてはナマエが電力を浴びながら何ともないのもおかしい。かといって宿儺にもダメージのようなものは見られない。

「心配せずとも此奴は生きている。このまま放っておけばいずれ死ぬだろうがな。ちなみにこの力は俺ではないぞ。大方俺に抵抗しているのだろう。」
「お前が…やったのか……？」

　ということはこの放電はナマエから発されているもの。だがナマエの能力は風。相伝ならともかくナマエには無理な芸当だ。
　兎にも角にも今すぐにでも宿儺からナマエを奪い返したいのに宿儺の呪力に充てられて身動きが取れない。そしてナマエから出ているらしい呪力にも恵は対抗できないだろうと思われた。こめかみを汗だか雨だかわからない水分がつうっと伝う。

　
「人聞きの悪いことを言うな。俺ではない。ここまで連れて来てやったんだ、むしろ感謝してもいいくらいだぞ。」
「――。じゃあ……もう1人居たはずだ。その人は……」

　ひとまずナマエの無事…とは言い難いがこの目に映ったことで先ほどの何も分からない状態よりはましな状況になった。ではなぜ宿儺がナマエを助けるような真似をするのか、ナマエの兄であるミョウジ翔が共に居ないのはなぜか。ナマエのこの呪力は何なのか。恵は立ち尽くすだけで何もできず、只々馬鹿みたいに質問を繰り返すことしかできない。
　だって、あの人がナマエを1人にするはずがない。突き放しているように見えてそうではない。あの事件があって初めて恵も気付いた。ナマエ本人はきっと知る由もないが。そしてその極端で不器用なやり方が狗巻の件に繋がったのだと恵は思っている。そんなあの人が瀕死のナマエを放っておくはずがないのだ。心臓が嫌な音を立てる。耳に心臓が生えたのかと馬鹿なことを考えるくらいに大きく脈打つ音が耳元でうるさく鳴り響く。

　そんな恵の心情なんてお構いなしに宿儺はさらりと事も無げに残酷な事実を口にする。

「あぁ、此奴の兄であろう？ヤツなら、死んだ。先に言っておくがそれも俺ではないぞ。結論から言えば自死と取れるだろう。」
「………………は？何……言ってんだ？」

　随分と間抜けな声が出てしまった。それ程に宿儺のいうことが信じられなかった。
　あの人が死んだ？しかも自死？そんなことあり得ない、あり得るはずがない。恵の頭は混乱するばかりで自分もナマエも今どうなるか分からない状況であるのに更に訳のわからない話をされて頭が沸騰しそうだった。

「なぜ俺が丁寧に説明してやる必要がある。だが……そうだな、手掛かりくらいはくれてやろう。気付かぬか？この娘を覆う呪力に覚えが有るはずだぞ。」
「なん………だと……？」

　恵は言われてやっと気付いた。ナマエの全身から電気が迸っているように見えるこれは……本人のものと少し感じが違うが紛れもなく翔の呪力だ。なぜ、と思うと同時に恵の脳裏に過ったのは五条と同じ特級を冠する……乙骨憂太の境遇だった。
　そしてまるで恵の心情が見えているかのように残酷なことを面白そうに言うのだ。




「そうだ。この娘は呪われた。――他でもない己の兄に。」