第五十七話 懇願
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恵が虎杖と別れた後。玉犬(黒)の能力により先に見つけたのは釘崎だった。間一髪、蝦蟇の舌が間に合わなければ釘崎は呪霊の腹の中に収まってしまう所だった。どうにかギリギリの所で救出できた釘崎の第一声「カエル苦手なんですけど」は相変わらずだったが、流石に怪我と疲労のせいか。普段ならきっと怒り狂うだろう恵による俵担ぎの状態でも文句一つ言わなかった。というよりも体に力の入っていない様子から恐らく意識がない。
地面に大量に転がっていた呪霊の数を見る限り、祓っても祓っても蛆の様に呪霊が湧いてくるせいで体力も気力も使い果たしてしまったのだろう。全く意識のない人間を担ぐのは想像以上に骨が折れる。
本当はこのままナマエたちも探すつもりの恵だったが、今の釘崎を連れて行くのは危険だ。そう判断して先ずは釘崎をこの生得領域から出すという選択をした。
釘崎を見つけた時の様に今度は出口を探せと命じられた玉犬は一声鳴いてフンフンと匂いを確かめてから、すぐに目的地へと駆け出した。釘崎を肩に担いだままその後ろを追いかける恵は酷く焦っていた。
(虎杖……俺が合図を出すまで…!持ち堪えてくれ!!)
『伏黒!!———頼む。』
虎杖のあの時の表情が、恵の頭から消えてくれない。こびりついて離れない。虎杖がどんなつもりであのセリフを吐いたのか。想像なんてしたくないのに。どうやったって最悪な方に考えてしまうのだ。
それでも虎杖の望み通りにしか出来なかった。あの時、それ以外の方法なんて無かった。あれが最善だったなんて思いたくもないが、だからと言って打開策など何も思いつかなかった。あの状況をどうにかできる強さも……恵には無かった。自分の無力さに自然と奥歯を噛み締めた。
釘崎を外に出したらすぐに戻ってナマエたちを探さなければならない。その間も『時間稼ぎ』をしている虎杖の身は危険にさらされている。一分一秒も無駄にはできない。それに……ナマエたちにだって――何が起こっているかわからないのだ。
(ナマエ……!ミョウジさん!二人とも、無事でいてくれ!!どうか……!)
対呪霊の任務は常に命と隣り合わせ。虎杖の最悪の状況を思い浮かべってしまったように、いつでも最悪の想定 が出来ていないといざという時身動きが取れない。現実主義の恵にとって、そんな事は百も承知だ。
———それでも。ナマエの最悪の状況なんて、想定などしたくないのだ。いや、出来ない。そんな事あってたまるか。虎杖ならいいのかと、そういうことでもない。そんな話では、ないのだ。
神にでも仏にでも———こうなったら例え五条にでも縋る思いで……恵はさらに速度を上げて出口を目指した。
————————————————
「伏黒くん!!……釘崎さん!?……っ!後の3人は!」
「伊地知さん!釘崎を頼みます!!怪我はしてますが生きてる!
恐らく受胎が成体へ孵りました!間違いなく特級!!虎杖が時間を稼いで俺の合図で宿儺と入れ替わる予定ですが二人がまだ見つかってません!」
早口で捲し立てるように一気に状況説明した恵の言葉をいち早く理解した伊地知はすぐに恵から釘崎を受け取り、それから青ざめた。
「そんな…ミョウジさん達は……!」
「これから俺は直ぐに戻って二人を離脱させます!!伊地知さんは釘崎を病い——ん……」
恵が言葉を失ったのは———ついさっき出てきたはずの出口は見る影もなく。そして、戻る道を失ってしまったから。目の前にはただただ真っ黒な壁が立ち塞がっているだけだ。
「な…!?」
「特級の……仕業かもしれません…!」
「くそっ!どうすりゃ——」
—————ズァァッ!!
「ぐぅっ!!」
焦る恵を嘲笑うかの様に状況はどんどん悪化していく。邪悪な重力、という例えはおかしいが。これ程までに重苦しく禍々しい呪力はアイツ以外に考えられない。仙台の高校で一度体感している恵はすぐに分かった。先程の特級でもヤバかったのにそれすら赤子の様に感じる程だ。
現に、釘崎を抱えている伊地知はこの呪力に耐えられず跪き荒く息を溢している。
「伊地知さん……今すぐ、避難区域を10Kmまで広げてください。」
「ハッ……ハァッ……っっ!伏黒…くん……は?」
「残ります。俺の合図を待たずに宿儺と入れ替わった。…中で何かあったんだと思います。それに、もしもの時。俺にはアイツを始末する責任があります。」
「しかし!」
話しているうちに重苦しい奴の呪力が少し大人しくなった。今度は何のつもりか。だが、これで伊地知は動ける様になっただろう。実際釘崎をしっかりと持ち直して立ち上がる事ができる様になっている。
「ナマエ達も自力で出てくるかもしれない。その時に誰も居ないのもマズイでしょ。だから、今のうちに伊地知さんは釘崎をお願いします。」
「……分かりました。釘崎さんを病院へ送り届けたら私もなるべく早く戻ります。」
「いや、もう伊地知さんはいてもあんまり意味がないので。」
「ぐぅっ。」
状況は何も変わっていないが伊地知と話すことで少し冷静になれた恵にも調子が戻ってきた。学生にこんな風に言われる伊地知は不憫でならないが。
「戻ってくる時は1級以上の術師と一緒にお願いします。…いないと思うけど。」
「…善処します。」
「期待はしてないので大丈夫です。」
「うっ…。伏黒くんもお気をつけて。…では。」
伊地知を見送った恵は先程まで出口だったはずの辺りをじっと見据えた。
来た時よりも雨は強くなり、容赦なく恵の全身に降り注ぐ。ナマエが見たら風邪を引いてしまうと言って怒られそうだ。
『……謝らないから。絶対。』
(いや、それは無いか。)
あれからナマエを怒らせたまままともに会話もできていないし恵も話すつもりがなかった。でも、恵だってずっとこのままでいいとは思っていなかった。気持ちの整理をつけたらちゃんとナマエと話そうと思っていたのだ。こんな状況になるなんて想像もしていなかったから。自分達には明日が来ないかもしれないと、分かっていたのに。分かっていて呪術師という道を選んだはずだったのに。
こうやって雨に打たれているとあの雨の日を思い出す、と恵は思った。ナマエの話をちゃんと聞いてやれなかったあの雨の日だ。
(風邪引くよなんて、心配して怒ってくれなくてもいい。……謝らなくてもいい。俺のこと、許してくれなくてもいい。…………だから。)
「早く出てこい……ナマエ。」
そう呟いた時、一瞬で目の前の景色が本来の建物の姿に変わった。というか、戻った。生得領域が閉じたのだと、特級が死んだのだと、分かった。
地面に大量に転がっていた呪霊の数を見る限り、祓っても祓っても蛆の様に呪霊が湧いてくるせいで体力も気力も使い果たしてしまったのだろう。全く意識のない人間を担ぐのは想像以上に骨が折れる。
本当はこのままナマエたちも探すつもりの恵だったが、今の釘崎を連れて行くのは危険だ。そう判断して先ずは釘崎をこの生得領域から出すという選択をした。
釘崎を見つけた時の様に今度は出口を探せと命じられた玉犬は一声鳴いてフンフンと匂いを確かめてから、すぐに目的地へと駆け出した。釘崎を肩に担いだままその後ろを追いかける恵は酷く焦っていた。
(虎杖……俺が合図を出すまで…!持ち堪えてくれ!!)
『伏黒!!———頼む。』
虎杖のあの時の表情が、恵の頭から消えてくれない。こびりついて離れない。虎杖がどんなつもりであのセリフを吐いたのか。想像なんてしたくないのに。どうやったって最悪な方に考えてしまうのだ。
それでも虎杖の望み通りにしか出来なかった。あの時、それ以外の方法なんて無かった。あれが最善だったなんて思いたくもないが、だからと言って打開策など何も思いつかなかった。あの状況をどうにかできる強さも……恵には無かった。自分の無力さに自然と奥歯を噛み締めた。
釘崎を外に出したらすぐに戻ってナマエたちを探さなければならない。その間も『時間稼ぎ』をしている虎杖の身は危険にさらされている。一分一秒も無駄にはできない。それに……ナマエたちにだって――何が起こっているかわからないのだ。
(ナマエ……!ミョウジさん!二人とも、無事でいてくれ!!どうか……!)
対呪霊の任務は常に命と隣り合わせ。虎杖の最悪の状況を思い浮かべってしまったように、いつでも
———それでも。ナマエの最悪の状況なんて、想定などしたくないのだ。いや、出来ない。そんな事あってたまるか。虎杖ならいいのかと、そういうことでもない。そんな話では、ないのだ。
神にでも仏にでも———こうなったら例え五条にでも縋る思いで……恵はさらに速度を上げて出口を目指した。
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「伏黒くん!!……釘崎さん!?……っ!後の3人は!」
「伊地知さん!釘崎を頼みます!!怪我はしてますが生きてる!
恐らく受胎が成体へ孵りました!間違いなく特級!!虎杖が時間を稼いで俺の合図で宿儺と入れ替わる予定ですが二人がまだ見つかってません!」
早口で捲し立てるように一気に状況説明した恵の言葉をいち早く理解した伊地知はすぐに恵から釘崎を受け取り、それから青ざめた。
「そんな…ミョウジさん達は……!」
「これから俺は直ぐに戻って二人を離脱させます!!伊地知さんは釘崎を病い——ん……」
恵が言葉を失ったのは———ついさっき出てきたはずの出口は見る影もなく。そして、戻る道を失ってしまったから。目の前にはただただ真っ黒な壁が立ち塞がっているだけだ。
「な…!?」
「特級の……仕業かもしれません…!」
「くそっ!どうすりゃ——」
—————ズァァッ!!
「ぐぅっ!!」
焦る恵を嘲笑うかの様に状況はどんどん悪化していく。邪悪な重力、という例えはおかしいが。これ程までに重苦しく禍々しい呪力はアイツ以外に考えられない。仙台の高校で一度体感している恵はすぐに分かった。先程の特級でもヤバかったのにそれすら赤子の様に感じる程だ。
現に、釘崎を抱えている伊地知はこの呪力に耐えられず跪き荒く息を溢している。
「伊地知さん……今すぐ、避難区域を10Kmまで広げてください。」
「ハッ……ハァッ……っっ!伏黒…くん……は?」
「残ります。俺の合図を待たずに宿儺と入れ替わった。…中で何かあったんだと思います。それに、もしもの時。俺にはアイツを始末する責任があります。」
「しかし!」
話しているうちに重苦しい奴の呪力が少し大人しくなった。今度は何のつもりか。だが、これで伊地知は動ける様になっただろう。実際釘崎をしっかりと持ち直して立ち上がる事ができる様になっている。
「ナマエ達も自力で出てくるかもしれない。その時に誰も居ないのもマズイでしょ。だから、今のうちに伊地知さんは釘崎をお願いします。」
「……分かりました。釘崎さんを病院へ送り届けたら私もなるべく早く戻ります。」
「いや、もう伊地知さんはいてもあんまり意味がないので。」
「ぐぅっ。」
状況は何も変わっていないが伊地知と話すことで少し冷静になれた恵にも調子が戻ってきた。学生にこんな風に言われる伊地知は不憫でならないが。
「戻ってくる時は1級以上の術師と一緒にお願いします。…いないと思うけど。」
「…善処します。」
「期待はしてないので大丈夫です。」
「うっ…。伏黒くんもお気をつけて。…では。」
伊地知を見送った恵は先程まで出口だったはずの辺りをじっと見据えた。
来た時よりも雨は強くなり、容赦なく恵の全身に降り注ぐ。ナマエが見たら風邪を引いてしまうと言って怒られそうだ。
『……謝らないから。絶対。』
(いや、それは無いか。)
あれからナマエを怒らせたまままともに会話もできていないし恵も話すつもりがなかった。でも、恵だってずっとこのままでいいとは思っていなかった。気持ちの整理をつけたらちゃんとナマエと話そうと思っていたのだ。こんな状況になるなんて想像もしていなかったから。自分達には明日が来ないかもしれないと、分かっていたのに。分かっていて呪術師という道を選んだはずだったのに。
こうやって雨に打たれているとあの雨の日を思い出す、と恵は思った。ナマエの話をちゃんと聞いてやれなかったあの雨の日だ。
(風邪引くよなんて、心配して怒ってくれなくてもいい。……謝らなくてもいい。俺のこと、許してくれなくてもいい。…………だから。)
「早く出てこい……ナマエ。」
そう呟いた時、一瞬で目の前の景色が本来の建物の姿に変わった。というか、戻った。生得領域が閉じたのだと、特級が死んだのだと、分かった。