第五十六話 兄妹
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「死に損ないでもまだ『それ』を呼び出せるのか。」
「…………。」
呪霊ごときに教える義理はないが、翔の…というよりもミョウジの術式は名の通り神を降ろす術式。降霊術などとは少し仕組みが違い、顕現自体には己の呪力を必要としない。ミョウジの血と決められた掌印により降ろすことができる、御家主義の高専上層部が好みそうな術式である。だが、技を発動するとなると話は別だ。残り少ない呪力、体力で翔にできることは限られている。…ただし、リミッターを外さなければ……である。
特級呪霊の言葉に何も返さず、翔は意識を失い倒れている妹の姿を見て眉を顰めた。
(やはり…『持っていた』か…。だからあれほど呪術師にはなるなと……)
親の心子知らず…ならぬ兄の心、妹知らず。だがこの兄妹の場合は何も言わない兄の方にも原因はあった。
妹であるナマエに『力』があることが分かったのは彼女が6歳の頃。だがミョウジ家相伝の術式の発現は見られなかった。ナマエに発現したのは風の術式のみ。両親は相伝でなかったことを嘆きはしたものの、術師ではなくミョウジ家の娘としての将来の幸せを願った。
一方、兄はというと。妹の術式に違和感を覚えていた。この小さな体の奥の奥にまるで隠れているかのような呪力に気付いたからだ。相伝の発現が見られなかったのはその強大な力から小さな体を守るために体の奥底で眠りについてしまったからだと翔は考えた。
さらに幼子ながらに人並み外れた体力、膂力、身体能力。いつか噂で聞いた禪院家の、ナマエと年の近い双子の片割れのようだと翔は思った。
周りも同じように感じていたのをいいことに、ナマエのこの力を『術式を受け継がなかったことによる一種の天与呪縛』だと両親を初め周りに、そしてナマエ本人にもそう伝え欺いたのも翔だった。実際は相伝の資質によるものと想定していたが、敢えてそう言った。
肉親にすら事実を伝えなかった翔の心の内は、翔本人にしか分からない。当然、
「台風呪霊…風磨と言ったか…。お前はさっさと宿儺を探しにここを立ち去るべきだった。」
「言っている意味が分からない。」
「分からなくていい。すぐにその身をもって知ることになる。」
「その残り僅かの呪力で何ができると…」
「
たとえ満身創痍でも、お得意の翔節は健在だった。そして、言うや否や翔の周りを竜巻の様に濃く重い呪力が巡り始めた。術式の影響によるものか、バチバチと帯電までしている。ナマエが先程知らず知らずと行っていた、生命力の呪力還元、つまりは寿命の消費。それによる強制的な呪力の強化。ナマエは引き出し方を知らず体に負担を掛けてしまい、結果自滅してしまったが、翔にしてみればきちんと理解している分、容易い事だった。
そこらの呪霊なら翔に近づいただけで消滅してしまうレベルのそれは、翔よりも相伝を色濃く継いでしまったナマエと比べてしまうと総呪力量は劣り、特級に分類されるであろう風磨にとってはまるで脅威には感じられなかった。
「確かにすごい呪力量だ。でも底が知れてる。君の妹に比べたらやっぱりたいしたことはなさそうだけど。」
「それは侵害だな。私の底をまだ見せてもいないのに。これが……御三家にも引けを取らないといわれた力だ。……『風神』『雷神』。」
翔が二神に呼びかけると、それぞれが翔と同じように竜巻を、雷雲を。その身に纏い始めた。例えナマエよりも総呪力量は劣る翔であっても、風神雷神が加われば話は別だ。術師本人の命を削るこの方法は、ミョウジ家では古くから禁忌とされてきた。理由は言わずもがな。だが、翔には関係ない。今の翔は、命を削ることに対して微塵も臆していないのだから。
次にナマエが目を覚ました時、なんと言うだろうか。泣くだろうか、それとも怒るだろうか。もしくは……と考えてみても、思い起こされるのは少し怯えながら兄の顔色を伺うように見上げる妹の姿だけだった。
それもそのはず。兄の心を妹は全く知らないが………兄だって妹の心を知らない。
ナマエの時以上に膨れ上がった呪力のせいで、この生得領域にも影響が出始めた。翔の周りからボロボロと地面が崩れだし、天井にもヒビが入ってビキビキと音を立てている。
この状況に、さすがの特急呪霊も異変に気づいた。冷静に観察するようだった表情にもここで初めて変化が見られ、淡々と言葉を紡いでいたはずの口元も歪み始めた。だが、気付くのが遅すぎた。
「生得領域がこのまま崩れるのも心配だが…そうも言ってられん。」
「待っ……————!!」