第三話 懐古
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恵が起きるまではこのままで居ようと思っていたナマエだったが、ずっと横になっている姿勢が段々と辛くなってきた。
恵を起こさないようにと極力ゆっくりとした動作で起き上がった。しかしその動きでベッドが軋んだ事でさすがの恵も気づいたようだ。
「ん………。」
「あ、ごめん。起こしちゃった?」
「………ナマエ?」
「おはよう。」
ムクリと起き上がった恵はしばらくは焦点の定まらない目でナマエの事を見ていたが、ナマエのおはようという声で意識がはっきりしたのか、ようやくちゃんと目が合った。
ナマエの目を無言で見つめたまま何も話さないので、心配になったナマエは恵の名を呼んだが、その後随分と間抜けな声を発することになる。
繋がれていたままの左手を恵がグンっと引っ張ったことでいとも簡単にナマエの体勢は崩れ、そのままその体は恵の胸にダイブすることになったからである。
「のわっ!………ぶっ!」
いきなり引っ張られたせいで鼻を強打したナマエは文句を言おうと顔をあげようとしたが、それは叶わなかった。痛いほどに力強く恵に抱きしめられて、困惑してしまったから。
「…恵?」
「………。」
何も言わない恵に少し怖さを感じたナマエだったが、その後の恵の言葉でようやくわかった。自分は随分を恵に心配をかけていたことに。
「遅ぇよ。」
「え?」
「………寝すぎ。」
ぶっきらぼうな言葉とは裏腹に少し震えた声は、恵の気持ちを十分表していた。ただの睡眠ではなく気を失っていたことから、もしかしたら津美紀と自分を重ねてしまったのかもしれない。きっと津美紀のことは恵にとってトラウマになってしまっているだろうから。
モゾモゾと恵の腕の中で身じろぎしたナマエは何とか腕を伸ばしてそれを恵の背中に回して抱きしめ返すようにした。少しビクッと反応した恵だったが、ナマエがあやすようにポンポンと背中を叩くので、徐々に強張っていた体から力が抜けていった。
「大丈夫、どんな時でも私はちゃんと恵の所に戻ってくるよ。私は、恵を一人になんかしない。ずっと一緒だよ。」
「…っ。」
「だから、恵も何があってもちゃんと私の所に戻ってきてね?ずっと一緒に居てね?」
「…お前なぁ。」
「ん?」
今お互いの顔が見えていなくてよかったと恵は心底思った。恥ずかしげもなくそんな言葉を口にするナマエの神経を疑ってしまう。ナマエは昔からこうだ。思ったことをそのまま言う。こちらのほうが逆に恥ずかしくなってしまうようなことも平気で。こっちがそれにどれだけ心を乱されているかなんて知らずに。
だから、ちょっとだけ反撃したくなった。何も知らずにこうやって抵抗なく自分の腕の中にいるナマエをちょっとだけ揶揄いたくなった。
抱きしめていた体をゆっくりと離して、そのままナマエに顔を近づけて額同士を合わせるようにコツンとぶつけた。至近距離過ぎて一瞬ピントが合わなかったが、すぐに少し驚いた様子のナマエと目を合わせる事ができた。
「それ、どういう意味?」
「何が?」
「…ずっと一緒って、どういうずっとなんだよ。」
こんな体勢でもきょとんとした顔で平気そうなナマエに少々腹が立つが、それは幼少期からずっとこんな感じだったので仕方がないかもしれない。
「んー。どういうって言われてもなぁ。ずっとはずっとだもん。恵は嫌なの?」
「は?」
「だからー、わたしと一緒に居るのは嫌なの?」
「………。」
「え?まじで嫌なの?うそでしょ?」
「………バカナマエ。」
「何で!?」
これ以上は無駄だと悟った恵は、くっつけていた額を離してそのままナマエの肩に顔を埋めた。そして肺の中の空気をすべて出し切るほどの大きな大きなため息をついた。
「恵?大丈夫?」
「…………嫌じゃない。」
「え?何?」
「だから___」
___コンコン
もう一度言おうとした恵を遮るように医務室にノックの音が響いた。
「おーーーい。そろそろ入ってもいい?」
「五条さん…あなたという人は本当に…」
顔を上げて入り口の方を見ると、なぜか扉は開いていて腕を組みニヤニヤしながら扉に寄りかかっている五条と、申し訳なさそうな雰囲気で立つ七海の姿があった。
「げ。」
「建人くん!来てくれたの?」
「おいおいナマエ、僕もいるよー?」
ナマエは嬉しそうに七海に笑いかけるが、恵に抱きしめられたままである。当の恵はというと、思考が追い付いていないのか、そのまま固まっている。
「それで?恵くーーん?いつまでそうしてるのかな?」
「っ!…いつから居たんですか。」
バッと効果音が付きそうな勢いで体を離したら驚いたナマエがわわっと慌てたが、お構いなしに五条に聞いた。
「んーいつからだろうね?どう思う?オデコこつんの所からかな?それとも恵がナマエを抱きしめた所からかな?もしくはナマエが起き上がった所かもね?」
「つまり最初から居たんじゃねぇか。」
面白がる五条に舌打ちをしつつ気まずそうに眼をそらした恵に、七海が追い打ちをかけた。
「伏黒くん、すみません。野暮なことはやめろと何度も言ったのですが。」
「いえ…。」
やめてくれ、と恵は思った。そんな風に言われると余計に羞恥心に襲われる。
七海がナマエに近寄ったので恵は椅子から立ち上がろうとしたが、そのままでかまいませんよと片手で制された。
「ナマエさん。初めての任務お疲れさまでした。」
「うん!ちゃんと祓えたよ!」
「でも呪力を使い果たして倒れたんでしょう?今回は事なきを得ましたが自分の限界を見極められないといつか取り返しのつかないことになりますよ。」
「…はい。ごめんなさい。」
「大体あなたはそうやって………」
恒例のお説教が始まってしまった。それでも話が逸れたことで恵はほっとしていた。しかしそれも束の間。ニヤニヤしながら近づいてきた五条は恵に耳打ちをした。
「ナマエはあれでも箱入り娘だからねー。あんなのじゃ伝わらないよ?」
「…何のことですか。」
「照れるなよ、僕には分かってるからさ。」
「別にそういうんじゃないです。」
「へーぇ、そうなんだぁ。」
わざとらしい言い方の五条にイラつき思わず睨むと、「コワ。」と思ってもいないことを口にして肩をすくめたので恵は余計に眉間に皺を寄せた。
「そんな睨むなよ。ま、これからもナマエのこと、よろしくね。あの子にとっては恵が全てだからね。」
「………。」
珍しく嫌味っけのない笑顔でそう言った五条に、恵は思わず毒気を抜かれてしまった。どういう意味ですかと聞こうとしたが、七海のお説教が終わった所で五条も「じゃあ帰るか。」と言い出したためその先を聞くことは叶わなかった。
「じゃあ、今日はもう寮に戻ってゆっくりしてなよ。明日は体術の授業だから。動きやすい恰好でグラウンド集合ね。」
そう言って立ち去った二人を見届けたあとナマエの方を見ると、お説教に疲れたのか。どこかグッタリとした表情になっていた。
「大丈夫か?」
「ううう。また今度、建人くん直々の特訓することになったー。あれキツイんだよー…」
「…ドンマイ。」
余りに悲しそうな顔で話すので、少し可哀そうになった恵はよしよしとナマエの頭を撫でてやった。
「あ、そういえば。悟くんと何話してたの?なんかコソコソしてたよね?」
疑問に思ったことを無邪気に聞いてくるナマエに、撫でていた手が一瞬ピタっと止まったが。まさか本人に言えるはずもない。
「別に。」
「あははっ!エリカ様みたい!」
白髪軽薄教師みたいなことを言うナマエに恵は釘を刺した。
「お前、五条先生の影響受けすぎ。あの人みたいになったらもう頭撫でてやらねぇから。」
「えー!それはやだ!気を付ける!」
どこまでも素直に思ったことを口にするナマエの言葉を聞いて、恵は五条に対して「ざまぁみろ。」と心の中で言ってやった。
「ぶえっくしょん!…ズズッ。」
「五条さん、汚いですよ。」
恵を起こさないようにと極力ゆっくりとした動作で起き上がった。しかしその動きでベッドが軋んだ事でさすがの恵も気づいたようだ。
「ん………。」
「あ、ごめん。起こしちゃった?」
「………ナマエ?」
「おはよう。」
ムクリと起き上がった恵はしばらくは焦点の定まらない目でナマエの事を見ていたが、ナマエのおはようという声で意識がはっきりしたのか、ようやくちゃんと目が合った。
ナマエの目を無言で見つめたまま何も話さないので、心配になったナマエは恵の名を呼んだが、その後随分と間抜けな声を発することになる。
繋がれていたままの左手を恵がグンっと引っ張ったことでいとも簡単にナマエの体勢は崩れ、そのままその体は恵の胸にダイブすることになったからである。
「のわっ!………ぶっ!」
いきなり引っ張られたせいで鼻を強打したナマエは文句を言おうと顔をあげようとしたが、それは叶わなかった。痛いほどに力強く恵に抱きしめられて、困惑してしまったから。
「…恵?」
「………。」
何も言わない恵に少し怖さを感じたナマエだったが、その後の恵の言葉でようやくわかった。自分は随分を恵に心配をかけていたことに。
「遅ぇよ。」
「え?」
「………寝すぎ。」
ぶっきらぼうな言葉とは裏腹に少し震えた声は、恵の気持ちを十分表していた。ただの睡眠ではなく気を失っていたことから、もしかしたら津美紀と自分を重ねてしまったのかもしれない。きっと津美紀のことは恵にとってトラウマになってしまっているだろうから。
モゾモゾと恵の腕の中で身じろぎしたナマエは何とか腕を伸ばしてそれを恵の背中に回して抱きしめ返すようにした。少しビクッと反応した恵だったが、ナマエがあやすようにポンポンと背中を叩くので、徐々に強張っていた体から力が抜けていった。
「大丈夫、どんな時でも私はちゃんと恵の所に戻ってくるよ。私は、恵を一人になんかしない。ずっと一緒だよ。」
「…っ。」
「だから、恵も何があってもちゃんと私の所に戻ってきてね?ずっと一緒に居てね?」
「…お前なぁ。」
「ん?」
今お互いの顔が見えていなくてよかったと恵は心底思った。恥ずかしげもなくそんな言葉を口にするナマエの神経を疑ってしまう。ナマエは昔からこうだ。思ったことをそのまま言う。こちらのほうが逆に恥ずかしくなってしまうようなことも平気で。こっちがそれにどれだけ心を乱されているかなんて知らずに。
だから、ちょっとだけ反撃したくなった。何も知らずにこうやって抵抗なく自分の腕の中にいるナマエをちょっとだけ揶揄いたくなった。
抱きしめていた体をゆっくりと離して、そのままナマエに顔を近づけて額同士を合わせるようにコツンとぶつけた。至近距離過ぎて一瞬ピントが合わなかったが、すぐに少し驚いた様子のナマエと目を合わせる事ができた。
「それ、どういう意味?」
「何が?」
「…ずっと一緒って、どういうずっとなんだよ。」
こんな体勢でもきょとんとした顔で平気そうなナマエに少々腹が立つが、それは幼少期からずっとこんな感じだったので仕方がないかもしれない。
「んー。どういうって言われてもなぁ。ずっとはずっとだもん。恵は嫌なの?」
「は?」
「だからー、わたしと一緒に居るのは嫌なの?」
「………。」
「え?まじで嫌なの?うそでしょ?」
「………バカナマエ。」
「何で!?」
これ以上は無駄だと悟った恵は、くっつけていた額を離してそのままナマエの肩に顔を埋めた。そして肺の中の空気をすべて出し切るほどの大きな大きなため息をついた。
「恵?大丈夫?」
「…………嫌じゃない。」
「え?何?」
「だから___」
___コンコン
もう一度言おうとした恵を遮るように医務室にノックの音が響いた。
「おーーーい。そろそろ入ってもいい?」
「五条さん…あなたという人は本当に…」
顔を上げて入り口の方を見ると、なぜか扉は開いていて腕を組みニヤニヤしながら扉に寄りかかっている五条と、申し訳なさそうな雰囲気で立つ七海の姿があった。
「げ。」
「建人くん!来てくれたの?」
「おいおいナマエ、僕もいるよー?」
ナマエは嬉しそうに七海に笑いかけるが、恵に抱きしめられたままである。当の恵はというと、思考が追い付いていないのか、そのまま固まっている。
「それで?恵くーーん?いつまでそうしてるのかな?」
「っ!…いつから居たんですか。」
バッと効果音が付きそうな勢いで体を離したら驚いたナマエがわわっと慌てたが、お構いなしに五条に聞いた。
「んーいつからだろうね?どう思う?オデコこつんの所からかな?それとも恵がナマエを抱きしめた所からかな?もしくはナマエが起き上がった所かもね?」
「つまり最初から居たんじゃねぇか。」
面白がる五条に舌打ちをしつつ気まずそうに眼をそらした恵に、七海が追い打ちをかけた。
「伏黒くん、すみません。野暮なことはやめろと何度も言ったのですが。」
「いえ…。」
やめてくれ、と恵は思った。そんな風に言われると余計に羞恥心に襲われる。
七海がナマエに近寄ったので恵は椅子から立ち上がろうとしたが、そのままでかまいませんよと片手で制された。
「ナマエさん。初めての任務お疲れさまでした。」
「うん!ちゃんと祓えたよ!」
「でも呪力を使い果たして倒れたんでしょう?今回は事なきを得ましたが自分の限界を見極められないといつか取り返しのつかないことになりますよ。」
「…はい。ごめんなさい。」
「大体あなたはそうやって………」
恒例のお説教が始まってしまった。それでも話が逸れたことで恵はほっとしていた。しかしそれも束の間。ニヤニヤしながら近づいてきた五条は恵に耳打ちをした。
「ナマエはあれでも箱入り娘だからねー。あんなのじゃ伝わらないよ?」
「…何のことですか。」
「照れるなよ、僕には分かってるからさ。」
「別にそういうんじゃないです。」
「へーぇ、そうなんだぁ。」
わざとらしい言い方の五条にイラつき思わず睨むと、「コワ。」と思ってもいないことを口にして肩をすくめたので恵は余計に眉間に皺を寄せた。
「そんな睨むなよ。ま、これからもナマエのこと、よろしくね。あの子にとっては恵が全てだからね。」
「………。」
珍しく嫌味っけのない笑顔でそう言った五条に、恵は思わず毒気を抜かれてしまった。どういう意味ですかと聞こうとしたが、七海のお説教が終わった所で五条も「じゃあ帰るか。」と言い出したためその先を聞くことは叶わなかった。
「じゃあ、今日はもう寮に戻ってゆっくりしてなよ。明日は体術の授業だから。動きやすい恰好でグラウンド集合ね。」
そう言って立ち去った二人を見届けたあとナマエの方を見ると、お説教に疲れたのか。どこかグッタリとした表情になっていた。
「大丈夫か?」
「ううう。また今度、建人くん直々の特訓することになったー。あれキツイんだよー…」
「…ドンマイ。」
余りに悲しそうな顔で話すので、少し可哀そうになった恵はよしよしとナマエの頭を撫でてやった。
「あ、そういえば。悟くんと何話してたの?なんかコソコソしてたよね?」
疑問に思ったことを無邪気に聞いてくるナマエに、撫でていた手が一瞬ピタっと止まったが。まさか本人に言えるはずもない。
「別に。」
「あははっ!エリカ様みたい!」
白髪軽薄教師みたいなことを言うナマエに恵は釘を刺した。
「お前、五条先生の影響受けすぎ。あの人みたいになったらもう頭撫でてやらねぇから。」
「えー!それはやだ!気を付ける!」
どこまでも素直に思ったことを口にするナマエの言葉を聞いて、恵は五条に対して「ざまぁみろ。」と心の中で言ってやった。
「ぶえっくしょん!…ズズッ。」
「五条さん、汚いですよ。」