第五十五話 風磨
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————ピシャ…ン!!!………ドォォォ……ン!!!
「兄様!!!」
今まで見てきた兄の雷で一番大きな規模のそれは、雷鳴と衝撃音の後にたちまち辺りを粉塵で覆い隠した。兄の無事が分からないナマエは鉄扇を広げ思いっきり振りかざした。二人を覆い隠している粉塵を吹き飛ばすために。
「兄様!!……良かっ………!!」
吹き飛ばした粉塵の向こうに見えた二人の人影。兄の様子からけがなどは負っていないようで安心したナマエだったが、もう一人の様子に驚いた。
衣服こそ雷の衝撃により破れたり焦げたりしているが、体は傷一つ付いていなかったから。
「なん…で、あの雷を受けて…無傷…?」
「五条悟以外は脅威ではないと聞いてたのに。こんなに強い術師もいるのか…」
「……無傷で言われても馬鹿にされているようにしか聞こえないな。」
本体にまったく攻撃が効かなかったせいか、ずっと表情が変わらなかった兄の表情にも初めて変化が見られた。眉間に皺を寄せて呪霊をまっすぐ見据えている。そして、雷神一体では勝ち目がないと思ったのか、もう一体の風神も顕現させた。黒雲の上に乗り兄の左右で佇む姿はいつ見ても圧巻だ。
「風神に雷神。屏風画の有名なやつだ。君の式神?」
「呪霊が風神雷神図を知っているとは驚いたな。…式神とは少し違う。私の術式は降神呪法。この二神は千手観音の眷属…つまりは従者を務めたとされる、神道における風と雷の神だ。自然の驚異についてはお前の方が理解しているだろう。災害を沈めたともいわれるこの二神が天災であるお前に効果があればいいが…そう簡単にはいかないようだな。」
「それは術式の開示?」
「…どうだろうな。」
「分かった。君の事を甘く見ていた。ここからは…手加減はやめにする。」
「………」
先ほどのナマエへの攻撃は完全に手加減されていたと知り、ナマエは戦慄した。足元がガクガクと震えるのを必死で抑えた。自分にはとてもじゃないが適わない。ただの足手纏いだ。だが攻撃されると思った瞬間、脳裏に『死』がチラついた。恐怖心からその場を動けない。
「ナマエ。動けぬならせめて離れていろ。邪魔だ。」
「…兄様。」
「今の私にはお前を巻き込まずにこの呪霊を祓えるほどの余裕がない。」
「っ!わかり…ました。」
どうにも分かりづらいが、妹を気遣う言葉にナマエは昔の兄の面影を見た気がした。相手は特級呪霊。兄の邪魔をするわけにはいかない。震える足をどうにか動かして距離を取った。
「まあいいか。君を殺した後に妹を殺せばいいだけの事。」
「させると思うか。……いくぞ。」
————————————————
瞬きをすれば見失いそうなほどのスピードで繰り広げられる両者の攻防。ナマエは兄の実力を本当には理解できていなかった。適うはずのない特級呪霊に引けを取らない攻撃を仕掛けていた。先程は傷一つ付けられなかったが風神雷神を駆使した攻撃で所々裂傷を負わせている。
だが…反転術式が使えるのか呪霊だからか。風磨と名乗る呪霊の傷は負った場所からすぐに跡形もなくきれいに治ってしまう。一方こちらは人間だ。五条や乙骨のように自分に反転術式が使える訳もなく。負った傷はそのままに、失った血も戻らない。体力だって呪力だって、永遠に続くわけでもない。どちらが不利かなんて、火を見るより明らかだった。
(兄様…!このままじゃ……誰か……!誰か!!…………悟くん!!!助けて!)
グッと足に力を入れて震える足をどうにか動かしてナマエはゆっくりと立ち上がった。どうにか外に助けを求めなければ。このままでは兄は持たない。一度は恐怖心で身動きが取れなかったナマエだったが、そんなことも言ってられない。今の自分にできる事を。そう考えた矢先…。
ドオォォォォォン……!!
「がぁっ………!ゴボッ!!」
「兄様!!兄様ぁ!!」
土埃が晴れた先に、壁に背を強く打ち付け吐血する兄の姿が見えた。台風呪霊は今も涼しい顔で無傷を貫いていた。ナマエは兄の元へとすぐに駆け出した。
「来るな!!!…ゲホッ!!ゴホッ!!」
「!!…でもっ!」
「君は強い。でも、僕よりは弱い。次の一撃で最後だ。」
「そんな事させない!!!『鎌鼬』!!!」
ガガガガガガガ…!!!
攻撃が繰り出される前にと放たれたナマエ最大出力の鎌鼬。初任務で建物一棟を吹き飛ばしたそれは……台風呪霊の右腕一本でいとも簡単に止められてしまった。当然、傷一つつけられなかった。自分には到底適わないと分かっていたが、ここまで力に差があるとは。ナマエから普段なら人前で絶対にすることのない舌打ちが漏れた。
「君も風を使うのか。威力は赤子のようだけど。」
「うるさいっ!!兄様から離れて!!」
「なに゛…してる…ゴホっ!………逃げ…ろ……」
「ダメだよ。君の次は妹の番だ。」
「グ…ゲホッ!!…させる…もの…か…!」
「兄様!!」
満身創痍、もう動く事すらできないはずの兄はフラフラとしながらもなんとか立ち上がった。足元の血溜まりはまともに動けるはずのない量だ。
「まだ動けるの。すごいね。…これだけ派手にやってても宿儺の器は来ないし、時間の無駄だ。これで終わりにするよ。」
右手を翳したと思えば手の平に現れたのは球状の風でできた呪力の塊。球の中で渦巻くそれはまるで小さな台風だ。そのまま兄の方へ向け放とうとするのを見たナマエは考えるより先に体が動いた。
————『
「だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」