第五十二話 対話
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やっと訪れた久しぶりの休み。恵は溜め込んでいた任務の報告書をまとめて仕上げて、事務室に居る伊地知の元へ提出に来ていた。
「はい、確かに。お預かりしますね。」
「お願いします。……遅くなってすみません。」
「伏黒くんが報告書を溜めるなんて珍しいですね。やはりこの所の連続任務の影響ですか?」
「いや……まぁ。すみません。」
実を言うと、最初に報告書を請け負ってくれたのは虎杖だった。虎杖としては最近疲れた顔をしていた恵のことを気遣ってのことだったのだが。しかし、提出前の報告書に目を通して恵は肩を落とした。報告書というより作文のようなソレを、とてもじゃないが出せないと思ったのだ。このまま出すわけにはいかないと修正を試みたものの、書き直した方が早いという答えに行き着き。せっかくの休みである今日、午前中を潰してまとめて仕上げたのだった。
「顔色があまり良くありませんね。入学したばかりの一年生にこの様に負担をかけてしまい申し訳ないですが、繁忙期もあと少しで終わるでしょうから。その時はゆっくり体を休めてくださいね。」
「伊地知さんこそ。自分達の心配よりそのやつれた顔、どうにかしてくださいね。みんな心配していますよ。まぁ…五条先生の世話でなかなか休むわけにもいかないでしょうけど。」
「ははは……お気遣い感謝します。」
顔色の悪い伊地知に心配されるとは自分はよっぽど疲れた顔をしているのかとも思ったが、これは伊地知の元来の性格だろう。このあと恵は部屋でゆっくり休めるが、伊地知はそうはいかない。唯我独尊な特級サマにまた振り回されるんだろうなと心の中で手を合わせた。
他愛もない会話を少しした後に、それではと伊地知に挨拶をして事務室を後にするため踵を返した時、入口の扉がカラカラと静かに開いた。
「おや、伏黒くん。」
「ミョウジさん…………こんにちは。」
ナマエの兄、ミョウジ翔だった。居ると思わなかったのだろう、珍しく目を丸くしたが、すぐにいつもの表情に戻った。着物姿に羽二重の羽織。相変わらず身なりが整っている。できれば会いたくない人物だったが会ってしまったからには仕方がない。早々に立ち去ろうと会釈をして通り過ぎようとした。だが、ちょうどすれ違うと言う時に声を掛けられた。
「伏黒くん、少し待ってくれないか。」
「…………。」
「伊地知くん、これを夜蛾学長に。」
「はい、……お預かりします。」
何か渡すものがあり高専を訪れていたらしい。すぐに用件が済んだらしい翔は、恵の方を見て少し話さないかと言ってきた。
「……何か御用ですか。」
「せっかく会えたんだ。君と少し話したいと思っていたからね。急ぎならまた今度にするが。」
「いえ……大丈夫です。」
翔にしては穏やかな話し方だった。いつもならもっとピリピリとした雰囲気を纏っているはずなのだが。あぁ、ナマエが居ないからかもしれない。そう思った。
翔は伊地知に簡単に挨拶をして、それから恵に歩きながら話そうと提案してきた。軽く頷き、同意の意を伝えた。
屋外は雨が降っている。翔がたまには校舎を覗きたいと言うので、彼も過去青春時代を過ごした教室のある建物の方へと二人で歩きだした。