第五十一話 休日
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一通りこれまでのことをナマエなりに整理しながら野薔薇に話した。途中、恵に言われた言葉を思い出して言葉が詰まったりもしたが、その部分については伏せて話した。その間野薔薇は口を挟むことなく大人しく聞いていた。
「ふーん、なるほどねぇ。そりゃ伏黒がやさぐれるわけだわ。それで?どうするの?」
「どうするっていうか…どうしようもないっていうか…。え、待って、恵が?」
「なにそれ。まさか大人しく従うつもり?」
「棘くんはまだ時間はあるから方法を考えようって言ってくれてるよ。まだ具体的には何にも思いついてないけど。ねぇ、恵は…」
「へー、お相手が理解のある人で良かったじゃない。」
「野薔薇ちゃん、恵…」
「あーもう!恵恵うるっさい。」
「えー…」
「はぁ……伏黒はアンタたちの噂が出てからずーーーっとゴキゲン斜めのご様子よ。ナマエの名前出しただけですんごい目で睨んでくるし。任務もさぁ…呪霊討伐っていうよりも、あれは八つ当たりじゃないかしら。」
「…………。」
野薔薇の話によると、元々仏頂面の恵はさらに磨きをかけてヘタをすればその道の人に見えなくもないらしい。下っ端らしき呪詛師にまみえた時は相手がかわいそうに思える程の執拗な拷問だったとか。そのお陰で最近噂になっていた呪詛師による犯罪集団を一網打尽にするきっかけを吐き出させたとか。その様子を見た五条は爆笑していたそうだ。それがどんな表情だったかなんて想像しなくてもわかる。いや、そんな事よりも。
「なんで…」
「ん?」
「意味が分かんない。」
「…何が?」
「なんで恵が怒ってる感出してるの?勝手すぎだよ。」
キャラメルラテをかき混ぜるその手は少々荒々しい。ナマエに対する嫉妬心を表しているだろう伏黒の様子に呆れながらも顔でも赤らめるかと思いきや、ナマエのその表情はどこからどう見ても怒りに満ちていたので野薔薇は面食らった。
「どういうこと?何があったの。」
「…何もないよ。ただ単に、祝福してくれただけだよ。」
「はぁ?そんなわけないでしょ。」
「そんなわけあるんだよ。良かったなって。棘くんは信用できる人だからって。」
「……。」
「それなのになんで勝手に恵がイライラしてんの?」
あの日以来ナマエと恵は言葉を交わしていない。高専にいる以上顔を合わせることはあっても決して目が合う事もなかった。野薔薇はどうせ痴話喧嘩、すぐに元通りになるだろうと安易に考えていたが思っていた以上に拗れていたようだ。野薔薇は、大きく息を吐いた。この二人は本当にめんどくさい、と思いながら。
「アンタたちさぁ…何年幼馴染やってんのよ。」
「……それ、どういう意味。」
「伏黒の言葉を何真正面から受け取ってんのって言ってんの。」
「…………?」
眉を顰めてこちらを見るナマエに野薔薇は呆れてしまった。付き合いが短い野薔薇でもわかる。伏黒の事だ。どうせその場の勢いとあのカチカチの頭でいろんなことを考えすぎて思ってもいない言葉が口から出てしまったに違いないと。そして頭に血が昇った時のナマエなら額面通りに捉えてその後の対話を
「まぁ…アンタの気持ちも分からないでもないわ。実家でいろんなことがあって精神的に不安定な時に伏黒がそんなんじゃ腹も立つわよね。」
「…………。」
「でも伏黒もそれは同じでしょ。」
「え…」
「ナマエが実家から狗巻センパイと一緒に帰ってきてどう思ったでしょうね。ナマエの家の人にもなんか言われてたんでしょ?ナマエから聞かされて、自業自得だけど平手打ちかまされて。翌日には噂になって、おまけに任務はいつも狗巻センパイと二人。思う事はたくさんあっても誰かに相談するタマでもなければ本音を素直に打ち明けるタイプでもないでしょ。」
「それは…っ。」
「そりゃ呪詛師も失禁するわよね。まぁ殺さなかった分まだ冷静だわ。」
「え、漏らしたの?」
「そうよ。だいぶ年上の呪詛師だったけどね。」
「うわー…」
少しだけ呪詛師に同情したナマエは、でも呪詛師だしと思い直して、その後はすっかり黙り込んでしまった。変わらず顔は険しいままで。ストレートに言いすぎたかと少しだけ反省した野薔薇だったがナマエにはオブラートに包んだ言葉よりこちらの方が効果があると思った。元より野薔薇の辞書に「オブラートに包む」という比喩表現は存在しない。
「でも…そんなこと言われても…。」
「でしょうね。別に私は伏黒の味方ってわけでもないし。それに言っても本当の所なんて伏黒本人にしか分かんないしね。」
「野薔薇ちゃー…ん。」
「でもね、こうやって二人が拗れてる時間は勿体ないって思うわ。めんどくさいし。」
「ちょっと…」
「言葉通りよ。ナマエの話の通りなら今すぐってわけでもないんでしょ。このまま拗れたままで何の解決策も見つけられずにセンパイと本当に結婚することになってもいいなら好きにすればいいけど。」
「野薔薇サン……さっきから言葉の棘が…」
「大体、15かそこらの子供に今すぐ何かできるの?だったら尚更この時間が勿体ないわ。めんどくさいし。」
「めんどくさいって何回言うの…」
「めんどくさいわよ!!アンタたち!二人とも!!」
「ひぃっ!ごめんなさい…」
ダン!と拳を叩き付けてこちらを睨みつけてきた野薔薇は自分たちに中々のストレスを感じていたようだ。野薔薇の剣幕と言葉の嵐に思わず謝ってしまったがめんどくさいと言いすぎではないか…そう思っても今の彼女に言い返す度胸はないし、そして野薔薇の言う通りだとも思った。それでもどうすればいいかがナマエには分からない。何より、しっかり宣言してしまっている。『絶対に謝らない』と。
「ふぅ…とにかく、さっさと話し合いなさい。分かった?」
「でも…」
「わ、か、っ、た?」
「っはい!」
言いたいことを言ってスッキリした野薔薇はよし!と言った後、残っていたケーキをパクパクと口に放り込み始めた。さっきまで味わいながら食べていたはず。ナマエが不思議に思っていると、アンタも早く食べろと言われた。
「ほら、早くしなさい。
「え、まだ買うの?」
「何言ってんの。ナマエのよ。まだ全然じゃない。」
「私はもう充分なんだけど…」
「ただでさえアンタ私服のバリエーション少ないんだから私が見繕ってあげるわ。可愛いカッコすれば少しはその陰気な顔も明るくなるんじゃない?」
「陰気て。」
「いいからほら、さっさと食べる!」
「はぁーい。」
こんな言い方でも自分を元気づけようとしてくれていると察したナマエは苦笑いながらも残りのタルトに手を付けた。
そして、後半戦では洋服以外に化粧品やらアクセサリーやら、あれもこれもとどんどんショップバッグは増えていき、ナマエのひと月分相当の任務報酬が消えることになった。大量の荷物に手がちぎれそうだ。さすがに使いすぎたとは思ったが、それでも野薔薇の言う通り少し気が晴れたような気がした。
「私より稼いでるんだからこれくらい平気でしょ。自分の為にお金使えるのなんて若いうちだけよ。」
「野薔薇サン…
「あ゛ぁ?」