第五十一話 休日
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「あ゛ーー。蒸し暑。早く梅雨終わんないかしら。」
「そうだねぇー」
——7月に入ったとはいえ初夏の繁忙期がまだまだ続く中、一年生たちにとって久しぶりの休みのこの日。空は梅雨が明けきらない生憎の雨模様。こんな日は引き篭もって日頃の疲れを取るべきである。前日の任務もハードだった。体が休息を求めている。一人で朝食を済ませたナマエは、さて今日は精一杯だらけてやるぞと再びベッドに潜り込んだ。……のだが。
だんだんと微睡の中へと引き込まれていく一番気持ちの良いその瞬間に、ナマエの部屋の扉が遠慮のかけらもなくバン!と開け放たれた。
お構いなしに突入してきた人物はツカツカとベッドまで近づき、これまたお構いなしに思いっきり掛け布団を剥がした。その理不尽な所業に何事かと思い瞼を持ち上げて真っ先に視界に入ったのは、仁王立ちで不敵な笑みをたたえた野薔薇の姿だった。
「う……ん、え……?なに……?」
「いつまで寝てんの?」
「きょうは…ねるひなの……」
「せっかくの休みよ。しかも久々の。」
「……だからゆっくりするんじゃん……」
「何言ってんの?さっさと起きて支度しなさい!」
「えー…」
「えーじゃない!起きろ!!」
——というわけで。それでも寝ようとしていたナマエをどうにか叩き起こした野薔薇は、半ば強制的にナマエを外に連れ出した。
現在の時刻は午後2時。原宿のとあるカフェで少し遅めのランチタイム中だ。四人掛けのテーブル席には、野薔薇の他に午前中に入手した
「ちょっと!アンタまで蒸し暑い顔してんじゃないわよ!余計にジメジメするわ。」
「……理不尽。」
「アレくらいでへばったの?任務の時の体力はどこ行ったのよ。さっきは元気いっぱいで楽しそうだったじゃない。」
「そりゃお買い物はテンション上がるけどさぁ…楽しかったけどさぁ…野薔薇ちゃん、限度ってもんが……」
そう呟いたナマエの視線の先には野薔薇の隣に積み上がったショップバッグたち。8つの紙袋のうち、ナマエのものは2つのみだ。その数を見ればどれだけの店を渡り歩いたのかがよく分かる。
「何言ってんの?滅多にこれないんだから。この後もまだ回るわよ?」
「え゛?」
「え、じゃないわよ。時間はまだまだあるわ。」
「荷物これ以上増えたら持てないんじゃ…」
「その時は
「っ、それはちょっと……」
明らかに動揺したナマエの表情を、野薔薇は見逃さなかった。そもそも自分のことを隠す癖のあるナマエ。最近周りが噂している話も気になっていたし、当のナマエの様子はこれまでと明らかに違う。伏黒は伏黒でうっとうしい程に不機嫌。その件で伏黒との間に何かあったに違いないのに何も話してくれないことに苛立っていた。それを聞き出すために今日外へ連れ出した、というのもあったが。
「なに?なんか問題ある?」
「問題っていうか…その為に呼び出すなんて申し訳ないよ…」
「いつものことじゃない。」
「でもっ。」
「それとも——婚約者の方に来てもらう?」
「…っ!」
二年の…狗巻?って言ったかしら。その言葉に目を見開き驚いた様子のナマエに、野薔薇はため息をついた。
『ミョウジナマエと狗巻棘が婚約した』。そんな噂が聞こえたのは7月に入ってすぐのことだった。狗巻という2年の先輩には会ったことがなかったのでどんな人物かは知らないが、古い術師の家系らしい。
ナマエからも家の事やいつかはその時が来るというのは聞いていたがこんなに早いとは思っていなかった。それ以来ただでさえ悪人ヅラの伏黒は不機嫌さのせいかその目つきの悪さに磨きをかけるし、当のナマエは自分達とほとんど任務が一緒になることがなくなった。ウザいくらいにイチャついていた2人を見かけなくなった代わりのように、ナマエは狗巻とばかり任務に就くようになった。
「なんで……」
「なんでって、みんなっていうか、主に補助監督たち?が噂してるわ。閉鎖的な環境だしね。知らない人は居ないんじゃない?任務でいつも一緒だと噂の信憑性も上がるし。誰かさんが何にも話してくれないから私は何が本当だか知ることすらできないけど。」
「う゛…スミマセン…。」
「悪いと思ってんなら、そろそろ聞かせてくれてもいいんじゃない?私たち、友達になったんじゃなかったっけ?」
「野薔薇ちゃん…。」
そう言いながら瞳をうるませたナマエの目の下にはうっすら隈が見受けられた。疲れが溜まっているのか、眠れないほど辛いことがあるのか……。外に連れ出さずにゆっくり休ませてやった方が良かったのかもしれないと、今更すぎる事を考えた野薔薇だったが。ショッピングは女子にとって一番のストレス発散に決まっている。そう結論づけた。
「ねぇ、ケーキと追加のドリンク。頼みましょ。ここで話したいことがあるだろうし?何にする?」
「…ベリーのタルトとキャラメルラテ。」
「オッケ。じゃあ私はー…」
こうやって自分が気兼ねすることがないよう敢えて軽く接してくれる野薔薇には頭が上がらない。ナマエは少しだけ困ったように笑い、心の中でありがとうと呟いた。