第五十話 離合
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翌朝になっても雨は降り続いていた。昨夜の豪雨はナマエにとっては都合が良かった。大声を出して泣き喚いても隣の部屋で寝ているだろう野薔薇に迷惑をかけることがなかったから。雨が地面を叩き付けるのをいいことに、それはもう泣き喚いた。
いい加減泣きすぎて疲れてきた頃、同じく雨も疲れてきたのか。その勢いはいつしかざぁざぁからしとしとへと変わっていった。六月にもなると夜明けが早い。その頃には窓の外も薄明るくなってきて。
あぁ困った、今日も朝から任務があるのに。こんな状態ではまともに鉄扇も振れないだろう。
ギュッと目を瞑って少しでも体を休めようとするが瞼の裏に映るのは真っ暗な闇ではなく
あの時の恵の顔だった。最初は何を言われているのか理解に時間がかかった何の感情も写していないような顔。思わずひっぱたいてしまった時の虚を突かれたような顔。そして…泣き顔を見られてしまった時に見せた苦々しく歪んだあの顔。
初めてキスをしたあの日。ちゃんと言葉にして伝えていたなら、何か変わっていたのだろうか。幼馴染だと言い張って。明確な名前のないどっちつかずの関係でいたからこうなってしまったのだろうか。それとも。時が来たら。初めから恵はそのつもりだったのだろうか。
分かっていた癖に。大人になるまでだと割り切っていた癖に。覚悟していた癖に。だから恵を責める資格なんて本当はナマエにもない。ある意味恵の方が正解かもしれないのに。でも、いざ実家に呼び出されて目の当たりにした時にこんなに揺らぐなんて思っていなかった。まさか相手が棘だとは思わなかったけれど、棘の言葉で希望が持てた。親たちも明確に言わなかったから、もしかしたらと思った。
罰が当たったんだと思った。言葉にせず曖昧にして幼馴染なんて都合のいい言い方をしながら。恵の声に、表情に、優しさにときめいて。手をつないで寄り添って、抱きしめ合って笑い合って、キスをして。今だけだからと言い訳しながら、まるで恋人同士のような幸福に甘んじていたから。
(まるで恋人ゴッコじゃん……)
目を閉じていても結局いろいろと考えてしまって。そうこうしている内にスマホのアラームが鳴って。重たい目を開けるといつもの朝がやってきてしまった。雨が降っているせいで少し薄暗いけれど、いつも通りの朝だった。
任務をサボるわけにもいかないし、サボったとしても余計な事ばかり考えてしまうだろう。ぐぐっと体を起こすと、頭がズキンとした。泣いた上に一睡もしていない。重たい体を引きずりながら、洗面台の前で自分の顔を見て笑ってしまった。思った通り酷い顔だ。目は充血して腫れているし、目の下も薄く隈が張っている。普段ならこの顔をどうにかしなければと焦るところだが今はどうでもよかった。身なりを気にする体力もない。朝食も今日はなしだ。そういえば昨日は夕食も食べ損ねてしまったが、昼にさんざん食べたので良しとした。
このあと合流する今日の任務の相手に申し訳ないと思ったが、ナマエからはまた乾いた笑いが出た。最近よく組んでいたのは自分発信の悟による振り分けだったけれど。これからはもっと多くなるんだろうな、今後同期たちと任務行けるのかな…減るんだろうな。そんな風に思いながら身支度を整えて寮の出入り口へと向かった。