第四十七話 謁見
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ミョウジ邸。御三家の屋敷と比べてしまうともちろん天と地ほどの差があるが、ミョウジ家が生活している母屋と、主に住み込みの使用人たちのために用意されている離れ。ナマエが幼い頃よくかくれんぼをしていたそこそこの広さの日本庭園もあるため、一般家庭からすると十分の広さを誇る邸だ。
周りに他の住宅はなく、すぐ裏手にはミョウジ家所有の山が広がっているため、ちょっとしたポツンと一軒家ともいえる。そのため、小、中学校はバス通学でそれなりに不便な場所でもあった。
邸に着くなり聞いていた通りで離れへ連れていかれた。拘束こそされていないが有無を言わせないこれはもはや連行だ。部屋に入ると会いたかった人が出迎えてくれた。嬉しさのあまり思わずその人物に飛びついた。
「
「あらあらナマエ様、いきなりどうされました?」
春日と同じく幼少期からの世話係で、ナマエは特に時緒に懐いていた。兄妹の世話係を経て今はミョウジ家の家事全般を任されている。そしてナマエは未だに、というか一生理解できないが春日の妻でもある。
「きいてよ!春日が!!分からず屋で!!」
「まぁナマエ様、それは今に始まったことではないでしょう?」
「聞こえているぞ。」
「あら、聞こえるように言っているんですよ。」
「…………。」
ナマエの後ろに立つ春日の存在を分かった上でウフフと上品に微笑みながらも本人を前にして結構な物言いの時緒。この物怖じしない性格も、ナマエが時緒を慕う理由の一つだ。前言撤回。春日の奥さんが時緒で良かったとナマエはそう思うことにした。
「……では、あとは頼んだ。ナマエ様、お召替えが済みましたらまずは翔様の元へ。私はここで失礼致します。」
「…わかった。」
流石に着替えの場には同席しないらしい春日はそのまま去り際にこの後のことを告げてから出て行った。襖の閉まる音を聞いてからナマエははぁっと息を吐いた。
「さぁナマエ様、早速始めましょうか。」
時緒の一言でそばに控えていた2名の使用人がいそいそと準備を始めた。着替えなら自分の部屋でできるのにわざわざ離れまでやってきた理由がここでやっと分かった。畳の部屋にどんどん広げられていくのが、洋服ではなく和服だったから。大きな牡丹の絵があしらわれた薄水色の色留袖だ。
「なんで着物なの。……かわいいけど。」
「私も詳しくは聞いておりませんが、何でも今日はお客様がいらっしゃるとか。」
「お客様……?」
「えぇ、給仕たちは食事の用意も進めていますよ。」
突然の兄からの呼出。頑なに理由を話さない春日。着物、客、そして食事。これは……あぁ、そうか、とナマエはやっと腑に落ちた。少なくとも高専を卒業してからだと思っていたが見通しが甘かった。
「そっか…思った以上に早かったな。」
「え?何とおっしゃいました?」
「ううん、なんでもないよ。」
時緒は聞き取れなかったのか、不思議そうに聞き返したが、ナマエは曖昧な笑みで首を横に振った。肌襦袢を手に首を傾げる時緒はどうやら本当に知らされていないようだ。まだそうだと言われたわけではないが十中八九間違い無いだろう。良くない方の勘は嫌と言うほどよく当たるということをナマエ自身自覚している。
あれよあれよという間に着付けられていく。自分でしようにもナマエは自分で着ることができない。日常的に着る人でなければ誰でも難しいとは思うが。補正のために間に挟まれるタオルが苦しくてしょうがないが言った所で加減してもらえるものでもない。これまで幾度も経験済みだ。時折苦しさによる呻き声を上げながらどうにか耐え忍んだ。
着付けの後に今度は頭を弄られ、顔にも薄く化粧を施され。完成したのは華やかに、だが年相応に清らかにまとめられたナマエの姿だった。
「はい、できましたよ。ほら、とっても素敵!」
「……。」
確かに、とは思うが。幼い頃から慣れ親しんでいるため、ナマエは着物に抵抗がなく、むしろ好きな方だ。これがもし特別な場所へのお出掛け、とかであればテンションも上がるというもの。そこに恵が居たら最高のシチュエーション。しかし、そうではないと分かっているので着飾った自分を見ても大した感想は浮かばなかった。
「さぁ、翔様の所へ。ナマエ様の可愛らしさに腰を抜かしてしまうかもしれませんね!」
「……。」
家に来てまだ年数の浅い使用人。嬉しそうに言う彼女にそうかな、とまたまた曖昧に返した。時緒にお礼を言って離れの部屋を出た。来た時と少し様子の違うナマエを心配した時緒だったが、時緒が声を掛ける前にナマエは去ってしまった。母屋へ向かう足取りが重いのは着物が苦しいから、ということにしておこう。
——そして。
「失礼いたします。兄様、ナマエです。」