第三話 懐古
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いつものように、恵の訓練の為にいつもの場所に五条が向かうと、いつも通り恵が先に着いていて準備運動をしていた。恵はさすがあの男の息子というべきか、その身に流れる禪院の血によるものか、はたまた本人の弛まぬ努力の結果か。齢十歳とは思えないスピードで日々成長している。
最近では玉犬の調伏に成功したことで恵本人も自信がついたのか、これまでよりもよりやる気を感じられるようになった。
ただし、性格の方も齢十歳とは思えないほど達観しており、もう少し子供らしくしろよ、と思わなくもない。五条の幼少期こそ人の事を言えたものではないが。普段であれば五条が到着するとすぐによろしくお願いしますと始めようとするのだが、この日は違った。
「五条さん、聞きたいことがある。」
「なになにー?どうしたの。恵から質問してくるなんて珍しいね。」
珍しいどころか、初めてかもしれない。当時の恵はまだ五条に対して敬語をつかっていなかったが、五条は特に気にしていなかった。それこそ五条の幼少期も人の事を言えなかったからかもしれない。恵の様子に興味が沸いた五条は、何か面白いことにならないかと思いながら続きを促す。
「あいつ、ミョウジナマエ。アンタなら知ってるだろ。」
「え?恵、ナマエと知り合いなの?」
「今日初めて会った。」
「そっかー、その内紹介しようと思ってたんだけど先に知り合っちゃたか。それは手間が省けたね。それで?ナマエがどうしたの?」
「呪いに襲われてたから、俺が祓った。」
「…は?」
二人に面識があることが分かりほのぼのしていた所への恵の一言に五条は衝撃を受けた。そんなはずはない。だってナマエは…。
「ちょっと待って。本当に?恵なら気づいたと思うけどナマエは…」
「前から変な気配の呪具つけてるなとは思ってたけど。でも、今日はつけてなかった。」
「なんで?絶対外すなって言っといたはずなんだけど。」
ナマエに身につけさせていた、と言ってもそうさせていたのはミョウジ家だが。あの呪具は、呪いを認識できない眼鏡、つまりは真希の物と反対の効力があるものと、呪いからほとんど感知されにくくなる腕輪で。どちらもかなり特殊な呪具だ。
それもこれも、ナマエを呪術界と極力関わらせないためのミョウジ家の行き過ぎた策だ。五条もこれには思うところはあったが、危険な目に合わせないためと言い聞かせ黙認していた。
「あいつも言ってた。失くしたから怒られるって。兄様に怒られたくないつって泣いてた。」
「失くしたぁ?あれを?」
「………。」
「恵、何か知ってるんでしょ。いいから教えて。」
恵の様子に何かを感じ取った五条は本人も無意識の内に声のトーンが下がっていた。その様子に躊躇った恵だったが、どちらにしても五条の耳に入れておいた方がいいと判断して、伝えることにした。
「あいつ、イジメられてた。」
「…なんだって?」
あの、天真爛漫でいつもニコニコしているナマエが?五条には信じられなかった。先程から衝撃ネタばかりだ。だがよくよく考えてみれば、おしゃべりが大好きなはずのナマエから学校で友達の話は一度も聞いたことが無かったかもしれない。
「眼鏡と腕輪はそいつらに取られたって言ってた。ダサい眼鏡してるくせに腕輪 なんかして生意気って言われたって。」
そうか。それで本来のナマエの呪力に反応した呪霊が襲ってきたというわけか。恵が近くにいてくれて本当に良かった。
(それにしてもどこのどいつだ。…クソガキが。)
思わず舌打ちをして険しい顔になっていた所へ、恵の自分を呼ぶ声が聞こえて我に返った。
「…ごめんごめん。恵、助かったよ。あの子は呪霊の呪の字も知らない子だから、恵がいなかったらと思うとさすがの僕も冷や汗ものだった。」
「それは別にいい。」
「それで?大体の事は分かったけど。…恵の聞きたいことって?」
ただの報告ではなく、恵は聞きたいことがあると言った。何か問題でもあったのだろうか。五条の心配を余所に恵の口から出た言葉は、文字通り五条をポカンとさせた。
「あいつ、呪いに立ち向かって攻撃した。」
「は?」
「多分初めて見たんだと思う。呪い籠ってないから全然効いてなかったし。でも、動きが半端なかった。絶対素人じゃない。それに…動きがアンタみたいだった。だから知り合いだと思った。あいつ、何?」
「………クックックッ………フフッ………」
突然気持ち悪い笑い方をし始めた五条を恵は何なんだと訝し気な表情で見る。初めは嚙み殺したように笑っていた五条がいきなり爆笑した為、恵のまだ小さな肩は思わずビクッとなった。
「あーっはっはっはっ!マジか!あーーーーーーヤバい。ウケる。」
(そうか、ナマエもしっかりイカレてるのかな。あいつもやっぱりコッチ側ってことか。)
笑いすぎて目尻に浮かんだ涙を人差し指で拭った所で、眉を顰めた恵に気づいた五条はゴメンゴメンと言いながら、ナマエについて恵に教えてやった。
ナマエが身につけていた呪具について、護身の為に幼い頃から五条自ら体術を仕込んでいた事、そして、ナマエの家について少々。
「ミョウジ家は歴史こそ浅いけど御三家に引けを取らないくらいの名家だよ。」
「じゃあなんでわざわざあんな呪具なんか…。」
「んー。ま、大人の事情ってとこかな。恵は知らなくていいよ。まだ…ね。」
五条の言葉に気を悪くした恵はさらに眉間に皺を寄せたが、どうせ話してくれないだろうと思い、それ以上聞くことはなかった。
「それにしても、ナマエ。いじめっ子に反撃しなかったんだね。やり返しゃよかったのに。」
「そんなことしたら確実に病院送り。」
「ははっ。だろうね、何せ僕が直々に鍛えたからね。」
五条の大人げない発言も、恵は慣れているのか冷静に返していた。
「で、恵?どうだった?好きになっちゃった?」
「はぁ?」
「だってさ、あの分厚いダッサイ眼鏡の下の素顔、見たんでしょ?萌え萌えだったでしょ?かわいかったでしょ?」
「…別に。」
「ぶはっ!エリカ様かよ!照れなくていいって!」
「照れてない。ていうかエリカ様ってなんだ。」
「またまたぁ~。…って、えぇ?エリカ様知らないの!?嘘だろ。あれ何年くらい前だったっけ…」
軽くジェネレーションギャップによるショックを受けつつも、少し耳が赤くなっている恵を見て五条のニヤニヤは止まらなかった。それが分かっている恵は、限界が来たのか。
「特訓!お ね が い し ま す !!!」
半ばヤケクソのような言い方で叫んだ。
後日、呪具を失くしたことで困ったナマエが涙目で五条に助けを求めに来たが、その時に恵の事を「お友達ができた!」と、同世代の友人について初めて五条に語ったのは、また別の話である。
最近では玉犬の調伏に成功したことで恵本人も自信がついたのか、これまでよりもよりやる気を感じられるようになった。
ただし、性格の方も齢十歳とは思えないほど達観しており、もう少し子供らしくしろよ、と思わなくもない。五条の幼少期こそ人の事を言えたものではないが。普段であれば五条が到着するとすぐによろしくお願いしますと始めようとするのだが、この日は違った。
「五条さん、聞きたいことがある。」
「なになにー?どうしたの。恵から質問してくるなんて珍しいね。」
珍しいどころか、初めてかもしれない。当時の恵はまだ五条に対して敬語をつかっていなかったが、五条は特に気にしていなかった。それこそ五条の幼少期も人の事を言えなかったからかもしれない。恵の様子に興味が沸いた五条は、何か面白いことにならないかと思いながら続きを促す。
「あいつ、ミョウジナマエ。アンタなら知ってるだろ。」
「え?恵、ナマエと知り合いなの?」
「今日初めて会った。」
「そっかー、その内紹介しようと思ってたんだけど先に知り合っちゃたか。それは手間が省けたね。それで?ナマエがどうしたの?」
「呪いに襲われてたから、俺が祓った。」
「…は?」
二人に面識があることが分かりほのぼのしていた所への恵の一言に五条は衝撃を受けた。そんなはずはない。だってナマエは…。
「ちょっと待って。本当に?恵なら気づいたと思うけどナマエは…」
「前から変な気配の呪具つけてるなとは思ってたけど。でも、今日はつけてなかった。」
「なんで?絶対外すなって言っといたはずなんだけど。」
ナマエに身につけさせていた、と言ってもそうさせていたのはミョウジ家だが。あの呪具は、呪いを認識できない眼鏡、つまりは真希の物と反対の効力があるものと、呪いからほとんど感知されにくくなる腕輪で。どちらもかなり特殊な呪具だ。
それもこれも、ナマエを呪術界と極力関わらせないためのミョウジ家の行き過ぎた策だ。五条もこれには思うところはあったが、危険な目に合わせないためと言い聞かせ黙認していた。
「あいつも言ってた。失くしたから怒られるって。兄様に怒られたくないつって泣いてた。」
「失くしたぁ?あれを?」
「………。」
「恵、何か知ってるんでしょ。いいから教えて。」
恵の様子に何かを感じ取った五条は本人も無意識の内に声のトーンが下がっていた。その様子に躊躇った恵だったが、どちらにしても五条の耳に入れておいた方がいいと判断して、伝えることにした。
「あいつ、イジメられてた。」
「…なんだって?」
あの、天真爛漫でいつもニコニコしているナマエが?五条には信じられなかった。先程から衝撃ネタばかりだ。だがよくよく考えてみれば、おしゃべりが大好きなはずのナマエから学校で友達の話は一度も聞いたことが無かったかもしれない。
「眼鏡と腕輪はそいつらに取られたって言ってた。ダサい眼鏡してるくせに
そうか。それで本来のナマエの呪力に反応した呪霊が襲ってきたというわけか。恵が近くにいてくれて本当に良かった。
(それにしてもどこのどいつだ。…クソガキが。)
思わず舌打ちをして険しい顔になっていた所へ、恵の自分を呼ぶ声が聞こえて我に返った。
「…ごめんごめん。恵、助かったよ。あの子は呪霊の呪の字も知らない子だから、恵がいなかったらと思うとさすがの僕も冷や汗ものだった。」
「それは別にいい。」
「それで?大体の事は分かったけど。…恵の聞きたいことって?」
ただの報告ではなく、恵は聞きたいことがあると言った。何か問題でもあったのだろうか。五条の心配を余所に恵の口から出た言葉は、文字通り五条をポカンとさせた。
「あいつ、呪いに立ち向かって攻撃した。」
「は?」
「多分初めて見たんだと思う。呪い籠ってないから全然効いてなかったし。でも、動きが半端なかった。絶対素人じゃない。それに…動きがアンタみたいだった。だから知り合いだと思った。あいつ、何?」
「………クックックッ………フフッ………」
突然気持ち悪い笑い方をし始めた五条を恵は何なんだと訝し気な表情で見る。初めは嚙み殺したように笑っていた五条がいきなり爆笑した為、恵のまだ小さな肩は思わずビクッとなった。
「あーっはっはっはっ!マジか!あーーーーーーヤバい。ウケる。」
(そうか、ナマエもしっかりイカレてるのかな。あいつもやっぱりコッチ側ってことか。)
笑いすぎて目尻に浮かんだ涙を人差し指で拭った所で、眉を顰めた恵に気づいた五条はゴメンゴメンと言いながら、ナマエについて恵に教えてやった。
ナマエが身につけていた呪具について、護身の為に幼い頃から五条自ら体術を仕込んでいた事、そして、ナマエの家について少々。
「ミョウジ家は歴史こそ浅いけど御三家に引けを取らないくらいの名家だよ。」
「じゃあなんでわざわざあんな呪具なんか…。」
「んー。ま、大人の事情ってとこかな。恵は知らなくていいよ。まだ…ね。」
五条の言葉に気を悪くした恵はさらに眉間に皺を寄せたが、どうせ話してくれないだろうと思い、それ以上聞くことはなかった。
「それにしても、ナマエ。いじめっ子に反撃しなかったんだね。やり返しゃよかったのに。」
「そんなことしたら確実に病院送り。」
「ははっ。だろうね、何せ僕が直々に鍛えたからね。」
五条の大人げない発言も、恵は慣れているのか冷静に返していた。
「で、恵?どうだった?好きになっちゃった?」
「はぁ?」
「だってさ、あの分厚いダッサイ眼鏡の下の素顔、見たんでしょ?萌え萌えだったでしょ?かわいかったでしょ?」
「…別に。」
「ぶはっ!エリカ様かよ!照れなくていいって!」
「照れてない。ていうかエリカ様ってなんだ。」
「またまたぁ~。…って、えぇ?エリカ様知らないの!?嘘だろ。あれ何年くらい前だったっけ…」
軽くジェネレーションギャップによるショックを受けつつも、少し耳が赤くなっている恵を見て五条のニヤニヤは止まらなかった。それが分かっている恵は、限界が来たのか。
「特訓!お ね が い し ま す !!!」
半ばヤケクソのような言い方で叫んだ。
後日、呪具を失くしたことで困ったナマエが涙目で五条に助けを求めに来たが、その時に恵の事を「お友達ができた!」と、同世代の友人について初めて五条に語ったのは、また別の話である。