第四十五話 尋問
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ナマエの腕を掴んだまま、無言で寮に向かう恵。先日と全く同じ状況だった。同じように男子寮に向かい同じように恵の自室前で一度立ち止まり、大きく息を吐いた後自室の扉を開けて中へ入る。まるでデジャヴかのようだったが………違ったのは、その後。ナマエの腕をひいたままベッドまでズカズカと進み、そのままナマエを引っ張りベッドの上に転がした。
「ひゃっ!…なにす………る…」
ナマエが最後まで言い切らなかったのは、同じくベッドに乗り上げてきた恵がナマエの顔の横に両手を付いて見下ろしていたから。そしてその表情に明らかに怒りが滲んでいたから。
「何で俺から逃げてた。」
「何で怒ってんの……。」
「質問に答えろ。」
「…逃げてないよ。」
「そうじゃない。理由を聞いてんだ。」
「………。」
朝起こしに来て供に朝食をとっていた習慣もなりを潜め、夜部屋にやってくることもなく。それならばと恵が部屋に向かっても時間を敢えてずらしているのかいつも不在。メッセージアプリで連絡しても任務の準備があるからとまともに取り合わない。
先ほど虎杖たちに仕方ないだろと言っていたのが嘘のように不満を存分に表している。実際、文句を言っていた野薔薇以上に不満を抱えていた。もちろん彼らの前では
「分かった。…じゃあ質問を変える。最近何か心境の変化はあったか。」
「……え。」
「お前がいきなり変な行動しだす時はだいたい変な事を考えてる時だろ。」
「変な…って。」
「どこからどう見ても変だろうが。」
「………。」
ナマエは眉を顰めて何も言わない。それにこんな風に問い詰めるように言われては出る言葉も出てこない。ここで少しだけ冷静になった恵は、気持ちを落ち着かせてから先程よりも多少穏やかな声でナマエに言った。
「思ってることは隠さなくていい。何でも言えって前にも言っただろ。俺は怒ってないし、お前が何を思ってても怒らない。…ツッコミはするかもしれねぇが。」
「ほんと?」
「あぁ。」
「ツッコミも控えめにしてくれる?」
「…善処する。」
怒ってないと言っているし、答えない限りは解放されないだろう。そして嘘が下手だと自覚しているナマエではおそらくごまかしもきかない。観念はしたが恵の目はまっすぐ見られなかったので少し逸らして小さな声で話した。
「…気まずかったの。キス、避けちゃったし。」
「気が乗らない事もあるだろ。俺は気にしてない。」
「私は気にしたの。」
「分かった、それに関しては俺が気にしてないからお前も気にしなくていい。解決だな。…あとは?」
「…………。」
「それだけじゃないよな?」
「…………。」
『キス拒んでしまった事件』だけでは押し通せなかった。それで逃げ切れるほど恵は甘くない。
「ナマエ。あとは?」
「……はぁ。事情聴取みたい。」
「まだ隠してるからだろ。」
「もー…。分かったよ。…恵に頼ってばっかじゃダメって思っただけ。」
「は?」
「発作のときに思ったの。心配ばっかかけて…迷惑ばっかかけて。恵がいないと息もできないなんて、情けないって。心が弱いから過呼吸なんか起こすんだって、思った。」
「………………。」
「だから、悟くんにお願いしたの。少しの間でいいから単独で任務に就きたいって。」
「!!」
まさかのナマエ発信だった。恵が思っていた通りで五条の仕業といえばそうだが、ナマエ自ら希望していたとは。これは想定外だった。
「でも、任務中に発作が起こったらどうにもならないからって、単独任務は許してくれなくて。その代わり勉強ついでにって、等級が上の人と組んでたの。」
恵は知る由もないが、七海にはみんなと任務に就きたいと言っていたナマエ。言っている事とやっている事がちぐはぐだが、ナマエは、ただ力をつけたかった。恵に頼らなくていい実力を。その答えが単独任務に繋がる辺りがナマエらしい変な思考回路である。
「…それが俺を避ける事とどう繋がるんだ。」
「え?だって…」
「強くなりたいのはいいとして、百歩譲って五条先生に手を回して別の任務行ってたのも理解でき…ないがまぁ分かった。でも俺と会わないようにする必要はないよな?」
「えっと……」
なぜか言い淀むナマエ。更になぜか頬を赤らめてモジモジしている。…照れる要素は今の話の一体どこにあったというのか。
「ナマエ?」
「………恵断ち?」
「はぁ?」
またまた意味の分からない事を言い出すナマエに恵は思わず気の抜けた返事をしてしまった。
「ほ…ほら!よくあるじゃん!目標達成するまで大好きなものを絶対食べない!とか!」
「………。」
「ダイエットの時とか!すんごく美味しそうなケーキが目の前にあったとしても痩せるまで食べないでしょ?そんな感……じなんだけ…ど…………って、恵?」
どうにか伝えようと必死になって弁解するナマエだったが、実はものすごく大胆な事を言っていることに気付いていない。恵はというと盛大な告白をされてポーカーフェイスを維持することが困難なのか。逆に引きつったような表情になってしまっている。ナマエに変な顔になっていると失礼な事を言われて慌てて引き戻した。
「お前…自分で何言ってるか分かってるか?」
「え?何が?」
「…大好きなものを…ねぇ。」
「…………へ?…………いや、…え!?」
「俺はケーキと同じ扱いか。お前甘いもん大好きだもんな。」
「っ!!ちょ…!いや、待って!!そうじゃなくて!!」
ここでやっと自分がしでかしたことに気付いたナマエ。見るからに動揺してしまい、顔も真っ赤だ。これまでお互いがお互いの為に、決定打になるようなことは言わなかった。それが暗黙の了解だったのだが。
「違うの!そうじゃなくて!物の例えというか!」
「その例えで、俺とケーキは同義語なんだろ?」
「〰〰〰〰〰っ!」
何を言っても無駄。そう思ったナマエは両手で顔を隠して黙り込むしかなかった。一方、疑念も不安も何もかも吹っ飛んだ恵は。
「たまには一緒に寝るか。」
「はい!?なんでいきなりそうなるの!?」
「そうなるだろ。」
「意味が分かんない!たまにはって…ていうか事情聴取は??」
「もう必要ない、よな?俺断ちは意味がない。だからする必要なし。以上。」
「う〰〰。」
一週間にも及んだ恵とナマエの静かなる攻防戦?は恵の圧勝により幕を閉じた。
そして——
「なぁ、もうキスしていいよな?」
「『もう』ってなに!?」