第四十二話 助言
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家入の元へ向かう間中、ナマエはボロボロと大粒の涙を流しながらずっと謝っていた。
「ごめ……ハァ……っ…………なさ、、ハァッ……」
「無理してしゃべんな。大丈夫だから。」
「で……もっ……ハァっ、ゴホッ!!……いたど…りく………」
「あぁ、それも大丈夫だ。」
虎杖には後で自分から詫びを入れるつもりだった。
医務室の前まで着き、普段ならノックしてから入るところだが今は両手が塞がっているため失礼を承知でそのまま肘を使って扉を開けた。
「失礼します、家入さん居ますか?」
「伏黒か、どうした。…ナマエ?」
タイミングよく医務室に居てくれた。家入は横抱きにされているナマエに何かあったのかと近づき、その様子を見てすぐに恵に指示を出した。
「…過呼吸か。ベッド、いや椅子の方がいいな。そこに座らせてくれ。」
「はい。」
「ナマエ、そのまま前かがみになれ。…そう、いい子だ。」
「ハァ、、、ハァっ、しょ…こちゃ……」
「無理して吸わなくてい。ゆっくりでいいから息を吐け。」
「ハァッ、ハァ、……ハァーー…、ハァーーッ、ゲホッゴホッ!」
「ゆっくりだ。ゆーーっくり。伏黒、背中摩ってやれ。」
家入はナマエの正面からずっとナマエに話しかけながら息を吐くようにと言っていた。こんな前かがみで座って苦しくないのかと心配になった恵だったが家入に任せれば間違いないだろうと思いなおしてゆっくりとナマエの背中を摩った。
10分か15分くらいだろうか。ナマエの呼吸もだんだんと落ち着いてきて、体を起こして会話ができるまで回復した。
「もう大丈夫だな。疲れたろ、少しそこのベッドで休んでいけ。」
「硝子ちゃん…ありがとう。でも…戻らなきゃ…」
「その恰好だとさっきまで体動かしてたんだろ?少し安静にしたほうがいいから戻っても何もできないぞ。」
「でも…みんなが…」
「それは俺が戻った時に説明しとくから気にすんな。」
「ほら、そういう事だから素直に言う事を聞け。喉乾いただろうから私は自販機で何か買ってくる。」
そう言った家入はナマエに分からないように恵に目配せをした。外で話をしようという事だろう。恵も分からないように静かに頷いた。本当はナマエが心配で付き添いたいという気持ちもあったが。
「…ありがとう。手間かけてごめんね…」
「私も喉が渇いたんだ。ついでだよ。伏黒、戻るんだったらそこまで一緒に行こう。」
「はい。」
「恵、ごめんね。」
「大人しくしてろよ。」
それから。医務室から少し離れた所で、家入は立ち止まり「それで、何があった?」と恵に問いかけた。恵は経緯と考えられる原因を掻い摘んで説明した。ナマエ本人から聞いたわけではなかったが状況から見て恐らく間違いないだろう。脳裏に忌々しいあの男の顔がよみがえり、腹立たしさから唇を強く噛んだ。
「…そうか。」
家入の返答はその一言だけだった。腕を組み顎に手を当てて何かを考えているようだが恵と同じ思いからかその表情は険しい。
「あの、家入さん。もしまたナマエが発作を起こした時は……」
「あぁ、さっきみたいに前屈みで座るかうつ伏せになるのもいい。息を吸うよりも吐く方を意識させるんだ。あとはとにかく気持ちを落ち着かせる事だな。」
「あの体勢で逆に苦しくならないんですか?」
「過呼吸、つまり過換気症候群は、胸式呼吸になることで息を吐ききれずに苦しくなってしまう事が多い。だからさっきも腹式呼吸をしやすいようにあの体勢にしたんだよ。」
「なるほど…。分かりました。」
医師としての的確なアドバイスをしっかり頭に入れながら深く頷いていると、家入が神妙な面持ちで「危険だな…」と呟いた。
「戦闘中に同じ状況になった時…もしまた過呼吸が起こればナマエは隙だらけだ。相手が人間だろうが呪霊だろうが関係ない。下手したら命に係わるぞ。」
「………。」
「私から五条にも話してみるよ。任務の調整も検討した方がいいかもな。」
「…ありがとうございます。」
「こればっかりは正解がないんだ。個人差もあるし特効薬があるわけでもない。周りが気にかけすぎても、周りに迷惑をかけてしまっていると思う事で本人が気負ってしまう可能性も考えられる。」
「そう……ですね。」
初めは単純にあの男に対する憤りとナマエの心身の心配だけだったが。恵が思っていた以上に深刻な状況かもしれない。いくら五条でも任務の配分までは口出しできない筈だ。任務を割り当てている上層部 がそこまで配慮してくれるとも思えない。
「それはそうと話は変わるが…」
険しい顔でぐるぐると考え込んでいた恵に、家入が思いついたようにとんでもないことをぶっこんできた。しかもさらっと。「昨日何食べた?」とでも聞かれた時のトーンで。
「お前ら、もうセックスはしたのか?」
「な゛んッ……ゲホッ!!ゲホッ!…何ですかいきなり…」
「大事な事だよ。場合によっては伏黒も行動に気をつけなきゃいけないからな。どうなんだ?」
「…………。」
大いに焦った恵に対して家入は真顔で聞いてくる。興味本位で聞いているわけでもなさそうだ。正直に答えないといけない気がした。
「……してません。っそもそも俺たちはそういうアレじゃあ……」
真面目に答えるつもりがどうしても恥じらいがあった恵はゴニョゴニョと語尾が小さくなる。恵の弁解も真顔でスルーして家入は更に質問を重ねた。
「そういう雰囲気になったことは?もしくは虎杖と同じような体勢になったことは?」
「……………………………。」
「その時は発作は起こらなかったのか?」
「まぁ…はい……。」
何だこれは。新手の拷問だろうか。無言は肯定と受け取ったのか恵の表情がバレバレなのか、普通に話は続く。これはもう頷くしかない。内容が内容だけに相手が家入で本当に良かったと心底思った恵だった。
「そうか、少し安心したよ。男性恐怖症に陥ってもおかしくなかった。信頼されてるのかナマエの想い故か…だな。」
「っ。……安心って……」
それを聞いて恵の心臓はドクンと大きく波打った。嬉しさと恥ずかしさとで火が出そうなほどに顔に熱が集中した。
「安心したのはお前たち二人の将来的なメンタル の部分だ。ナマエはもちろんだが傷つくのが女側だけとも限らないからな。未成年だからとあれこれ口出しするつもりはないが、それでも二人ともまだ若いし青い。…ここは大人として、ナマエと同じ女性として伝えておくよ。性は真面目に考えること。」
「はい…。」
「まぁお前の事だ。ちゃんと分かってるとは思うが一応、な。とは言っても…ナマエに関しては、将来 の事もあるからそう簡単な問題でもないんだろうな。それでも少なくとも私はお前たちの味方だよ。」
「…ありがとうございます。」
まさかこんな話を家入とするなんて、思ってもみなかった。ナマエの発作からこんな話に発展するとも思っていなかったが。だがこうやって自分たち子ども相手に真剣に向き合ってくれて、そして味方でいてくれる大人の存在はありがたいと思う。ナマエの家の事については家入の言う通りだ。婚前交渉なんてもってのほか、それが結婚相手以外となど言語道断である。
——現段階で既にミョウジ家の逆鱗に触れることをしている気もするが。…今は一旦忘れよう。
「だいぶ話が逸れてしまったな。あまり遅いとあいつらも心配するだろ。そろそろ五条の所に戻れ。ナマエのことは私が見ておくから安心しろ。」
「はい、…よろしくお願いします。また後でナマエを迎えに行きます。」
「あぁ、分かったよ。」
家入と別れた後グラウンドに戻る道中、家入と話したことも含めていろんなことを考えた。…だが、まずは。
「まずはあいつらにどう説明するか…だな。」
「ごめ……ハァ……っ…………なさ、、ハァッ……」
「無理してしゃべんな。大丈夫だから。」
「で……もっ……ハァっ、ゴホッ!!……いたど…りく………」
「あぁ、それも大丈夫だ。」
虎杖には後で自分から詫びを入れるつもりだった。
医務室の前まで着き、普段ならノックしてから入るところだが今は両手が塞がっているため失礼を承知でそのまま肘を使って扉を開けた。
「失礼します、家入さん居ますか?」
「伏黒か、どうした。…ナマエ?」
タイミングよく医務室に居てくれた。家入は横抱きにされているナマエに何かあったのかと近づき、その様子を見てすぐに恵に指示を出した。
「…過呼吸か。ベッド、いや椅子の方がいいな。そこに座らせてくれ。」
「はい。」
「ナマエ、そのまま前かがみになれ。…そう、いい子だ。」
「ハァ、、、ハァっ、しょ…こちゃ……」
「無理して吸わなくてい。ゆっくりでいいから息を吐け。」
「ハァッ、ハァ、……ハァーー…、ハァーーッ、ゲホッゴホッ!」
「ゆっくりだ。ゆーーっくり。伏黒、背中摩ってやれ。」
家入はナマエの正面からずっとナマエに話しかけながら息を吐くようにと言っていた。こんな前かがみで座って苦しくないのかと心配になった恵だったが家入に任せれば間違いないだろうと思いなおしてゆっくりとナマエの背中を摩った。
10分か15分くらいだろうか。ナマエの呼吸もだんだんと落ち着いてきて、体を起こして会話ができるまで回復した。
「もう大丈夫だな。疲れたろ、少しそこのベッドで休んでいけ。」
「硝子ちゃん…ありがとう。でも…戻らなきゃ…」
「その恰好だとさっきまで体動かしてたんだろ?少し安静にしたほうがいいから戻っても何もできないぞ。」
「でも…みんなが…」
「それは俺が戻った時に説明しとくから気にすんな。」
「ほら、そういう事だから素直に言う事を聞け。喉乾いただろうから私は自販機で何か買ってくる。」
そう言った家入はナマエに分からないように恵に目配せをした。外で話をしようという事だろう。恵も分からないように静かに頷いた。本当はナマエが心配で付き添いたいという気持ちもあったが。
「…ありがとう。手間かけてごめんね…」
「私も喉が渇いたんだ。ついでだよ。伏黒、戻るんだったらそこまで一緒に行こう。」
「はい。」
「恵、ごめんね。」
「大人しくしてろよ。」
それから。医務室から少し離れた所で、家入は立ち止まり「それで、何があった?」と恵に問いかけた。恵は経緯と考えられる原因を掻い摘んで説明した。ナマエ本人から聞いたわけではなかったが状況から見て恐らく間違いないだろう。脳裏に忌々しいあの男の顔がよみがえり、腹立たしさから唇を強く噛んだ。
「…そうか。」
家入の返答はその一言だけだった。腕を組み顎に手を当てて何かを考えているようだが恵と同じ思いからかその表情は険しい。
「あの、家入さん。もしまたナマエが発作を起こした時は……」
「あぁ、さっきみたいに前屈みで座るかうつ伏せになるのもいい。息を吸うよりも吐く方を意識させるんだ。あとはとにかく気持ちを落ち着かせる事だな。」
「あの体勢で逆に苦しくならないんですか?」
「過呼吸、つまり過換気症候群は、胸式呼吸になることで息を吐ききれずに苦しくなってしまう事が多い。だからさっきも腹式呼吸をしやすいようにあの体勢にしたんだよ。」
「なるほど…。分かりました。」
医師としての的確なアドバイスをしっかり頭に入れながら深く頷いていると、家入が神妙な面持ちで「危険だな…」と呟いた。
「戦闘中に同じ状況になった時…もしまた過呼吸が起こればナマエは隙だらけだ。相手が人間だろうが呪霊だろうが関係ない。下手したら命に係わるぞ。」
「………。」
「私から五条にも話してみるよ。任務の調整も検討した方がいいかもな。」
「…ありがとうございます。」
「こればっかりは正解がないんだ。個人差もあるし特効薬があるわけでもない。周りが気にかけすぎても、周りに迷惑をかけてしまっていると思う事で本人が気負ってしまう可能性も考えられる。」
「そう……ですね。」
初めは単純にあの男に対する憤りとナマエの心身の心配だけだったが。恵が思っていた以上に深刻な状況かもしれない。いくら五条でも任務の配分までは口出しできない筈だ。任務を割り当てている
「それはそうと話は変わるが…」
険しい顔でぐるぐると考え込んでいた恵に、家入が思いついたようにとんでもないことをぶっこんできた。しかもさらっと。「昨日何食べた?」とでも聞かれた時のトーンで。
「お前ら、もうセックスはしたのか?」
「な゛んッ……ゲホッ!!ゲホッ!…何ですかいきなり…」
「大事な事だよ。場合によっては伏黒も行動に気をつけなきゃいけないからな。どうなんだ?」
「…………。」
大いに焦った恵に対して家入は真顔で聞いてくる。興味本位で聞いているわけでもなさそうだ。正直に答えないといけない気がした。
「……してません。っそもそも俺たちはそういうアレじゃあ……」
真面目に答えるつもりがどうしても恥じらいがあった恵はゴニョゴニョと語尾が小さくなる。恵の弁解も真顔でスルーして家入は更に質問を重ねた。
「そういう雰囲気になったことは?もしくは虎杖と同じような体勢になったことは?」
「……………………………。」
「その時は発作は起こらなかったのか?」
「まぁ…はい……。」
何だこれは。新手の拷問だろうか。無言は肯定と受け取ったのか恵の表情がバレバレなのか、普通に話は続く。これはもう頷くしかない。内容が内容だけに相手が家入で本当に良かったと心底思った恵だった。
「そうか、少し安心したよ。男性恐怖症に陥ってもおかしくなかった。信頼されてるのかナマエの想い故か…だな。」
「っ。……安心って……」
それを聞いて恵の心臓はドクンと大きく波打った。嬉しさと恥ずかしさとで火が出そうなほどに顔に熱が集中した。
「安心したのはお前たち二人の将来的な
「はい…。」
「まぁお前の事だ。ちゃんと分かってるとは思うが一応、な。とは言っても…ナマエに関しては、
「…ありがとうございます。」
まさかこんな話を家入とするなんて、思ってもみなかった。ナマエの発作からこんな話に発展するとも思っていなかったが。だがこうやって自分たち子ども相手に真剣に向き合ってくれて、そして味方でいてくれる大人の存在はありがたいと思う。ナマエの家の事については家入の言う通りだ。婚前交渉なんてもってのほか、それが結婚相手以外となど言語道断である。
——現段階で既にミョウジ家の逆鱗に触れることをしている気もするが。…今は一旦忘れよう。
「だいぶ話が逸れてしまったな。あまり遅いとあいつらも心配するだろ。そろそろ五条の所に戻れ。ナマエのことは私が見ておくから安心しろ。」
「はい、…よろしくお願いします。また後でナマエを迎えに行きます。」
「あぁ、分かったよ。」
家入と別れた後グラウンドに戻る道中、家入と話したことも含めていろんなことを考えた。…だが、まずは。
「まずはあいつらにどう説明するか…だな。」