第三話 懐古
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中学3年に上がった時、ナマエは一つの決意を胸に七海の元を訪れていた。
「あなたももう中学3年生ですか。子供の成長というのは早いものですね。」
「建人くん、おじさんくさいよ?」
「……。それで?お願い、というのは?」
「あ、うん。あのね、一生のお願いがあるの。建人くん、私の先生になってください!!」
「…は?」
その時の七海の表情は、普段とはかけ離れたもので、真面目な話をしているのにこれが鳩が何とかってやつか…などとナマエは呑気な事を思ってしまった。でも今は駄目だ。何としてもウンと言わせないといけない。そう思い、気を取り直して話の続きをした。
「合間に時間があるときでいいの!建人くんが忙しいのはものすごく分かってるつもりなんだけど…。どうしても建人くんがいいの!」
「話が見えませんね。まずは説明を。」
「建人くんは呪具を使うでしょ?あの鉈みたいなやつ。だから教えてもらうなら建人くんしかいないと思って。悟くんは感覚で言うからよくわかんなかったし、恵は怒ってるから何にも教えてくれないし…。」
必死で思いを伝えようとしている所へ七海からちょっと待って下さい、と制止がかかった。
「説明になっていません。まず、あなたは呪術師にはならないとミョウジから聞いていましたが。」
ナマエの兄と七海とは、高専時代の同級生である。兄は七海にも言っていたのか…と、ナマエは思わずムスッとしてしまった。
「なるの。絶対なる。兄様にも中学を卒業するまでにこれを使いこなせるようになったら高専に通ってもいいって、約束してもらったの。」
七海の前に出したのは、ミョウジ家で保管されていた呪具。当時のナマエは知らなかったが、売れば億を超える代物らしい。
「鉄扇…ですか。また扱いにくい呪具 を。」
「やっぱりこれ難しいんだね…。」
「それだけミョウジはあなたを術師にしたくないんでしょう。」
「そっか…。だったら尚更、使えるようにならなきゃ。」
七海にとって、同級生の妹という事で縁があり、小さい頃から成長を見守ってきたナマエは自分にとっても妹同然と言っても過言ではなかった。
だからこそ、呪術師はクソだと常日頃思っている七海としては兄と同じく彼女が呪術師になることを良しとしていなかった。…兄が反対する本当の理由までは分からないが。
「どうしてそこまでして呪術師になりたいのか聞いても構いませんか?」
反対はしているが、真剣な目で頼み事をするナマエに話だけは聞くかと七海は質問をする。
「……呪いをなくしたい。困ってる人を助けたい。」
返ってきた答えに七海は片眉を上げた後、大きく息を吐いた。
「ナマエ。」
「ッはい!」
「フゥー………………。そんな教科書通りの回答で私が納得するとでも?」
七海の冷たい表情と言葉にナマエは苦虫を噛み潰したような顔をした後何も言わず黙ってしまった。
「ハァ…。ではこの話は無しという事で。いいですね?」
呪術師は綺麗事で務まる仕事ではない。そんなありふれた理由などでは力を貸す気になどなれなかった。突き放すような言い方の七海に、答えを間違えたと瞬時に思ったナマエは、観念したのか素直に心内を話すことにした。
「待って!ごめんなさい。ちゃんと……言います。」
そう言って一呼吸したナマエは、少し恥ずかしそうにしながらポツポツと話しだした。
「ほんとは…恵の、隣に立ちたい。守られるんじゃなくて、肩を並べたいの。兄様にも…認めてもらいたい。ミョウジの家に、お前はいらない子じゃないよって言わせたい。」
「その当人である伏黒くんが怒っていると言うことは、彼も反対しているのでしょう?」
「お前は危ないことしなくていいって、そればっかり。だから今喧嘩してるの。」
そして、先程の少女のような恥じらいはどこへやら。七海のサングラスの奥をスッとまっすぐ見つめた。
「それに。このままミョウジ家に囲われて大人になったって、私がどうなるかなんて分かりきってる。私は、自分の道は自分で決めたい。」
その眼差しに、七海は息を飲んだ。この子は、この歳で理解している。自分の家での扱いを。そして、それを自ら打ち破ろうとしていた。
「なぜ、最初から本当のことを言わなかったんですか。」
「だって、こんなの……ただの承認欲求が欲しいだけの子供じゃん。」
「随分難しい言葉を使うようになりましたね。」
「……子供扱いして欲しくなくて言わなかったのに。それに私、もう15歳だよ?」
そうでしたね。そう言ってから七海は考え込むように顎に手を当てて黙り込んだ。その表情は、何を考えているのかナマエには分からなかった。何も話さなくなった七海に不安を覚えたナマエが七海に「だめ?」と懇願するような顔を見せる。
そして七海は、何かを決意したように一度目を閉じてから、ナマエに伝えた。
「……私は、甘くないですよ。」
「っ!わかってる!」
「私は、褒めも貶しもしませんよ。」
「もちろん!」
「事実に即し「事実に即し己を律する。」
「それが建人くんでしょ?」
自分の口癖を被せるように真似たナマエは悪戯が成功した子供のように歯を見せて楽しそうに笑った。
「任務の合間ですから、ナマエさんが望むほどの時間は取れないかもしれません。」
「……!ありがとう!!建人くん!大好き!!」
打って変わって表情に花を咲かせたナマエは、やったぁ!と言いながら無邪気に抱きついた。呆気に取られた七海は嗜めるように告げる。
「子供扱いされたくないなら、こうやって誰にでも抱きついたりしないように。」
「誰にでもするわけないじゃん。建人くんだからだよ?」
「……伏黒くんの苦労が偲ばれますね。」
「ん?なんで恵が出てくるの?」
「ハァー。いいえ、何でも。」
日時の調整はまた後日することになり、浮足だった足取りでナマエは元気よく去って行った。
「さて。ミョウジに何と言い訳するか考えなければいけませんね……。」
ナマエが去った後の七海の呟きを、彼女は知らない。
「あなたももう中学3年生ですか。子供の成長というのは早いものですね。」
「建人くん、おじさんくさいよ?」
「……。それで?お願い、というのは?」
「あ、うん。あのね、一生のお願いがあるの。建人くん、私の先生になってください!!」
「…は?」
その時の七海の表情は、普段とはかけ離れたもので、真面目な話をしているのにこれが鳩が何とかってやつか…などとナマエは呑気な事を思ってしまった。でも今は駄目だ。何としてもウンと言わせないといけない。そう思い、気を取り直して話の続きをした。
「合間に時間があるときでいいの!建人くんが忙しいのはものすごく分かってるつもりなんだけど…。どうしても建人くんがいいの!」
「話が見えませんね。まずは説明を。」
「建人くんは呪具を使うでしょ?あの鉈みたいなやつ。だから教えてもらうなら建人くんしかいないと思って。悟くんは感覚で言うからよくわかんなかったし、恵は怒ってるから何にも教えてくれないし…。」
必死で思いを伝えようとしている所へ七海からちょっと待って下さい、と制止がかかった。
「説明になっていません。まず、あなたは呪術師にはならないとミョウジから聞いていましたが。」
ナマエの兄と七海とは、高専時代の同級生である。兄は七海にも言っていたのか…と、ナマエは思わずムスッとしてしまった。
「なるの。絶対なる。兄様にも中学を卒業するまでにこれを使いこなせるようになったら高専に通ってもいいって、約束してもらったの。」
七海の前に出したのは、ミョウジ家で保管されていた呪具。当時のナマエは知らなかったが、売れば億を超える代物らしい。
「鉄扇…ですか。また扱いにくい
「やっぱりこれ難しいんだね…。」
「それだけミョウジはあなたを術師にしたくないんでしょう。」
「そっか…。だったら尚更、使えるようにならなきゃ。」
七海にとって、同級生の妹という事で縁があり、小さい頃から成長を見守ってきたナマエは自分にとっても妹同然と言っても過言ではなかった。
だからこそ、呪術師はクソだと常日頃思っている七海としては兄と同じく彼女が呪術師になることを良しとしていなかった。…兄が反対する本当の理由までは分からないが。
「どうしてそこまでして呪術師になりたいのか聞いても構いませんか?」
反対はしているが、真剣な目で頼み事をするナマエに話だけは聞くかと七海は質問をする。
「……呪いをなくしたい。困ってる人を助けたい。」
返ってきた答えに七海は片眉を上げた後、大きく息を吐いた。
「ナマエ。」
「ッはい!」
「フゥー………………。そんな教科書通りの回答で私が納得するとでも?」
七海の冷たい表情と言葉にナマエは苦虫を噛み潰したような顔をした後何も言わず黙ってしまった。
「ハァ…。ではこの話は無しという事で。いいですね?」
呪術師は綺麗事で務まる仕事ではない。そんなありふれた理由などでは力を貸す気になどなれなかった。突き放すような言い方の七海に、答えを間違えたと瞬時に思ったナマエは、観念したのか素直に心内を話すことにした。
「待って!ごめんなさい。ちゃんと……言います。」
そう言って一呼吸したナマエは、少し恥ずかしそうにしながらポツポツと話しだした。
「ほんとは…恵の、隣に立ちたい。守られるんじゃなくて、肩を並べたいの。兄様にも…認めてもらいたい。ミョウジの家に、お前はいらない子じゃないよって言わせたい。」
「その当人である伏黒くんが怒っていると言うことは、彼も反対しているのでしょう?」
「お前は危ないことしなくていいって、そればっかり。だから今喧嘩してるの。」
そして、先程の少女のような恥じらいはどこへやら。七海のサングラスの奥をスッとまっすぐ見つめた。
「それに。このままミョウジ家に囲われて大人になったって、私がどうなるかなんて分かりきってる。私は、自分の道は自分で決めたい。」
その眼差しに、七海は息を飲んだ。この子は、この歳で理解している。自分の家での扱いを。そして、それを自ら打ち破ろうとしていた。
「なぜ、最初から本当のことを言わなかったんですか。」
「だって、こんなの……ただの承認欲求が欲しいだけの子供じゃん。」
「随分難しい言葉を使うようになりましたね。」
「……子供扱いして欲しくなくて言わなかったのに。それに私、もう15歳だよ?」
そうでしたね。そう言ってから七海は考え込むように顎に手を当てて黙り込んだ。その表情は、何を考えているのかナマエには分からなかった。何も話さなくなった七海に不安を覚えたナマエが七海に「だめ?」と懇願するような顔を見せる。
そして七海は、何かを決意したように一度目を閉じてから、ナマエに伝えた。
「……私は、甘くないですよ。」
「っ!わかってる!」
「私は、褒めも貶しもしませんよ。」
「もちろん!」
「事実に即し「事実に即し己を律する。」
「それが建人くんでしょ?」
自分の口癖を被せるように真似たナマエは悪戯が成功した子供のように歯を見せて楽しそうに笑った。
「任務の合間ですから、ナマエさんが望むほどの時間は取れないかもしれません。」
「……!ありがとう!!建人くん!大好き!!」
打って変わって表情に花を咲かせたナマエは、やったぁ!と言いながら無邪気に抱きついた。呆気に取られた七海は嗜めるように告げる。
「子供扱いされたくないなら、こうやって誰にでも抱きついたりしないように。」
「誰にでもするわけないじゃん。建人くんだからだよ?」
「……伏黒くんの苦労が偲ばれますね。」
「ん?なんで恵が出てくるの?」
「ハァー。いいえ、何でも。」
日時の調整はまた後日することになり、浮足だった足取りでナマエは元気よく去って行った。
「さて。ミョウジに何と言い訳するか考えなければいけませんね……。」
ナマエが去った後の七海の呟きを、彼女は知らない。